Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、乃南アサさんの本の感想のページです。

line
「凍える牙」新潮文庫(2002年9月読了)★★★★
年末の深夜のファミリーレストランで、客の男が突然炎に包まれて焼死。火は勢いが強く、瞬く間にレストランが入っていた雑居ビルの上の階まで燃え広がります。消火後の現場検証で、被害者のベルトに時限発火装置らしきものがついていたことがわかり、立川中央署内には特別捜査本部が置かれることに。被害者は上半身がほとんど炭化しており、指紋もとることができない状態。かろうじて足に大型犬に咬まれた傷らしきものが見つかった程度でした。そして警視庁刑事部第三機動捜査隊の音道貴子巡査は、古参の滝沢保刑事と組んで事件にあたることになります。

115回直木賞受賞作品。
30代で離婚歴のある音道貴子。離婚原因は夫の浮気。そして今回彼女と一緒に組むことになったのは、かつて女房に逃げられた経験のある中年刑事・滝沢。男社会の中で認められずに孤軍奮闘する女刑事と、女刑事の存在を認めたくない叩き上げの頑固刑事の図。この2人が、渋々ながらも一緒に捜査活動を続けるうちに、徐々にお互いを認め合っていくことに… というのは、言ってみればありがちなパターンなのですが、しかしなかなか読ませてくれます。しかし滝沢の愛想がないのは、実際には貴子のことが嫌いというよりも、どう扱っていいのか分からないから。そして面倒くさいから。そして貴子の方も決して自分の弱みを見せようとはせず、だからといって頑張っている姿を主張したくもないという頑固さから、必要以上に愛想がありません。女刑事としては柴田よしきさんの「RIKO」シリーズに登場する緑子の方が迫力があると思うのですが、この貴子の無表情な感じもいいですね。物語では貴子と滝沢の視点が相互に描かれ、この2人が実は似たもの同士だったということが分かっていきます。無理に相手のことを理解しようとはせず、単なる傷のなめあいの関係にはならないところがいいですね。
ただ、事件の方は時限発火装置と犬の咬傷の両面から捜査されることになるのですが、これがどうも中途半端な印象。せっかくの時限発火装置という設定が生かしきれてないような気がします。貴子と疾風のシーンがとてもいいのですから、初めから時限発火装置など使わず、そちらに的を絞った方が良かったのではないでしょうか。

「花散る頃の殺人-女刑事音道貴子」新潮文庫(2002年9月読了)★★★★
【あなたの匂い】…突然訪ねてきた米屋の女房は、貴子が刑事だということを知っていました。貴子が警察の人間だと知っているのは、不動産屋と家主のみ。どちらにも口止めをしていたのになぜ?
【冬の軋み】…銀色のヘルメットに長い金髪が特徴の、バイク2人乗りによるひったくり事件が連続して発生。そんな時、駅付近で49才の郵政省官僚が、髪を染めた数人の若者に襲われたという知らせが。
【花散る頃の殺人】…ビジネスホテルで、年配の男女のカップルの変死体が発見されます。その死体の口からは、杏のような匂いがしていました。
【長夜】…ビルから墜落死したのは、染色家の伊関逸子。元同僚で現在オカマバーを経営している安曇が、逸子が自殺したことに納得できないと言い、貴子と一緒に調べ始めます。
【茶碗酒】…大晦日の夜の立川中央署。大晦日だというのに自殺あり事件あり、署の留置所にも既に32人もの泊り客がいました。交代の時間がきて、滝沢たちは休憩室で熱燗をやり始めます。
【雛の夜】…ラブホテルで若い女性が1人で倒れてるという通報を受けて駆けつけてみると、既に別の若い女性がその女性を抱きかかえるようにして連れ去っているという事件が頻発します。

「凍える牙」に登場の音道貴子が主役の短編集。前回一緒に組んでいた滝沢刑事は、今回はちらっと登場するだけ。貴子はもっぱら八十田刑事と組んでいます。貴子も自分の署では、既に自分の存在を確立していたのですね。男性刑事たちともなかなかいい関係を作っているようで、あまり肩肘を張っていない普段の姿が見れたのが良かったです。
「あなたの匂い」なんともイヤな犯人像。これは他人事ではないです。しかしストーカーに気づくきっかけは、案外こういうものなのかも…。巧いですね。「冬の軋み」守りたかったのは、やはり子供ではなく世間体でしょうね。「花散る頃の殺人」本当に一体誰がアーモンドの味を確かめたのでしょうね?「長夜」一番好きだった作品。安曇、いいですねえ。「茶碗酒」いい飲みっぷりです。貴子と滝沢は相変わらずですが、でもお互いに認め合ってるのがとても伝わってきます。「雛の夜」しかし、そういう筋の通し方というのは、少し違うのではないかと思うのですが…。(笑)
巻末には乃南さんと滝沢刑事の架空対談も。楽しいです。
Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.