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このページは、アンソロジーの本の感想のページです。

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「新編魔法のお店」荒俣宏編訳(2009年1月読了)★★★★

【マッチ売りの少女】(アンデルセン)
第一章「魔法の品あります」
【われらの街で】
(R.A.ラファティ)…その地区の奇妙な光景を2時間ほど眺めていたアート・スリックは、ジム・ブーマーを連れて奇妙な住人が沢山いるその地区へと向かいます。
【星を売る店】稲垣足穂)…神戸の町を歩いていた「私」は、小さなガラス窓の内部がきらきら光るコンペイ糖でいっぱいになっているのに気付き、その店に入ることに。
【謎の水晶】(H.G.ウェルズ)…セブンダイアルズ近くにある小さな汚らしい店には、種々雑多なものが置かれており、その中に水晶を卵型に細工してぴかぴかに磨き上げたものがありました。
【奇妙な店】ウォルター・デ・ラ・メア)…川に近い小さな店にやって来たのは、年とった紳士。道を尋ねるために立ち寄ったのですが、ウィンドウに飾られた空っぽの籃に興味を引かれます。
【おもちゃ】(ハーヴィ・ジェイコブズ)…ハーリー・ハーパーの目をひきつけたのは、彼自身のおもちゃ。20年前に遊んでいた模型トラックがその店のウィンドウに並べられていたのです。
【マルツェラン氏の店】(ヤン・ヴァイス)…ありとあらゆるものがあるマルツェラン氏の店。何1つとして売れるのを喜ばなかったマルツェラン氏ですが、ある日全てを売りつくそうとし始めます。
第二章「運命のまってる店」
【魔法の店】
(H.G.ウェルズ)…息子のジップが入りたがったのは、「わたし」も時折見かけていた魔法の店。そこには奇術用の小道具がありったけ並べられていたのです。
【ピフィングカップ】(A.E.コッパード)…バグウッドの床屋のピフィングカップが、古い知り合いだけれどちょっと頭のおかしい男から貰った鉢。それを使うと町の人々の髭がもう伸びなくなるのです。
【かどの骨董店】(シンシア・アスキス)…ピーター・ウッドが亡くなった時、書き物机の中に封印が施された一通の封筒が見つかります。そこには驚くべき出来事が記されていました。
【ザカリウス親方】(ジュール・ヴェルヌ)…ジュネーヴ市の年老いたザカリウス親方は、素晴らしい時計職人。しかしある時、親方の作った時計がことごとく止まり、修理もできなくなるのです。
【お茶の葉】(H.S.ホワイトヘッド)…米西戦争が始まろうとする1897年、ミス・アビー・タッカーはヨーロッパ旅行に必要な500ドルを積み立て終わり、船に乗り込むことになります。
第三章「わな、あるいは迷路へ」
【支那のふしぎな薬種店】
(フランク・オーエン)…支那の役人・パンタンは、若いのに歳月の重みを背負い込んだような男。魔法の薬剤師・陝福博士の薬種店を訪れることに。
【小鬼の市】クリスチーナ・ロゼッティ)…小鬼たちが売る美味しそうな果物に毎日のように見とれていたローラは、とうとう自分の金の巻き毛で果物を買って食べてしまいます。
【瓶の中のパーティ】(ジョン・コリア)…豪奢な暮らしを夢見ていたフランク・フレッチャーは、みすぼらしい横丁のみすぼらしい店で、妖鬼(ジン)が入った瓶を買い求めます。
【白いダリア】(エルゼ・ラスカー=シューラー)…白いダリアと櫛の恋物語。

お金では買えないものをお金で売ってくれる「魔法の店」。ふとしたことから店に迷い込むことはできても、一旦商品を買って店を出てしまえば、二度と戻ることができないかもしれない店。そんな魔法の店の物語を集めたアンソロジー。以前からファンタジー作品に登場する魔法のお店にはとても惹かれるものがあったのですが、ここにも素敵なお店が沢山登場します。そして、それぞれの短編につけられた荒俣宏さんの短い紹介の文章がまた素敵。読みたいという思いが募ります。紹介とは本来こうあるべきなのですね。ここに収められた15編のうち、稲垣足穂「星を売る店」、ハーヴィ・ジェイコブズ「おもちゃ」、H.G.ウェルズ「魔法の店」、クリスチーナ・ロゼッティ「小鬼の市」は既読。
特に好みなのは、R.A.ラファティの「われらの街で」。ちっぽけな小屋からトレーラーがいっぱいになるほどの大量の品物を出荷したり、公認代書屋はタイプライターもないのに口述筆記をしていたり、隣のビアホールでは冷蔵庫もないのに注文した通りのビールがよく冷えた状態で出てきたり… しかしその銘柄のスペリングが間違えていたり。ここに登場する奇妙な人々はあくまでも自然なことのように魔法を使い、アートとジムに質問されても堂々と話をはぐらかしているのが可笑しいです。
H.G.ウェルズ「魔法の店」のような純正の魔法の店は少し怖いのですが、不思議な魔法の品が埃をかぶっているようなヤン・ヴァイス「マルツェラン氏の店」には行ってみたくなりますね。シンシア・アスキス「かどの骨董店」も古い品物がたっぷりあるようですが、こちらは姉妹の明るい雰囲気から「魔法の店」のイメージとは少し違うかも。この「かどの骨董店」とH.S.ホワイトヘッド「お茶の葉」は好対照な作品ですが、後味の良い「お茶の葉」の方が私は好きです。(1989/09初版)


