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このページは、アンソロジーリレー小説の感想のページです。

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「『ABC』殺人事件」講談社文庫(2001年12月読了)★★★★★

【ABCキラー】有栖川有栖)…尼崎市安遠町で朝倉一輝が、豊中市別院町で番藤ロミが銃殺されます。犯行現場の町名と被害者の名前のイニシャルの一致、そして犯人からの意味深なメッセージ。続いて起きた第3の殺人は、八幡市千曲町での茶谷滋也殺害事件でした。
【あなたと夜と音楽と】恩田陸)…そのラジオ番組の日の朝、放送局のビルの入り口に決まって置かれている奇妙な物。それは一対の雛人形、地球の形をしたビーチボール、バカボンのパパのお面などでした。そしてビルに出たという幽霊の噂。ラジオのDJ番組内での会話だけで進む物語です。
【猫の家のアリス】加納朋子)…猫好きが集まるネットの掲示板に、飼い猫が殺されたという書き込みが続きます。殺された猫の名前はABC順。美樹本早苗は、次はダニエルではないかと心配し…。
【連鎖する数字】貫井徳郎)…茶髪の男子高校生の連続撲殺事件が起こります。何の関連性も見つからないのですが、殺害現場には「2」「13」「19」という数字が書かれた紙が残されていました。
【ABCD包囲網】法月綸太郎)…久能警部の元に、鳥飼俊輔という男が殺人事件の犯人として何度も自首してきます。しかし警部が調べてみると、彼はどの事件にも確固たるアリバイがあるのです。

アガサ・クリスティの名作「ABC殺人事件」をモチーフとしたアンソロジーです。
Aのつく町でAの被害者が、Bのつく町でBの被害者が…という設定に一番忠実なのは有栖川さんの「ABCキラー」。作家アリスシリーズです。とても有栖川さんらしい作品ですね。他の作品に関してはそこまでは拘ってないのですが、それぞれになかなか面白かったです。恩田さんの「あなたと夜と音楽と」は、DJ2人だけの会話で成り立っている作品。場所も生放送中のスタジオ内と限られているのに、臨場感があり、動きを感じさせるところがスゴイです。加納さんの「猫の家のアリス」は、登場人物をトランプの絵札になぞらえて呼ぶなど、まるで童話のような作りで、表面的にも加納さんのほんわりとした雰囲気が漂うのですが、実は冷んやりするような怖さをもちょっぴり含んだ作品。こういう悪気のない女性が実は一番怖いのかも。貫井さんの「連鎖する数字」は最後に明らかにされる動機が結構怖い作品ですが、とぼけた探偵の味わいがそれを和らげてるところがいいですね。しかし吉祥寺先輩、ここまでハズしていても探偵と言えるのでしょうか…。法月さんの「ABCD包囲網」は、先が全く読めなかった作品。探偵・法月綸太郎物です。 私は探偵役ののりりんが悩む作品は苦手なのですが、この作品ではそれほど暗いこともなく、なかなか良かったです。この凝ったプロットはさすがですね。(2001/11初版)


