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このページは、加門七海さんの本の感想のページです。

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「平将門魔方陣」河出文庫(2001年11月読了)★★★★
荒俣宏著「帝都物語」を読んで以来興味を持っていたという、平将門に関する研究書(?)。2日続けて見た将門の夢がきっかけとなって、加門さんは東京の守護神と言われている将門について調べはじめます。かつて武蔵野の地に独立国を作ろうとして謀反を起こし、討伐された将門。しかし、彼の力は今尚東京に多大な影響を与えているというのです。将門首塚にまつわる祟り話や、将門と妙見菩薩・八幡菩薩との関係について。そして都内・郊外に点在する将門縁の地を訪ねるというフィールドワークを通して見えてきた、東京の守護神としての平将門の姿とは。

小説かと思って読み始めたんですが、そうではなくて平将門に関して加門さんが調べたことがまとめられている本でした。とにかくとても面白い題材で、結界やレイライン、北斗七星の形に敷かれた7つの神社など、この手の話には全く詳しくない私にとってもかなり楽しめるもの。もし間違っている部分があったり、強引に結論付けられている部分があったとしても、楽しく騙されればそれで構わないというところでしょうか。中央線の話などは、元々曲がっているのが不思議だったこともあり、一気に納得させられてしまいました。「将門は絶対美形だ」と断言してしまうような人が作者だというのが、またこの本の面白いところかも。ただ、百合の花の謎など、結局解明されずに終わってしまう部分もあり、それが少し残念ですね。なんらかの解答が出た時点で、また本にしてくれると嬉しいです。

「大江戸魔方陣-徳川三百年を護った風水の謎」河出文庫(2001年11月読了)★★★★
武蔵野の覇者となった徳川家が、300年の繁栄を誇ったその陰には風水あり?彼らは、徳川以前に武蔵野に住んでいた者たちの張った結界を自分たちの結界にとりこみ、さらに強力な結界を張り巡らしています。江戸全体が、江戸城を中心に張り巡らされた風水の魔方陣で守られていたのです。その立役者は徳川家康、3代目将軍家光、そして彼らに風水を指導し、実際に魔方陣を築いた天海上人。日本独自のアレンジがされた風水による呪術、鉄壁とも言えるこの魔方陣を、地図に線を引き、実際に足で歩いて、加門さんが調べていきます。

平将門が魔方陣を施した武蔵野の地に、太田道灌が江戸城を建てることによって力を強め、それをさらに天海が範囲を広げて強化していく…。前の人の魔方陣を取り入れ、その上に独自の工夫をこらし、効果をより強くしていくというのが面白いですね。これはあまり欧米には存在しない、日本人ならではの考え方のような気がします。欧米だと敵の存在は力づくでねじふせ、排除し、跡形もなく消してしまうと思うのですが、ここに見られる日本の権力者たちは、敵の力を弱めた上で共存する道を選んでいるのです。これは今の外交問題にも見られる気質の違いかもしれません。そして、ただなんとなく点在していると思っていた神社仏閣が、実は精密な計算の上に建てられていたというのも、とても興味深いですね。加門さんが調べるがままに寺社仏閣が現れ出てくるのには、びっくりさせられてしまいます。
そして、更に興味深いのは、加門さんが存在すると主張する闇の呪術マニュアルの存在。武蔵野の覇者となった者にのみ、それが受け継がれていく…。本当に存在するのかどうかは調べようもないことなのですが、でも実に興味をそそりますね。きっと呪術マニュアルを持った一族がいて、一子相伝で細々と、しかし確実に伝えられていってるんだろうなあ、なんて想像をめぐらしてみたくなってしまいます。

「東京魔方陣-首都に息づくハイテク風水の正体」河出文庫(2001年11月読了)★★★★
徳川家の張り巡らした鉄壁の魔方陣が守る町・江戸。徳川家崩壊後、なぜ天皇家は敵の本拠地と言えるこの地に移りすむことに決めたのでしょうか。そして、天皇家がこの地に移るために明治政府が行った都市計画とは。明治以前の歴代の武蔵野の覇者は、現存する結界を尊重してそれを自分たちの結界にとりこんだ上で、さらに強大な結界をはりめぐらしているのですが、明治政府や天皇家のやりかたは、現存する結界をすべて抹殺した上で、新しく結界をはるというもの。しかし天皇自身が現人神でなくなった今、東京の護りは存在しないのと同じ状態。四神さえもどこにいってしまったのか…。伝統的に存在してきた力を無視した都市づくりは、これからの東京にどう影響していくのでしょうか。