「ヴィクトリア朝妖精物語」風間賢二編(2009年1月読了)★★★★

【妖魔の市】クリスチナ・ロセッティ)…小鬼たちが売る美味しそうな果物に毎日のように見とれていたローラは、とうとう自分の金の巻き毛で果物を買って食べてしまいます。
【お目当てちがい】ジョージ・マクドナルド)…妖精の里フェアリランドの女王は退屈を紛らわすために2人の人間をフェアリランドに連れてくることを決め、ピーズブロサムと土鬼を送り出します。
【魔法の魚の骨】(チャールズ・ディケンズ)…19人の子供がいる、男らしく勇ましい王と麗しい王妃。ある日政府関係の仕事で出勤する王の前に不思議な老婦人が現れます。
【四人のこどもが世界をまわったはなし】(エドワード・リア)…ライオネル、ガイ、スリングズビー、ヴァイオレットは世の中を見て回るために大きな舟を一艘買い込み、準備を整え出発します。
【さすらいのアラスモン】メアリ・ド・モーガン)…放浪の楽師・アラスモンとその妻・クライシーがやって来たのは、荒れ果てた土地のなんとも陰気な村落。その村は魔法使いに呪われていたのです。
【いないいない姫】(アンドリュー・ラング)…お互いをこよなく愛しているにも拘らず、子供がいない王と王妃。ある日、赤ん坊をあげる代わりに「ニエンテ」をくれというドワーフが現れます。
【王の娘の物語】(メアリ・ルイザ・モールズワース)…老女がロロとマイア、シルヴァとウォルドに語ったのは、王の娘、動物たちをこよなく愛するオレオールの物語でした。
【王さまを探せ-マザーグースの国の冒険】(マギー・ブラウン)…病気のマールが気に入っていたのは、マザーグースの絵がとろこせましと描かれた2枚綴りの屏風(スクリーン)。
【妖精の贈り物】(F・アンスティ)…11歳のプリシラ・プロジャーズは、文句のつけようもないほど良い子。周囲の欠点だらけの人間たちの心を入れ替えさせようと考えていました。
【壺の中のお姫さま】ラドヤード・キプリング)…パンチとジュディがボンベイの町で乳母から聞いたのは、壺の中に閉じ込められたラジャーの美しいお姫さまの話でした。
【ヒナゲシの恋】(ローレンス・ハウスマン)…美しい白百合姫に恋をした貧しい若者は、魔女によってヒナゲシの花に変わることに。白百合姫が花に唇で触れることがあれば、願いが叶うというのです。
【ものぐさドラゴン】(ケネス・グレアム)…羊飼いがある日丘の上の洞窟で見つけたのは1匹のドラゴン。慌てて家に戻ってきた父親に、落ち着き払った息子はドラゴンに会いに行くと宣言します。
【メリサンド姫-あるいは割算の話】(イーディス・ネズビット)…メリサンド姫が生まれた時に、王が洗礼式の祝賀会を開かず、妖精を招かなかったため、妖精全員を敵にまわしてしまうことに。
【魔法使いの娘】(イヴリン・シャープ)…昔々松の森に住んでいた魔法使いは、4人の娘たちを立派な魔女にするべく日々励んでいたのですが、末娘のファイアフライだけはいい子だったのです。

「お目当てちがい」「さすらいのアラスモン」「壺の中のお姫さま」の3作は既読。
クリスチナ・ロセッティの「妖魔の市」が目当てで読んだ本なのですが、これが期待に違わず、とても素敵な作品でした。不気味で、しかし同時にとても魅惑的。こういう作品は大好きです。これを読めただけでも、この本を読んだ甲斐があったと言えそう。しかも矢川澄子さんの訳なのですから。
しかしもちろんそれだけではありません。どれも19世紀に書かれた作品なので、昔ながらの妖精物語を逆手に取っている作品も多く、それがまた楽しかったです。良い子の口から出てくる宝石が実は精巧な偽物だったり、王さまが政府関係の仕事で毎日出勤しており、その出勤途中で妖精に呼び止められたり。
その中で私が特に気に入ったのは「メリサンド姫 あるいは割算の話」。祝賀会に呼ばれなかったため文句を言いに押しかけてきた妖精たちに対する王様の説得の言葉も面白かったのですが、年頃になったお姫さまが髪の毛が生えるように願うところがまた面白いですね。その願いの言葉が「わたしの頭に1ヤードの金髪が生えますように。そして、金髪は毎日1インチづつのびて、切った場合にはその二倍の早さでのびますように」というものだったため、お姫さまの髪の毛はねずみ算式に伸びることになり、大変な事態となります。この困った願いごとの決着の付け方も、さすがネズビットと言いたくなるようなものなのです。
他にも「不思議の国のアリス」的な「王さまを探せ」が楽しかったですし、「ものぐさドラゴン」のような話も大好き。そしてもちろん王道の妖精物語も収められています。「ヒナゲシの恋」が、とても可愛かったです。(1990/09初版)