「緋迷宮」祥伝社文庫(2002年2月読了)★★★★

【おたすけぶち】宮部みゆき)…10年前、兄はサークルの仲間3人と共に山道を飲酒運転で疾走、深い淵に車ごと転落して死亡。泥沼の裁判もようやく終わり、相馬孝子はその「おたすけ淵」を訪れます。
【カラフル】(永井するみ)…インテリア・コーディネーターをしている庄野知鶴の元に、部屋の模様替え希望の遠藤美和から連絡が入ります。カーテンの生地も決まり、部屋に戻って正確に採寸。しかし知鶴が美和に連絡を入れようとすると、電話に出たのは警察でした。美和が死んだというのです。
【かもめ】(森真沙子)…文子は出来上がってきた写真を見て驚きます。その写真には、かもめと一緒に、ある男性によく似た顔が写っていたのです。動転した文子は有給休暇をとり、思い出の地へ。
【恋歌】(明野照葉)…来島拓郎の元に、ある日訪ねてきた若い女性は、拓郎の妻・小夜子と自分の恋人が深い仲になっているらしいと話します。拓郎が小夜子に尋ねると、小夜子は自分が昔流産したことがあると話し、その子供の生まれ変わりが彼なのだと言うのですが…。
【彼女に流れる静かな時間】(新津きよみ)…石井真弓の元に届いた手紙は、16年前に疾走した羽柴未貴子からの手紙。そこには「2001年2月24日の1時に山小屋で待っています」と書かれていました。
【ピジョン・ブラッド】篠田節子)…「私」は婚約中の男性と、婚約もしくは結婚していないと入れない公団住宅に入居。しかし結婚に至らず2ヶ月で別れ、現在は1人暮らし。今の恋人は、外見こそ地味なものの豊かな内面を持つ慎也。しかしその慎也もだんだんと家に来なくなり、ある日別れの手紙が。
【葡萄酒の色】服部まゆみ)…軽井沢の別荘で翻訳の仕事をしている孝夫の元に、部屋を追い出された画家の大野と飼い猫の「むす」が居候。大野は、結婚が決まっている美貌の綾子と惹かれ合い…。
【鉄輪】(海月ルイ)…芳子の夫の和久井は、愛人であるゆきえに子供を産ませて認知し、すっかり家に戻らなくなくなっていました。ゆきえは祇園のクラブに勤めていた女で、今は和久井に買ってもらったマンションに暮らしているのです。芳子は藁人形と五寸釘を持って鉄輪ノ井戸へ。
【船上の悪女】若竹七海)…悪戯を繰り返す11歳の鳥越等のせいで、船中は大騒ぎ。しかしある日、等は階段から落ちて頭を打ち、意識不明の重態に。等はなんと多量の睡眠薬を飲んでいたのです。
【一人芝居】小池真理子)…人前に出ると卑屈に振舞ってしまう岡本潤一。彼は近所に住む人妻・戸川冬美に憧れるあまり、冬美の捨てたゴミ袋を拾ったり、スーパーで冬美に話しかけたりし始めます。

10人の女流作家によるアンソロジー。読む前はミステリが中心かと思っていたのですが、ホラー系の短編が揃っていました。全体的なレベルが高く、「花迷宮」よりも満足度の高い1冊です。
この中では、「おたすけぶち」が好きですね。宮部さんはやはり巧いです。ラストでぞっとさせられました。そしてこの本の一番のお目当ての服部まゆみさんの「葡萄酒の色」にも満足。最初主人公の性別が明記されておらず、ひっかけがあるのではないかと非常に読みづらかったのですが、蓋をあけてみれば普通の男性だったのですね。服部さんお得意の上流社会の人々の生活が退廃的に描かれています。情景がとても美しいです。海月るいさんは、「花迷宮」でも同じように京都を舞台にした三角関係を書かれていますが、こういうのがお得意な方なのでしょうか?女性の怖さがじわじわときて、物語としてはあまり後味が良くないのですが、でもとても巧いですね。「恋歌」もそれと少し似たような系統の怖さを感じさせる話。こんな女性に魅入られてしまったら、もうどうしようもないですね。あまり身近にはいてほしくないタイプです。(2001/12初版)


「殺人鬼の放課後」角川スニーカー文庫(2002年2月読了)★★★★

【水晶の夜、翡翠の朝】恩田陸)…人形のような形にした白い紙を誰かの皿やカップの下に忍ばせておき、本人がそれに気が付いた瞬間、その場にいる人間が「『笑いカワセミ』が来るぞ!」と叫ぶ「笑いカワセミ」遊び。しかしそれはいつしか悪質な悪戯へ…。「麦の海に沈む果実」の学校での物語です。
【攫われて】小林泰三)…部屋で2人きりで暮らしている「僕」と恵美。「わたしたち、誘拐されたの。小学校から帰る途中、公園で道草してた時に」と語り始める恵美に「僕」は興味を示します。
【還ってきた少女】(新津きよみ)…友達の智子に、自分そっくりの少女を見かけたと言われた倉田七穂は、どうしてもその少女に会いたくなり、智子が見かけたという土曜日の3時頃の公園へ。
【SEVEN ROOMS】乙一)…気が付いたらコンクリートの部屋に閉じ込められていた姉と「僕」。「僕」が部屋の真中を流れる溝に入り、壁の下を通り抜けてみると、他にも同じような部屋が7つあり、そのそれぞれの部屋に女性が閉じ込められていました。

「水晶の夜、翡翠の朝」やはり恩田さんはいいと思った作品。このラストもなかなかです。それでもヨハンは天使のような少年なのですね。「攫われて」途中も怖かったのですが、最後の最後にまたしてもぞっとしてしまいました。私が一番苦手な怖さです。「還ってきた少女」超常現象かと思いきや。「SEVEN ROOMS」閉ざされた空間、限られた時間の恐怖というのは、本当に怖いです。最後に聞こえてくる笑い声がまた…。
ミステリーというよりホラー系の作品が多く、特に小林・乙作品は本当に怖かったです。私が好きだったのは恩田さんの「水晶の夜、翡翠の朝」。これも怖くないわけではないのですが、しかし校長は相変わらずいい味をだしてますし、この学園の雰囲気はやっぱり好きです。(2002/02初版)


