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このページは、アンソロジーの本の感想のページです。

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「宝石商の猫-猫の事件簿シリーズ」二見文庫(2005年2月読了)★★★

【もの言わぬ動物たち】(デローリス・スタントン・フォーブズ)…リチャードのアパートメントにいるのは、猫のルーイと犬のダム。ルーイはダムをなんとか始末したがっていました。
【ペット・カウンセリング】(マシュー・J・コステロ)…ペットのカウンセリングもしている精神療法医の「私」は、エレイン・ランダルという女性のペットの猫の相談を受け、家を訪ねることに。
【壁】(ライザ・アンゴフスキー・ロガック)…サンディとビル・パッカードは、猫のティモンズと共にヴァーモントの田舎の古い家に引越すことに。向かいの家には、猫気違いの老婆・リリー・コールが。
【ありがた迷惑】(ラリー・セグリフ)…こそ泥の「おれ」は、クリスマスイブの晩にヴィクトリア朝風の邸宅に忍び込みます。しかし気付くと、大の苦手の猫に睨まれていたのです。
【宝石商の猫】ウィリアム・L・デアンドリア)…テレビ局副社長のマット・コブは、モナ・タレンを連れてアール・ラシュトン宝飾店のアール・ラシュトンの元に向かっていました。
【番猫注意】(ビル・クライダー)…留守の間に家に通って猫の世話をしてくれる「キティ・ケア」。そしてそのヴァンがとまっていれば、その家は留守宅だということをベニーは知っていたのです。
【夢の扉】(ジョン・ラッツ)…キャスリン・プリムに一目惚れして電撃的に結婚したウィリアム。ハネムーン先のオザーク山脈のコテージで、ウィリアムは猫の夢を続けざまに見ることに。
【どうして黙ってるの】(バーバラ・コリンズ&マックス・アラン・コリンズ)…ケリは、ハリウッドでプール清掃員をしているリックと共に元俳優のサミュエル・ウィンストンの家で、猫に目をつけます。
【どっちつかず】(ジャン・グレープ)…私立探偵をしているジェニー・ゴードンは、カリフォルニア州パサデナで開かれた私立探偵の大会に出席して帰る途中、飛行機がハイジャックされて…。
(マーティン・H・グリーンバーグ&エド・ゴーマン編「CAT CRIMESIII Vol.1」高田恵子他訳)

猫の事件簿シリーズ第4弾。この巻はやや低調でしょうか。良かったと言えるのはバーバラ・コリンズ&マックス・アラン・コリンズの共作「どうして黙ってるの」ぐらい。デローリス・スタントン・フォーブズの「もの言わぬ動物たち」と、ジャン・クレープの「どっちつかず」は、まずまずですね。そして「夢の扉」のジョン・ラッツは、この「猫の事件簿」シリーズの1冊目で「癇の強い女」も書いてますが、映画「ルームメイト」(原作は「同居人求む」)で有名になった作家なのだそう。それも納得のホラーぶりでした。(1995/01初版)