「おしろいとスカート」新書館(2007年4月読了)★★★★

【ミニョン・ミネット】(ド・ケイリュ伯)…妖精ジルエット(風見鶏)に育てられた少年王スーシ(心配)は、美貌と才気を併せ持ち、学識をも備える青年。しかし人を喜ばせるという性質が欠落していました。そんなスーシもそろそろ王妃を選ぶ年頃。隣国に出かけていたジルエットが指示したのは、南西に隣接する国の姫・ディアファニー(半透明で弱々しげな)。しかしディアファニーは、ほんのそよ風にもふわふわと舞い上がってしまうことが分かり、スーシは次に北東の隣国の、妖精アヴェリーヌ(榛の実)に育てられた姫・ミニョン・ミネット(可愛い子猫)に会うことに。
【フェリシア-または撫子の鉢】(ドルーノア伯爵夫人)…1人の貧しい農夫が死の床で、娘のフェリシアには撫子の鉢と銀の指輪を、そしてそのほかの物すべてを息子のベドウに遺すと遺言。しかしベドウは徐々にフェリシアに辛く当たり始めます。そんなある日、撫子にあげる水を汲みに森の小川へと走ったフェリシアは、そこに月の女王とも見紛うばかりの貴婦人の一行と出会うのです。
【ジョンと幽霊】(アーサー・クィラ・クーチ)…3年間の旅立ちによってイリリア国の3人兄弟の長男は一流の弁護士となり、次男は大商人になり、しかし三男のジョンは兵士になって足を失っただけ。ジョンは兄2人の後押しもあり、宮殿の門衛なることに。そんなある日、王様に会ったジョンは、深い気鬱の病でこの1年間全く笑わないという姫を笑わせるために、姫に求婚し、定め通り幽霊屋敷で一夜を明かすことに。(「IN POWDER AND CRINOLINE」岸田理生訳)

この「おしろいとスカート」という題名は、妖精物語の変遷史の中で、「パウダー(おしろい)」と呼ばれる時期と「クリノリン(スカート)」と呼ばれる時期があったことから来ているのだそうです。しかし妖精物語の黄金期とも言える「パウダー」時代の作品は沢山あっても、福音伝道の時代と重複する「クリノリン」時代の物語を探すのは、なかなか大変だったのだそう。それならばなぜ、「クリノリン」と名付けられるような時期があるのかが不思議なのですが、物語よりも妖精画が多かったということなのでしょうか? この作品に収められているうちで最初の2編は「パウダー」期のもの、そして最後の1編は「クリノリン期」のものだとのこと。
どれもとても可愛らしい物語。「ミニョン・ミネット」に登場するディアファニー姫は、ジョージ・マクドナルドの「かるいお姫さま」を彷彿させますが、マクドナルドはこの物語からヒントを得たのでしょうか。この作品の中では、ほんの少しの爽やかな風にも飛んでいってお姫さまはスーシの心にはかなわなかったようですが…。ジルエットの過保護で誤った教育をうけたおかげで、自分の能力を発揮する方法も、人のために何かをすることも知らなかったスーシが、アヴェリーヌの課した試練のおかげで徐々に周囲を見ることや自分自身で考えることを学んでいくところが、いかにも妖精物語らしい教訓に満ちていますが、その教訓が決して行き過ぎることなく、可愛らしいおとぎ話として読めるところが良かったです。ミニョン・ミニットが自ら王子を助けに行くところが、またいいですね。そして「フェリシア-または撫子の鉢」は、よくある話ながらも、撫子などに意外性が篭められているとこが面白かったですし、「ジョンと幽霊」はトルストイの「イワンのばか」的で、頓知によって切り抜ける面白さがありました。
そしてこの物語には、カイ・ニールセンの挿絵がついています。カイ・ニールセンの描く女性は皆柳腰で、どこか竹久夢二の絵を思い起こさせるような雰囲気があります。しかしとても華奢でありながら、すっと伸びた背筋がとても美しいですね。特に好きなのは、ディアファニー姫が飛んでいってしまう場面と、ミニョン・ミニット姫がスーシを助けに行く場面、そしてフェリシアがおしゃべりな牝鶏の話を聞く場面。ミニョン・ミニット姫の場面は文句なしに美しいですし、ディアファニーとフェリシアの場面は、2人の驚いたような表情がとても可愛らしいです。カイ・ニールセンが活躍したのは、日本の版画の影響も強かったアール・ヌーボー期。彼の描く絵の構図にもどこか日本の影響が感じられるようで、どこかとても懐かしい気持ちがします。(1994/11初版)