「蒼迷宮」祥伝社文庫(2002年6月読了)★★★★

【死体を運んだ男】小池真理子)…ミチルが出演している芝居を偶然見に行ったことがきっかけで知り合い、結婚した有馬郁夫とミチル。しかし2人きりの静かなはずの家は、常にミチルの仲間の溜まり場となっていました。それでも妻を愛して優しく見守る郁夫でしたが…。
【彼女の一言】(新津きよみ)…小学校中学校時代ライバルだった2人の女の子の将来の夢は小説家。大人になって再会した時、1人はかつての夢通り小説家としてのデビューを果たしていました。
【緑の手】(桐生典子)…4年ぶりに従姉・津坂公子の家を訪れた近藤比沙美。まるで花の館のように植物で溢れている家にいる公子は、相変わらず色白でマシュマロのような柔らかな雰囲気でした。
【大空学園に集まれ】青井夏海)…銀座にあるカクテルバー・リッキー。ここは25年前に一世を風靡したテレビドラマ「大空学園に集まれ!」に出ていたリキがオーナー。リキの兄貴分のケンが雨宿り代わりに店に寄ってみると、ただ1人いた女性客がケンを意識していた。見たことある顔なのですが…?
【濃紺の悪魔】若竹七海)…姉の珠洲が理由で長谷川探偵事務所を辞めた葉村晶に、長谷川所長から仕事の依頼。今や若い女性のカリスマ的存在の松島詩織の身辺警護でした。
【泥顔】乃南アサ)…知り合いの能楽師の紹介で来た市邑緋絽枝はイメージが違うの一点張りで、浅沼の打った泥顔の打ち直しを要求。そして浅沼は緋絽枝の意図通りに何度も打ち直しをすることに。
【箱の中の猫】菅浩江)…恋人の普久原敦夫は、地球から400キロメートル離れた宇宙ステーションの中。守村優佳は、10日に1度のプライベート通信を楽しみに、彼が地球に帰ってくる日を待っていました。そして同僚のクリスの話が出るたびに、優佳の心はちくりと痛むのです。
【車椅子】(清水芽美子)…車椅子の新見真知子が、東京北部のある区民センターに配属されます。明るい真知子に明るさを増す職場。真知子の存在は評判となり、講演会や本を書く話が舞い込みます
【オフィーリア、翔んだ】篠田真由美)… ほんの3ヶ月ほど前に妻を失った男。彼は偶然酒場で出会った美しい青年に、妻が亡くなった経緯を話します。
【祝・殺人】宮部みゆき)…若手刑事の彦根が妹の結婚式の会場で出会ったのは、エレクトーン奏者の日野明子。彼女は今丁度彼が捜査に携わっている「鳴海荘バラバラ殺人事件」について話したいことがあると言います。殺された佐竹和則を、彼女は知っていたのです。捜査は難航していました。

10人の女性作家の作品を集めたアンソロジー。ブラックからユーモア、SFまでバラエティの豊かなアンソロジーとなっています。青井夏海さんの「大空学園に集まれ」と清水芽美子さんの「車椅子」が書き下ろし、他の作品は文庫や文芸誌などに収録されていた作品です。
「死体を運んだ男」なんと嫌な話なのでしょう。ブラックです。「彼女の一言」題名の「一言」が何だったのかという謎でひっぱります。しかしそれはないのでは…。「緑の手」こういう女性、いますね。緑の手は、私も欲しいです。「大空学園に集まれ」これも面白いのですが、デビュー作のような作品の方が読みたいです。「濃紺の悪魔」連作短編集「プレゼント」に続く、女探偵・葉村晶シリーズ。なかなかのアクションで面白いです。「泥顔」これはいいですね。依頼主の思っている通りの面が打てずに、それでも執念のように面を打ちつづける浅沼。最後の舞台のシーンも素晴らしいです。「箱の中の猫」菅さんのアンソロジー「五人姉妹」にて既読。やはりいいですね。「車椅子」脇役も魅力的。「ハンディのない普通の暮らしは無価値なの?」「とりたてて困難にめぐり会わない私たちは…」などの台詞に実感がこもっており、気持ちが非常に伝わってきます。「オフィーリア、翔んだ」建築探偵シリーズ。「桜闇」にて既読。「祝・殺人」これも「我らが隣人の殺人」にて既読。やはり宮部さんは巧いですね。
菅さん、篠田さん、宮部さんと再読の作品を別にすると、一番気に入ったのは「泥顔」。男の執念と女の執念とが、泥顔という面を形作っていくところがとても良かったです。能や日舞の世界という世界によく合っていて、息苦しいほどの濃密な作品でした。短編はこうあって欲しいという感じの作品ですね。(2002/03初版)