「猫が消える町-猫の事件簿シリーズ」二見文庫(2005年9月読了)★★★

【猫が消える町】(ナンシー・ピカード)…8月以来2ヶ月の間に17匹の猫がいなくなり、見つかったのは2匹だけ。マウント・フロレスタ動物養護施設のイジィキェル・レナードは、恋人のアビーと共に猫の消えた原因を推理し始めます。
【手向けの一筆】(ハーバート・レズニコウ)…腕のいい絵画修復師の「わたし」は、老いた猫ミッツィの死の原因となった館長・アルフォード・C・D・チャールズに復讐を考えていました。
【永遠の伴侶】(ピーター・クラウザー)…デイトナビーチに近いジェフ・サンダスキーの家にやって来たココ・テイトは、ジェフの妹のアルマが行方不明と聞き、2人でアルマの夫を訪ねます。
【毒のような女】(アーサー・ウインフィールド・ナイト)…キムと「ぼく」は、「ぼく」のハイスクール以来の友人のバッドの家に押しかけたペグを胡散臭く感じていました。
【地の果ての悪霊】(マーク・リチャード・ズーブロ)…一流のプロ野球のピッチャー・スコットと共にポルベニールまでやって来た「わたし」。しかし泊まった宿で奇妙な出来事が…。
【メインクーン奪回作戦】(ジョー・L・ヘンズリー)…ローバックのオフィスを訪ねて来たのは、エヴァンズ・キングマン。この町きっての名門の出ですが、賭博に負けてキング・トイという名のメインクーンと金色の首輪をボブ・アンソニーにとられていました。
【猫の棲む家】(メリッサ・マイア・ホール)…毎朝違った餌食を捕まえてくるキティキンズにうんざりしていたケイティ。そのうちに人間を襲うのではないかと不安になります。
【故郷なんて大嫌い】(D・C・ブロッド)…ハーリーの酒場で働くアニーは、トム・ロイドが酒場に入ってきた瞬間、トムに惹かれてしまいます。
【ライリーの優雅な一生】(ウェンディ・リー)…カルヴィン・ハーディングが亡くなり、17年近くも老人の話し相手をつとめてきたフレディー・ウィルスンは遺産が自分にではなく、猫のライリーに遺されたことを知ってショックを受けます。
(マーティン・H・グリーンバーグ&エド・ゴーマン編「CAT CRIMESIII Vol.2」宇佐川晶子他訳)

猫の事件簿シリーズ第5弾。ナンシー・ピカードの長編シリーズは以前楽しく読んだことがあるのですが、短編もなかなかのものですね。「猫が消える町」は、短いながらもマウント・フロレスタという町やそこに住む人々の明るい雰囲気が伝わってきて良かったです。そしてハーバート・レズニコウの「手向けの一筆」、ジョー・L・ヘンズリーの「メインクーン奪回作戦」も、なかなかのひねりがある作品です。(1995/02初版)