「十二人の踊る姫君」新書館(2007年4月読了)★★★★

【ロザニー姫と浮気な王子さま】(ド・ケイリュ伯)…妖精族の女王が亡くなり、新しい女王候補にサーカンタインとパリダミーの2人が選ばれます。「より偉大な奇跡」を起こせた方が女王に選ばれることになり、サーカンタインは「この世でいちばんの気まぐれ王子」、パリダミーは「その子を見れば誰でもが恋に落ちる王女」を作り出すことに。
【十二人の踊る姫君】(アンドルー・ラング)…モンティグニーサー・ロックの「夢見るマイケル」は、ある日樫の木の下で昼寝をした時、ベル=イルの城にいけば王女を妻にできると美貌の女性に言われます。3度同じ夢を見た時、マイケルはベル=イルの城へ。そこには12人の美貌の姫君たちがいました。その王女たちは3重に鍵のかけられた部屋で寝ているのに、朝になるとサテンの靴がすりきれて穴だらけになっており、王様は靴の謎を解いた者に王女と結婚させるというお触れを出していました。
【笑わぬ男】(モーリス?)…富豪だった父親の財産を放蕩した息子は、街頭画家をしている時に見知らぬ老人に話しかけられ、11人の老人たちのいる家の執事の仕事を得ることに。その条件は、家の中でのことを口外しないこと、そして泣いている老人を見ても訳を聞かないこと。若者は12年正直に勤め上げ、最後の老人が死ぬ間際に、彼らがなぜ泣いていたのか訊ねるのですが…。
【ロシア皇后のすみれ】(フランシス・マニー・カウツ)…ドイツの大臣・ビスマルクは、ロシア皇帝と親交を結ぶためにをドイツ皇帝の勅使となることに。着いた翌朝、いつものように早起きをしたビスマルクは、庭のあちらこちらにいる兵士たちの姿を無粋に感じ始めます。しかもその中の1人は、何もない芝生の真ん中に、自分でも理由を知らないまま立っていたのです。(「IN POWDER AND CRINOLINE」岸田理生訳)

「おしろいとスカート」と対になる本。こちらでは、最初の2編が「パウダー」期、後の2編が「クリノリン」期とのこと。通して読んでみると、やはり「パウダー」と「クリノリン」はどこか雰囲気が違いますね。例えて言えば、「パウダー」がアールヌーボーなら「クリノリン」はアールデコのような感じです。
「ロザニー姫と浮気な王子さま」は、2人の妖精の力比べのために人間が迷惑を蒙るという有難くない物語なのですが、その結果1組のカップルが幸せになるラストを読むと、なぜか許せてしまうおおらかさがあります。「十二人の踊る姫君」は、エロール・ル・カインの絵本でも美しかったのですが、こちらも本当に美しいです。エロール・ル・カイン版はグリムからの再話でしたが、こちらはアンドルー・ラングの「赤い妖精の本」から。物語が微妙に違うのも楽しいですね。文章としての映像喚起力から言えば、こちらのラングの方が上かもしれません。「笑わぬ男」は、ホラー系。若者が船に乗っている場面の挿絵がとても素敵なだけに、次の鏡を覗き込んでいる挿絵の不気味さが際立ちます。そして「ロシア皇后のすみれ」は、ドイツの宰相・ビスマルクがロシアに行った時に実際にあった逸話が元になっているのだそう。どこか別の物語集でも読んだことがありますが、ロシア皇帝の家来たちの慌てぶりと、真相の微笑ましさのギャップが楽しい作品です。(1994/11初版)


「五つの壷-ファンタジイ傑作集1」ハヤカワ文庫FT(2006年1月読了)★★★★

【五つの壷】(M.R.ジェイムズ)…9月の始めのとても暑い日。川の上流へ歩いて行った「わたし」は、泉から聞こえる言葉の通りにして、土の中に埋まっていた金属の箱を手に入れることに。その中には5つの小さな壷が入っていました。
【お目当てちがい】ジョージ・マクドナルト)…妖精の里フェアリランドの女王は退屈を紛らわすために2人の人間をフェアリランドに連れてくることに決めます。大地主の娘・アリスを迎えに行ったのは、妖精のエンドウ花、同じ村に住む貧しい女やもめの1人息子・リチャードを迎えに行ったのは、土鬼の毒たけでした。
【城-ひとつの寓話】ジョージ・マクドナルト)…大きな山の高い崖のいただきに立つ高い城は、外から見る者たちはもちろん、中に住む人間にも一体どういう造りなのか分からないほど大きな城。ここに住んでいたのは、兄弟と姉妹からなる一系の大家族でした。
(「THE FIVE JARS AND OTHER STORIES」紀田順一郎・荒俣宏訳)

