Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、アンソロジーリレー小説の感想のページです。

line
「エロティシズム12幻想」講談社文庫(2002年4月読了)★★★★

なんとも豪華な顔ぶれのアンソロジーです。どの作品も「エロティシズム」というテーマの元に書かれたもの。同じテーマでありながらも、幻想的だったり、SFだったり、ごく平凡な日常の情景だったりとその作風は様々。バラエティに富んだ短編集となっています。

それぞれの作家の個性が本当によく出ていて驚きました。普通のアンソロジーでここまで個性を感じることは、滅多にないかもしれません。それだけエロティシズムというのはプライベートな感覚だということなのでしょうね。読者にとっても、この1冊の中でどの作品が気に入るかというのは、通常以上に人によってさまざまなのかも。
私はこの中では、菅浩江さんの「和服継承」が好きです。着物の艶やかさと色っぽさ、そして狂気が渾然一体となっている感じが本当にとてもエロティック。エロティシズムと一言で言っても、やはり情景的に美しい方が望ましいので…。京極夏彦さんの「鬼交」も、冒頭の花瓶の描写だけで十分にエロティシズムを感じられるのには驚きました。陶器の花瓶に笹百合が一輪挿してあるだけなのですが、これがなんともいえません。綺麗ですし、しかも巧いですね。あと、森奈津子さんの「翼人」もなかなかいい感じ。こういう翼が見られるのなら…と(一瞬だけですが)思ってしまいます。
それとは逆に、牧野修さんの「インキュバス言語」のような作品は少々苦手。こんな言葉で出来上がった世界って、一体何なのでしょう。ダラダラと長い文章は、案外頭の中に素直に入ってきて面白いのですが、いかんせん下品すぎます。これを巻頭に持ってくるというのは、実はかなりの博打のような気がするのですが。ちなみにインキュバスとは淫らな夢を見させる夢魔のことですね。
全体的にレベルの高い作品が揃っていると思います。好みは分かれそうですが。
(エニックスより2000/02初版)

収録作品…牧野修「インキュバス言語」、有栖川有栖「恋人」、菅浩江「和服継承」、我孫子武丸「ドールハウスの情景」、皆川ゆか「荒野の基督」、新津きよみ「サンルーム」、南智子「FLUSH(水洗装置)」、竹本健治「非時の香の木の実」、津原泰水「アルバトロス」、森奈津子「翼人たち」、北原尚彦「活人画」、京極夏彦「鬼交」


「十二宮12幻想」講談社文庫(2002年6月読了)★★★★

12人の作家による、12の星座の物語。作品の主人公はどれも女性、そしてそのどの人物もその作品を書いている作家と同じ星座。すべて女性の1人称で、現代を舞台にした小説という設定だけが先に決められていたようです。「12幻想」というタイトル通り、幻想的な作品が中心。かなりホラー寄りのアンソロジーとなっています。各作品には、占星術学者・鏡リュウジによる12の星座の解説も。

12の作品とも粒揃いで外れがないですね。どれもとても読みやすいのが特徴でしょうか。ただ、あまりに読みやすすぎて、全作品を一気に通読してしまうと少々物足りないかもしれません。コレといった強烈な作品が不在。しかし各作品の主人公とも、星座の特徴をよくつかんでいるので、作品そのものの楽しみの他に占星術の性格分析的な楽しみもあります。そしてその主人公が、作家の性格を投影しているのかどうかを見るという楽しみも。そういう意味では、主人公がすべて女性なので、女性作家で揃えてみても面白かったかもしれませんね。女性作家12人が男性を主人公にした作品を書き、男性作家12人が女性を主人公にした作品を書く、というのも面白そうです。
私が好きだったのは島村洋子さんの「スコーピオン」。作家という名の化け物の存在が面白いです。しかも自分の名前を出してらっしゃるとは。そして津原泰水さんの「玄い森の底から」。この「玄い森の底から」だけは、句読点などが極端に少ない独白という作りのために少々読みにくいのですが、既に死んでいる女性の視点から描いているところがユニーク。目眩がするような語彙の羅列ですが、なぜだかその情景が強く迫ってきます。飯田雪子さんの「あたしのお部屋にいらっしゃい」だけは、主人公がどうもみずがめ座には思えないのですが、でもなんとなく色合いが好きな作品です。(エニックスより2000/02初版)

