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このページは、シャーロット・マクラウドの本の感想のページです。

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「にぎやかな眠り」創元推理文庫(2005年9月読了)★★★★
12月21日の朝。バラクラヴァ農業大学の応用土壌学の教授・ピーター・シャンディの元に訪ねてきたのは、近所に住むジェマイマ・エイムズ。ジェマイマはバラクラヴァのグランド・イルミネーション委員会の1人で、クリスマスになっても一向に飾りつけをしようとしないシャンディ教授に、クリスマスのイルミネーションへの協力要請にやって来たのです。ジェマイマが帰った後、悪戯心を起こしたシャンディ教授は、翌日早速クリスマスの飾りつけの専門業者を呼ぶことに。悪趣味な飾りを取り付け、アンプのボリュームを最大にし、簡単にはスイッチを切ることができないようにした上で、そのままボストンから短い船旅に出てしまいます。しかし船のエンジン・トラブルに遭い、結局すぐにバラクラヴァの自宅に戻って来ることになった教授を待っていたのは、暗くひっそりと静まり返った家。そして居間にあったジェマイマの死体でした。(「REST YOU MERRY」高田恵子訳)

クリスマスのイルミネーションの時だけは見物人で賑やかになるけれど、普段はごく静かな架空の田舎町・バラクラヴァが舞台。シャンディ教授の専門は応用土壌学なのですが、もっぱら同僚のティモシー・エイムズ教授と植物の品種改良にも取り組んでいるようですね。巨大な実をつける新種のカブ、バラクラヴァ・バスターによって毎年多額の特許料が入ってくるとのこと。そのせいか、シャンディ教授は56歳の今に至るまで、優雅な独身生活をおくっているようです。本人によると特にハンサムというわけではないようですし、何年も続けてきられるような上等の素材の服は着ていても、「シャンディにとって顔は、主としてメガネをかけるための場所でしかなく」とあるように、特にお洒落というわけでもなさそう。なぜジェマイマの事件以降、いきなりモテるようになったのかが気になるのですが… おそらく元々渋いロマンスグレーだったのでしょうね。ヘレン・マーシュを始めとして、エイムズ教授や、「ヴァルハラ」に住むトールシェルドとシーグリンデというスヴェンソン学長夫妻などの登場人物たちがいい味を出していて、作品全体がほのぼのとした雰囲気。これからのシリーズの発展が楽しみです。
それにしても物が3つ以上あると数えずにはいられないというエピソードがこんな風に発展するとは、思いもしませんでした。いい組み合わせですね。

「蹄鉄ころんだ」創元推理文庫(2005年9月読了)★★★★
年に1度のバラクラヴァ挽馬組合の年次競技大会を控えたバラクラヴァ農業大学。畜産学部に出かけたヘレンは、蹄鉄工のミス・フラックレーや畜産学部の学部長であるストット教授と親しくなり、金曜日の夕食に招きます。しかしその夕食の前日、馬房の扉の上に打ち付けられている蹄鉄が全て外され、輪になっている方が上にされるという悪戯が起こります。蹄鉄は、幸運が逃げないために輪になっている方を下にするのが慣例なのです。そして金曜日。夕食会の前にカーロヴィンジャン工芸店に上等な銀器を買いに行ったシャンディ教授とヘレンは強奪事件に巻き込まれ、しかも翌朝、ストット教授の大切な豚のベリンダが誘拐されているのが見つかり、しかもそこでは殺人まで起きていたのです。そして今回も、シャンディ教授がスヴェンソン学長によって事件の収拾を言いつけられることに。(「THE LUCK RUNS OUT」高田恵子訳)

シャンディ教授シリーズの第2弾。
今回も魅力的な登場人物が登場します。1人はヘレンの旧友のイデューナ・ビョルクルンド。竜巻で下宿屋をやっていた屋敷が飛ばされてしまい、働く場所を探さなければならなくなった女性です。シャンディ教授の第一印象は「グッドイヤーの気球そっくりの体形」の「人間ツェッペリン」で、歩き方も、動くというよりも「七月四日の独立記念日のパレードで子供が持っているピンクの風船のように、元気よくはずむ感じでただよって」いるというひどい言われよう、しかし内面の善良さが輝くような笑顔の持ち主で、彼女ににっこりされると、思わず笑顔を返さずにはいられないような魅力的な女性。あっという間に人気者になってしまいます。そして畜産学部長のダニエル・ストット教授は、巨大なウェストと落ち着きぶりが「堂々たる男ざかりの円熟味」をただよわせた、健康そうなピンク色の肌と小さな青い目の持ち主。「ストット教授が豚に生まれていたら、きっとこのうえなくすばらしい豚になっていたことだろう」という表現も可笑しいです。さすが農業大学が中心となった町だけあり、人々の好みは都会とは一味違うようですね。イデューナのような女性が「あの魅力的な美人」と言われているのは、読んでいて嬉しくなってしまいますし、もちろん豚のベリンダも大きな存在感でとても魅力的です。
作中では様々な出来事が起きるのですが、きちんと解決しなければならないのは、工芸店で起きた金銀強奪事件、ベリンダの誘拐事件、マーサ・フラックレーの事件の3つ。しかし蹄鉄を逆さまにするなど競技会にも邪魔が入りますし、学長夫妻の娘・ビルギットがなぜ泣き続けているのかも気になります。その上、シャンディ教授とヘレンは、エイムズ教授の家に来た恐ろしい家政婦・ロレーヌ・マクスピーを追い出すために、エイムズ教授とイデューナをカップルにしてしまいたいと思っていたりします。本当に盛りだくさんなのですが、最後にはそれらが綺麗に解決していくのが嬉しいですね。思わぬところに潜んでいた伏線にも驚かされましたし、特にベリンダの居場所については完全に盲点でした。しかもベリンダを連れ出す時のイデューナの魅力なことといったら…。様々なことが起きても牧歌的な魅力が失われないバラクラヴァが素敵です。