怪奇小説で名高いというM.R.ジェイムズなのですが、作品を読むのはこれが初めて。ここに登場する壷は、なんと「ベーオウルフ」から題材をとっているのだそうです。伯父から姪へという書簡文の形で書かれているためとてもおとぎ話のようでもあるのですが、非常に幻想的なファンタジーとなっています。小鳥たちや森の生き物の声が聞こえ、不思議な存在を見ることができるという壷の存在が楽しいですね。そして壷を狙う妖精の一味の存在が少し不気味。昼と夜がくっきりと分かれているような印象です。
そしてジョージ・マクドナルドは、M.R.ジェイムズにも影響を与えたというファンタジーの作家。「お目当てちがい」は、「金の鍵」では「妖精の国」というタイトルで収録されています。「お目当て違い」では、ケルトの妖精本来の意地悪ぶりが前面に出ていて、「可愛らしい」だけではない妖精の姿を再認識させられます。そしてジョージ・マクドナルドのほかの作品のように、この2つの作品も色彩が豊か。どちらにも幻想的な情景が描かれていますが、特に「城」に登場する巨大な城が魅力的です。
この3作の中で断然気に入ったのは、M.R.ジェイムズの「五つの壷」。怪奇小説はあまり得意分野ではありませんが、他の作品も読んでみたくなりました。(1979/06初版)


「ビバ!ドラゴン-ファンタジイ傑作集2」ハヤカワ文庫FT(2006年1月読了)★★★★

【王さまの首の不思議な冒険】L・フランク・ボーム)…ムラサキ・ドラゴンにほとほと手を焼いていたファニーランドの王様。一戦を交えるのですが、頭を喰いちぎられてしまいます。
【ムラサキ・ドラゴン退治】L・フランク・ボーム)…ムラサキ・ドラゴンを退治するために、博士や国中の王侯貴族、犬、そして智恵者のロバが集まって作戦会議を開きます。
【最後のドラゴン】(E.ネズビット)…イギリスのコーンウォール。16歳になるとドラゴンと対決しなくてはならない王女さま。しかし本当は、最後の1頭となってしまった竜を殺したくないのです。
【竜とカクレンボ】(G.K.チェスタートン)…ならず者ながらも日曜日ごとに教会に現れる騎士・ラブロック卿は、竜が現れた時に絶対に安全な城を知っていると言い張ります。
【ドラゴンの執念】(ロバート・ブロック)…アーサー王の宮廷からマーリンに送り込まれたパラギン卿の馬を見に行った「おれ」は、馬の代わりに3フィートほどの巨大な卵を見つけます。
【コンラッドと竜】(L.P.ハートリイ)…森で働く2人の兄に同行する12歳の少年・コンラッドは、ある日1人で森の奥深くまで入って行き、広大な谷と頂に建つ城を見つけます。
(「THE DRAGON AT HIDE-AND-SEEk AND OTHER STORIES」佐藤高子・渡辺南都子訳)

ファンタジイ傑作集その2。今回は竜の出てくる物語ばかりを集めています。
「王さまの首の不思議な冒険」と「ムラサキ・ドラゴンの退治」は、「オズの魔法使い」のシリーズで有名なL・フランク・ボームの作品。まるでオズの国の延長にいるような可愛らしいおとぎ話です。そういえばオズの魔法使いのシリーズの中にも、様々なタイプの顔を20ほど持っていて、日替わりで挿げ替えるお姫様のお話がありました。「最後のドラゴン」は、「砂の妖精」「宝さがしの子どもたち」のE.ネズビッドの作品。こちらも可愛らしいです。竜を手懐けるところまではいいのですが、最後のオチには驚かされました。ネズビットらしいユーモアセンスですね。「竜とカクレンボ」は、ブラウン神父シリーズで有名なミステリ作家・G.K.チェスタートンの作品。この方がファンタジーを書いているとは知りませんでした。「ドラゴンの執念」は、ラヴクラフト系の作家だというロバート・ブロックの作品。怪奇色は全くなく、むしろ明るいドタバタコメディといった感じです。そして「コンラッドと竜」のL.P.ハートリイも怪奇作品を書いている作家なのだそうです。これは他の作品に比べてやや対象年齢が高めの作品。
ファンタジイ傑作集1に収められた3編がそれぞれ大人向けのファンタジーだったのに比べ、こちらはもっと対象年齢が低そうな可愛く楽しい作品が多いですね。特にボームの可愛い作品は絵本で読みたくなってしまうほどでした。ただ、私の持っている版だけかもしれませんが、1ページおきに交互にフォントが違うのです。読みながらとても気が散ってしまい困りました。(1981/01初版)


