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このページは、図子慧さんの本の感想のページです。

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「媚薬」角川ホラー文庫(2002年5月読了)★★★★
職場のアイドル的存在・茅島聡史を口説き落とそうと、この1年間苦労してきたOL・光島啓子は、インターネットで「恋のハーブ」を購入。それは意中の相手と2人きりの時に2人同時に飲むと、両想いになれるというハーブ。しかし実は効果抜群のセックスドラッグだったのです。一方、現在フリーライターの磯良賢吾は、学生時代からの友人・茅島に、マレーシアにある日系バイオ工場の会社案内を作る仕事を依頼され、マレーシアへ。そこで出会ったのは、異様に太った男でした。丁(ディン)と名乗るその男に案内された小さな鍾乳洞で、磯良は人間の死体に寄生する植物を見せられます。その植物は、なんと死体の収められた大きな壷から生えていたのです。真っ白く美しく、しかし腐臭を放つという花…。そして磯良の周りに死がつきまとい始めます。

ホラー文庫の作品ですが、ホラーとは少し違うようですね。確かにかなりグロテスクなシーンはありますし、その中でも人形の部屋でのシーンは、美しくも妖しく、同時にとてもおぞましいもの。しかし主要の登場人物が元気でパワフル、安心できるタイプなので、あまり怖くならないのです。
啓子や茅島、磯良、マレーシアでカメラマンをやっている津田由起夫、サリーとリーロイの兄妹、ペットショップでバイトをしている高校生の熊代龍司など、様々な登場人物が思わぬ所で繋がり見せ、様々な出来事が収束していく様は見事。沢山のピースが1つずつはまっていき、見る見るうちに1つの絵ができていきます。しかしそこで最後まできっちりピースがはまるのがミステリ、最後のピースがはまったように見えて、それは本当に正しいピースだったのかと考えさせられるのがホラーのような気がします。そういう意味ではやはりホラーなのかもしれません。美しいけれども強烈な腐臭を漂わす蘭の花のように、妖しくそしておぞましい物語でした。

「閉じたる男の抱く花は」講談社(2002年5月読了)★★★★★お気に入り
謝恩会の2次会のワインバーを出た後、3次会をどうするか話しながら歩いていた本荘祈紗たち。どうやら発砲事件があったらしく、靖国通りは相当混雑していました。そして友人の西田が酔ってはぐれたのに気付いた祈紗が探しに行くと、西田は見知らぬ学生風の男に肩を抱かれて笑っていたのです。官能的で美しい、正体不明の男。男に得体の知れないものを感じ、初めは無理矢理でも西田を連れて帰ろうとする祈紗。しかし男は拳銃を隠し持っていました。結局祈紗たち3人は、タクシーで西田の住むアパートへ。西田は既にダウン。着いた途端祈紗は男に殴られ、タクシーで横浜に行き、「天利」という家にいた若い男に「タキからの使い」だと言って札束が入っているらしい紙袋を受け取ることになります。しかしその紙袋を持ち帰った後、祈紗はタキに犯されてしまうのです。殴られ犯されながらも、なぜかタキのことが忘れられなくなってしまった祈紗。姿を消したタキのことを探し始めます。