「ヴァイキング、ヴァイキング」創元推理文庫(2006年12月読了)★★★★
「週刊バラクラヴァ郡フェイン・アンド・ペノン」紙の精力的な若手記者・クロンカイト・スウォープが、来週105歳になるミス・ヒルダ・ホースフォールにインタビューするために、農場を訪れていた時に起きた事故。それはこの農場の作男・スパージ・ランプキンが散布機を洗おうとして、生石灰が水に反応して起きた爆発に巻き込まれるというものでした。普段その散布機には生石灰などは入っておらず、普通の無害の粉末石灰だけのはずなのです。警察はそれを事故として片付けてしまおうとしますが、ヒルダの82歳の甥・ヘニーから最近悪質な嫌がらせが続いていると聞いたシャンディ教授は、何者かがわざとやったのではないかと考えます。(「WRACK AND RUNE」高田恵子訳)

シャンディ教授シリーズの第3弾。
元々平均年齢が高めのシリーズですが、今回は102歳になっても未だに現役のスヴェンや、スヴェンが来るのに備えてキッドのカーラーで髪を巻く105歳のヒルダ、82歳になりながらもヒルダに子供扱いされているヘニーなどが登場して一層高くなっています。そしてその高齢者たちの活躍ぶりは、非常にパワフル。気力も体力も、若者になどにはまだまだ負けません。高齢の人物が登場する必然性もきちんとありますし、それ以上にヒルダとスヴェン翁の初々しい恋愛ぶりが微笑ましくて楽しいですね。今回、ルーン石碑の由来と共に、スヴェンソン学長らヴァイキングの末裔について語られることになるのも興味深いところ。しかしもちろん若手も負けてはいません。今回初登場の若手新聞記者・クロンカイト・スウォープの若さにまかせた仕事ぶりも初々しいですし、ヒルダの言う通りの「くちばしの黄色い小僧っ子」ながらも、今後もシリーズに登場して活躍してくれそうで楽しみ。そして厄介ごとのたびに駆り出されるバラクラヴァ大学の学生たちの活躍も、その他大勢とは言い切れない存在感。やはりこのシリーズは、この町に住む1人1人の表情が見えてくるのが大きな魅力ですね。今回特に印象に残ったのは、物語終盤にシーグリンデとヘレンが登場するシーンでした。本当にオーディンやフレイヤのようだったのでしょう。出ずっぱりの男性たちに負けず、すっかり場をさらってくれました。そしてそんな人々だけでなく、馬やガチョウ、雄牛といった農村ならではの動物たちも巻き込んで、今回の物語もとても賑やかです。

「猫が死体を連れてきた」創元推理文庫(2006年12月読了)★★★★
床にモップをかけていたミセス・ベッツィ・ローマックスは、猫のエドモンドが赤い毛皮のかたまりのようなものを口にくわえているのに気づきます。しかしそれは毛皮などではなく、下宿人のハーバート・アングレー教授が毎日のようにかぶっているかつらだったのです。アングレー教授が気を悪くしないように、寝ている間に、こっそり部屋に戻してしまおうと考えたミセス・ローマックスですが、キッチンの流しの上には、教授が寝る前に飲むために用意した牛乳がおきっぱなしになっており、しかもベッドは前日にミセス・ローマックスが整えたまま。驚いたミセス・ローマックスは、家の中を探して教授がいないことを確かめると外へ。教授がクラブハウスの裏庭で倒れて死んでいるのを発見します。(「SOMETHING THE CAT DRAGGED IN」高田恵子訳)

シャンディ教授シリーズの第4弾。
4作目ともなるとシャンディ教授の探偵振りもすっかり板について、今回はフレッド・オッターモール署長と一緒に聞き込み調査にまわることになります。これまではお互いにあまり良い印象を持っていなかったようですが、なかなかどうして良いコンビぶり。オッターモールは意外と家庭的な人間ですし、シャンディ教授がオッターモールの思いがけない賢さを見直す場面などもあります。こういう部分が、作者の根底にある人間性善説を感じさせるような気がしますね。やはりそういう作者だからこそ、大勢の人々をそれぞれに生き生きと魅力的に描けるのでしょう。そして、その他大勢のバラクラヴァ大学生が、またしてもいい味を出してくれていました。特に面白かったのは、大学での暴動の場面。シャンディ教授の言うことをいち早く飲み込み、機転を利かせる学生たちがとても楽しかったです。プロのアジテーターなど目ではないですね。
これまでは巻き込まれ型だったシャンディ教授なのですが、今回はトートシェルド・スヴェンソン学長の立場が不利ということもあり、いつになく力が入っていて、積極的。しかし純粋に謎を解きたいというよりはむしろ、敬愛するスヴェンソン学長を犯人にしないための推理。やはり学長の魅力は絶大ですね。
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