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このページは、斎藤肇さんの本の感想のページです。

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「夏の死」講談社ノベルス(2002年12月読了)★★★★★
5年前の8月26日。大学3年生だった美作浩司は、仲間内で作ったビデオ映像研究会、通称VCの合宿中でした。目的はビデオの製作。メンバーはヒロインの白石真利恵、監督兼相手役の伊貫章司、カメラマンの美作浩司、脚本の国東厚夫、記録の笠井葉子、照明・音響の日野克志、小道具・大道具の守口透の合計7人。しかしその日の夕食のバーベキューも一段落した午後9時過ぎ、バルコニーで一人芝居を始めようとした白石真利恵が転落死。その死は警察によって事故と断定されるのですが、合宿もビデオ製作も中止となり、VCの活動もそのまま終わりを告げます。そして5年後。伊貫の提案で、VCのメンバー全員で真利恵の墓参りに行くことになります。そしてメンバーたちは、伊貫に言われるままに伊貫の部屋に寄り、TPRG「クトゥルフの呼び声」を始めることに。ゲームが始まり、美作が受け取ったカードに書いてあったのは、「白石真利恵は殺された」という言葉。果たして伊貫は、ゲームをすることによって真利恵を殺した犯人を炙り出そうとしているのでしょうか。

真利恵の死後5年たち、記憶がようやく風化した頃の突然の墓参り。その墓参りの後、唐突に始めることになるTPRG。これらの状況が作品に奇妙な雰囲気を醸し出しています。メンバーたちは、理由も説明されないままゲームを始めることになり、ノリが悪いながらも徐々にゲームの世界に引き込まれていくことに。ゲームの中での演技は、ゲームの外の現実世界までも繋がっていきます。私は実際にTPRGをしたことがないので、ゲームについては今ひとつ掴みにくかったのですが、しかし読んでいるうちにメンバーたちの戸惑いや不安、緊張感などが静かに、しかし確実に伝わってきて、どうにも落ち着かない気分になってしまいました。探偵役は一応存在するものの、彼自身が「もしや自分が真利恵を殺したのでは」という恐れを抱いていることもあり、なかなか客観的に突き放させてくれないのです。後半の飯岡慶二の唐突な登場や、明かされた真相には賛否両論あるのではないかと思いますが、しかし飯岡はともかくとして、この結末は個人的にはとても好きです。あくまで本格ミステリでありながらも、幻想的な色合いも持ち合わせた作品。不思議な魅力を持った物語でした。

「たったひとつの-浦川氏の事件簿」腹書房(2004年2月読了)★★★★★
【たったひとつの事件】…中学生の加波賢弥の元にやってきたのは、浦川という男。加波がインターネットに書き込んだテレビアニメの感想文を読んで、加波が人を殺したのを確信したのだと語ります。
【恥ずかしい事件】…売れない作家の北岡が語る10年前の殺人事件。テレビ番組のアシスタントをしていた倉本由宇と共に洞窟に閉じ込められた北岡。しかし翌朝、倉本が洞窟の外で殺されていたのです。
【はじめての事件】…夜の山道を運転する「私」は、古い冷蔵庫の処分を頼んだ大学生2人が冷蔵庫を山中に不法投棄するのを目撃。その中には、いつの間にか女性の死体が入っていて…。
【壁の中の事件】…宮西恵司と佐渡未菜という2つの人格を持つ「私」がみるのは人を殺す夢。そんな「私」を訪ねてきた女性もまた二重人格。彼女は佐渡未菜と結城アリサという名前を持っていたのです。
【どうでもよい事件】…月に1度、旗が揚がると行われる《頃合の会》。旗を見かけた人間から連絡がまわり、都合がつく人間が集ります。『旗見の玄庵』さんに、様々な話を聞いてもらうのです。
【閉ざされた夜の事件】…夜中に呼び出された瓜生は、見知らぬ老人に突然攻撃され、半年ほど前の格闘技大会のことを思い出します。それは派川勲が主催者となり、瀬戸内の小さな島で開いたイベント。
【すれ違う世界の事件】…ヒイナとジタンが会えるのは火曜日のみ。それ以外の日は連絡もできません。ジタンと会えるのもあと2回となったことを知ったヒイナは、魔導士・ウラカワの元を訪れます。
【浦川氏のための事件】…妹の智が温泉での宴会を企画。智が一山当てて、そのお金で家族全員を招待するというのです。弁護士事務所に勤める浦川氏は、初めて刑事事件を任されたところでした。

連作短編集。しかしあとがきに「へそまがりで。」と書かれている通り、かなりのクセモノ。「浦川」という共通項だけで、作風も登場人物もまるで違う7つの短編が次々に登場します。ハリイ・ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」風だったり、「バトル・ロワイアル」風だったり、幻想小説風だったり、ファンタジーだったり。しかもこの「浦川」氏、登場する話によって姿形がまるで違い、なかなかその本質が見えてこないのです。名探偵役かと思えば、まるで傍観者。そして作者の意図がよく分からずに頭が混乱した頃、ようやく8編目の短編が登場。ここで全ての謎が明かされた時は驚きました。形式としては連作短編集なのですが、これはれっきとした長編作品だったのですね。「作者としては作品の並んだ順番に読むことをお勧めいたします」という口上の文章にも納得です。
以下ネタばれ→それぞれの短編の浦川氏の名前を書き出してみました。「たったひとつの事件」義之(長男)、「恥ずかしい事件」将(末っ子)、「はじめての事件」茜・将君(仁志の妻と息子)、「壁の中の事件」寿人(三男)「どうでもよい事件」玄蔵(父)、「閉ざされた夜の事件」智(長女)、「すれ違う世界の事件」規久也(従兄弟)、「浦川氏のための事件」仁志(次男)… 事件当夜、現場に集まろうとしていたのは、まず蓮井と神山。次に中山由美と脅迫者・佐渡未菜。しかし車で現場に向かっていた佐渡未菜が、自転車に乗っていた蓮井と接触事故を起こしたために、2人は結局現場には行かず仕舞い。そして「閉ざされた夜の事件」の老人(15歳の女の子の父親)に呼び出されて現場に現れた山中慎治に、脅迫者が現れたと思い込んだ中山由美が襲い掛かります。ところが山中は逆に中山を殺してしまい…。山中は死体を山の中に不法投棄されていた冷蔵庫の中に入れて帰宅。その死体を見つけた茜と大沼と平井が死体を殺害現場と思われる場所に戻して、冷蔵庫は別の場所に… ということでいいのでしょうか。すれ違う世界の事件」の猫のオーギュとジタンとヒイナ、ジムナーについては、sa-kiさんの推理を伺って納得。「ネコ」という言葉には、同性との関係におけるネコ役という意味もあるのだそうです。知りませんでした。
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