東京にはまだ本当に四神が存在しているのか、という疑問に始まり、浅草付近と紀伊の地名の共通点の研究から遂には日本をまたにかけた魔方陣がて明らかにされるという壮大なスケールの本。やはりこれは実際に地図を見て線を引きながら読むべき本かもしれません。実際の場所に行くことはなかなか難しいとしても、さらっと読んだだけではあまりにももったいないように思えます。
太田道灌と天海の怨念のこもる江戸城に移ることを決定した天皇家。きっと天皇家には本当に呪術マニュアルが伝わっているんでしょうね。どんなものなんだか一度見てみたいものですが…。きっと天皇本人と、風水の分かるほんの数人しか見れない文書なんでしょうね。それとも、もしかしたら口説なのかも。乃木大将に関する記述にもびっくりしました。皇居の裏鬼門方向に屋敷を構え、死して明治天皇を護る神になったとは。しかも明治天皇が亡くなって、東京の守りが強くなっただなんて。あと、日光が観光地になった理由も本当なのでしょうか?本当にそこまで考えられているとしたら、恐ろしい話ですね。
テレビ局の玄関がすべて皇居に向かっているというのも面白かったです。フジテレビの新しい社屋や新都庁など、明らかに呪術マニュアルの存在ぬきで建てられたような建物は、今後どのような影響を及ぼすんでしょうね。何もないにこしたことはないのですが、何かあった時に空恐ろしい気持にさせられてしまいそうです。

「くぐつ小町-平安朝妖異譚」幻冬舎文庫(2005年2月読了)★★★★
俗に三途の川とも言われる鴨川のほとりの鳥辺野、六道の辻。褪せた墨染めを纏った男が水死体の面を木に写しとっていました。そして傍らでは、女が語り始めます。古の小野篁朝臣は、夜毎十万億土に続く井戸より地獄に降りては、冥官として勤めたという男。その篁には若い頃、異母妹との禁断の恋に落ちたことがありました。2人の間には子供ができ、しかし会うことを許されないまま異母妹は亡くなります。そして春も終わる頃。篁は1人の女御を娘だと京へ連れ帰ってきたのです。

小野篁と小野小町、そして在原業平といった人物を中心に据えた伝奇小説。これまでの加門七海さんの作品、魔方陣シリーズや「うわさの神仏」と、若竹七海さんや高野宣李さんとの「マレー半島すちゃらか紀行」との文章の違いに驚かされました。それらの作品では、旅に付きまとうハプニングを笑い飛ばすような文章だったと思うのですが、こちらは雅な和歌調の文体。読み始めた時は少々入りにくさを感じたのですが、気が付けばすっかりその世界に浸っていました。ゆっくりと読み下したくなるような文章ですね。
そし小野小町に関するこの大胆な設定には意表をつかれました。しかし一度読んでしまうと、小野小町という謎の美女には、この設定ほど良く似合っているものはないようにも思えてきますね。少年のような在原業平像や、そして深草少将の「百夜通い」のエピソードもまた、従来の物語とは違う面を見せてくれます。面を打つ氷見という名の男は、室町時代の能面師・氷見宗忠なのでしょうか。死人の顔を写すというこの男、そして傍らにいる女の妖しさが、雰囲気を盛り上げています。

「うわさの神仏-日本闇世界めぐり」集英社文庫(2002年10月読了)★★★★★お気に入り
第1部が「うわさの神仏」、第2部が「うわさの現場」という2部構成。
「うわさの神仏」は、とにかく加門さんの神仏ミーハーっぷりと語り口が楽しい。神様仏様の食事の話に始まり、七福神の話(加門流パワーアップ新七福神付き!)、仏様の身体的特徴、おみくじの引き方、鬼や妖怪の話に至るまで、加門流の切り口が楽しいエッセイ。この章についている甲斐ヨネさんの挿絵がまた最高です。
そして「うわさの現場」は京都・伊勢・熊野・大阪・東京・高知・隠岐… と各地の寺社仏閣を実際に訪ねてのレポート。どこに行ってもハプニングが起きるのは、加門さんの霊感のせいでしょうか?こんな怖いツアー、私なら絶対に参加したくない…と思いつつも、人の体験談となると楽しいもの。かなり笑えます。本当はもっと突っ込んで欲しかった部分などもあるのですが、でも怖いという人にそれは酷というものでしょうか。