収録作品…小中千昭「共有される女王」、図子慧「アリアドネ」、飯野文彦「さみだれ」、早見裕司「月の娘」、高瀬美恵「ネメアの猫」、津原泰水「玄い森の底から」、我孫子武丸「ビデオレター」、島村洋子「スコーピオン」、森奈津子「美しい獲物」、加門七海「二十九日のアパート」、飯田雪子「あたしのお部屋にいらっしゃい」、太田忠司「万華」


「黄土の虹-チャイナ・ストーリーズ」祥伝社(2003年2月読了)★★★★

【天鵝】(森下翠)…呉の勢いに焦る句践に、かつて不世出の軍略家と謳われた范蠡は、自分の2人の養女・鄭旦と西施を呉の夫差に輿入れさせることを提言します。
【趙姫】塚本青史)…紀元前200年の冬。劉邦は疲れ果てた30万の軍勢を率いて邯鄲へ。娘婿である趙王・張敖が劉邦をもてなすのですが、劉邦の傍若無人な振る舞いに張家の家臣たちが憤ります。
【鶏争】狩野あざみ)…孝昭帝の時代の漢都・長安。張爺さんが手塩をかけて育てた鶏・黒公が奪われ、追おうとした張の息子が役人に引っ立てられることに。後に漢王となる劉病巳が活躍します。
【徽音殿の井戸】田中芳樹)…南北朝時代の宋。生まれながらの皇太子・劉劭は、その地位に飽きて父王を殺することを考え始めます。しかし父王もまた、平時の名王という自分に飽きていたのです。
【香獣】森福都)…気持ちと表情がまるで逆、中曲の逆さ褒じの異名をとる名妓・洛真は、妹分の潤娘が進士試験を控えた崔光遠と惹かれ合っているのを知り、試験まで会わない方がいいと忠告します。
【北元大秘記】芦辺拓)…明の洪武帝の時代。遣明船の綱司(船長)・維明は、自分に明語を教えてくれた林賢を訪ねます。しかし林賢はお上の咎を受けて殺されていました。維明は陥れられることに。
【玉面】井上祐美子)…清朝・雍帝の時代。米の不作が続き、技楼の商売も上がったり。湘蓮は、自分を贔屓にしてくれている米商人の馮老爺が米を貯めこんでいるのを知り、売らせようと企みます。

中国を舞台にした短編集。目次に中国の簡単な年表があり、それぞれの物語の舞台となる時代が分かりやすいのがいいですね。
「天鵝」なんとも哀しい物語。「わたしは… 呉を滅ぼすためではなく、越を守るために来たのでしょう?」という西施の言葉が痛いです。「趙姫」趙姫にも意外と骨があったということなのでしょうか。しかしこの後生きていても、あまり良いことはなかったかもしれませんね。「鶏争」劉病巳がいい味を出しています。これはぜひ長編で王になるまでの物語が読んでみたいです。「徽音殿の井戸」幽霊が出るという話かと思えば、そうでもなくて拍子抜け。どうも首尾一貫していない話のように感じてしまいました。「香獣」物語の伏線が綺麗に円となったという印象。いいですね。洛真の存在もとても素敵。「北元大秘記」芦辺さんが中国物を書かれるとは知りませんでしたが、このアンソロジーで唯一日本人が登場する話。最後は溜飲が下がります。「玉面」ちゃっかりと贔屓の客を騙してしまう妓女たち。しかし気持ちよく騙されるのも客の度量というものでしょう。彼女たちの笑顔が見えるようです。
少々小粒ながらも、スパイスの効いた短編集でした。私がこの中で好きなのは、「天鵝」と「香獣」。どちらの物語も、個性的な女性たちがとても魅力的です。(2000/02初版)


「蜜の眠り」光文社文庫(2001年10月読了)★★★★★

10人の女性作家による、書き下ろしの恋愛小説アンソロジー。明智抄、水樹和佳子、榎本ナリコという3人の女性漫画家をも含んでいる所が、アンソロジーとしては珍しいかもしれませんね。「豪華執筆陣」というのがぴったりです。そして作家ごとにいろいろな「愛」が登場するのですが、微笑ましい愛からかなり官能的な愛までバラエティ豊か。しかもどの作品も驚くほどレベルが高いのです。しかし官能的な作品には結構激しい描写がありますが、根底はかなりからっとしているので心配は無用かと。

