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このページは、エドワード・D・ホックの本の感想のページです。

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「怪盗ニック登場」ハヤカワ文庫HM(2003年12月読了)★★★★★お気に入り
ニック・ヴェルベットは、変わった物、価値のない物を専門に盗む泥棒。普通の泥棒なら到底盗まないようなもの、興味も示さないようなものを、頼まれて盗んでいます。通常料金は2万ドル。困難な、あるいは危険な仕事には特別料金で3万ドル。仕事は1年に4〜5回。
【斑の虎】…グレン・パーク動物園にいる、希少価値の高い斑の虎
【真鍮の文字】…イーストビレッジにある電子工学企業の看板の真鍮文字を3つ
【大リーグ盗難事件】…大リーグのチームをそっくり1つ
【カレンダー盗難事件】…ミードビル連邦刑務所の囚人・ジョン・オドンネルの部屋の壁のカレンダー
【青い回転木馬】…カーティエという町にあるメリーゴーラウンドの青い木馬
【恐竜の尾】…マンハッタンの自然史博物館のティラノサウルス・レックスの尻尾の骨
【陪審員を盗め】…夫の愛人を決闘で殺したというヘレン・サテン事件の裁判の陪審員
【皮張りの棺】…国境沿いのサンタマリアという町の大葬儀堂にある、死体入りの皮張りの棺
【からっぽの部屋】…からっぽの物置部屋から盗める物は…?
【くもったフィルム】…「遠心分離」という映画の撮影で、技術的ミスで曇ってしまったフィルム
【カッコウ時計】…ラス・ヴェガスのリノのクラブの事務所の壁にかかったカッコウ時計
【将軍の機密文書】…ワシントンに住む大統領の外務顧問・ノーマン・スパングラー将軍の自宅のゴミ
(「ENTER THE THIEF」小鷹信光訳)

怪盗ニック・ヴェルベットシリーズ1作目。12の短編が収められています。
ニック・ヴェルベットはイタリア系アメリカ人で、本名はニコラス・ヴェルヴェッタ。恋人はグロリアで、10年来のつきあい。しかし彼女には泥棒稼業のことは打ち明けておらず、企業コンサルタントで、企業から新しい工業敷地を探す依頼を受けて出張に出ると説明しているようですね。 1作目の「斑の虎」だけは高価な物を盗んでいますが、その後すぐに「ガラクタしか盗まない」に変わっています。金銭、宝石、美術品などは、一切お断り。価値がなく、しかもニックが興味をそそられた物だけです。
どれも短い作品ですが、十分にひねりが効いており読み応えは十分。どんな依頼でもきっちりとこなすニックが頼もしいですね。不可能かと思われるような盗みでも、ニックは軽々と盗んでいきます。この盗みをいかにして実行するかというハウダニットが、まず最初に面白い点。そして次に、ガラクタに2万ドルや3万 ドルの報酬を出そうという依頼人たちですから、裏にはどんな思惑や込み入った事情が隠されているのか分からないわけです。もちろん例えば形見の品のように、ガラクタに見えても関係者にとっては心情的に非常に大切な物である場合もあるのでしょうけれど、この短編集では、そういったケースはむしろ稀。ニック はあまり依頼人に余計なことを尋ねないのですが、実際には依頼を受けた瞬間から、依頼人の本当の思惑や目的を推理しています。この部分がホワイダニット。 何の情報も先入観もない状態で読み始めたので、最初の「斑の虎」から驚いてしまいました。そして時々登場してニックに付きまとうウェストン刑事もいい味を出していますね。私が特に好きだったのは、パップ・ヘイスチン監督のラストの一言が痛快な「大リーグ盗難事件」、ニックの推理力が冴える「陪審員を盗め」、ラス・ヴェガスのコメディアンの哀愁を感じさせる「カッコウ時計」。そした、何を盗めばいいのかからして分からない「からっぽの部屋」や、「将軍の機密文書」でのグロリアの誤解ぶりも楽しいですね。
シンプルながらも、なんとも洒落た短編集。70年代の作品ですが、古さを感じさせません。