「ありえざる伝説-ファンタジイ傑作集3」ハヤカワ文庫FT(2006年11月読了)★★★★

<過去>【特命使節】(ウィリアム・ゴールディング)…ローマ皇帝ハドリアヌスの前に現れたのは、ギリシャ人発明家のパノクレス。パノクレスは新型の軍船の設計図を持参していました。
<未来>【蟻に習いて】ジョン・ウィンダム)…目が覚めた「わたし」がいたのは、病院らしき場所。しかし「わたし」は自分が何者なのか思い出せず、周囲の状況も理解できず戸惑います。
<夢>【闇の中の少年】マーヴィン・ピーク)…少年城主の14歳の誕生日。煩雑な儀式に支配される誕生日は1年のうちで最も耐え難い日。少年は城からの脱出を考え始めます。
(「SOMETIME, NEVER」宇野利泰・峯岸久訳)

「特命使節」は、1983年度のノーベル文学賞を受賞し、「蝿の王」で有名なウィリアム・ゴールディングの作品。ローマ時代に圧力鍋だの蒸気船だの大砲だのを考案してしまう発明家を前にした、ローマ皇帝とその孫の物語。実際にはあり得ない話ですが、その後の歴史を分かっているだけに面白いです。パノクレスが発明するのは確かに役立つ物ばかりですし、しかも皇帝自身がそれらの発明の真価を見抜いています。だからといって皇帝が諸手をあげて導入するわけではないというところがポイント。科学や技術が進化したからといって、それが幸せに直結するとは限らないという物語ですね。
「蟻に習いて」は、男性が滅亡し、女性だけの社会となった未来が舞台。未来の世界には、過去の歴史は微妙に歪んで伝わっており、女性たちは女性だけの社会に満足しきっているため、主人公が何を言おうともまるで伝わりません。女性だけの社会の不自然さ、男性の必要性を説こうとしながらも、なかなか相手に理解してもらえない主人公の歯痒さが伝わってきます。同時に現代の自分たちが思い込んでいる「過去の歴史」の信憑性も疑わせますし、いずれ歴史となる現代のことも自分の思っていることが本当は「神話にしがみついて」いるのではないかどうか、改めて考えてさせられます。
「闇の少年」に登場する少年城主は、「ゴーメンガースト」シリーズのタイタスなのでしょうね。「ゴーメンガースト」の外伝とも原型とも言えそうな作品。タイタスが城の外で出会うのは、かつて人間だった山羊とハイエナ、そして彼らの主人である子羊。しかし子羊といえば、キリスト教ではイエス・キリストにもなぞらえられるような存在。この辺りの効果も狙った作品なのでしょうね。この子羊が実は邪悪な存在、しかも甘美な声の持ち主というのが、何とも言えません。


「猫の事件簿-ネコ派のためのミステリ短編集」二見文庫(2005年2月読了)★★★★

【ジンシャーの終着駅】ピーター・ラヴゼイ)…3週間前にシプリーに越してきたデビッド・ウォルターズ。8時16分のウォータールー行きの電車に乗る人生に、コリンが割り込んできて…。
【猫は幽霊がきらい】(ビル・プロンジーニ)…ミセス・アボットの身辺にこの2週間嫌がらせが相次ぎ、ミセス・アボットは10年前に死んだ夫の仕業なのではないかと疑っていました。
【月夜の再会】(ジョウン・E・ヘス)…エド・カリーは、かつて妻のキャロラインが亡くなったルックアウト・ロッジを新しい妻のマデリンと共に訪れます。そして白い鳥のようなものを目撃します。
【名馬育成法】(ジョン・L・ブリーン)…オリヴィア・バーチェスターを訪れたのは、調教師のウォルター・クリベッジ。競走馬のバンド・ワゴンがお気に入りの黒猫を殺されて荒れていたのです。
【いたずら猫の大作戦】(ドロシー・B・ヒューズ)…クリストベル叔母様に飼われている黒猫・ホレイショー・エボニー・コーキンデールは、家に居座る迷惑なアレグザンダーを追い出そうを考えます。
【スキャット】(バーバラ・ポール)…テスが飼っているのは、小さな灰色の猫・ヒューゴー。ヒューゴーは化粧品会社の実験動物にされていたため、人間のあらゆるしぐさを脅威とみなしていました。
【愛の傷あと】(ウィリアム・J・レナルズ)…強盗に襲われて視力の86%を失ったカーヴ・ストレイカは、野球を諦めキャロラインと別れ、父と弟のゲイツが農場をやっている故郷の町へと戻ることに。
【禁じられた町の誘惑】(クリストファー・フェイ)…タラと2人、様々な街を転々としているトニー。タラのお金で生活しながら、トニーは自分の創作意欲を刺激してくれるものを探していました。
【猫屋敷の悲劇】(ビル・クライダー)…ミス・オニーに呼び出され、保安官のダン・ローズは猫屋敷と名高いミス・オニーの家へ。40〜50匹いる猫の1匹、バスターが毒殺されたというのです。
【猫さらい】(デヴィッド・H・エヴァースン)…私立探偵の「わたし」が已む無く引き受けることになったのは、地元の名士・シルヴィア・ランサムの猫探し。別れた夫の元にいるらしいのですが…。
【別れのキス】(ダグラス・ボートン)…レナード・グレイは、現在世間を騒がせている「パイネラス郡の殺人鬼」。その日もクレイグ・アレンを首尾良く殺し、余裕でその後始末にかかっていました。
【ハリウッドの黄昏】(レス・ロパーツ)…1960年代までのハリウッド映画の衣装を一手に引き受けていたルイーズ・マナスターは、猫のブローチの行方を捜すために私立探偵のサクスンを雇います。
【癇の強い女】(ジョン・ラッツ)…夜中に柳の木の根元を掘り続けるマンディ。かなり前にロバート・シニアが姿を消し、まだ3歳のロバート・ジュニアとの生活でストレスが溜まっていました。
【決戦の夜】(J.A.ジャンス)…夫のエドガーが自分を毒殺しようとしていると考えたアンナ・ウェイレンは、通信販売でスミス&ウェッソンを購入。この日もバスローブのポケットに忍ばせていました。
【甘党のアルキメデス】(ジーン・デウィーズ、バーバラ・ポール)…その日ミルトンを訪ねてきたのは、旧友のクララ。猫のアルキメデスの具合が悪く、クララ自身も20歳も老けたようでした。
【ロウアーワッカーの宿泊客】(バーバラ・ダマート)…地下の下水溝から泣き声が聞こえるとの通報で、スザンナ・マリア・フィンゲロウア巡査とノーム・ベニスは現場に急行することに。
【葬送行進曲】(バーバラ・コリンズ)…フィンレイ夫妻はサラの身元確認をするため法医学研究所へ。サラを轢いたのは、コンビニエンスストアの殺人事件の犯人の乗ったトラックだったのです。
(マーティン・H・グリーンバーグ&エド・ゴーマン編「CAT CRIMES」山本やよい他訳)