私がこの中で特に気に入ったのは水樹和佳子さんの「二〇〇〇年三月九日」。とても可愛らしい恋愛小説です。とても本当にはあり得ないような話なのですが、読んでいるだけで幸せな気分にさせてくれる作品。姫野カオルコさんの「『見かけの速度』の求め方」の童話のような語り口もいいですね。あとは松本侑子さんの「性遍歴」。とにかく上手くて、さすが。そして島村洋子さんの「ツインズ」は、不思議な感覚が面白いですね。
さらに恩田陸さんの「睡蓮」には、「麦の海に沈む果実」に登場する理瀬が登場します。そして女性とも男性ともつかない謎の人物も。理瀬やこの謎の人物が「麦の海〜」に出てくるのと同じ人物だという保証はありませんが、一読の価値はあると思います。

収録作品…明智抄「ハンサムウーマン」、横森理香「テイスティング」、中村うさぎ「幽霊」、姫野カオルコ「『見かけの速度』の求め方」、島村洋子「ツインズ」、恩田陸「睡蓮」、柴田よしき「化粧」、水樹和佳子「二〇〇〇年三月九日」、松本侑子「性遍歴」、榎本ナリコ「少女と少年」(廣済堂文庫にて2000/04初版)


「血の12幻想」講談社文庫(2002年6月読了)★★★★

12人の作家による、アンソロジー。その名の通り、全作品のキーワードは血。この1冊で一体何人分の血が流れるのか…。考えるだけでも恐ろしいです。しかし作品は怖いものから笑えるものまで。とてもバラエティに富んだアンソロジーです。この中では、恩田陸さんの「茶色の小壜」のみ既読。

血をテーマにしたアンソロジーということで、ホラー系が多いのではないかと構えていたのですが、そんなことはありませんでした。特に田中啓文さんの「血の汗流せ」。これはとにかく楽しい作品です。パロディや駄洒落のオンパレード。野球少年・星吸魔が練習の前の整備で「コンダラとも呼ばれる重いローラー」をひく場面からして笑えますし、吸血鬼の未成年の仲間が「血食児童」、血の成分を調べることを「血質調査」だなんて上手過ぎます!「巨人の星」の真面目なファンは、これを読んだ時怒るのか、それともあまりの馬鹿馬鹿しさに笑ってしまうのか、どちらなのでしょう。「巨人の星」ブームだったのは遥か昔のことなので、もう大丈夫でしょうか。そして同じく怖くないといえば、田中哲弥さんの「遠き鼻血の果て」は、読後、一体何だったんだろうと思ってしまうような作品。目が覚めるとバスタブの中、しかも凝固した自分の鼻血で身動きがとれないなんて。
あと良かったのは、鳴原あきらさんの「お母さん」。でもこれは怖い作品ですね。正真正銘のホラー。母が娘を怖がるのか、娘が母を怖がるのか。背筋がぞわっとするような怖さです。「血」というテーマと「幻想」というタイトルからのせいか吸血鬼絡みの作品も多かったのですが、この作品のように血縁の「血」というのは、盲点かもしれませんね。柴田よしきさんの「夕焼け小焼け」も血縁とも言えなくもないですが、こちらは血の海の情景がメイン。血縁の懐かしさは感じても怖さは感じないですね。
「血」というテーマは意外と難しいものなのではないかと思うのですが、ちょっぴり怖く、ちょっぴり幻想的で、なかなか読みやすい一冊だったのではないかと思います。(エニックスより2000/04初版)

収録作品…菊地秀行「早船の死」 、小林泰三「タルトはいかが?」、柴田よしき「夕焼け小焼け」、田中啓文「血の汗流せ」 、竹河聖「死の恋」、鳴原あきら「お母さん」、倉阪鬼一郎「爪」、田中哲弥「遠き鼻血の果て」、山村正夫「吸血蝙蝠」 、作者不詳(訳・北原尚彦)「凶刃」、恩田陸「茶色の小壜」、津原泰水「ちまみれ家族」