「in ハリウッド-猫の事件簿シリーズ」二見文庫(2005年9月読了)★★★★★

【死んで稼ぐ男】(テリー・ブラック)…予定を大幅に遅れている「世にも奇怪な物語」の撮影現場。ペイントボールで撃たれた俳優のクレッグ・ニューベリーが本当に射殺されていました。
【マジックの宮殿】エドワード・D・ホック)…13年間、掃除婦の傍らエキストラをしてチャンスを待っているジェニー・ストウは、<マジックの宮殿>の落とし戸の下に男の死体を見つけます。
【スターにごちそうを】(ローシェル・メージャー・クリーク)…親友でパートナーのケイトと<ギフト・バスケット>をしているレイニー・トルバートは、猫への届け物で撮影所に入ることに。
【不死身のタルバート】(バーバラ・コリンズ)…30年代の銀幕の大スター・シモーヌ・ヴェデットが急死し、その遺産は家政婦のルシンダ・ロペスと猫のタルバートに遺されることになります。
【スペースキャット】(バーバラ・ポール)…「サイバー・タイム」という宇宙冒険物の撮影途中で、準主役のネーサンが殺され、マックキャットは刑事たちの捜査に加わります。
【漫画スタジオの愉快な仲間】(ビル・クライダー)…人気漫画のキャラクターの元となったオウムのキャプテン・ボブがいなくなり、私立探偵のビル・フェレルがスタジオに呼ばれます。
【クレージー・ビジネス】(ジョン・ラッツ)…特殊な役柄を演じる女優を求むという掲示を見てエドウィンという男の所を訪ねたメガン・クラークは、秘密厳守で屋敷に滞在することに。
【終わりを待つ老優】(トレーシー・ナイト)…かつての人気コメディアン・パーシー・パークホッファーは、今は<ハリウッド元映画俳優の家>で猫のリジーと過ごす毎日。
【銀幕に愛を】(ジョン・L・ブリーン)…セバスチャン・グレイディは孫息子のチャーリーと映画を観て、その後、かつての知り合いバスター・キートンらの話をするのを楽しみにしていました。
【スキャンダルに猫一匹】(レス・ロバーツ)…有名映画スター・エリック・ウィンズロウに呼ばれた私立探偵・スカイラー・レインは、テニスシューズという名の猫を探すことに。
【霊媒猫の呪い】(ジル・M・モーガン)…ハリウッドのスターご用達の霊媒師・アレグザンドラ・アデアは、飼い猫のクリスタルを盗まれ、その奪回に乗り出します。
【母娘の絆】(ジャン・グレープ)…夫と娘に無理矢理誘われて、母娘ボウリング大会に出ることになったロビー。大会はハリウッドで開かれます。
【哀しみにくれる歌姫】(テッド・フィッツジェラルド)…<クラブ・キュラソー>で歌うメガン・モランのステージは大抵陽気。しかしその日は見るも痛ましいほどやつれ果てていました。
【喜劇の故郷】(P・M・カールスン)…女優のブリジット・ムーニーは、楽屋の外で待っていた青年・マイクとレストラン<マーフィーズ>へ。マイクは舞台に立ちたいと言うのです。
【猫の上前】(キャスリーン・デイン)…猫のエリザベスの収入で食べている心理療法士・マイクル・フェイヴァーは、その当座預金の25000ドルを何者かに取られそうになります。
【第二の天性】(リヴィア・ウォッシュバーン&ジェイムズ・リズナー)…スタントをしているベス・ハラムは、私立探偵をしている父親のルーカスの留守中、自分が代わりに仕事をすることに。
【ハリウッドは幻想の街】(ブルース・ホランド・ロジャーズ)…ジェフリー・ラスカの依頼は、コメディ俳優のジェリー・エリスを探してほしいということ。マディは早速仕事に取り掛かります。
(マーティン・H・グリーンバーグ&エド・ゴーマン編「CAT CRIMES GOES HOLLYWOOD」伏見威蕃他訳)

猫の事件簿シリーズ第6弾。今回は「in ハリウッド」というタイトルだけあって、映画やステージ、その周辺が舞台となり、実在の映画俳優の名前も多数登場してとても華やか。そのせいか今までで一番外れも少なく、全体的に面白かったです。特に面白かったのは、ブラック風味の「不死身のタルバート」。猫に自分の遺産を残すという話は時々ありますが、このようなオチが待っていようとは思いもしませんでした。何ともコミカルな「漫画スタジオの愉快な仲間」、郷愁が暖かく感じられる「終わりを待つ老優」、スラップスティック・コメディを地でいっているような「喜劇の故郷」、コメディ俳優の葛藤を描いた「ハリウッドは幻想の街」も良かったです。(1995/05初版)