「密室レシピ」角川スニーカー文庫(2002年5月読了)★★★

【トロイの密室】折原一)…1代で建設会社を興した成り上がり・土呂井竜蔵の新しく手に入れた屋敷のお披露目の日。雪で車が出せなくなり、客は屋敷に泊まるのですが、この屋敷には呪われた部屋が。
【タワーに死す】霞流一)…特撮映画の撮影現場で、大道具の東京タワーに突き刺さって死んでいた特撮班の監督。撮影用の作り物とはいえ3メートルある東京タワーにどうやって突き刺さったのか…。
【正太郎と冷たい方程式】柴田よしき)…22世紀。桜川ひとみと猫の正太郎、浅間寺竜之介と犬のサスケは、ミステリ仕立ての企画のために宇宙ステーションを訪れるのですが…。
【雪の絵画密室】泡坂妻夫)…知る人ぞ知る作家・渡辺恒に誘われ、モデルをすることになった田中裳所(もとこ)。ある日渡辺恒の旧友で、超有名画家・ミケランジェロが訪ねてきます。最近跡をつけられているような気がすると言うミケランジェロは、翌朝アトリエで殺されているのが発見されます。

全体的にあまりすっきりしないアンソロジー。「トロイの密室」これで呪いの部屋と言うのは。「タワーに死す」似たような作品を読んだ覚えがあるのですが、気のせいでしょうか。「正太郎と冷たい方程式」正太郎物でSFになるとは驚きました。これはこれでいいのですが、この舞台設定のための説明が多すぎて大変です。短編向きとは思えないですね。しかしトリックその他物語の内容は、確かに短編向きですね。「雪の絵画密室」話としては、これが1番面白いです。裳所も少々現実離れしてると思いますが、画家の渡辺恒のキャラクターも面白いです。しかしこれもやはりトリックが…。
ミステリのトリックとしては密室が一番好きなのですが、それはやはり緻密な計算あってのもの。現実離れしている謎だからこそ、地に足がついた作品が好きなのです。しかし、ここにはあまり好きではないタイプの密室が揃ってしまったようで…。第1弾・第2弾の出来が良かっただけに(第2弾はホラー色が強かったので苦手な作品も多かったのですが)、少々拍子抜け。せっかく面白い企画なのに、これではもったいないのではないでしょうか。(2002/04初版)


「金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲」角川書店(2003年4月読了)★★★★

【無題】京極夏彦)…稀譚舎に向かう途中で倒れ掛けた関口を助けたのは、見知らぬ親切な紳士。不思議と抵抗なく自分の病気のことも話す関口ですが、実は紳士は関口のことを知っていたのです。
【キンダイチ先生の推理】有栖川有栖)…被害者の最後の目撃者となった15歳の推理小説ファン・金田耕一は、警察の事情聴取を受けることに。そして早速近所に住む推理作家・錦田一の元へ。
【愛の遠近法的倒錯】(小川勝己)…静養のために久保銀造宅を訪れていた金田一耕助は、銀造が突然殺人事件の話を始めたのに戸惑います。しかし既に解決したというその事件の話を聞くうちに…。
【ナマ猫邸事件】北森鴻)…元は民俗学研究室に籍を置く大学院生だった近田一耕助は、今や自称名探偵。彼が巻き込まれたのは、ナマ猫教という新興宗教法人の内部で発生した事件でした。
【月光座-金田一耕助へのオマージュ】(栗本薫)…幽霊座の事件から50年。歌舞伎役者の佐野川月光が、稲妻座の跡地に新たに月光座を建て、金田一耕助もその柿落としの公演に招待されます。
【鳥辺野の午後】柴田よしき)…推理小説家の「私」は、京都の六道珍皇寺で探偵だと名乗る見知らぬ男に出会い、自分が巻き込まれたある出来事の犯人を教えて欲しいと頼みます。
【雪花 散り花】菅浩江)…京都の町屋に出来たのは、3人揃って「金田一」の探偵事務所。初めての客は、祇園のクラブで働く戸田満枝。世話になっていた男性が自殺し、妙な葉書が届いたのです。
【松竹梅】服部まゆみ)…風邪で病院を訪れた金田一耕助は、院長に相談があると言われます。その後依頼は取り消されるものの、耕助は院長の代わりに、等々力元警部と共に歌舞伎へ。
【闇夜にカラスが散歩する】赤川次郎)…出張帰りで列車に乗っていた「私」は、電車に飛び乗ってきた鋭い目の男に、いきなり「闇夜のカラス」と言われることに。そして「私」が次に話しかけてきた男に、思わず「闇夜のカラス」と言うと、今度は「カラスの散歩」という言葉が返ってきたのです。