「怪盗ニックを盗め」ハヤカワ文庫HM(2003年12月読了)★★★★
【プールの水を盗め】…ミステリ作家のサミュエル・フィッツパトリックのプールの水
【聖なる音楽】…パークハーストの町の教会のオルガン
【クリスタルの王冠】…イタリアとギリシャの南端に位置する立憲君主国ニュー・イオニアの王冠
【怪盗ニックを盗め】…怪盗ニックが誘拐されます
【ワシ像の謎】…今は亡きノーバート・ブレイク判事が市に遺贈した1トン半の石のワシ像
【謎のバーミューダ・ペニー】…1セント、もしくは1ペニーの価値そのままのバミューダ・ペニー硬貨
【ヴェニスの窓】…この世界と平行世界との唯一の接点となっている鏡
【海軍提督の雪】…スキー場から2マイルの場所にあるラッグ海軍提督の土地の雪
【木のたまご】…ニューメキシコのホテル、デザート・キャッスルのオーナーの裁縫箱の中のかがり玉
【シャーロック・ホームズのスリッパ】…スイスにあるホームズの部屋のペルシャ・スリッパ
【何も盗むな!】…何も盗まないでいるだけで2万ドル
【児童画の謎】…小学校の教室の壁にかかっているジェイミー・ジェンキンズの描いた絵
(「THE THIEF STRIKES AGAIN」木村二郎訳)

怪盗ニック・ヴェルベットシリーズ2作目。
前作は、あやうく失敗しそうになっても辛くも逃げ切っていた感のあるニックですが、今回は「怪盗ニックを盗め」のようにニック自身が誘拐されてしまうとい う貴重な失敗談や、「何も盗むな!」のような行動を封じられるような依頼もあり、前作以上にラエティが豊かです。それにしてもニックが盗んで欲しいと依頼 されるのは、前作にも増して妙な物ばかり。これだけ変な物ばかり盗ませるというのは、考える方も大変でしょうけれど、きっとホック氏は楽しんで書いている のでしょうね。雰囲気が伝わってくるようです。
この中で特に好きなのは、大胆な盗みとなる「プールの水を盗め」と「海軍提督の雪」。「海軍提督の雪」の真相には驚かされました。そして、ニックのスマー トさが冴える「聖なる音楽」、異世界へ通じるという鏡が密室を微妙な状態にしている「ヴェニスの窓」もいいですね。「謎のバミューダ・ペニー」の自動車か らの人間消失にも驚きました。今回はウェストン刑事の出番はなく、それだけが少々残念でした。

「怪盗ニックの事件簿」ハヤカワ文庫HM(2003年12月読了)★★★★
【おもちゃのネズミ】…パリのスタジオで映画の撮影の小道具として使われているおもちゃのネズミ
【劇場切符の謎】…2ヶ月前に終わっている、ブロードウェイの芝居「ウィキッド」の切符を全部
【笑うライオン像】…キャピタルクラブのテーブルの上にある石膏の笑うライオン像
【七羽の大鴉】…ゴラという新しい独立国の大統領がロンドンを訪れて女王に謙譲する7羽の大鴉
【マフィアの虎猫】…マフィアの親分・マイク・ピロネの飼っている猫
【ポスターを盗め】…ハービー・ベンスンという引退したピエロの持っている、サーカスのポスター
【家族ポートレート】…オハイオ州の小さな大学のキャンパスの女子寮の部屋にある額入りの家族写真
【昨日の新聞】…ロンドン在住の女優・ホープ・トレニスの家にある昨日のロンドン・フリー・プレス
【銀行家の灰皿】…ファースト・シティ銀行の頭取の部屋からメイビー神父が盗んだガラスの灰皿
【石鹸を盗め】…高級サパークラブチェーンの経営者の自宅の2階のバスルームにあるピンク色の石鹸
(「THE ADVENTURES OF THE THIEF」木村二郎訳)

