Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、ウォルター・デ・ラ・メアの本の感想のページです。

line
「ムルガーのはるかな旅」ハヤカワ文庫FT(2006年3月読了)★★

ムンザ・ムルガーの森の外れにある倒れそうな木の小屋に住んでいたのは、ムッタ・マトゥッタという年老いた灰色の木の実ザル。ムッタは、若い頃にこの家にやって来たムッラ・ムルガー(王族のサル)のシーレムと結婚し、サンマ(サム)、シムブラ(シンブル)、ニッザ・ニーラ(ノッド)という3匹の息子をもうけていました。しかしこの森で暮らし始めて13年、シーレムは徐々にかつて暮らしていたティッシュナーの谷が恋しくなり、いつか必ず迎えに帰って来るという言葉を残して、兄・アッサシモンの宮殿に向かって1人旅立つのです。そしてシーレムの帰りを待つうちに自分の最期を悟ったムッタは、3匹の息子たちに形見分けを始めます。もしムンザの暦で7年経っても戻って来なければ息子に自分の後を追わせるようにと、シーレムが話していたのです。そしてムッタの死後、小屋を火事で失ってしまった3匹は、伯父の国を目指して旅立つことに。(「THE THREE ROYAL MONKEYS」脇明子訳)

ムルガーとはサルのことで、ムルガーには様々な種類があります。ジャケット・ムルガーや真面目くさった顔をしたムッラブルック、紫色の顔とサフラン色の頭をしたムルガーや痩せたスキートウ、ふさふさした毛のマンガビー、細長い脚をしたハエトリザル、小さくて琥珀色の柔らかな毛をしたリス尾ザル、大きくて凶暴なグンガ・ムルガー、コロッブ、バッバブーマ、獰猛でムルガーを食べるミニマル・ムルガーや人間であるウームガーなどなど…。それだけでも覚えきれないのに、他にも食べ物や樹木などムルガー語の固有名詞も沢山登場。巻末に「ムルガー語小辞典」がついているのですが、読みながらいちいち調べなければ意味が分からない言葉が多すぎて、なかなか物語に入れずに苦労しました。
物語は、母親から魔法の石を受け継いだ、生まれながらの魔法使い「ニッザ・ニーラ」である末息子ノッドを中心に進んでいきます。様々な獣たちと出会いながらの旅。時には大きな失敗もしますが、時にはノッドの機転で兄弟全員が救われたり。あまり物語に引き込まれないまま読了してしまったのですが、脇役ではアンディ・バトルや水の精が印象的でしたし、熱帯らしいこの地域に初めて訪れたという厳しい冬の情景はとても綺麗でした。


「妖精詩集」ちくま文庫(2006年2月読了)★★★

英国では「幼な心の詩人」と評され、日本では西条八十や佐藤春夫、三好達治らが愛してやまなかったというウォルター・デ・ラ・メアの詩集。「妖精たち」「魔女と魔法」「夢の世界」の3章に分けられて、60編ほどの詩が収められています。挿絵はドロシー・P・ラスロップ。(「DOWN-ADOWN-DERRY」荒俣宏訳)

「幼な心の詩人」というだけあって、幼い頃読んでいた童話をもう一度読んだような懐かしい気持ちになる詩集です。これらの詩の根底には、イギリスやアイルランド辺りの伝承があるのでしょうね。可愛くて、でもちょっぴり意地悪な妖精たち。詩の1編1編にドロシー・P・ラスロップの挿絵が添えられ、その雰囲気も相まってとても幻想的な情景が広がっていきます。ただ、詩が全部で60編ほどあるので、一度に読んでしまうのには向かないと思います。時間のある時に少しずつ楽しみたいもの。そして日本語の訳もいいのですが、詩の翻訳はどうしても原語の味わいを多少なりとも失ってしまうものなので、やはり英語で読みたくなってしまいますね。
この中で気に入ったのは、「サムの三つの願い、あるいは生の小さな回転木馬」。妖精や魔女に願い事を叶えてもらうという話は、願う本人が大抵自滅してしまうものですが、これは一味違うのですね。エンドレスで繰り返されていくというのも楽しいところです。

Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.