横溝正史生誕100年記念で出版された、9人の作家によるアンソロジー。
「無題」こんな所で関口くんに出会えるとは!これだけでも十分面白いというのがさすが。しかし「陰摩羅鬼の疵」はいつ出版されるのでしょう。「キンダイチ先生の推理」これも面白いですね。色々と想像してしまいます。「愛の遠近法的倒錯」現役の金田一耕助が活躍する直球勝負の作品。少々頭が混乱しましたが、今回の9作品の中で、一番横溝正史の世界の雰囲気が出ているような気がします。「ナマ猫邸事件」完全にパロディ。少々遊びすぎのような気もしますが、楽しげな雰囲気だけでもオッケーでしょう。Rという美貌の女性民族博物学者にはニヤリとさせられます。「月光座-金田一耕助へのオマージュ」伊集院大介の「あなたがいたからこそ、この世に生まれてきたようなものです」という台詞がじんときます。こういう台詞を喋らせて上っ面にならないどころか、感じ入らせるというのは凄いですね。「鳥辺野の午後」幻想的で、とても綺麗なまとまりのある作品。この金田一の見せる優しい眼差しが好きです。「雪花 散り花」金田一物らしい雰囲気はあまりありませんが、はんなりとした京都の風情が心地良いです。この3人組は楽しいですね。連作短編集になりそうなキャラクター。「松竹梅」双子というのは、登場しただけで何かあるのではないかと疑われるので、実は難しいのではないかと思いますが、最後はやはり面白かったです。歌舞伎と金田一という組み合わせは似合いますね。「闇夜にカラスが散歩する」最後の最後でかなり混乱…。しかしこの地方のローカル線の列車という舞台は横溝正史の世界にかなり近いですね。日頃軽妙さを誇る赤川次郎作品ですが、重厚さという面でも健闘していますね。
現役の金田一耕助自身が登場するのは「愛の遠近法的倒錯」のみ、老人となった金田一耕助が登場するのが「月光座-金田一耕助へのオマージュ」「鳥辺野の午後」「松竹梅」の3編。他の作品は金田一と似たような名前だったり、全く関係なかったりとそれぞれのアプローチが楽しめる、なかなかバラエティ豊かなアンソロジーとなっています。この中で私が一番好きなのは京極さんの「無題」。久しぶりにシリーズ物を読めたという嬉しさも大きいのですが、やはり巻頭を飾るのに相応しい作品だと思います。あとは服部まゆみさんの「松竹梅」と栗本薫さんの「月光座」。この2編は奇しくもどちらも歌舞伎がモチーフ。特に「月光座」は、題名どおりオマージュとして相応しい佳作ですね。しかし直球勝負の作品が1編しかなかったのには驚きました。現役の金田一耕助を動かすのはおこがましいと、作家さんたちが遠慮してしまったのでしょうか?(2002/05初版)


