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このページは、二階堂黎人さんの本の感想のページです。

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「悪霊の館」講談社文庫(2000年6月読了)★★★★★

国分寺市でも有数の名士である志摩沼家の一族が住むのは、いつの頃からか「悪霊館」と呼ばれている屋敷。そして昭和42年9月30日の夜、この屋敷の最長老である「奥の院様」堀野山きぬ代の臨終の席で、財産譲渡の遺言状が読み上げられます。その中には志摩沼卓也と美園崎美幸の結婚を条件として、莫大な遺産は一族の者に分け与えられると書かれていました。しかし一族内の反目を解消させるために考えられたこの結婚が、新たな反目を呼ぶことに。志摩沼卓也は、既に従姉妹である矢島茉莉と密かに婚約していたのです。その集まりの後、志摩沼加屋子は田辺弁護士に、内密で二階堂陵介を呼んで欲しいと依頼します。志摩沼家をめぐる幽霊や亡霊によって、この屋敷に恐ろしいことが起こるかもしれないからというのです。しかし加屋子の部屋を出て帰ろうとした田辺弁護士は、激しい地震によって命を落としてしまい… そして悪霊館を舞台にした凄惨な殺人事件が幕をあけます。

神と悪魔、魔女、魔法、黒ミサ。二階堂さんほどこういうおどろおどろしたモチーフを上手くミステリに取り入れて描く作家さんも珍しいのではないかと思います。表層的な作品の彩りだけに終わってしまうことなく、驚くほど作品の中に自然に溶けこみ、独特な世界を確立していますね。夜な夜な現れる幽霊や闊歩する甲冑の亡霊、五芒星と甲冑で黒ミサ的に飾り付けられた殺人現場、呪われた血縁関係などのモチーフも効果的。このような素材を使うために、この時代と蘭子の人物を設定したのでしょうか。そして二階堂さんの作品では、超自然的なものを否定するでなく、肯定するでもなく、謎を一応論理的に解決してみせた上で、最後は読者の裁量に委ねてしまうようなケースが多く、それがまた良いのです。かなり長い作品なのですが、一気に読ませる力を持っている力強い作品だと思います。
しかし気になる点が1つ。蘭子が中村警部に密室の分類について講義する場面があり、これはとても興味深いものなのですが… 現実に戻って考えてみると、いくら名探偵と言われているとはいえ、一市民である蘭子に警察が講義を受けてる図というのはかなり奇妙なものかと…。


「軽井沢マジック」徳間文庫(2001年9月読了)★★

日本アンタレス旅行社に勤める新人OL・美並由加理は、憧れの水乃サトル課長代理と直江津まで出張。しかしその帰りの信越本線の最終・あさま38号が事故で遅延。由加理とサトルは軽井沢で途中下車して、サトルの友人の熊田が経営するペンションに泊まることに。一夜明けた翌日。熊田が近所に住む小説家・麻羽幸之助の所にパンとクッキーを届けに行くということを知り、麻羽の大ファンの由加理は、サトルと共にオーナーに付いて行きます。しかし別荘に着いてみると、なんと麻羽は殺されていました。挙動不審者と警察から睨まれる由加理とサトル。サトルは自らの潔白を証明するために、事件の真相を探り始めます。

水乃サトルシリーズの第1弾。江戸川乱歩的な怪奇趣味の二階堂蘭子シリーズとはうって変わって、さらっと軽く読める作品。しかし何も考えずに読めるというのは良いのですが、私には少々軽すぎるようでした。水乃サトルという人物の造形も、カッコいいはずなのですが、全く惹かれないのです。ストーリー的には面白いものがあったのに、残念です。