この読みやすさは、やはり加門さんが自分の視点と自分の文章で書かれているというのが大きいのでしょうね。きちんとした本にかっちりとした文章で書かれていたら、きっとここまですんなりとは頭に入ってこなかったはず。このミーハー感がなんともいえません。なにせ「要するに仏一派というのは、パンチだが人格者である如来を頂点に、耽美系美人、義侠心に溢れる武闘派、そして、反抗的だが実はヘッドを慕う若者という構造を作っているのであった」。こんな説明なんですもん。ちなみに耽美系美人は菩薩、武闘派は明王、反抗的な若者は帝釈天とか四天王といった天部のことです。それに式神の説明も、「超自然的な使い魔みたいなもんである。諜報活動に動員されたり、呪術のお助けアイテムに使われたりする一方で、戸の開け閉めまでさせられるという、カッコイイんだか情けないんだか、よく分からない存在」。ここまで崩して書けるというのは、やはり膨大な知識の裏づけと奔放な想像力の賜物なのでしょうね。しかも隠岐の神社の青年神主さんが美貌で、「神社より美景だ。これはもう、人としての常識であろう」と書いてしまう方ですし。(笑)
寺社仏閣が好きな人はもちろん、興味はあるけどあまり詳しくなくて…という方には絶対オススメ。神仏のことに興味がない人でも、この本でなら神仏の楽しさに開眼できるかもしれません。
ただ、オカルト話にはさりげなーく怖いことが書いてあったりするので、怖いのが苦手な人は要注意です。

「うわさの神仏其の二-あやし紀行」集英社文庫(2002年10月読了)★★★★★
「うわさの神仏1」の後半のオカルト紀行話をふくらませたような内容になっています。訪れているのは、秋田・青森、京都、出雲、大阪、奈良、沖縄、吉野、長野、恐山、台北。相変わらずの神仏ミーハー・オカルトオタクの加門さん、行く先々で出会う怖い現象もなんのその、といった感じです。

どの土地での話も面白かったのですが、私にとって、この中で一番印象的だったのは沖縄での話。今でこそ沖縄県として日本の一部ですが、その文化はれっきとした琉球王国のものなんですよね。言葉の違いはもちろんですが、もう、そもそもの精神的な世界の成り立ちが違うのだなあと感じさせられてしまいます。沖縄では全ての男が女性の霊力によって守られているという話、端から見たら一種気の変になるような状態の神ダーリと、その神ダーリを周りが温かく見守って保護する話、そんな神ダーリがユタになるまでの話、マブイ(魂)を落としてしまった人がユタに頼んでマブイを戻してもらう話などなど、沖縄の宗教に関してはニライカナイぐらいしか知らなかった私にとっては、本当に色々と新鮮でしたし、驚かされました。この話に関しては、もっと色々と知りたいです。
そして台北での占いもすごいですね。そんなに言い当てられまくったという加門さんの前世は、どんな前世だったのでしょう。最近とんと占いには興味を失っていた私ですが、それでもちょっぴり占って欲しくなってしまいます。

「大江山幻鬼行」祥伝社文庫(2002年2月読了)★★★★
世間的にはホラー作家ということになっている「私」は、「鬼」をテーマに小説を書いてほしいという依頼を受ます。しかし依頼を受けた時は締め切りまで半年もあったにも関わらず、最後の一ヶ月を切ってもひと文字も書けない状態。それも、鬼を悪者にしなくても構わない、という了解を編集者から得ていたにも関わらず。しかし、旧友・朝子と電話で大江山の話をした2日後、骨董品屋で購入した文鎮を家に帰って調べてみると、なんと酒呑童子をモチーフにした物だと分かり、その後朝子の家に遊びに行ってみると、今度は蝶に鬼が乗っている写真を見せられ… しかもその撮影現場は大江山の近くだというのです。過去の例からいって、こういうシンクロニティに遭った私は、必ずと言っていいほど厄介なことに巻き込まれるのですが… しかし結局「私」は諦めて、大江山へと向かうことに。

一応フィクションだそうなんですが、ノン・フィクションとしか思えないような作りです。というか、私が唯一読んでいる魔方陣シリーズ3冊と、スタンスがまるで一緒なんですけど。(笑)
それにしても、加門さんの言う「運の連続技(シンクロニティ)」はすごいですね。行く前から行っている間、帰ってきた後まで、ずっと鬼と蝶のモチーフづくし。しかしこういうモチーフというのは、気がつく人にこそシンクロニティとして存在するけれども、気が付かない人も多いのかもしれないと思ったりもします。好きな物に目が行くのは当然ですが、加門さんのようにアンテナがピピッと立っている人でなければ、この半分ぐらいしか感じられないのでは。
蝶が人間の魂の化身だというのは、ギリシャ神話でのプシュケー(魂)が蝶になることから見ても一般的のようですが、しかし冬の蝶が死霊の化現とは知らなかったです。それと揚羽蝶が別名「鬼車」というのも。考えてみると、蝶ほど鬼を乗せるのに相応しい生き物はいないような気がします。と感じる私は、鬼擁護派のようですね。(笑)
…同行したイケちゃんというのは、もしかして霜島ケイさんなんでしょうか?
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