猫の事件簿シリーズ第1弾。この中で一番気に入ったのは、ドロシー・B・ヒューズの「いたずら猫の大作戦」と、デヴィッド・H・エヴァースンの「猫さらい」。「いたずら猫の大作戦」は、猫視点の物語で、大好きな「奥様」のために頑張る猫たちがとても可愛いのです。そして「猫さらい」のユーモア感覚にはニヤリとさせられました。これはかなり好み。しかしこの2人の作品は、ほとんど日本語に翻訳されていないようで残念ですね。その他では、私立探偵が登場するハードボイルド作品、ビル・プロンジーニの「猫は幽霊がきらい」もなかなか良かったです。これは<名無しの探偵(オプ)>シリーズのとのこと。シリーズの他の作品も読んでみたくなります。
ピーター・ラヴゼイの「ジンジャーの終着駅」やジョン・ラッツの「癇の強い女」のラストの反転も見事ですし、クリストファー・フェイの「禁じられた町の誘惑」やダグラス・ボートンの「別れのキス」の不気味な雰囲気、バーバラ・コリンズの「葬送行進曲」のラストの鮮やかさも印象に残ります。(1994/05初版)


「貴婦人のペルシャ猫-猫の事件簿シリーズ」二見文庫(2005年2月読了)★★★★

【貴婦人のペルシャ猫】エドワード・D・ホック)…夜中の1時にサラトガ・スプリングスの駅に降り立ったアガサ・パーキンスは、駅前のホテルへ。ロビーでは若い男がタバコを吸っていました。
【黄色い目】(ビル・プロンジーニ)…カリフォルニア北部の原野でフレドリック・ブラウンのペーパーバックを読んでいたデッカーは、突然現れた猫に驚きます。そして何やら不安を感じることに。
【ただでは死なない】(シャーリン・マクラム)…共同経営者のジャイルズ・エスカリッジに殺害されたフィリップ・ダンビーは、気付くと猫となっていました。ダンビーは復讐計画を練り始めます。
【報い】(B・W・バッティン)…町外れで30匹もの猫を飼っているというジェイスン・ハーカーの家には大金があるという噂。デーモン・カーズウエルは猫恐怖症にも関わらず押入ることを決意します。
【ヒルビリー・キャット】(ジョーン・ヘス)…離婚して、故郷のアーカンソー州マゴッティに戻り、警察署長となったアーリー・ハンクス。ベインベリー姉妹の遠い親戚だという男がやってきます。
【非情の雨】(ジョン・F・スーター)…ロイス・ハンフリーはアリスとルディ・バーフォードに招かれて、彼らが伯父から受け継いだ田舎の屋敷へ。そこにいたリモートという猫は実は…。
【災厄の森】(クリスティーン・キャスリン・ラッシュ)…コンピューター会社を相場の2倍で売却し、山で過ごす早めの引退生活を楽しみにしていた夫婦。しかし物事は思ったようには進まず…。
【黒猫の笑い】(ビル・クライダー)…「わたし」の猫嫌い、動物嫌いを良く知っていながら、家に猫を連れて帰ってきた妻のクララ。最初の猫は車に轢かれて死に、「わたし」はほっとするのですが。
【週末の夜に】(ジェレマイア・ヒーリイ)…ヴェネティア・スコットの依頼は、週末に家を留守にしている間の微妙な嫌がらせを調べて欲しいということ。何者かが家に泊まっているらしいのです。
(マーティン・H・グリーンバーグ&エド・ゴーマン編「CAT CRIMESII Vol.1」吉野美恵子他訳)