「私が捜した少年」講談社文庫(2000年7月読了)★★★★★お気に入り

【私が捜した少年】…渋柿信介はハードボイルドな自称私立探偵。最近不景気で仕事にあぶれていた信介に久々にきた依頼は人捜し。丁度その頃、刑事の「ケン一」も、容疑者が逃げ込んだ女子寮から忽然と消えてしまった事件を追っていました。2つの現場の近さから、信介は事件の関連性を疑います。
【アリバイのア】…不動産会社の社員が殺され、漫画家で明治風俗評論家でもある黒猫みゆきが容疑者に。しかし締め切り間際の彼女は自宅で原稿を書いており、家の中には編集者もいたのです。
【キリタンポ村から消えた男】…今回の被害者は志村という中堅ヤクザ。志村が数日前から、フィリピンからの「じゃぱゆきさん」を斡旋する仕事をしている山下と険悪な仲だったことから、容疑者は山下に絞られます。山下の愛人の証言から、信介たちは山下の故郷である秋田の寒村に向かうのですが…。
【センチメンタル・ハートブレイク】…信介は月に1回テレビに出演することになります。しかしテレビ局を訪れた最初の日、そこに勤めるOLの殺人事件に遭遇。そのOLは「ルル子」の親友でした。しかし彼女を殺す動機を持った人物は、犯行時刻にはパリへと向かう飛行機の中だったのです。
【渋柿とマックスの山】…信介たちは白馬スキー場へ。スキー初心者の女子大生がぶつかった相手は脳震盪をおこし、しかし女子大生2人が救援を求めに行っている間に彼女は殺されていたのです。

全5編が収録されたハードボイルドタッチな短編集です。でもハードボイルドとは言っても堅苦しいものではありません。短編のそれぞれの題名も有名ミステリのパロディですし、どの作品にも遊び心が満載。二階堂さんは、こんなに楽しい作品も書かれる方だったのですね。蘭子シリーズがかなり重厚な感じなので、これはちょっとした息抜きなのでしょうか。本当に面白かったです。肝心の謎も、軽くてオーソドックスなものばかり。これはぜひ続編も読みたいです。作中の「遊び心」もいろいろあるのですが、その中で私が一番反応してしまったのは、作中の「バイバイ・エンジェル」という言葉かも。(笑)
ちなみに元ネタは… 原ォの「私が殺した少女」、スー・グラントンの「アリバイのA」、コリン・デクスターの「キドリントンから消えた娘」、サラ・パレッキーの「センチメンタル・シカゴ」と「レディ・ハートブレイク」、高村薫の「照柿」と「マークスの山」ですね。


「バラ迷宮-二階堂蘭子推理集」講談社文庫(2000年3月読了)★★★

【サーカスの怪人】…元サーカス団員だったカドさんが語る、戦前のサーカスの公演中に起きたバラバラ死体事件。突然降ってきた死体の謎。推理小説研究会の月例会で、蘭子が鮮やかに推理します。
【変装の家】…「崖の家」でおきた密室殺人事件。建物の外は一面の雪、そこには駆けつけた巡査の足跡しかありませんでした。
【喰顔鬼】…別荘地で突如発生した連続惨殺事件。その地に隠棲している芸術家夫婦に連絡がとれなくなって心配していた妻の兄である画商が、蘭子と黎人と共にその別荘地へと向かいます。
【ある蒐集家の死】…ある蒐集家が死にます。さて何の蒐集家だったのか…。
【火炎の魔】…火炎様の祠を不用意に焼いてしまったことから祟りを受けることになってしまった下杉家。それ以来下杉家の人間には焼死が続きます。火の気もないのに突然燃えあがる人間の謎。
【薔薇の家の殺人】…「薔薇の家」で家庭教師のアルバイトを始める二階堂黎人。しかし佳子夫人の様子がおかしくなり、主人の静川氏から20年も前に起きた毒殺事件について相談を受けます。佳子夫人は、自分がその毒殺事件の犯人の血をひいているのではないかと気に病んでいたのです。

全六編が収録された二階堂蘭子の短編集です。二階堂さんの作風は、本来は短編よりも長編でこそ生かされるのではないかとは思っているのですが、それでもどの作品でも二階堂蘭子の推理は鮮やかです。一番長い「薔薇の家の殺人」では、普段の容赦のない蘭子に似合わず、当事者を気遣う一面を見せる面を見せるのが意外。「サーカスの怪人」が戦前のサーカス団という妖しく不気味な雰囲気を醸し出していたり、「火炎の魔」は祟りによって人間が突然燃えあがるというオカルトの雰囲気を持つ作品だったりと、二階堂さんの作品にはノスタルジックな怪奇趣味が頻繁に登場しますし、それがまた良く似合うと思うのですが、二階堂蘭子はあくまでも論理的に謎を解いていきます。バランスが良いですね。


