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このページは、法月綸太郎さんの本の感想のページです。

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「パズル崩壊-Whodunit Survival 1992-95」集英社文庫(2002年1月読了)★★★
【重ねて二つ】…ホテルの一室で、奇妙な遺体が発見されます。その上半身は人気女優・如月マリエ、下半身はどうやら俳優の真木俊彦らしいのです。しかしマリエの下半身と俊彦の上半身はなく…。
【懐中電灯】…盗みのプロ・片桐俊夫は、ボートレース場でM信用金庫に勤める矢島勝に声をかけられます。横領した金の埋め合わせが必要な矢島は、一緒にM信用金庫から金を強奪しようと持ちかけて。
【黒のマリア】…警視庁捜査一課の葛城警部の所へ、七森映子と名乗る奇妙な女性が訪ねてきます。池袋で起きた美術商殺しで金庫から発見された「黒のマリア」という絵は、呪われていると言うのです。
【トランスミッション】…まだ寝ている「僕」のところに、「あなたのお子さんを誘拐しました」という電話が。どうやら掛け間違いらしいのですが、放っておけなかった「僕」は、電話番号帳で番号を調べることに。
【シャドウ・プレイ】…友人のミステリ作家・羽島彰から掛かってきた深夜の電話。彼は自分の新しい小説に出すつもりのドッペルゲンガーについて話し始めます。
【ロス・マクドナルドは黄色い部屋の夢を見るか?】…私立探偵リュウ・アーチャーはジェラルド・キンケイドの依頼で、孫娘のアリス・ホイットマンを探すことに。
【カット・アウト】…ニューヨーク帰りの「三銃士」として、日本美術界に大旋風を巻き起こした3人の芸術家・桐生正嗣と篠田和久、桐生の妻の三島聡子。篠田は正嗣の死を知り、桐生家の墓へ。篠田と正嗣の仲が壊れたのは、桐生が亡くなった聡子をキャンバスに見立てて最新作を完成させた時でした。
【…Gallons of Rubbing Alcohol Flow through the Strip】…書こうとして書けなかったという長編の冒頭部分。推理作家・法月綸太郎と工藤俊哉との出会い。

出だしは本格ミステリ、しかし作品進むにつれてどんどん本格らしさを失っていく短編集。「パズル崩壊」とはそういう意味なのでしょうか?
「重ねて二つ」「懐中電灯」「黒のマリア」には警視庁捜査一課の葛城警部が探偵役として登場。後書きに「法月綸太郎という探偵のキャラクターにはそぐわないような気がしたので」とある通り、これは法月綸太郎では雰囲気がまるで変わってしまいそうです。「重ねて二つ」トリック自体はそれほど大したことはないと思いますが、しかし切れ味の良さで読まされてしまう作品。本格です。「懐中電灯」いいですね。伏線らしい伏線があったので、何かあるとは思っていましたが、まさかそうくるとは思いませんでした。「黒のマリア」呪い絡みは少々珍しいと思いますが、しかし夢かと思いきや、最後の1文がいいですね。「トランスミッション」はアンソロジー「誘拐」にて既読。本格ではありませんが、好きな作品です。誘拐犯の中継をしてしまう羽目に陥る主人公が気の毒ながらも面白いですね。「シャドウ・プレイ」はアンソロジー「不在証明崩壊」にて既読。シュールです。あまり好きではないですが…。「ロス・マクドナルドは黄色い部屋の夢を見るか?」ロス・マクドナルドの生んだ私立探偵リュウ・アーチャーと、映画「ブレードランナー」の原作となった「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」にひっかけている作品。面白い趣向だとは思うのですが、元ネタを自分がどこまで理解しているのかが不安。「カット・アウト」甥に会って真実を知った所は感動的。カット・アウトというのは、そういうことだったのですね。とても巧いと思います。「…Gallons of Rubbing〜」情景も浮かびますし、なかなか面白そうなのに惜しいですね。いつかこの続きを書いて欲しいものです。