「『Y』の悲劇」講談社文庫(2000年9月読了)★★★

【あるYの悲劇】有栖川有栖)…ユメノ・ドグラ・マグロのギタリストが殺されます。被害者は死ぬ直前に「やまもと」という言葉と「Y」に見えるダイイングメッセージを残していました。
【ダイイングメッセージ《Y》】篠田真由美)…私立の学校の敷地内に建っていた明治時代の洋館の中でEmiは死んでいました。現場には「Yの悲劇」にまつわるものが残され、「Yが殺す」のメッセージが。事件から2年たった今、「ぼく」は真相に気がつきます。
【「Y」の悲劇ー「Y」がふえる】二階堂黎人)…核シェルターの中で起きた密室殺人。限られた登場人物の中で、一体誰が犯人なのか? 作者曰く「メタ・ミステリィ」。
【イコールYの悲劇】法月綸太郎)…留守を預かっていた妹が殺され、残されたメモには「=Y」の文字が。妹は姉の身代わりとして殺されたのか?

エラリー・クイーンの「Yの悲劇」をモチーフにしたアンソロジーです。しかし有栖川さんと法月さんがエラリー・クイーン好きというのは有名ですが、なぜ篠田さんと二階堂さんが?二階堂さんはディクスン・カーのファンのはずだし、と思ってたらやっぱり二階堂さんも同じことを思ってらしたようですね。
「あるYの悲劇」作家アリスシリーズ。ダイイングメッセージに関しては少し弱いと思うのですが。普通そんなメッセージを残すのでしょうか。しかも「Y」…。しかし話自体は良かったです。身近な地名がたくさん出てくるだけで、評価が多少甘くなっているのかもしれませんが。「ダイイングメッセージ《Y》」話自体よりも、Emiの演じた「鏡の国のアリス」に興味あり。これは見てみたいです。とても面白そう。「『Y』の悲劇ー『Y』がふえる」キャラクターがぶっとんでる時点で既に好きではありません。これでは、競作している他の作家さんにも失礼なのではないでしょうか。二階堂さんのサイトを見ることのできない読者がいるというのも忘れて欲しくありません。「イコールYの悲劇」法月綸太郎シリーズ。なかなか正統派のミステリ。私は、探偵としてののりりんにはあまり魅力を感じないのですが、しかし謎解きはなかなか綺麗におさまっていて良い感じ。この短編集で1番好きな作品です。
あまり大きな決め手はないものの、なかなか楽しめる短編集でした。しかし「Y」に拘っている割には、実際はあまり「Yの悲劇」の雰囲気を感じさせる作品はなく、どちらかと言えばダイイングメッセージ特集になってます。(2000/07初版)


「花迷宮」日文文庫(2001年9月読了)★★★

【花ざかりの家】小池真理子)…銀座を歩いていた手塚は、ある画廊の前の看板に目を止めます。そこには、15年前に彼の妻・貴志子が自殺する原因となった男・倉越幹夫の名前が。倉越に自宅に誘われた手塚は相手の意図を測りかね、誘われるがまま訪れるのですが…。
【タッチアウト】若竹七海)…林田ゆかりに一目惚れした橋爪雪彦は、ストーカー行為を繰り返し、家に忍び込みます。しかし逆にゆかりに殴りつけられて失神。病院のベッドで目覚めた雪彦は再び…。
【二人旅】(新津きよみ)…瀧本早紀子は、不倫関係にある三村清隆の妻・直美に「夫と別れてもいいが、その条件は一緒に信州旅行をすること」と言われ、二人で信州へと向かうことに。しかし直美の真意をはかり切れない早紀子は、相手の行動すべてに疑心暗鬼になります。
【舞い込んだ天使】黒崎緑)…仲井里佳子がスーパーから戻ってみると、玄関先に赤ん坊が捨ててありました。そしてそこには「真由美」という名前の女性から「克彦」という男性に宛てた置き手紙が。この「克彦」とは里佳子の夫の克彦のことなのでしょうか。
【あの子はだあれ】今邑彩)…17年前、自らの不注意から教え子を事故で失った女性教師「わたし」。叔母にいくらお見合いを勧められてもその気になれないのは、毎年命日になると、自宅の棗の木の下にで死んだはずの教え子が現れるからだったのです。
【還り雛】(森真沙子)…「わたし」の友人の精神科医が、夫と子供を捨てて引っ越ししたマンションには、なぜか古い雛人形の女雛が1つぽつんと置かれていました。そしてその女雛は、精神科医がすぐに処分したにも関わらず、ことあるごとに押し入れの中に現れ…。
【二人の思い出】乃南アサ)…家庭的な真純と刺激的な桐江。そして正反対の女性二人に二股をかけていた依田克俊。ようやく辿り着いた結婚披露宴で、彼を待ち受けていた皮肉な結末とは。
【炎椿】(海月ルイ)…京都の老舗の娘として誇り高い傲慢な姉と、姉にひたすら従順な義兄。そして幼い頃から「てかけの子」として蔑まれ、虐げられて育ってきた千明。3人の関係に変化が訪れる時。
【曜変天目の夜】恩田陸)…多佳雄は、美術館で公開された国宝の天目茶碗を見ているうちに、十年ほど前に亡くなった友人のことを思い出し、自然死だと思われていたその友人の死に疑惑を抱きます。
【家鳴り】篠田節子)…妻の治美は、飼い犬の死をきっかけに、普通の食事はせずに夜中のジャンクフードとビールしか口にしなくなり、夫の健志はひたすら治美のために料理を作るようになります。

