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このページは、黒崎緑さんの本の感想のページです。

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「ワイングラスは殺意に満ちて」文春文庫(2001年3月読了)★★★★
大阪の心斎橋にあるフランス料理店「フィロキセラ」。ある日著名なグルメ評論家である北嶋博子から予約の電話が入ります。彼女と彼女の夫が中心となって発行している情報誌「ガストロノーム」に掲載されれば、一流のフランス料理店として認められたも同然。レストランの面々は浮き足立つのですが、彼女が予約した日の朝、彼女の死体がワインセラーで発見されます。

ミステリとしては、特に驚く部分があるわけではないのですが、ユーモアたっぷりでお洒落で、テンポが良く、読みやすい作品です。主人公である女性ソムリエの周りにいるレストランのにいるメンバーも、とても個性的。シニア・ソムリエの堀口義男は死体のことよりもワインのことしか頭になく、まるでTVドラマの「王様のレストラン」のソムリエ役(名前を失念)を彷彿とさせますし、シェフの山本幸一も、殺人よりもライバル店のメニューと評論家の評価ばかり気にしています。オーナーの篠塚荘平も、ケチャップの嫌がらせを知って「トマトソースの作り方を知らないんだろうか?」という発言。良く言えば職人気質、悪く言えば非常識。デフォルメされているとはいえ、それがとても楽しいのです。さらに、この作品は料理やワインの薀蓄も豊富。しかしその割に空腹感が刺激されないというか、無味無臭な印象を受けるのが不思議。これで、読んでいておなかがすいたり、ワインが飲みたくて仕方なくなるような部分が出てくれば、言うことなしなのですが…。そこが少々惜しいところかもしれません。

「聖なる死の塔」講談社文庫(2002年1月読了)★★★
神戸の名門聖マリア女子学園で、シスター川辺恵子が塔から墜落死。その死の翌日、かつての親友であり、現在はフリーライターをしている高梨洋子の元へ、死んだ恵子からの手紙が届きます。その手紙の消印は、彼女が死ぬ前日。恵子の手紙を読んで、その死に不審を抱いた洋子は、8年ぶりに母校である聖マリア女子学園へ向かいます。その死は既に事故死として片付けられていたのですが、しかしここ数ヶ月、13日になると動物の惨殺死体がみつかり、洋子の学生時代にもあった伝説の黒い聖母を目撃したという話があることを知った洋子は、しばらく学園の寮に滞在して真相を探ることに。

ミッション系の学園を舞台にした本格ミステリです。小粒ながらも、こなれた文章で読みやすい作品。変な小細工を使っていないので、密室殺人のトリックに関しては想像がつくのですが、それでもなかなか読ませてくれます。しかし犯人を目の前にしての真相解明のシーンは、犯人自身が言う通り、なかなか立証が難しいでしょうね。結末に関しても、詰めが甘いと感じる人がきっといる思います。でも私は、それがまた修道院という閉鎖的な世界の雰囲気にはよく似合っているのではないかと思いました。
一般的に、ミッション系の学校を舞台にしていたり、宗教的な人物や小物が絡んだ話というのは難しいですね。特に修道院絡みの事柄に関しては外からの取材には限界があり、作者の想像で補う部分が多く、それが結果として現実とかけ離れやすいので…。少しでも内部を覗いたことがある人にとっては、その作者が内部を知っているか、それとも全くの部外者かがすぐわかってしまうのではないでしょうか。でもこの作品にはそういう違和感があまりなく、その点で好感度が高かったです。(後書きを読んでみると、黒崎さんは神戸海星女子学院の出身とのこと、納得です。)やはり宗教的なものには、部外者はあまり手を出さない方が無難かも。机上の知識は、所詮机上の知識にしかすぎないので…。

「闇の操人形(ギニョール)」講談社文庫(2002年1月読了)★★★
新興住宅地のマンション。百貨店から届いた荷物を預かったことがきっかけで話すようになった、1101号室の鵜飼那美子と1202号室の高井田初音。正反対の性格をした2人は、お互いにあまり好きではなかったものの、折につけ話をするようになります。しかし初音の隣の部屋に若夫婦が引っ越してきて以来、那美子に届くはずの郵便物が届かなかったり、出した覚えのないゴミ袋の中に那美子宛の郵便が入っていたりと奇妙な出来事が続けざまに起こり、さらには向かいの棟には覗き魔がいるという噂が流れ…。那美子の精神はゆっくりと壊れていきます。

ちょっとした偶然や疑心暗鬼、悪意などが重なり、那美子の精神の歯車が徐々に狂っていくという心理サスペンスです。物語は那美子と初音の2人の視点から交互に語られます。この2人の語りの違いは、始めのうちは単なる「人が変われば見方も変わる」程度なのですが、徐々に認識の違いや違和感が大きくなり、それに伴ってだんだん歯車が狂っていくという過程はなかなか読み応えがあります。初音も最初の方はただの隣人にすぎないのに、気がついてみたらすっかり存在が大きくなっていてびっくり。ラストも急に知らないエピソードが出てきてびっくりさせられたと思ったら、さらに驚くことに。
しかし章の終りごとに、「その○○が、××になっていくのである…」的な、神の視点とも言える文章が挿入されており、それがかなりうるさく感じられました。前半部分は、それが出てくるたびに気を削がれてしまい、結局なかなか那美子に感情移入できず…。それがなければ、もっと物語に入り込んで読めたと思うんですけどねえ。最後まで読んでみると、なかなか読後感が良い作品だっただけに、それだけが少し残念です。

「しゃべくり探偵」創元推理文庫(2001年3月読了)★★★
【番犬騒動】…和戸は、守屋教授に強くすすめられてイギリス研修旅行に参加することに。費用捻出のために和戸が始めたバイトは、朝晩犬の散歩をさせるだけで1日2万円もらえるというものでした。
【洋書騒動】…無事イギリスにやってきた和戸たち。そしてそこで起こった高価な洋書の紛失事件。「チャールズ・ディケンズ考」を盗んだ犯人は誰なのか?和戸は日本の保住にエア・メールを出します。
【煙草騒動】…あと数日で日本に帰るという時に催された、お別れパーティの間に起きた殺人事件。警察が介入したこともあり、和戸は保住に電話で相談することに。
【分身騒動】…和戸がイギリスにいっている間に、イギリスに行ったメンバーの分身がそれぞれの自宅付近をうろついていた?ドッペルゲンガー物語。

舞台は関西。ボケ役の保住とツッコミの和戸が文字通り「しゃべくり」している間に事件を解決してしまうという連作中編集です。 「ボケ・ホームズとツッコミ・ワトスン」の副題の通り、シャーロック・ホームズのパロディとなっています。登場人物の名前も保住(ホームズ)和戸(ワトスン)、守屋教授(モリアーティ教授)など遊び心満載。作品の作りもほとんど地の文がなく、全編が会話体となっていて、関西人の激しいボケとツッコミの応酬が楽しめます。まさにギャグ百連発状態。…なのですが。どうも私にはこのボケとツッコミがくどすぎて、話に入りづらかったです。文章にした関西弁も、私だったら少し違う表記をするだろうというのが多くて、それも気になってしまうし…。「もう、ええかげんにしぃや〜」状態。うーん、濃厚すぎる…(^^;。
でもいくら漫才をやっていても、ミステリとしてはきちんとしていて、4つの話が最後にきれいにまとまるという構成もすごく考えられてます。挿入されているいしいひさいちさんの漫画がまた作品の雰囲気にぴったりです。
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