怪盗ニック・ヴェルベットシリーズ3作目。10の短編が収められています。
ニックの料金は通常なら2万ドル、危険な仕事なら3万ドルで、これは長年のインフレにも関わらず固定化されていたのですが、なんとこの本の途中でとうとう 値上がりとなります。そのきっかけがまた見所。ただ、3冊目ともなると、初めて読んだ時の驚きが薄れてしまったせいか、まとまってはいるものの、全体的に やや薄味のように感じられました。
この中で私が一番好きだったのは、「マフィアの虎猫」。ニックの巧妙なやり方ももちろん面白いのですが、やはりこの作品は、何といってもニックの旧友の ポールですね。虎猫を盗んでもらいたいという理由には、驚きながらも非常に納得。大胆で上手いです。「劇場切符の謎」の、切符の謎部分もとても面白かった ですし(悪巧みをしている側があまりに無用心すぎる気もしますが)、「銀行家の灰皿」の、証拠がないことを逆手に取ったやり口も小粋ですね。

「怪盗ニック対女怪盗サンドラ」ハヤカワ文庫HM(2005年4月読了)★★★★
【白の女王のメニューを盗め】…白の女王ことサンドラ・パリスの朝食のメニュー。
【図書館の本を盗め】…図書館から借り出されているダシール・ハメットの「影なき男」。
【紙細工の城を盗め】…ロング・アイランドの北岸にある家の子供部屋にある紙細工の城。
【色褪せた国旗を盗め】…ワシントンにあるカリブ海の小国・コロナードの大使館の色褪せた旗。
【レオポルド警部のバッジを盗め】…サンドラ・パリスを逮捕したレオポルド警部のバッジ。
【禿げた男の櫛を盗め】…丘陵地帯の奥深くに住んでいる禿げた男の持ち歩いている櫛。
【蛇使いの籠を盗め】…モロッコのマラケッシュのジェマ・エル・フナ広場にいる蛇使いの籠。
【バースデイ・ケーキのロウソクを盗め】…テス・ブランチャードの25歳の誕生日ケーキのロウソク。
【浴室の体重計を盗め】…ベンガル虎が放し飼いにされてるマチェック牧場の体重計。
【ダブル・エレファントを盗め】…オーデュボンの鳥類図鑑の実物大の複製画。
(「THE THIEF VS. THE WHITE QUEEN」木村二郎訳)

怪盗ニック・ヴェルベットシリーズ4作目。10の短編が収められているのですが、今回は怪盗ニックのライバルとも言える「白の女王」ことサンドラ・パリスが登場している短編ばかりです。このサンドラ・パリスは30代後半の元女優で、スタイル抜群のプラチナブロンド美人。「白の女王」は「不思議の国のアリス」が由来で、その台詞からとった「不可能を朝食前に」が彼女自身のモットー。ニックと同様、不可能なことをやってのける怪盗ですが、ニックと大きく違う点は盗む物にこだわらないということ。
最初は自分の縄張りを割り込んできたのかと警戒するニックですが、徐々に、助けたり助けられたり協力したり競争したりという持ちつ持たれつの関係になっていきます。このシリーズは、ニックがいかにして盗みを実行するか、そして依頼人の本当の目的は、といった部分が面白いのですが、そこにサンドラとの競争や協力といった楽しみも加わることになりました。
それにしても、ニックとはしょっちゅう会っているわけではなく、時には1〜2年の間隔があいているようなのに、ニックの手数料が2万5千ドルから5万ドルに値上げされるほどの時間が経っても、サンドラには年を取る気配がないのですね。常に30代後半のままです。このサンドラ、ニックにとってはグロリアに次いで魅力のある存在のようですし、確かになかなかの有能ぶりを発揮しているのですが、私の個人的な印象としては、ニックの方がプロとして一枚上手。そんなニックのプロぶりを見せ付ける「白の女王のメニューを盗め」が一番のお気に入りです。
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