女性作家10人によるミステリ短編集。そのほとんどが「女性」を強く打ち出した作品ということもあり、なかなか迫力があります。既読だったのは恩田陸さんの「曜変天目の夜」。これは元々好きな作品です。その他の作品で私が好きなのは、今邑彩さんの「あの子はだあれ」。これはさりげなくSF色の強い作品で、しかし発想がなかなかロマンティックで素敵。読後感もとても良かったです。篠田節子さんの「家鳴り」もいいですね。ごく日常的なはずの食事の風景が次第に異様な光景になっていくにつれ、夫婦の結びつきはどんどん強くなっていくのが、一種独特の雰囲気を盛り上げてて上手。黒崎緑さんの「舞い込んだ天使」の意外な展開もなかなか良かったです。逆に少々苦手なのは「二人旅」と「二人の思い出」。女性の奥底に潜む悪意を見せつけられるような作品は、読んでいるとつらくなってしまいます。しかしそれは作品が悪いというわけでなく、上手いからこそ、これほどつらくなってしまうんでしょうね。特に「二人旅」は女性の怖さを描ききったという感のある作品でした。(2000/07初版)


「密室殺人大百科(上)魔を呼ぶ密室」原書房(2000年10月読了)★★★

二階堂黎人さんが中心となって作った密室殺人に関するアンソロジー。上巻の第一幕には、現在第一線で活躍するミステリ作家の書き下ろし作品七編、第二幕には評論や過去の名作を収録。

<第一幕> 【疾駆するジョーカー】芦辺拓)…貸別荘で寝ずの番のバイトをしていた二宮良太の目の前に、いきなりジョーカーの扮装をした人物が出現。弁護士の部屋から血まみれのナイフを持って出てきたのです。
【罪なき人々VSウルトラマン】太田忠司)…千鶴が訪れたマンションで起きた飛び降り自殺騒ぎ。興味本意で自殺見物をしようと集まった人々は、しかし逆に爆弾魔の人質となってしまいます。
【本陣殺人計画】折原一)…密室殺人に憧れる黒星警部の元に届いたのは、密室殺人の予告状。舞台として指定されたのは、横溝正史の「本陣殺人事件」を彷彿とさせるような旧家の離れ屋でした。
【まだらの紐、再び】霧舎巧)…キャリアの警察官3人が携わった密室殺人事件。被害者はどうやら毒蛇に噛まれて死んだようなのですが…。後動悟が推理します。
【閉じた空】鯨統一郎)…気球に乗っていた青年実業家が死亡。本人が銃を持っていたことから自殺として扱われるのですが、婚約者の女給は自殺ではないと萩原朔太郎に推理を依頼します。
【五匹の猫】(谺健二)…阪神大震災後の避難所にいた有希真一が出会ったのは、黒猫と黒づくめ少女。しかしその猫は殺され、少女も火事で死亡。その後少女の母親も変死死体として発見されます。
【泥具根博士の悪夢】二階堂黎人)…かつては天才科学者、今は超常現象研究家として知られる泥具根博士が、五重の密室となった研究室の中で殺されていました。