「奇跡を呼んだ猫たちのおとぎ話」草思社(2009年5月読了)★★★★

【「長靴をはいた猫」が生まれるまで】… 「まだ長靴をはいてなかったころの「長靴をはいた猫」(イタリア)、「長靴をはいた猫」(フランス)、「裏切られた「長靴をはいた猫」(イタリア)、「ペーター卿と猫のお姫様」(ノルウェー)
【猫の王は誰だ?】… 「猫にご用心」(イングランド)、「ウォルター・スコット卿の猫」(スコットランド)、「われこそは猫の王なり!」(イングランド)
【ディック・ホイッティントンと猫の物語】… 「ホイッティントンと猫」(イングランド)、「幸運を呼ぶ猫と正直なペニー銀貨」(ノルウェー)、「六シリングの猫と若者」(アイスランド)
【グリム童話に登場する猫たち】… 「ブレーメンの音楽隊」、「貧しい粉引きの若者と子猫」、「幸運をつかんだ三人の兄弟」
【日本の忠義な猫たち】… 「娘を救った二匹の猫」、「ゴンとコマの駆け落ち」「猫を描いた少年」
【猫と人間の変身譚】… 「王女様になった猫」(インド)、「ライオンと猫の兄弟と玉に変えられた王子様」(北アメリカ)
【わが道をゆく猫たち】… 「コーナル親子とごろつき猫たちのたたかい」(アイルランド)、「それでも一人で歩く猫」(イングランド)
【苦労する末娘は猫に救われる】… 「やさしい継子の少女と動物たちの恩返し」(スウェーデン)、「猫村の猫たちと正直娘リジーナ」(イタリア)
【人間の運命を変えた猫たち】… 「三匹の白猫の手を借りたお姫様」(フランス)、「魔法の石と利口な猫」(北アフリカ)、「フルダおばさんとウインクする占い猫」(アメリカ)
【猫の目が光るとき】…「猫の目とハニグジェの命びろい」(オランダ)、「空とぶ妖精猫スクラッチ・トムとおばあさんの大冒険」(スコットランド)(「THE KING OF THE CATS」池田雅之訳)

世界各国の猫のおとぎ話ばかり全部で27編が集められている本です。
例えば「長靴をはいた猫」だけでも4つありますし、猫の王が死んで世代交代する物語は3つ。今まで猫のいなかった地方で猫を売って商人が大儲けしたという物語も3つ。同じ物語の様々なバリエーションが読めるというのがまず楽しいですね。「長靴をはいた猫」といえば、やはりシャルル・ペローの童話が有名ですが、ここではまだ長靴をはくようになる前の猫もいれば、恩知らずな主人に怒る猫も...。もちろん世界に散らばる「長靴をはいた猫」は、この4つだけではありません。猫以外の動物が活躍するバージョンもありますし、実際私自身、先日ラングの「むらさきいろの童話集」で、ガゼルが主役の物語を読んだばかりです。この「長靴をはいた猫」のオリジナルは、ジャッカルが主人公のインドの物語と考えられているのだそう。
そして、日本の猫の物語も3つ収められてました。そのうちの1つは、小泉八雲が欧米に伝えたもの。日本に赴任してた外交官が伝えた話も1つ。そのようにして世界中に広まっていくものなのですね。日本の猫といえば、まず油を舐める化け猫が思い浮かんでしまうのですが、こちらに収められているのは、もっと後味のいい物語。そしてこの本で嬉しかったのは、編者がそれぞれの作品に全く手を加えていないということ。例えば「ウォル ター・スコット卿の猫」は、ワシントン・アーヴィングによる「ウォルター・スコット邸訪問記」のままの一節なのです。
この中で私が一番好きだったのは、ルドヤード・キプリングによる「それでも一人で歩く猫」。世界中の動物たちが人間に飼いならされることになってしまっても、猫だけは自分の決して飼いならされることのない本性を失うことがないという物語。
手元に集まりながらも収録できなかった物語というのも沢山あったようです。確かに少し考えただけでも、鼠に騙されて干支に入り損ねた猫の物語や、逆に他の動物を騙すずる賢い猫の物語、猫といえば魔女の使い魔でもあるのでそういった物語、それ以外にも色々ありそうですね。しかしこの本に登場する猫たちは、程度の差こそあれ主人思いの賢い猫たち。毅然としていて他者に媚びませんが、一度信頼した人物にはとても誠実です。それもまた猫のもつ1面ということなのですね。(1999/03初版)


