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このページは、小森健太朗さんの本の感想のページです。

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「ローウェル城の密室」ハルキ文庫(2002年1月読了)★★★

笹岡保理と丹崎恵は、気がついたら深い森の中に迷い込んでいました。どうやったら抜け出せるのか分からないまま、どんどん進んでいくと、突然目の前には開けた土地と2階建ての白い洋館が。2人がその洋館に入ると、床には「ローウェル城の密室」という漫画本があり、そこにはまるで今通り抜けてきたそっくりの森が描かれています。そして現れた不気味な老人。彼は保理と恵に、二次元世界を研究するために、実際にその中に入って欲しいと言うのです。老人がカメラのような「三次元物体二次元変換器」を使うと、2人は漫画「ローウェル城の密室」に登場する靴屋の娘・メグとローウェル城のホーリー王子になっていました。 メグは時期国王のレイク王子に見初められた娘として、ホーリーと再会します。

小森健太郎さんが16歳の時に書かれた、江戸川乱歩賞の最終候補にも残ったという作品。
本当に奇抜な物語。こういう物語を考えつくということ自体がすごいです。しかしこれは本格ミステリファンからの受けはあまり良くないかもしれないですね。事件が起こるのは既に3分の2も過ぎてからですし、物語の前半部分の、ローウェル城での大して重要にも思えない出来事の描写が延々と続くのにはうんざりしてしまうかも。それでも一旦事件がおきると、それは密室殺人事件。どうやって解くつもりなのか心配になってしまうほどの完璧な密室殺人事件です。そしてその事件の捜査に当たるのは、探偵局長の《星の君》。作中には《星の君》による密室談義があり、少女漫画的だった物語は、ここでいきなり本格ミステリへ。この密室のトリックがフェアかアンフェアか、というのも意見が分かれるところでしょう。私としては呆れて笑ってしまったというのが正直なところ。しかしフェアにせよアンフェアにせよ、とにかく驚きました。ある意味とても鮮やかです。
ミステリとして読まなければ、波乱ぶくみの物語も少女漫画的に楽しめるのではないでしょうか。私はこのノリは決して嫌いではありません。ただ、ここまで描く必要はあったのかという疑問も残ります。もう少し短くまとめた方が、すっきりとした作品に仕上がったのではないかと思ってしまうのですが…。


「ネヌウェンラーの密室(セルダブ)」講談社文庫(2002年1月読了)★★★

週刊新春に勤める新郷敏之は、エジプトのルクソールの遺跡発掘の取材に行く途中、飛行機の中で大学で一緒だった宮地玲香に出会います。玲香の今所属している、情報文化大学の考古学研究室の漆原教授の一団も、丁度ルクソールに向かっているところだったのです。1人で心細かったこともあり、このグループに同行することにした新郷。そして現地で、大学時代の恋人であり、現在少女漫画家として活躍中の梓美紀に再会することに。一方、日本からの発掘チームを束ねている鷹岡大学の葦原教授に対抗心を燃やす漆原教授ですが、割り当てられている区画に、新しくネクエンラーの王墓を発見。発掘は葦原教授とエジプト政府によって止められるですが、王墓の中に美紀の5歳の妹・麻由が入り込んでしまったこともあり、新郷たちは結局調査団のメンバーと共に内部に足を踏み入れることに。しかしこの墓は、一度入ったら出てこれないという密室構造だったのです。

古代エジプトの王墓という魅力的な舞台を使った歴史ミステリ。新発見の王墓、それもエジプト考古学史上に残る大発見につながるかもしれないということもあり、本来麻由を探しに行ったはずのメンバーも、すっかり周りにある物や絵に心を奪われてしまっています。その気持ちが分かるだけに、読みながら一緒になってわくわくしてしまいます。しかし、人が本当に簡単にどんどん殺されていきます。あまりに簡単すぎて反感を覚えるほど。中に入った人同士の殺人もあれば、トラップにひっかかって死ぬケースもあります。こういう遺跡の中で、何も言わずに勝手に違う方向に行く人間は非常識だと思いますし、こんなところでいきなり喧嘩を始めなくても、という部分もあります。その喧嘩の後の発言も、いきなり三文小説のようになってしまって少々呆れました。
でも肝心な謎の解明部分はとてもいいですね。これは完全に盲点で、すごく面白かったです。4000年の密室の秘密を4000年前のパピルスに求めるというのも良かったです。…それにしても玖繰(くぐり)さんって変なキャラクターですね。

四千年前の密室、という言葉が柄刀一さんを思い起こさせます。柄刀さんの作品はもっとずっと骨太で本格的な分、とっつきにくい面もあるので、あまり歴史物に強くない場合は、こちらの作品の方が読みやすいかも。最初のエジプト考古学関係の史実や専門用語の辺りは読みにくいかもしれないのですが、王墓に入ってからはまるでインディ・ジョーンズの映画のようにスピーディーな展開。ミステリというより、冒険映画的な楽しみ方が正解のような気がします。
そして梓美紀といえば、高沢のりこ原作の「ローウェル城の密室」という少女マンガを連載していた漫画家。小森さんって、もしやかなり茶目っ気のある方なのでしょうか。

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