<第二幕>
【密室ミステリ概論】(ロバート・エイディー)…エドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人」に始まる欧米の密室ミステリについての概論。
【マーキュリーの靴】鮎川哲也)…ある雪の朝、編集者・戸山正が原稿を取りに訪れると、女流ミステリ作家・今井とも江が殺されていました。しかし家の周りの雪には彼女自身の長靴の跡しかなく…。
【クレタ島の花嫁-贋作ヴァン・ダイン】高木彬光)…ニューヨーク検事・ジョン・マーカムは、黄金の首飾りを持ってフィロ・ヴァンスとヴァン・ダインの元へ。その首飾りは、殺されて川に投げ込まれた男のポケットから出てきたのですが、実は、クレタ島ミノスのラビリンスの出土品だったのです。
【デヴィルフィッシュの罠】(ジョン・ディクスン・カー)…エドマンド・スタンリーは失われた宝を求めてキューバ湾へ。しかし、キューバ湾に沈んでいる難破船には巨大なタコがいるという伝説がありました。

第一幕の作品は、どの作品も確かに「密室殺人」なのですが、どうも決め手になる作品がないような気がします。鯨統一郎さんの「閉じた空」のような作品も好きなのですが、せっかく萩原朔太郎なのに、その存在が生かしきれてないようで残念です。この中では、二階堂さんの「泥具根作品博士の悪夢」が、いかにも蘭子シリーズらしい作品で楽しめました。トリックに関しては多少想像がつくのですが、5重密室に挑んだ姿勢はスバラシイ!(この場合、1重でも5重でもあまり変わらないような気もしますが…)
第二幕。鮎川哲也氏の作品は今回初めてなのですが、どことなく古色蒼然とした感じがしますね。悪くはないのですが、少々違和感。高木彬光氏のは、ヴァン・ダインの贋作という趣向が楽しい作品。密室という点についてはどうかと思いますが、ヴァン・ダインが好きな私にとっては無条件に楽しめました。同じく密室というにはどうかと思うカーの作品。しかしこれはとても面白かったです。私はこの作品が1番好きです。(2000/07初版)


「密室殺人大百科(下)時を結ぶ密室」原書房(2000年11月読了)★★★★

二階堂黎人さんが中心となって作った密室殺人に関するアンソロジー。下巻の方にも現在第一線で活躍するミステリ作家の書き下ろし作品七編と、さらに評論と過去の名作短編が収録されています。

<第三幕> 【死への密室】愛川晶)…八木沼新太郎は、目の前で壁を通り抜けてみせると宣言。賭けの相手である中澤卓郎の他に、桐野義太、根津愛も脱出を見届けるために八木沼の家へ。
【夏の雪、冬のサンバ】(歌野晶午)…
【らくだ殺人事件】霞流一)…オカルト番組のエジプトロケの最中、ディレクターの水池武士が行方不明に。ピラミッドの横の家から発見された男とらくだのミイラ化死体は、水池の服を着ていました。
【答えのない密室】斎藤肇)…山上と凡堂は作詞家である鹿崎永遠の屋敷を訪れます。2人は連続殺人事件の犯人を追っており、鹿崎こそがその犯人と目されていたのです。しかし2人が訪ねた時、鹿崎は自宅の地下にある特殊な核シェルターの中ですでに殺されていました。
【正太郎と田舎の事件】柴田よしき)…桜川ひとみと正太郎は浅間寺竜之介に誘われて、玉村一馬の家へ。しかし一同が玉村家に着いたその日、玉村家の蔵を改造した博物館で密室殺人が。
【時の結ぶ密室】柄刀一)…沢元泰史が射殺された瞬間を目撃した有村紗耶香と加藤雅彦。しかし沢元がいた部屋は全くの密室で、部屋の中には銃やそれらしい道具は全くなく、しかも撃たれたのは、弾丸が貫通できない鉄の扉の方向からだったのです。事件は、45年前に起きた事件と交錯します。
【チープ・トリック】西澤保彦)…スパイク・フォールコンとブライアン・エルキンズが殺され、ゲリー・スタンディフォードが犯人・ナタリー・スレイドの行方を求め、トレイシィのを訪ねてきます。