猫の事件簿シリーズ第2弾。一番気に入ったのは、エドワード・D・ホックの「貴婦人のペルシャ猫」とシャーリン・マクラムの「ただでは死なない」、そしてジョン・F・スーターの「非情の雨」。やはりエドワード・D・ホックは短編が抜群に上手いですね。古き良き時代といった雰囲気も良かったです。そして「ただでは死なない」も、なかなかのブラックでありながらもニヤリとさせられる作品ですし、「非情の雨」も一種独特の雰囲気。しかしシャーリン・マクラムとジョン・F・スーターの2人の作品は、日本語にはほとんど訳されていないようで…。せっかくの出会いの場がそれ以上発展し得ないとは、少々勿体無いですね。
ホラー調のB・W・バッティンの「報い」もなかなか良かったです。(1994/10初版)


「魔女のオレンジ猫-猫の事件簿シリーズ」二見文庫(2005年2月読了)★★★★

【水曜日の女】(ナンシー・ピカード)…ミュリアル&ヘンリー・フランクリン夫妻は、誰が見ても完璧なカップル。しかしミュリアルのアレルギーが酷くなり、2人の関係にも変化が。
【ブロンドの微笑】(レス・ロバーツ)…デンヴァーからカンザス方面に向かっていた彼は、カリフォルニア・ナンバーをつけた古いスバルに乗ったブロンド女性に惹かれます。
【わがままモニカ】(リチャード・レイモン)…裏庭のプールサイドで読書をしていたビショップの前に現れたのは、近所に住む少女・モニカ。モニカは子猫をもらいにやって来たのです。
【老婆のおもてなし】(キャロリン・ウィート)…47匹の猫を飼っている老婆の家を訪れたのはスーツ姿の男。国税庁から来た職員で、老婆が17年間分の税金をと滞納しているのだと説明します。
【マルタの鳥】(キャロル・ネルソン・ダグラス)…ラスヴェガスで非公式の警備員をしているミッドナイト・ルーイを訪れたのは、艶のあるスモーク・グレイの毛皮姿のミス・ワンダー・リー。
【どこもみな似たようなもの】(ジューン・ヘイドン)…ストラトフォードがいる夜はいつも地下室に閉じ込められるペルシャ猫のタバサ。最近は違う男が来ている夜も、地下室に閉じ込められていました。
【殺意はめぐる】(バーバラ・コリンズ)…公園で池を眺めていたマギーは、突然何かが橋から放り投げられ、沈み始めたのを見て驚きます。その袋の中には、何か生き物が入っていたのです。
【飢え】(クリストファー・フェイ)…タイヤがパンクし、車で野宿をしようとしたら警官に追われたディロンは、自分の前にいる客の老人に目をつけます。老人の財布には大金が入っていたのです。
【内なる獣】(マーガレット・マロン)…夫のクラレンスとの最後の衝突に落ち込んでいたテッサ。40年連れ添ったクラレンスは、彼女とは正反対の女・リン・ヘリックを選んで家を出たのです。
【魔女のオレンジ猫】シャーロット・マクラウド)…ミセス・ヒトルの古い家に引っ越してきたのは、グリーティングカードの絵を描くジェニー・レン。ジェニーはすぐさま猫のアスフォデマスと意気投合します。
(マーティン・H・グリーンバーグ&エド・ゴーマン編「CAT CRIMESII Vol.2」高田恵子他訳)

猫の事件簿シリーズ第3弾。一番気に入ったのは、表題作の「魔女のオレンジ猫」。こういうファンタジックな物語は大好き。ブラックな作品の目立つこのアンソロジー集の中でも、暖かな読後感が光っていますね。そして「水曜日の女」も良かったです。この作品には副題として(長編風短編の試み)とあるのですが、このアイディアは面白いですね。あらすじだけを読んでいても、登場人物の造形が浮かび上がってくるようですし、その光景が目に浮かびます。ナンシー・ピカードはジェニー・ケインシリーズの作者で、このシリーズは7冊ほど読んでいるのですが、こういった作品も書くとは驚きました。あとマーガレット・マロンの「内なる獣」もいいですね。ある意味ブラックではあるのですが、読後感は爽快です。(1994/11初版)

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