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このページは、マーヴィン・ピークの本の感想のページです。

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「タイタス・グローン」創元推理文庫(2006年11月読了)★★★★

重苦しい石造りの城・ゴーメンガースト。巨大な城の周囲には<外>の民のあばら家が、貝のようにびっしりと張り付き、それがその世界の全て。<外>の民と城砦の内側に住む人間との行き来は毎年1回に限られており、<外>の民の中の優れた彫り師たちが毎年6月の最初の朝に1年間取り組んできた木彫りの像を並べることを許された時のみとされていました。ゴーメンガーストの現当主は76代目のセパルクレイヴ。そしてその日の朝、伯爵妃・ガートルードに77代目伯爵となる、菫色の瞳をしたタイタスが生まれます。そしてその頃、スウェルターの支配する大台所から逃げ出した17歳の少年・スティアパイクは、自らの機知によって着々と足場を固めていました。(「TITUS GROAN」浅羽莢子訳)

ゴーメンガースト三部作の1作目。
トールキンの「指輪物語」と並んで、20世紀のファンタジーの最高峰と言われている作品なのだそうですが、その後の多くのファンタジー作品に影響を与え、追随する作品が数多くある「指輪物語」とは違い、こちらの作品は独特ですね。とにかくこの陰鬱で重厚な雰囲気には驚きました。これはおそらく模倣しにくいでしょうし、実際あまり直接的な影響を見せる作品などはないのではないでしょうか。読んでいると、暗く重苦しいゴーメンガースト城の情景が、その質感を伴って周囲に浮かんでくるよう。この雰囲気を作り出すには、相当の力量が必要そうです。
城に住む日々の具体的な行動は全てサワダストという老書庫長の支配下にあり、伯爵を始めとする人々は昔ながらに決められた儀式を繰り返しています。念入りで詳細な描写によって、それぞれの人々が孕む狂気がこちらまで迫ってくるよう。書物に異様な愛情を注ぐセパルクレイグ伯爵、白猫や鳥と戯れる伯爵妃、屋根裏部屋に逃避する長女フューシャ、城の人々に忘れられながらも権力を追い求める双子の姉妹のコーラとクラリス… その他にもプルーンスクワラー医師やその妹・イルマ、料理長のスウェルターや従僕フレイ、老書庫長のサワダストといったあくの強い人々ばかり。しかもそれぞれの人物は決して美しくなく、むしろ醜いのです。その醜さが、捩れたようなゴーメンガースト城の雰囲気とまた一体となっているような感覚があります。そして一種異様な雰囲気のピーク自身の挿絵が、またその雰囲気を際立たせているようです。
1部は、生後2歳にも満たないタイタスが第77代伯爵となるところまで。非常にゆっくりとした展開なのですが、それが逆に好ましいです。悠久の流れを感じさせる城に訪れた変化の時。今後の波乱の大きさを予想させます。


「ゴーメンガースト」創元推理文庫(2006年11月読了)★★★★

ゴーメンガーストの第77代当主となったタイタスは7歳。爵位を継ぐ者は人生の初めの9年間を下層階級と交わって過ごし、彼らの生き方を理解するという決まりだったため、タイタスもまた、城の子供が着る粗織りのゆったりした服を着て、下々の子供たちと肩を並べて勉強をしたり食事をしたり、遊びや行事を共にしていました。それにも関わらず、タイタスは常に見られるのを意識していたのです。そして事あるごとに、儀式から逃れて外へと出ようと試みます。一方、スティアパイクは着実に権力をものにし、今や書庫長であるバーケンティンの第一の弟子となっていました。(「GORMENGHAST」浅羽莢子訳)

ゴーメンガースト三部作の2作目。
何事が起きても、ゴーメンガーストの歴史を揺るがすことができないことを実感させられるような第2巻です。伯爵の死ですら、ゴーメンガーストになんら影響を及ぼすことがなかったのですね。ましてや他の人々の死など、城には蝿1匹入って来たほどの影響しかなさそうです。しかしそんな生ける屍のようなゴーメンガーストでも、着々と動いている人間がいます。それがスティアパイク。頭の回るスティアパイクはなかなか他の人間に尻尾を掴ませずに上手く立ち回るのですが、それでも一部の人々はどこかおかしいと感じ始めています。伯爵妃ガートルードやプルーンスクワラー医師もそうです。どこかに悪の存在を感じており、徐々に物語全体に緊迫感が高まっていきます。スティアパイクとバーケンティン、そして終盤の対決場面は見事ですね。スティアパイクとフューシャの関係の変化も読み手に迫ってくるようです。そして、多すぎる死ですら、やはりゴーメンガーストに何ら影響を与えることができないことを再認識させられるようです。
ケダや<やつ>がもっと重要な役回りとなるのかと期待していたのですが、期待ほどではなく少々残念。しかしこの中では、プルーンスクワラー医師の妹のイルマと、塾頭となったベルグローブのロマンスが、大真面目ながらも滑稽で、ひたすら重苦しい空気を少し和らげていますね。


「タイタス・アローン」創元推理文庫(2006年11月読了)★★★★

。(「TITUS ALONE」浅羽莢子訳)


「行方不明のヘンテコな伯父さんからボクがもらった手紙」国書刊行会(2006年11月読了)★★★★

行方不明の伯父から甥に届いた手紙。それは、かつてイギリスを捨てて旅に出て、世界中を旅した伯父が突然書いてよこしたもの。伯父さんは雪原の帝王である幻の白いライオンを追い求め、今は北極へとやって来ているのだというのです。(「LETTERS FROM A LOST UNCLE」横山茂雄訳)

伯父さんの持ち歩いているタイプライターが古いせいで、文字によって太さも濃さもまちまちですし、沢山ある誤字脱字が頻繁に訂正され、手書きの説明が余白に記入されています。その手書きの文字が汚い字なのですが、何とも雰囲気にぴったり。いかにも伯父さんが書きそうな字です。原書ではどのようになっているのか見てみたくなってしまいます。そして文章以上に目を引くのが、伯父さんの描く絵。こちらもラフな鉛筆画ながらも味があっていいですね。そこに描かれているのは、失った左脚に義足代わりにメカジキのツノをつけた伯父さん自身や、亀犬のジャクソン。そして数々の動物たち。しかもこの絵を描いたのは、マーヴィン・ピーク自身なのです。絵を描いた紙の上にタイプライターで文字を打った紙を切り貼りしているのが分かるところも芸が細かく、時にはコーヒーや肉汁、血の染み、足跡で紙が汚れていたり、指紋がついていたり。
伯父さんがなぜいきなり手紙を書いてよこしたのかといえば、どうやら手紙を書いている古い帳面をサウス・ケンジントンの自然史博物館に渡して欲しいからのようなのですが、手紙を受け取った甥の反応などはまるで分かりません。それでもこんな手紙を受け取ってしまったら、やはりワクワクしながら読まずにはいられないのではないでしょうか。陰鬱な「ゴーメンガースト」三部作からは想像できないような、ユーモアたっぷりの冒険話。絵は多いですが、絵本ではありません。意外と読み応えがあるところも嬉しいです。

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