Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、メアリ・ド・モーガンの本の感想のページです。

line
「風の妖精たち」岩波少年文庫(2006年11月読了)★★★★★
【風の妖精たち】…人里離れた海辺の丘に住む粉挽きの娘リュシラは、父親の帰りが遅かった晩、風の妖精に踊りを教わることに。しかし誰にも言ってはいけないと妖精たちは念を押します。
【池と木】…荒れ果てた広野の真ん中に立つ1本の木と、その木陰の小さな池。彼らはお互いを何よりもいとおしく思っていました。しかしある時、木を抜くために男たちがやって来て…。
【ナニナの羊】…農夫が1ヶ月留守をする間、羊の世話を任せられたナニナは、農夫の言うことを聞かずに丘の向こう側の城跡を見に行ってしまいます。
【ジプシーの杯】…ある評判の良い若い陶工が月明かりの下で仕事をしていて気付くと、目の前には1人の若いジプシーの娘が。娘は陶工のために、色々な物を作り始めます。
【声を失ったオスマル】…ある時、山の上の村にやって来たのは様々な楽器をロバの背に積んだ小男。男の演奏に心を奪われたオスマルは、山越えの道を案内することになるのですが…。
【雨の乙女】…ある嵐の日、羊飼いの家にやって来たのは灰色のコートを着た背の高い女性。しかしその女性は全然濡れていなかったのです。
【農夫と土の精】…ある朝、1人の若い農夫が畑で見つけたのは小さな黒い女。その女を間借り人にしてからというもの、農夫の暮らし向きはどんどん良くなります。(「THE WINDFAIRIES」矢川澄子訳)

「風の妖精たち」や「ナニナの羊」「雨の乙女」といった、いかにも妖精物語と言える作品から、自然を擬人化した「池と木」、どこかケルトの香りがするような「声を失ったオスマル」。そして「イワンのばか」などのロシアの童話にありそうな「農夫と土の精」のユニークさ。メアリ・ド・モーガンの幅広さが光ります。「フィオリモンド姫の首かざり」では女性に振り回される男性たちが中心となった物語が多かったですが、こちらはむしろ夫や恋人を愛して信じる女たちの芯の強さを感じるような物語群です。昔ながらのおとぎ話には、暗黙の了解的なお約束が存在すると思うのですが、そこを少し外しているところが、メアリ・ド・モーガンの魅力かもしれません。一見ほんの小さなずれに見えて、それが意外と大きく作用しているように思います。
私が特に気に入ったのは、芯の強いリュシラが印象的な「風の妖精たち」と、作った陶器に月光で色付けをする場面が美しい「ジプシーの杯」。「風の妖精たち」は、ファージョンの童話にもありそうな物語ですが、こういった系列の物語では逆に珍しい展開なのではないでしょうか。そして「ジプシーの杯」の、「そして、小さな鳶色の手を月光にさしだしました。きらきらひかる指輪だらけの手でしたが、しかしそうやって月のひかりを手のひらにうけると、さながらそこにあやしくきらめく液体がこぼれるばかり掬われたように陶工には思えたのです。」という描写はとても幻想的で美しいです。オリーブ・コッカレルの挿絵も作品の雰囲気にぴったりでした。

「フィオリモンド姫の首かざり」岩波少年文庫(2006年11月読了)★★★★★
【フィオリモンド姫の首かざり】…フィオリモンド姫は、とても美しいながらも大変な性悪で、山の悪い魔女に教わった悪いまじないや魔術を使っていました。王様が結婚しろと言い出して困った姫は、魔女の助けを借りて、婚約者たちを宝石の珠にして連珠を作ることに。
【さすらいのアラスモン】…放浪の楽師・アラスモンとその妻・クリシアがある時やって来たのは、荒れ果てた土地のなんとも陰気な村落でした。その村は魔法使いに呪われていたのです。
【ジョアン姫のハート】…誰からも愛されるマイケル王子は、魔術師の持つ本に描かれたジョアン姫に恋してしまいます。しかし妖精に呪われたジョアン姫にはハートがなかったのです。
【行商人の荷物】…行商人、ろば、からす、ひばりのばかし合い。
【不幸のパン】…むら気で怒りっぽいパン屋のかまどに住み着いたのは、真っ黒でひょろひょろした小鬼。小鬼はパンを素晴らしく美味しくしてくれるのですが、パンを食べた人は皆不幸に…。
【三人のりこうな王さま】…跡継ぎの息子のいない老王ローランドは、死の床についた時、3人の甥を呼んで、順番に王位を継いでみるようにと言い残します。
【賢い姫君】…フェルナンダは幼い頃から賢く、何でも知らずには済ませない姫君。しかし持てる限りの知恵年をフェルナンダに伝えた老いた賢者にも、教えられないことがあったのです。(「THE NECKLACE OF PRINCESS FIORIMONDE AND OTHER STORIES」矢川澄子訳)

