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このページは、我孫子武丸さんの本の感想のページです。

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「ディプロトドンティア・マクロプス」講談社文庫(2001年11月読了)★★★
京都に探偵事務所を開いている「私」にきた久々の依頼。それは、1ヶ月前に失踪した大学教授の父を捜してほしいという二谷久美子からの依頼でした。同じ日、向かいの動物病院の医師に紹介されたという9歳の少女・咲もやってきます。咲からの頼みは、動物園から消えたカンガルーのマチルダさんを探してほしいというもの。行きがかり上、咲の頼みも受けることになってしまった「私」は、久美子の方の調査を翌日から始めることにして、その日の帰りにカンガルーが消えたという動物園・ノアズ・アークへ向かいます。しかしカンガルーの飼育員に聞いても、そのようなカンガルーがいた形跡はなく…。そして翌日二谷家を訪れた「私」は、その帰りに暴漢に襲われます。どうやら教授の失踪はカンガルーの失踪と何らかの関係があるらしいのです。

始まりはハードボイルド。大手の調査会社をやめて個人で探偵事務所を開いたという「私」は、ほとんど仕事もない状態。そこにやっと現れた依頼人は独身の若い女性で、「私」が調査を始め、数少ない糸を手繰り寄せ、1つ1つの事実をつかみとっていく過程は、絵に描いたようなハードボイルド小説です。このままでも、かっこよい作品になったはずなのですが、物語は途中から思いがけない方向へと発展。なぜそのままハードボイルド路線を進まなかったのかはよく分からないのですが、このとぼけた味わいも我孫子さんらしいかもしれませんね。後半を読んでいると、昔のテレビ番組を思い出しました。結局のところ、読者を驚かせたかったのでしょうか。それとも、昔のテレビ番組へのオマージュだったのでしょうか。
「日本探偵互助協会」の存在も面白いです。もしかしたら、これだけが物語の最初から最後まで変わらない存在と言えるかもしれませんね。どこかで似た場面を読んだような気がするなあと思っていたら、有栖川有栖さんの短編でした。もちろん売ってる物は全く違いますが。
ところで、この題名は学名だそうです。最初は何かと思ったのですが、結果的にぴったりでした。「マチルダさん」というのは、ポール・ギャリコのボクシングをするカンガルー、マチルダから来ているのでしょうね。

「たけまる文庫-謎の巻」集英社文庫(2001年11月読了)★★★
【裏庭の死体】…速水三兄妹物。妻が海外旅行に旅立った日の晩に殺害された夫。死因は青酸系の毒物。死体は寝袋に詰め込まれて裏庭に埋められていたのですが、なぜかそこには玄関のドアマットが。
【バベルの塔の犯罪】…2017年夏。「わたし」は旧友を訪ね、東京湾の真中にそびえ立つ、地上2000メートルの超高層ビルへ。夕食後ふらっと散歩に出た時、不審な人物を見かけて追いかけるのですが。
【花嫁は涙を流さない】…花嫁の控え室にやってきた男。彼は花嫁に、花婿の浮気の証拠写真を買わないかと持ちかけます。写真に写っていたのは、花嫁の姉・香穂とホテルに入る花婿の姿でした。
【EVERYBODY KILLS SOMEBODY】…失恋してバーで1人でヤケ酒を飲んでいた明日香に近付き、「殺したい人が、いるんでしょう?」と、名刺を置いて行った男。明日香は翌日、早速その住所へ。
【夜のヒッチハイカー】…雪道を四輪駆動車で走る2人の男。そこにヒッチハイクの1組の男女が加わります。その時ラジオでは、警察官2人を殺した2人組が四輪駆動車で逃亡していというニュースが。
【青い鳥を探せ】…小さな興信所に現れた男の依頼は、自分自身を調査してほしいというもの。よそに比べて安いとは言え、平凡なサラリーマンには高額な出費を伴う調査の理由とは。
【小さな悪魔】…塀の修理をしている時に庭を覗き込んでいた少年はコウジと名乗り、何かにつけて家を訪ねて来るようになります。いなくなってしまった犬を探していると言うのです。
【車中の出来事】…深夜の電車で犯人護送中の刑事に話し掛けた男は、自分も刑事だと名乗ります。

1997年に刊行された「小説たけまる増刊号」。グラビアやコラム、書評、対談までをも我孫子さんが1人でやってのけたこの本は、小説誌の体裁を完璧に真似て作られた本で、その後「たけまる文庫・怪の巻」と「たけまる文庫・謎の巻」に分かれて文庫化されました。これはその「謎の巻」の方です。ミステリ色の強い作品が集められていますが、ちょっとしたホラーもあり、この2つの区別はあまり明確ではないようですね。やや小粒ながらも、楽しめる作品が揃っています。
「裏庭の死体」は速見三兄妹シリーズの短編で、兄の恭三の話からいちおと慎二が推理するという安楽探偵椅子物。ドアマットの使い方には驚きました。こういうアプローチもあるのですね。常識を逆手にとったような作品です。あと私が気に入ったのは、「EVERYBODY KILLS SOMEBODY」。これはまるで「笑ゥせえるすまん」のようなブラックさがいいですね。そして「夜のヒッチハイカー」の緊迫感もなかなかのもの。話自体はそれほど好きではないのですが、「青い鳥を探せ」には最後の最後で驚かされました。これこそホラーと言えるかもしれません。怖いです。