「紅迷宮」祥伝社文庫(2002年6月読了)★★★★

【いやな女】(唯川恵)…金沢のフレンチレストランでパトロンの橋口と食事をしていた協子は、高校時代の同級生の比佐子に出会います。夫らしい男性と軽度の知的障害を持つ姉と一緒にいた彼女は、相変わらずのいやな女。1週間後、比佐子が香林坊にある協子のアロマテラピーの店を訪ねてきます。
【どろぼう猫】柴田よしき)…ふと立ち寄ったコンビニで再会したのは、中学時代の同級生の川井美樹。冴えなかった彼女は、見違えるように綺麗になっていました。数日後、マンションの郵便受けの中に生まれたばかりの仔猫が入っているのに気付いた「私」は困り、やむなく美樹に電話することに。
【地底に咲く花】五條瑛)…日雇い労働者の安二は、酔った勢いで入った歌舞伎町の風俗店で、誰かに似ている気がしたユリカを指名。後から思い出してみると、似ていたのは安二と同じ中学に通っていた七見でした。しかし彼女は卒業式の3日前に、家族と一緒に突然姿を消していたのです。
【橋を渡る時】光原百合)…吉野美杉が駅で偶然出会ったのは、同じ大学に通う射場由希子。2人とも目的地は京都。そのまま一緒に電車に乗り込む2人でしたが、美杉は橋を渡るたびに緊張を見せる由希子を不思議に思い、とうとう訳を尋ねます。
【まなざしの行方】(桐生典子)…旧友の戸川憲三の病気見舞いのために訪れた病院で、尾形幹生は車椅子に乗った美しい女性を見かけます。密かに病院に通い、彼女のことを日記に綴る幹生。しかし幹生はだんだん、見た覚えのない情景をも見るようになります。
【失われた二本の指へ】篠田節子)…2人の子供をかかえて離婚した女性が、子供の養育費未払いの件で福祉事務所を訪れます。鮫島隆一は山口みゆきと共に相談者の元夫の家へ。そこで出会ったのは、以前同じ職場にいた叶幸子。相変わらず華やいでいる幸子の化粧の下には痣の跡が。
【笑うウサギ】(森真沙子)…豊和銀行に勤める茂木は、大口の預金の契約を得るために竜野亮一の家へ。預金に満更でもない様子の竜野の出した交換条件は、ある場所にある物を届けて欲しいということ。契約を焦っていた茂木は、渋々ながらもその役目を引き受けることに。
【天鵞絨屋】(小沢真理子)…釉子の経営する喫茶店・天鵞絨屋に来た20代半ばほどの女性客は、明らかに釉子の持ち物だったと思われる天鵞絨のストールを身につけていました。そこには釉子の持っていたストールと同じような焼け焦げまでがついていたのです。
【落花】(永井するみ)…ピアノ教師をしている市ノ瀬志保子は、南青山にある知り合いのギャラリーで、「爪痕」と題された大きな絵画に惹かれます。そしてその場にいたのは、その絵画の作者の水野陵。2人はたちまち恋に落ち、ほどなく陵は志保子の家に暮らすようになります。
【ロマンス】小池真理子)…恋人の麗子にふられ、1人でモーツァルトのコンサートに出かけた野田卓也。休憩時間に話し掛けてきたのは、隣席にいた初老の紳士。モーツァルトに詳しく、教養と気品と頭の良さが滲み出ているような大人の男性の三国芳水と意気投合し、急速に親しくなります。

10人の女性作家の作品を集めたアンソロジー。書き下ろしは光原百合さんの「橋を渡る時」と小沢真理子さんの「天鵞絨屋」。そしてこの中で私が一番気に入ったのは、その書き下ろしの2作品。光原百合さんの「橋を渡る時」は、ごくさりげない安楽椅子探偵ぶりがとてもいい感じです。そして「立てばエラリー、座れば吉敷、歩く姿は亜愛一郎」には爆笑!吉野美杉のキャラクターがこの1フレーズで分かりすぎるほど分かってしまい、思わず楽しくなってしまいます。黙って立っていれば様になるのに、動くたびにドンくさい面を見せてしまうというところでしょうか。しかしこの謎解きの鋭さも愛一郎ばりなんですよね。そしてこの吉野美杉の一つ年下のミステリマニアな妹とは、吉野桜子ちゃんのことでしょうか!マニアックなミステリファンが喜びそうなネタが他にも色々とあって、謎解き以外でもとても楽しめる作品です。そして「天鵞絨屋」もとても印象的な作品ですね。千葉の房総の風景や釉子のしていた天鵞絨のストール、釉子と創のやりとりなど場面場面が、くっきりと鮮やかに目の前に浮かぶようです。しっとりとした余韻の残る作品です。
「花迷宮」「緋迷宮」「蒼迷が宮」、そしてこの「紅迷宮」と読んできて、どんどん短編のレベルが上がっているように感じます。きっとこのまま「〜迷宮」のシリーズで続くと思うのですが、こうなると次にどうくるかが楽しみになってしまいますね。(2002/06初版)