イギリスのヴィクトリア朝の作家の童話集。日本では最初に紹介された本ですが、これはメアリ・ド・モーガンの出した3冊の童話集のうち3冊目に当たるのだそうです。メアリ・ド・モーガンは、ウィリアム・モリスや画家のバーン=ジョーンズ、詩人のロゼッティといったラファエル前派の芸術家たちと家族ぐるみでつきあい、仲間内では話上手のレディとして人気があったという女性。
一見昔ながらの童話に見えるのですが、いざ読んでみると、その内容はなかなかしたたか。意外と辛口なのですね。特に表題作の「フィオリモンド姫の首かざり」が素晴らしいです。見かけは愛くるしく美しいながらも、性根は邪悪そのものの姫が、婚約者の変身した宝石の連なる首かざりを鏡で実ながらうっとりしつつ新しい犠牲者のことを考えている場面など、とても絵画的で、ついつい引き込まれてしまいます。彼女の性悪な部分を知っているのは腰元のヨランダだけ。他の皆は姫のあまりの美しさに、心根も綺麗だと思い込んでいるのです。実に恐ろしい姫ですが、その性悪ぶりが実はたまらなく魅力的でもあるところがまた恐ろしいです。そしてケルト的な雰囲気の「さすらいのアラスモン」や、北欧系の童話にありそうな「ジョアン姫のハート」もいいですね。アラスモンもマイケル王子も女性たちに振り回されつつ頑張るのですが、頑張ったからといって、その頑張りを認められてハッピーエンドになるとは限らないのです。昔ながらの童話とはまた一味違うところが、またいいですね。
「行商人の荷物」「不幸のパン」「三人のりこうな王さま」は滑稽な物語ですし、「賢い姫君」はどこか哲学的な物語。メアリ・ド・モーガンの幅の広さを感じさせられます。ラファエル前派の画家だというウォルター・クレインの挿し絵も作品の雰囲気によく似合っていて素敵です。

「針さしの物語」岩波少年文庫(2006年11月読了)★★★★★
【針さしの上で】…針さしの上に居合わせためのうのブローチと黒玉のショール・ピン、ただの留め針。聞こえてくるブレスレットのおしゃべりに閉口した彼らは、話をして紛らわせることに。
【みえっぱりのラモーナ】…鏡や水面を見ては自分の美しさにうっとりしていたラモーナ。幼馴染のエリックにもつれないのを見た水の精たちは、ラモーナの影を盗んでしまうことに。
【愛の種】…ザイールとブランシュリスのおばあさんは、亡くなる前に2人に小さな魔法のロウソクを残します。良い願いなら良い妖精が、邪な願いなら邪な妖精が現れるというのです。
【オパールの話】…愛くるしい日光の少年と天使のように美しい月光の娘は、お互いのことを見た時から相手のことが忘れられなくなります。しかし2人とも地上にいれば死ぬだけなのです。
【シグフリドとハンダ】…大きな森の外れにあるのは、正直で勤勉な人々の村。しかし、ある時おかしな小男がやって来て屋台で安い靴を売り始めてから、村は徐々に変わっていったのです。
【髪の木】…世界で一番美しいお妃の髪はブナの枯葉の色でたいそう美しく、国中の自慢。しかしワシが巣作りに分けて欲しいと言ったのを断った時から、髪が抜け始めたのです。
【おもちゃのお姫さま】…礼儀正しい国に生まれたウルスラ姫は、母親譲りに素直に自分の感情を表に出す赤ん坊。見かねた妖精のタボレットは、身代わりの人形を用意します。
【炎のかなたに】…クリスマスの晩に母親がいなくて淋しくて仕方なかった7歳のジャックの目の前に、火の精だという小さな男が現れます。ジャックは一緒に火の国へと行くことに。(「ON A PINCUSHION AND OTHER FAIRY TALES」矢川澄子訳)

日本で紹介されたのは3作目ですが、これがメアリ・ド・モーガンの最初の童話集。挿絵は実兄ウィリアム・ド・モーガンによるもの。
3冊で全22編読んだことになるのですが、続けて読んでも飽きず、逆に驚きました。昔ながらの神話や伝承の中にありそうな雰囲気の物語ばかりながらも、やはりメアリ・ド・モーガンならではの個性、そして品格のようなものがあるのでしょう。どの物語もそれぞれに好きですが、この中で一番印象に残ったのは「おもちゃのお姫さま」。礼儀正しいあまりに感情を表すことはおろか、必要最低限の言葉しか口にすることのできない国に生まれてしまったウルスラ姫は、今にも息が詰まりそうになっているところを救われます。妖精の用意した身代わり人形によって、王国の人々は満足し、自分らしい生活ができるようになったウルスラ姫もようやく幸せに。しかし普通のおとぎ話なら、本物はあくまでも本物であり、本物と偽物がこういった結末を迎えるなど考えられないと思うのですが…。これにはすごいインパクトがありますね。双方が確かにそれで幸せなのですから、結局それでいいのでしょうけれど、これにはとにかく驚かされました。あと好きなのは、ギリシャ神話の中にあっても違和感がなさそうな「みえっぱりのラモーナ」と、グリム的な「愛の種」。どちらもどこかにありそうな物語なのに、それでもやはり魅力的。「シグフリドとハンダ」で、ラルフの作る靴の方が遙かに長持ちすると分かっていながら、小男の作る靴を買ってしまう人々の姿に、世相が出ていますね。今の時代にも十分通用する物語です。
Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.