祈紗、タキ、そして佐宗の物語。このタキと佐宗がなんとも強烈で魅力的です。2人の男性は、まるで正反対。暴力的で冷たく、しかし強烈な魅力を発散しているタキと、優しく繊細で常に紳士的な、華道・風華流の家元後継者の佐宗。この2人はお互いに意識し合い、ピリピリとした緊張感が漂います。そして、タキに殴られ暴行されながらも、どうしようもなくタキに惹かれてしまう祈紗。彼女の描写もとてもいいですね。亡くなった父親との思い出を絡めながら心情を描いているので、暴力をふるうタキに惹かれていく彼女の姿には全く無理がなく、すっかり感情移入してしまいました。
しかし私が本当に惚れ込んでしまったのは、実は佐宗。初対面の時から祈紗に惹かれていた佐宗ですが、タキのこともあり、なかなか思い切った行動には出ません。彼なりにきちんと意思表示はしていたのですが、あまりに上品で紳士的なので、祈紗はなかなか気づかないのです。初めは彼のことを、ゲイなのではないかと疑っていたほど。しかしこの佐宗が、単なる優しい男ではなかったのです。ここぞという所では実に情熱的。彼が祈紗に真摯な気持ちを吐露する場面は、読んでいる私まで息苦しくなってきてしまうほど。その場面は、何度も繰り返し読んでしまいました。
本の帯にはサスペンスとありましたし、確かに国会議員の殺人事件や華道の家元のお家騒動など、サスペンス的要素もありましたが、私にとっては恋愛小説。それもとびきり上等の。1人1人の登場人物たちがくっきりと鮮やかで印象的で、三者三様の切なさと哀しみが胸に熱く痛い作品です。

P.220「今更?ぼくは最初からあなたを好きだと言い続けたのに。今更、そんなことをいうんですか」

「蘭月闇の契り」角川ホラー文庫(2002年5月読了)★★★★
「口笛が聞こえると、当主が死ぬ」そんな言い伝えのある徳富家。莫大な財産を持つこの家は、原因不明の出火で若き当主が死亡。その後2000坪を越える敷地は切り売りされ、住む者もいなくなった広大な屋敷は荒れ果てていました。しかし、家を壊そうとしたものは祟られる、徳富の隠し財産を探しに入った人間は行方不明になる、などという噂が流れ、屋敷は取り壊されることもなく、いつしか幽霊屋敷と呼ばれる存在になっていたのです。そして何十年か後。閉鎖され、自治体の管理下に置かれていた屋敷に入り込んだのは、当時小学生だった内海晶彦、紺野伸雪、船田和雄、竹内真魚の4人。真魚が祖父に、何でも願い事が叶う宝物が埋まっているという話を聞き、中に入りたがったのです。薄気味悪さから、結局中に入ったのは晶彦と真魚の2人だけ。しかし晶彦が穴に落ち気絶、それを助けようと穴の中に降りた真魚も、二本足で立つ黒い生き物と灰色の人影を目撃して気絶。そして7年後。その土地には、晶彦の父親が社長の内海建設によってマンションが建てられることになります。

なんとも言えない闇の雰囲気が迫ってきます。じっとりと湿った闇の奥に異形の存在が蠢いている、そんな感じ。素封家の没落とすっかり幽霊屋敷となった広大な屋敷、何でも望みを叶えてくれるという宝物。いかにもという感じの設定ですが、破滅の美というか、滅びの方向へとひた走る感じが魅力的ですね。一度読み始めると、この展開から目が離せずに一気に読んでしまいました。同じ角川ホラー文庫でも、「媚薬」は怖いよりも気持ち悪いという感情が先に立ちましたが、こちらの作品はもっと耽美な感じ。
4人のキャラクターも鮮やかでいいですね。秀才で要領がよく男前の晶彦。親切で優しい美少年・伸雪。平凡で人の良い道化役の和雄。そして美人でスタイルがよく、頭の良い真魚。晶彦と伸雪は水と油のように正反対で、真魚を挟んで反発しあう関係です。成績、体育の授業、友達の数、真魚への想い、すべてにおいて晶彦に負けている伸雪は、徐々に闇に侵食されていきます。
ただ、恐怖の根源となっている存在については、もっと描写や説明が欲しかった気もします。ホラーらしい恐怖をそれほど感じなかったのはそれが原因かもしれません。逆に、真魚の受け継いだ小刀については、あまりに説明的すぎたような気がしますが…。しかし映像化されれば、横溝正史の作品のようなぞっとする作品になりそうですね。
この作品は、元々白泉社の「花丸」という雑誌に掲載された100枚ほどの作品だったそうです。文庫本にして400ページほどのこの作品が、どんな感じの100枚だったのか… そちらも読んでみたかったです。
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