このページは、塚本��（青）史さんの本の感想のページです。

【呂后】…高祖劉邦の崩御直後の漢。呂后がまず最初にしたことは、劉邦の一番の愛妾・戚姫を永巷に繋がせること。戚姫は常々、太子盈を廃太子と自分の産んだ如意の冊立を懇願していたのです。呂后は30年来の愛人・審食其との性愛生活を続けながら、女傑ぶりを見せ付けることに。
【朱虚侯】…自らの夢が「斉から外に出よ」と暗示しているように感じた劉章は長安へ。8年前、呂后の勅勘を蒙った父の劉肥とは逆に、章は呂后に気に入られて出世。呂氏には稀な美形である呂后の姪を娶り、望み通り朱虚の地に封じられます。しかし劉邦の末子・劉長が朱虚侯妃に横恋慕していたのです。
【淮南王】…呂后の崩御と同時に政変が起こり、呂氏一族は粛清されることに。次の帝なったのは、劉邦の次男であった劉恒。戦功のあった劉章、劉興居ら斉国出身の王子たちは皇帝になることができず、失意のまま日々を送ることに。淮南王は朱虚侯妃と図って劉章を暗殺。さらに大掛かりな企てへと。
【周亞夫】…河内郡太守・周亞夫。父である周勃が言われなき謀反を疑われたのを見ていた彼は、ふと人相見の老婆の元へ出向き、侯になる相であると共に、餓死する相であると告げられます。

前漢の高祖劉邦の死の直後から、呂后の外戚である呂氏一族の専横時代を経て、呉楚七国の乱終結までの約半世紀を、呂后、朱虚侯、淮南王、周亞夫といった人物を通して描いている連作短編集。漢の時代を描いた作品というのは、今まであまり読んだことがなく、馴染みも薄かったのですが、会話の切れがとても良いせいか、読みやすかったです。それに各章ごとに少しずつ重なりがあるのもいいですね。視点が変われば、また違った思惑が見えてきますし、物語の中にもに入りやすいです。
中国史上、あまりにも悪名高い呂后。彼女のやり口には改めてぞっとさせられます。戚姫の殺し方など、凄まじい怒りが篭っていますね。（戚姫も気の強さでは全く負けていませんが）彼女たちの争いに巻き込まれた格好となった劉盈（恵帝）や異母弟・劉如意、劉盈の息子である恭やその母があまりにも哀れ。生きている間の彼女の影響力には凄まじいものがあります。それでも劉邦や項羽が争った時代からそれほど遠くないというのに、呂后が生きている間は、表立った反乱などはなかったというのが凄いです。閨房と政策が見事に両立していたのですね。それにしても、呂后に限らず、あまりにも閨房が政策上で大きな力を持ちすぎているような気もします。人の閨房を覗き見するというのも日常茶飯事。上手く人の秘密を掴むのも出世や保身の第一歩。宦官や寵童の存在も相まって、非常に歪んでいるという印象です。
宮殿に迷い込んだ赤立羽蝶、絡まりあいながら舞い上がる2頭の白い蝶、焦茶地の翅に青く太い縦じまのある大きな蝶、翅を狂おしく羽ばたかせる黄蝶、大きな烏揚羽蝶…　それぞれの物語の冒頭や結末部分などに、様々な蝶が登場し、それはまるで主人公たちの運命を予兆し、さらには嘲っているかのようでもあります。