「人形はライブハウスで推理する」講談社ノベルス(2001年12月読了)★★★★
【人形はライブハウスで推理する】…妹尾睦月の弟の葉月が上京し、ライブハウスで起きた殺人事件に巻き込まれてしまいます。密室状態のトイレで起きた殺人は、葉月にとってかなり不利な状況。
【ママは空に消える】…睦月の勤める幼稚園の園児・相田瑠奈が、帰る時間になっても1人でぽつんとしています。睦月が聞いてみると、お母さんは昨日から留守で、お空の上のおばちゃんの所へ行ったとのこと。その後お父さんが迎えに来るのですが、瑠奈は翌日から幼稚園を休むことに。
【ゲーム好きの死体】…須藤健一という大学生が、自宅で死んでいるのが発見されます。テレビゲームをしている最中に殴り殺されたらしいのですが、ゲームソフトが、なぜか現場から消えていました。
【人形は楽屋で推理する】…睦月たちは人形劇を見に公民館へ。しかし園児の1人・青木海が、突然いなくなってしまい…。外に出た様子もないことから、睦月たちは建物の中を探し回ります。
【腹話術志願】…朝永のところに突然押しかけ弟子の大河原洋治がやってきて、住み込みをはじめます。しかし腹話術師を目指しているはずの彼は、なんとコンビニ強盗の容疑者として逮捕されることに。
【夏の記憶】…睦月の思い出話。小学校の頃から大の仲良しだった今村真理と喧嘩別れしたままなのを、睦月は未だに気にしていました。喧嘩の後に真理が転校することを知った睦月は、引越し先の住所を聞いて手紙を出したのですが、あて先不明で戻ってくるばかりだったのです。

めぐみ幼稚園に勤めるおむっちゃんこと妹尾睦月と、腹話術師の朝永嘉夫、そして人形の鞠小路鞠夫のシリーズの4作目です。おむっちゃんと朝永さんのほのぼのぶりは相変わらず、2人の仲に進展が見られるのが嬉しいところ。しかしこの2人のことなので、それほどの急展開は望めないのですが。
物語の中には殺人も出てくるのですが、ほんわりした雰囲気の方が勝っています。どちらかといえば「日常の謎」に近いイメージ。単純なトリックが多いのですが、鞠夫シリーズの雰囲気にとてもよく合っていますね。実際に現場を歩く事件と安楽椅子物の、全体的なバランスも良い感じ。巻末には、「いっこく堂」さんとの対談が収録されています。

「まほろ市の殺人-夏-夏に散る花」祥伝社文庫(2002年6月読了)★★★★
売れない新人作家・君村義一の元に初めて届いたファンレター。それは同じ市内に住むという19歳の四方田みずきからの手紙でした。義一のデビュー作にして最後の作品になるかもしれない「コーリング」は、某有名文学賞の候補に名を連ねたものの、初版部数も満足に捌けないという有様。新聞やインターネットでの酷評を見るにつけ、義一は2作目を書く気力を失っていました。しかしみずきとの手紙、そしてメールのやり取りによって、義一は徐々にやる気を取り戻していきます。そしてサインが欲しいというみずきの言葉に、2人はホテルの喫茶店で実際に会うことに。義一は彼女に淡い恋心を抱き、映画に誘うのですが、しかしその後みずきと連絡がとれなくなります。思い余った義一は、友人の小山田健治と共に、みずきの住所の辺りを訪れてみることに。

「幻想都市の四季」という名の元に、架空の地方都市・真幌市を舞台に倉知淳、我孫子武丸、麻耶雄嵩有栖川有栖という4人の作家が書き下ろしで競作した作品。
トリックに関しては、見当がつくようなつかないような…。しかし、一応ミステリという形式なのですが、それ以上に、とても切ない恋物語となっています。倉知さんののんびりほんわかとした「春」を読んだ後だけに、尚更切なく感じます。最後の花言葉の余韻も美しく哀しいですね。
作中でちらっと名前が出てくる、真幌在住の推理作家・闇雲A子は、次の麻耶雄嵩さんの「まほろ市の殺人-秋-」に登場します。登場する刑事の名前も一緒。こういうところが連作らしくて楽しいですね。他の作家さんの部分でも、もっとこういうお遊びがあればいいのにと思ってしまいます。
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