「法月綸太郎の新冒険」講談社文庫(2002年9月読了)★★★★
【イントロダクション】…穂波と綸太郎のデート。映画が始まる時間までの暇つぶしの手相占い。
【背信の交点】…沢田穂波と法月綸太郎は、1泊2日の信州旅行へ。帰りに乗った特急あずさ68号で、前の座席の男性が急死して驚きます。一緒にいた妻は、「あの女のしわざなのね」と呟き…。
【世界の神秘を解く男】…綸太郎は東邦テレビの心霊番組に出演することに。立ち会ったポルターガイストの撮影実験で、同席していた超心理学の権威・丸山一郎教授がシャンデリアの下敷きになります。
【身投げ女のブルース】…女性が飛び降り自殺をしようとしている現場に偶然行き会った、警視庁捜査一課の葛城警部は、女性を説得して救出することに成功。はずみで殺人をしてしまったというのです。
【現場から生中継】…ワンルームマンションで何者かに殺されていた短大生。しかし容疑者となった大学生は、死亡推定時刻に、石神井の連続自動殺傷事件の容疑者逮捕の中継現場に映っていたと主張します。彼女の部屋の留守番電話にも、彼の携帯電話からのメッセージが残っていました。
【リターン・ザ・ギフト】…27歳のホステスの部屋に侵入して包丁で切りつけた男が逮捕されます。幸い犯行は未遂。しかしその男は、街で知り合った見ず知らずの男に交換殺人を持ちかけられたのだと言います。その数日前、容疑者の男が出張中に、その妻が殺されていました。

なかなかコアな本格です。やっぱり法月さんはパズラー路線でこそ本領発揮をする人だと思いますし、それが一番安心して読めますね。この中で印象に残ったのは「背信の交点」と「身投げ女のブルース」。「背信の交点」は登場人物の数から、どうしてもある程度の予想はつくのですが、それでも解決はとても鮮やか。古畑任三郎の物真似に関しては、何のためにやっているのかよく分からないのですが…。「身投げ女のブルース」は、法月さん御本人曰く「アンフェアすれすれの」作品なのですが、それでもやはり巧いなと唸らされる作品。他の作品も粒ぞろいで、なかなかよく練られているという印象です。習うより慣れろ、ではないですが、悩むより書いて!ですね。これだけの作品が並ぶということは、悩んだ甲斐があるということなのかもしれませんが。ご本人はあとがきで「今も絶望的な気分から抜け出せないでいる」と書いてらっしゃいますが、しかしこの本を読んでいると、復活もそう遠くない日のように感じます。

「生首に聞いてみろ」角川書店(2004年11月読了)★★★★★
高校の2年後輩にあたる田代周平から写真展の案内が届き、短編の〆切をクリアさせた法月綸太郎は早速会場へ。田代は腕のいい広告カメラマン。クライアントの注文の仕事の合間を縫って、アナクロな芸術写真を撮り続けているのです。その写真展の会場で、綸太郎は田代のファンだというモデル顔負けの若い女性に出会います。彼女は、その後会場にやって来た綸太郎の知り合いの翻訳家・川島敦志の姪であり、有名な彫刻家・川島伊作の1人娘でもある川島江知佳。しかし川島伊作は、春に発見された胃癌が全身に転移しており、その翌日死亡。伊作の遺作となったのは、江知佳がモデルになった石膏のヌード像でした。しかし伊作が救急車で病院に運ばれた後、無人となった家の中に何者かが忍び込み、その像の首を切断して持ち去っていたのです。

探偵法月綸太郎シリーズ。「二の悲劇」以来、10年ぶりだという長編です。
石膏像の首は、何者に盗まれたのか。そしてその目的は何なのか。かつてのストーカーが動いているのか、それとも身内の人間関係が絡んできているのか。それともそれらとは全く別なのか。1つの出来事によって、川島伊作を巡る過去の人間関係の諸々が浮かび上がってきます。それらが複雑に絡まりあいながら、その出来事は現実の殺人事件へ。その辺りのリンクがいいですね。舞台となっているのが1999年、今から5年も前ということで、その必然性の薄さに少し違和感を感じましたが、綸太郎が事件に巻き込まれるまでの過程もとても自然。それに今回も当然、綸太郎が推理を繰り返し、そして未然に防げなかった犯罪について悩む場面もあるのですが、それが必要以上に仰々しくなかったのも良かったです。彫刻に関する薀蓄や、美術界についての部分もとても面白く読めました。生身の人間と石膏像、普段の顔と写真で裏焼きした顔などのコントラスト、芸術家自身の拘りなども面白かったです。
最後の解決編だけは、少し唐突でしょうか。残りのページ数も少ないのに、まだ何かあるのではないかと疑ってしまいましたが…。しかし伏線が緻密に張り巡らされ、しかしそれらの複雑な伏線がラストに向かってきちんと収拾されているのがさすがですね。非常に重要な情報も、初期の段階できちんと明らかにされていました。「本格ミステリ」に相応しい、端整な作品ですね。純粋に、いい作品を読んだなあという印象です。
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