「殺意の時間割」角川スニーカー文庫(2002年10月読了)★★★★

【命の恩人】赤川次郎)…岡崎久美子は法事に行くために娘の愛を連れて新幹線乗り場へ。しかし売店に行っている間に、愛は新幹線が入ってくる線路に転落。見知らぬ男性に助けられることに。
【Bは爆弾のB】鯨統一郎)…堀アンナと中川淳一が付き合い始めベッドを共にした翌日、中川はベッドに仕掛けられた爆弾で爆死。重要参考人となってしまったアンナは、事件を自分で調べ始めます。
【水仙の季節】近藤史恵)…カメラマンの木下が撮っていたのは、一卵性双生児の少女モデルの写真。しかし1人の顔にひどい湿疹が出て、翌日の撮影は中止となってしまいます。
【アリバイ・ジ・アンビバレンス】西澤保彦)…憶頼陽一が駐車場の車の中で寝ていると、同じ高校に通う刀根館淳子と年配の紳士が現れ、駐車場に隣接した蔵の中に入っていきます。しかし2人が蔵の中にいたまさにその時間帯に、淳子が同学年の高築敏朗を殺したと自供していると聞かされて驚きます。
【天狗と宿題、幼なじみ】はやみねかおる)…井上快人と川村春奈は、夏休みの自由研究のために、街で一番のお年寄りに話を聞きに行きます。そして天狗山の天狗についての話も聞くことに。

今回はアリバイ崩しが中心となっています。今回は小粒ながらも粒ぞろいといったところでしょうか。私が好きなのは「水仙の季節」「アリバイ・ジ・アンビバレンス」。しかし他の作品も、それぞれにその作家さんらしさがとても出ている作品だと思います。
「命の恩人」赤川さんの作品を読むなんて何年ぶりでしょう。相変わらずの読みやすさですね。「Bは爆弾のB」いつの間にかシリーズ化したらしい超安楽椅子探偵物。元の設定が面白いのでまずまず。しかしこの人物を殺してしまって、後はどうなってしまうのでしょう。「水仙の季節」水仙の花と双子の姉妹の姿が重なり、とても綺麗な作品。最後も近藤さんらしくていいですね。「アリバイ・ジ・アンビバレンス」こんなことを本気でする人がいるとは思えないのですが、しかしものすごく巧いですね。それに探偵役の2人がとても楽しい作品。「天狗と宿題、幼なじみ」またしても主役は小学生。真面目な快人と、わがままだけど可愛くて、本格推理小説マニアで霊感のある春奈という組み合わせが、シリーズ物になりそうな予感です。(2002/08初版)


「紫迷宮」祥伝社文庫(2002年12月読了)★★★★

【山背吹く】乃南アサ)…音道貴子は、休暇を貰って中学の頃からの友人である鳴海真弓の所へ。彼女は宮城県の外れにある旅館の息子の元に嫁ぎ、今や若女将となっていました。
【マリアージュ】近藤史恵)…高級フレンチレストランのディナーに、この2週間毎日のように1人で訪れる女性客。美人で、とても美味しそうに食べる彼女が、シェフの内山は気になって仕方ありません。
【かっぱタクシー】(明野照葉)…68歳の市橋征太郎は個人タクシーの運転手。持ち家もあり、年金暮らしもできるというのに、胃潰瘍の手術から3ヶ月たたないうちに仕事に復帰した本当の理由は。
【ムラサキくん】(森青花)…定年退職後、1人暮らしの「わたし」は、突然床板を破って地中から現れた化物と暮らし始めることに。どうやら「媼」と呼ばれる中国の伝説上の生物らしいのですが…。
【横縞町綺譚】松尾由美)…盗難事件の捜査のため、横縞町の幽霊が出るという築30年の木造アパート・さつき荘へと向かった木崎と吉村。200万円のダイヤモンドのブローチが盗まれたというのです。
【迷い子】加門七海)…孫の久司が失踪したと聞き、息子夫婦を訪れた屋久島と妻の珠恵。2人は息子夫婦の家を出た後、皇居を訪れます。しかし屋久島は、何かを忘れてしまっている自分に戸惑います。
【拾ったあとで】(新津きよみ)…2年前に荻窪で拾った242万円がきっかけとなり、売れないミュージシャンのサトシと別れた「あたし」。自己破産を申告するために弁護士の元を訪れます。
【存在のたしかな記憶】(麻見展子)…1ヶ月前、波奈は短大を出てから13年勤めた会社をリストラされ、伴野忠臣との4年間の同棲生活にもピリオドを打ちます。伴野が選んだのは親友の雅美でした。
【溺れるものは久しからず】黒崎緑)…熊谷万里子は、共同でオフィスを構えている清水ミヤにつきあい、スポーツクラブへ。しかしプールを見ていた万里子は、女性が1人消えたのに気づきます。
【ニライカナイ】篠田節子)…デパートガールだった朋子は、8年ごしの男と別れ、ある老人と知り合います。そして石材会社の社長であるその老人の息子と結婚、じきに社長夫人となるのですが。

