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このページは、鮎川哲也さんの本の感想のページです。

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「りら荘事件」講談社文庫(2002年2月読了)★★★
かつて「ライラック荘」と呼ばれていた秩父の山奥の別荘は、持ち主だった証券会社の辣腕社長の自殺後、日本芸術大学のリクレーション寮「りら荘」として学生に開放されていました。夏期休暇も残りわずかとなったある日、東京から7人の学生たちがやってきます。美術学部の日高鉄子、美術から音楽に転籍した行武栄一、音楽部の尼リリスとその婚約者・牧数人、橘秋夫、安孫子宏、松平紗絽女。そして最初の晩の夕食の後発表された、橘と紗絽女の婚約。橘のことが好きだった日高鉄子と、紗絽女のことを狙っていた安孫子は大きなショックを受け、鉄子は翌日東京に戻ってしまうことに。その後、リリスのトランプからスペードが全て抜き取られ、さらにコートまでもが盗まれていることが発覚。そして警察が、盗まれたコートとスペードのAのカードを持ってりら荘にやってきます。炭焼きの男が崖下で死んでおり、その傍にはリリスのコートとスペードのAのカードがあったというのです。

星影竜三が登場する、1958年に刊行されたという作品。最早古典の位置付けにある名作です。
もう50年前の作品だというのに、古さをほとんど感じさせないのはさすが。…とは言え、尼リリスの本名が「南カメ」だったり、「蓑や合羽を着て」という表現が出てきたりと部分的にはびっくりさせられるような所はあるのですが、そういうのはある程度は仕方ないでしょうね。
舞台的には一応館物ではありますが、事件が始まって早い段階から警察が介入するなど、クローズドサークルとはなっていません。でも警察の目と鼻の先でどんどん人が殺されていき、しかも警察を嘲笑うかのように、次々に出てくる死体の脇にはトランプのカードが必ず1枚置かれているのです。由木刑事を始めとする警察側には全くいいところがありません。それに対して星影竜三にしても、その前に登場する二条義房にしても、警察の捜査が難航している間に、あっという間に真相を見抜いてしまいます。その点は、名探偵を際立たせるためとはいえ、少々警察がコケにされすぎなのではないか思ったりもするのですが、しかし星影竜三の推理は確かになかなか小気味のよいもの。不倫に関する牧と橘の会話の謎解きもなるほどと思わされますし、謎が1つ1つ解き明かされてみると、早くから色々と伏線が張り巡らされていたことがよく分かります。真犯人の悪知恵もなかなかのものですが、それより細かいトリックの組み合わせがとても綺麗です。さすがによく出来ていると思いました。

ただ、こんな人間関係の人たちが、どうしてこんな辺鄙な山荘にわざわざ遊びに来たのでしょうね。芸術的な意欲があったとしても、あまりに無理を感じます。何か共通の目的か何かあれば、もう少し納得もいったかと思うのですが。でも最初、この作品が星影龍三物だという予備知識だけはあったので、もしかしたら二条義房が星影竜三になるのかと思ってハラハラしてしまいました。…そうでなくて良かったです。(笑)

「準急ながら-鬼貫警部事件簿」光文社文庫(2002年2月読了)★★
16年前に北海道旅行中に、雪の中で事故に遭った女性を助けた海里昭子。助けた相手が、ひょんなことから昭子が栃木県烏山市で生花の師匠をしていると知り、16年ぶりの対面することになります。そしてその話は美談として新聞の地方紙に取り上げられることに。その新聞を見て東京の雑誌記者が取材にやってきて、昭子は仮名を使うことを条件に取材を受けます。しかし掲載されるはずの号には、その話は全く取り上げられていませんでした。一方、愛知県犬山市で土産物店・巴屋を営む鈴木武造。隣り合ったライバル店・尾張屋に客を取られがちだった彼の元に、小田原のこけし業者・刑部俊夫と名乗る男が訪ねてきます。その男が持参した新作こけしに心を動かされた武造は、早速それらを仕入れることに。しかししばらくの後、再び刑部と会うと言って出かけた武造は、次の日の早朝、近くの寺の境内で死体となって発見されます。しかも小田原には、刑部に該当する人物はいなかったのです。その上、武造の妻が、武造が戸籍をおく青森県市浦村に書類を送ると、鈴木武造という人物は、現在もその村で元気に働いているといいます。

「準急ながら」というこの題名は、本当に列車の名前だったのですね。「長良川」の「ながら」なのでしょうか。それとも「長柄」という地名なのでしょうか。私は読むまで「〜しながら」の「ながら」かと思っていました。…というのはともかくとして、途中で時刻表が出てきて「ながら」が列車の名前だということがようやく分かり、そうなると当然列車のアリバイトリック物になると思ったのですが、実は本題はまた違うところにあったので驚きました。
前半は海里昭子と鈴木武造の意外な関係など、色々な事実が明らかになる過程にはわくわくさせられます。これぞ警察の捜査活動といった感じですね。そして後半はもっぱらアリバイ崩し。よく出来たトリックだと思います。しかし実は私は、このようなアリバイ崩しはあまり好きではないので…。それに鬼貫警部の活躍が始まるのが遅すぎて、それが少々物足りなかったという面がありました。
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