「名探偵水乃サトルの大冒険」徳間ノベルス(2001年11月読了)★★

【ビールの家の冒険】…新しいアミューズメント・ホールの視察で、水乃沙杜瑠と美並由加理は福島県へ。そこで2人は、サトルの大学時代の友人で、現職警官の甲斐忠夫に不思議な聞くことになります。
【ヘルマフロディトス】…無断欠勤が続くサトルの家を由加理が訪れると、サトルの大学時代の友人の馬田警部が。町のモーテルでの無理心中事件が、どうしても無理心中とは思えないというのです。
【『本陣殺人事件』の殺人】…サトルと由加理は、新しいテーマパーク「横溝正史村」の見学で岡山へ。これは資産家・網山膳之助が莫大な費用をかけて作ったもの。しかし小説と同じ事件が起こり…。
【空より来たる怪物】…サトルの職場にかかってきた電話は、サトルが大学時代入っていた「宇宙人侵略対策地球評議会」の友人の二茂滋からの助けを求める電話。宇宙人に襲われているというのです。

水乃サトルシリーズ第3弾の短編集。
ビールの家の冒険は、西澤保彦氏の「麦酒の家の冒険」の本歌取りですね。気持ちは分かりますし、「簡単に手に入る」と説明されていますが、これはさすがに手間をかけすぎなのでは。しかし「甲斐智恵美」ですか。「ヘルマフロディトス」女子校に通っていた人間には理解しやすい世界でしょうね。ここまですごいのは、滅多にないと思いますが。「本陣殺人事件」は、言わずと知れた横溝正史氏の名作の本歌取り。マニアックです。「空より来たる怪物」ここに出てくる新興宗教団体というのはもしや…。なかなか大掛かりでいいですね。後書きを読んでみると、実は全作品が本歌取りだそうです。2作目と4作目は何が元になってるのでしょう。
このシリーズは明らかにキャラ読みすることを意図して書かれていると思います。確かに水乃サトルは背が高くてハンサム、お金持ちでお洒落、しかしヲタク。このキャラクターのファンも多いのでしょうね。しかしやはり私にはやはり合わないようです。


「クロへの長い道」講談社文庫(2003年10月読了)★★★★★お気に入り

【縞模様の宅配便】…公園でリコちゃんと遊ぶ渋柿信介。あきらくんを家に誘いに行くのですが、ゼブラ便の配達員と家の前で話しこんでいる、あきらくんのママの様子が変で…。
【クロへの長い道】…同じ幼稚園に通うイクコちゃんこと早坂郁子に、犬のクロを探して欲しいと依頼された信介。世話がおざなりだったイクコちゃんに業を煮やし、父親が勝手に捨ててしまったのです。
【カラスの鍵】…帝都テレビ局の子供番組《プップク・ドンガ》に出演している信介は、急遽子供向けクイズ番組にも出演することに。収録終了後、控え室で女性の死体が見つかり、さらに宝石盗難事件が。
【八百屋の死にざま】…隣の組のユウちゃんこと山本裕也のイグアナが逃げ出し、信介は早速捜し始めます。しかし偶然知り合った小学生3人組と一緒に行った公民館で、男性の死体と遭遇することに。

ボクちゃん探偵シリーズ第2弾。「縞模様の宅配便」はアンソロジー「新世紀『謎』倶楽部」にて既読。
相変わらずのシンちゃんのハードボイルドぶりが楽しい作品。シンちゃんの会話や行動のハードボイルド的変換も本当に楽しいですし、それが普通の文章とさりげなく混ざっているので、そのギャップにも笑えます。それによって文章全体もリズミカルになっているように感じますね。アルコール中毒者自主治療協会の「AA」ならぬ「CA」(チョコレート自主治療協会)の存在にもニヤリ。「アルファベットの最後の文字」や、ガールフレンドのリコに関するまるで恐妻家のような描写も最高。二階堂さんご自身が楽しんで書いてらっしゃるのが伝わってくるようなシリーズです。しかし楽しい雰囲気の中で起きるのは、本当の誘拐事件や殺人事件。「八百屋の死にざま」で目撃者がいなかった理由のように、非常に重いものを含んでいたりもします。やはりその本質はハードボイルドということなのでしょう。この中で私が一番好きなのは、「縞模様の宅配便」。やはり上手いですね。
ちなみに元ネタは… ロス・マクドナルドの「縞模様の霊柩車」、ライオネル・デヴィッドスンの「シロへの長い道」、ダシール・ハメットの「ガラスの鍵」、ローレンス・ブロックの「八百万の死にざま」ですね。

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