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このページは、太田忠司さんの本の感想のページです。

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「月光亭事件」徳間文庫(2001年8月読了)★★★
ある日探偵・野上英太郎の下にやってきたのは、探偵志願の少年・狩野俊介と猫のジャンヌ。俊介は、野上が探偵に関することを全て教わった石神法全の一番新しい友人で、探偵の見習いとしてやってきたというのです。そして一週間俊介を預かることに決めた栄太郎の所に来た新しい依頼人は、地元一番の病院の持ち主である豊川寛治。妻を騙す怪しげな導師の正体をあばいてほしいという豊川の依頼を受け、英太郎と俊介、猫のジャンヌは翌日豊川家と向かいます。しかしその晩、豊川家の庭にある月光亭と呼ばれる庵で密室殺人が起こります。

狩野俊介シリーズ第一弾。英太郎や俊介、行きつけの喫茶店の店長や看板娘・アキ、県警の高森警部とその部下の池田・武田などのキャラクターの描写が丁寧で、そのやりとりがとても楽しいです。そしてどうやら事件を通して狩野俊介の成長ぶりをも見ていくシリーズみたいですね。切れすぎる俊介を、周りがやんわりとたしなめるシーンが印象的。そして天才肌の俊介の影になってしまいがちですが、英太郎もなかなか優秀な探偵。単なるワトスン役ではない渋い魅力があるのがいいですね。ミステリとしては、大人向けというよりもジュブナイルといった雰囲気でしょうか。決して悪くはないのですが、少し物足りなさも感じました。

「新宿少年探偵団」講談社文庫(2001年8月読了)★★
私立聖賢学園中学に通う羽柴壮助と神崎謙太郎、七月響子は、同じ学年の夢野美香に頼まれて、彼女をスカウトしたという怪しげなタレント・プロダクションを訪れます。しかしそこで彼らを待ちうけていたのは「髑髏王」と名乗る不気味な人物。彼は不思議な機械生物「シータ」を操り、4人の命を狙います。髑髏王の狙いは、頭蓋骨の収集にあったのです。そして危機一髪の彼らを助けたのは、ジャン・ポール。そして4人はジャン・ポールの主人である不思議な少年・蘇芳と出会います。髑髏王と同じく天才科学者・芦屋能満の弟子だったという彼によって、4人は少年探偵団を結成することに。最初の敵は髑髏王!

新宿少年探偵団シリーズ第一弾。江戸川乱歩の少年探偵団へのオマージュであり、比べられることも多いという作品。4人の少年少女が毎回1人ずつ芦屋能満の弟子だったという天才科学者たち(?)と闘っていくという形式のシリーズのようです。こういう設定は好きな人には、かなり魅力的な作品なのではないでしょうか。例えば菊地秀行ファンなら、この世界はかなりの確率で好きなのではないかと思います。敵か味方かもはっきりしない不思議な天才少年蘇芳、その師匠であったという天才科学者・芦屋能満、少年探偵団の一人・夢野美香の不思議な性格など、まだまだ解明されない謎も多く、次に興味をひくストーリーとなっています。正直言ってあまり私の趣味ではないのですが、少年探偵団という言葉に惹かれる人や菊地作品の魔都・新宿が好きな方には一読の価値があるかもしれません。

「黄金蝶ひとり」講談社ミステリーランド(2003年2月読了)★★★★
夏休みに両親が5度目の新婚旅行でキプロスに出かけることになり、旅行に付いて行く代わりに祖父の家に行くことになった白木洸。しかし洸は、実は小学校5年生になる今まで、自分に祖父ががいることを全く知らなかったのです。父親によると、実の息子である父親にすら滅多に顔を合わせてくれない変わり者とのこと。そして祖父が洸を預かる条件は、洸が自力で祖父の家に辿り着くことでした。8月1日、洸は新幹線や急行、バスを乗り継いで、祖父の住む茶木村へと向かいます。

ミステリーランド第3回配本。同時配本は、 高田崇史氏「鬼神伝-鬼の巻」と竹本健治氏「闇のなかの赤い馬」。これでミステリーランドを読むのは7冊目となるですが、夏休みが舞台という作品が本当に多いですね。やはり小学校の思い出といえば、それだけ「夏休み」が強烈なのでしょうか。
茶木村に行く途中で出会った3人の赤帽子青帽子黄帽子の妙な男たちも面白かったのですが、いざ茶木村に着いて、どんな偏屈な老人が登場するのかと思いきや、洸が初めて会うことになったのは、生涯かけて万能学を研究し続けるという1本筋の通った1人の男性でした。その知識は幅広く、しかも机上で学問に励むだけではないという行動派。この祖父と暮らすことによって、まるで目から鱗が落ちていくような洸の成長ぶりがいいですね。そしてこの物語の中心となるのは、茶木村の自然を守ろうとしている祖父の義明と、茶木村出身で、開発会社の社長として戻ってきた剣崎賢三の対立。この環境破壊というのも、ミステリーランドに目立って登場するモチーフなのですが、少年の冒険物語と上手く絡み、なかなか楽しい展開となっています。
私は、太田忠司さんの長編作品を読むのは「月光亭事件」「新宿少年探偵団」に続いてまだ3作目。しかし前2作でジュブナイルに通じる部分を感じていた通り、この作品もミステリーランドという媒体に相応しい、大人にも子供にも楽しめる作品となっていました。「はじめに」では、実はこれは太田忠司の作品ではない、と明記されているのですが、最後まで一貫しているその遊び心も、とても楽しかったです。
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