<第四幕> 【密室講義の系譜】小森健太朗)…小森流密室講義
【日本の密室ミステリ案内】(横井司)…上巻のロバート・エイディ「密室ミステリ概論」の対となる、日本の密室ミステリに関する概論。
【虎よ、虎よ、爛爛と 101番目の密室】(狩久)…密室殺人物を好んで書く女流探偵作家・江川蘭子。彼女の部屋は、外からしか鍵がかからないように作られていました。そして殺人が起きた時、蘭子と猛獣使い・アルフォンゾ・橘がいた部屋は逆密室状態だったのです。
【ブリキの鵞鳥の問題】エドワード・D・ホック)…飛行サーカスのショーの最中に、飛行機の中で殺人が起こります。空飛ぶ密室殺人事件。

第三幕で一番良かったのは柄刀さんの「時を結ぶ密室」。島田荘司さんの「龍臥亭」を彷彿とさせるような作りが、とても上手くはまっていますね。こういうのはとても好き。偶然が多すぎるきらいはあるのですが、それもほとんど気になりません。「チープ・トリック」早い段階でトリックに想像がつくのですが、これはきっとそういう風に書かれているのでしょうね。いつもながらのストーリー運びが魅力。「答えのない密室」少々怖い結末。トリック自体は前例があるらしいのですが、独特の雰囲気を醸し出しているので、かなり個性的に仕上がっています。好き嫌いがありそうですし、私にはあまり合わないのですが…。「死への密室」根津愛ときりんさんのコンビは良いのですが、トリックは小手先の手品のよう。読後感は今ひとつです。「らくだ殺人事件」このトリックは本当に可能なのでしょうか。作品自体は上手くまとまってるのかもしれませんが、あまり印象に残らなかったです。「正太郎と田舎の事件」正太郎シリーズ。猫のキャラクターで読ませる作品。こういうトリック、まだあるのですね…。
第四幕で面白かったのは、断然狩久さんの「虎よ、虎よ、爛爛と」!1976年の作品なので、多少古臭く感じられても不思議はないはずなのに、それが全くないというのが凄いです。同じように古い年代を舞台に設定している京極さんや二階堂さんの作品と同じぐらい、新しく感じる作品。以前どこかで「二階堂さんのシリーズ物のキャラクターである二階堂蘭子の名前の由来は江戸川蘭子なのか」という書き込みを読んだことがあるのですが、これのことだったのですね。私は恥ずかしながら、狩久さんという名前すら初めてだったのですが、これは良かったです。(2000/07初版)


「名探偵は、ここにいる」角川スニーカー文庫(2002年1月読了)★★★★★

【神影荘奇談】太田忠司)…喫茶店「紅梅」にいた野上と狩野俊介に話しかけてきたのは、瀬戸祥造と名乗る顔色の悪い若者。彼は1年前にに体験した不思議な出来事のせいで憔悴しきっていました。
【Aは安楽椅子のA】鯨統一郎)…両親の思い出を共有するダニエルが死んでしまい、聴力を完全に失ってしまったアンナ。天涯孤独な彼女は、なんとか探偵社での仕事を首にならないように同僚の中川に頼み込み、所長命令の死体の首探しの仕事を始めます。
【時計仕掛けの小鳥】西澤保彦)…奈々は久々に入った書店で、アガサ・クリスティの「二人で探偵を」を購入。しかしその本には奇妙なメモと母親の筆跡らしいイニシャルと日付が残されていたのです。
【納豆殺人事件】愛川晶)…山中で発見された死体は、「蛸壺八ちゃん」の店主・村山八美。しかしその死体を解剖してみると、胃の中から大量の納豆が。常日頃から納豆を目の敵にしていたのになぜ?

スニーカー・ミステリ倶楽部の書き下ろしアンソロジーシリーズ第1弾。「名探偵は、ここにいる」という題名通り、太田さんの作品には狩野俊介が、愛川さんの作品には7歳の根津愛が登場します。鯨さんの作品も、内容的に「名探偵」という言葉がかぶっています。しかし西澤さんの作品は…?
この中では、「Aは安楽椅子のA」が面白いです。大ボケの登場人物の会話も面白いですし、解決のきっかけも突拍子もなくて、ここまでくると笑えますね。これこそが正真正銘の安楽椅子探偵。シリーズ化して欲しくなるような作品です。「時計仕掛けの小鳥」の展開もなかなか。そこまで読むことができるとは、この子も結局名探偵だったのですね。「納豆殺人事件」はこの設定からして面白いです。「ミステリ入門としても楽しめる」とある通り、どれも入りやすい楽しい作品でした。(2001/11初版)

Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.