10人の女性作家の作品を集めたアンソロジー。
「山背吹く」女刑事・音道貴子シリーズ。やはり色々と大変なことがあったのですね。「マリアージュ」フレンチレストランに毎日くる女性の謎。実際はどうだったのでしょうね。私もからかわれたのだと思いたいのですが。「かっぱタクシー」かっぱに隠された意味とは。なんとも切ない話です。「ムラサキくん」得体の知れないムラサキくんのキャラクターがなんとも可愛らしくていい感じ。読後感もほのぼのとしています。しかしあのおじいさんは何者だったのでしょうね。「横縞町綺譚」少し不思議なミステリ。一風変わった幽霊の存在が、いい味を出しています。「迷い子」幻想的な作品。江戸時代の「しるべ石」をモチーフに、戦争中と現在の交錯する様がとてもいいですね。「拾ったあとで」思わぬ風に話が反転して驚かされたサイコホラー。「存在のたしかな記憶」これも「迷い子」同様、交錯の仕方がすごくいいですね。なぜ伴野の家族が彼女に好意的でなかったのか、色々と想像をめぐらしてしまいます。次こそは!「溺れるものは久しからず」掛け合い漫才風に進んでいきます。ボケ役だとばかり思っていたミヤが気づくことになるとは意外でした。「ニライカナイ」1つの短編の中に、1人の女性の生涯がすっかり描かれていて驚きました。なんとも存在感がありますね。
この中では少々異色な「ムラサキくん」が好きです。あと同じく異色作の「横縞町綺譚」もなかなかいいですね。理に落ちるばかりが能ではないと言われてしまったような気がします。それとなぜか読後に一番印象に残ったのは「存在のたしかな記憶」。話としてはありがちかと思うのですが、描き方がいいのでしょうか。お名前は知りませんでしたが、きっととても上手い方なのでしょうね。他の作品も読んでみたいです。(2002/12初版)


「血文字・パズル」角川スニーカー文庫(2003年4月読了)★★★★

【砕けた叫び】有栖川有栖)…探偵事務所経営の木内聖治が自宅で殺されます。発見したのは、木内リサーチ従業員の湯田賢。遺体の周りには、ムンクの「叫び」を象った人形が壊れて散乱していました。
【八神翁の遺産】太田忠司)…八神信芳翁が独力で造った風吹市で、その立役者の孫・八神仁志が殺され、瀞井警部と蜷沢は上司の指示で名探偵・デュパン・鮎子とその孫の奈緒に会うことになります。
【氷山の一角】麻耶雄嵩)…「まさに5秒で解けてしまうような」「下らないほど些細な事件」に出かけるというメルカトル鮎にけしかけられ、美袋は四つの「十」の事件に取り組むことに。
【みたびのサマータイム】若竹七海)…杉原渚、17歳の誕生日。しかし夏休み初日に当たる渚の誕生日を思い出してくれたのは母親だけ。誰かとお祝いするようなことを言ってしまった渚は、バイトの後、時間が空いてしまい、崖の上にあるお化け屋敷へと向かいます。

今回はダイイング・メッセージ特集。
「砕けた叫び」微笑ましくなってしまうオチ。よほど条件が整わないかぎり名探偵にも解けない謎はあるとのことで、今回は珍しくアリスのお手柄。しかしこの媒体を使うというのは、珍しいですね。ご本人はあまり使ってらっしゃらないようですし。「八神翁の遺産」殺人事件よりも、風吹市の遺産の方が興味深かったです。きっと蜷沢は言われた通りにするのでしょうね。これがもし瀞井警部なら、笑い飛ばして信じないかも。「氷山の一角」相変わらずのメルと美袋。美袋にも普段のメルの苦労が少しは分かるというものですが、メル本人は格好をつけるためなら、苦労を苦労と思っていないのでしょうね。やはり美袋が気の毒になっちゃいます。「みたびのサマータイム」「クールキャンデー」の杉原渚再登場。ちょっぴり哀しく、でもとっても素敵な物語です。読んでいる私も渚と一緒に恋に落ちてしまいそう。
4編とも各作家さんの安定した実力を見せてくれる作品となっています。故人のメッセージとは言っても、まっすぐに伝わることが少なく、どうにもわざとらしくなりやすいこのモチーフは、私は元々あまり好きではないのですが、しかし「みたびのサマータイム」のようにいつか伝わって救われる人もいるのだと思うと、それほど悪いものでもないなあと思えました。(2003/03初版)

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