「赤ずきんの手には拳銃」原書房(2004年1月読了)★★★★

【おかしの家に囚われて】(エリザベス・エングストローム)…ローマンとの生活に疲れ果てていたシンディは、ローマンと前妻の子・フレディとキューピーを連れてフロリダへ。
【はだかの“皇帝”】(サイモン・ブレット)…ギャングの親分・エンプは、アドヴァイスをする子分たちに気紛れで天誅を与えるような人物。しかし突然悔い改め、マスコミの寵児となります。
【さあ、斧を持ってきておくれ】(サイモン・クラーク)…イギリスのミステリー作家・レベッカ・セント・テインは、ハリウッドの映画プロデューサーとの約束の場に向かう途中、車を木にぶつけて…。
【お墓に入ったかわいそうな坊や】(ゲイリー・A・ブラウンベック)…墓地の管理人をしているジョゼフ・アラン・コナーズは、墓穴の中に7、8歳ぐらいのボロボロの少年がいるのを見て驚きます。
【シンデレラを狙うのはだあれ?】(オードリー・ピーターソン)…シンデレラと結婚したプリンス・チャーミングの元へ、農民からと思われる脅迫状が。続いて狩場で王子の近くにいた馬丁が射られ…。
【「雪の女王」を探して】(シャーリーン・マクラム)…子供の頃仲良しだった幼馴染のカイは、堕落の一途を辿っていました。一度はカイは死んだと思うゲルダですが、外の世界へ探しに行くことに。
【狼は理由なく襲わない】(ジョン・ヘルファース)…真冬の森の中で狼の写真を撮ろうとしていたヘンリーは、森に飛行機が墜落したのを目撃。近寄ってみると、まだ25歳ぐらいの女性には息が。
【「十二人の踊るお姫さま」ふたたび】(アン・ウィンゲイト)…12人の娘たちが毎日昼寝ばかりしているのを見た支部長は、夜遊びをしているのではないかと疑い、見張りをつけることに。
【ラプンツェルの復讐】(ブレンダン・デュボワ)…夫のグレッグ・セルーシが、開発したプログラムのために拉致監禁され、その妻で女刑事のマリーは、詐欺師のクレムを雇って「シャトー」に潜入。
【白馬の王子】ウィリアム・L・デアンドリア)…友人の家のパーティの帰りに攫われた19歳のレイチェル・ハンヴァー。捕らえられて10日がたち、彼女のいる地下室の外に突然若い男が現れます。
【ズルタンじいさん】(マット・カワード)…ボスのミスター・シェパードに23年間仕え、ただ1回の失敗で殺されそうなったズルタンじいさんは、ボスの息子のトニーを狂言誘拐してしまいます。
【めでたしめでたしの後で】(ギリアン・ロバーツ)…おとぎの国に住むシンデレラの義姉・ローラが、シンデレラについて語ります。(「ONCE UPON A CRIME」)

グリム童話をモチーフに描かれたミステリ・アンソロジー。同じく原書房から出ている「白雪姫、殺したのはあなた」とは、元々は1冊の本だったのだそうです。「白雪姫〜」と同じようにブラックが効いており、1作目の「おかしの家に囚われて」から非常にインパクトが強いのですが、慣れもあるのか、全体的にはこちらの方が大人しく感じられました。この中で私が好きだったのは、「『十二人の踊るお姫様』ふたたび」。元のお話も好きなのですが、こちらもユーモアたっぷりの楽しい作品。この中で童話の設定をそのまま生かしているのは、「シンデレラを狙うのはだあれ?」と「めでたしめでたしの後で」の2つで、奇しくもどちらも「シンデレラ」を元にした物語。しかしその雰囲気や結末はまるで違うので、比べて読むのも楽しいです。私としては「シンデレラを狙うのはだあれ?」の明るさの方が好きですね。(1999/07初版)


「白雪姫、殺したのはあなた」原書房(2004年1月読了)★★★★★お気に入り

【白雪姫と11人のこびとたち】エドワード・D・ホック)…11歳で孤児になったエイミー・ブラッドリーは、10歳年上の継母・シビルと折り合いが悪く家を出ます。しかし父宛の書置きを悪用されて…。
【ダウンタウンのヘンゼルとグレーテル】(ジャネット・ドーソン)…グレタとハンクは、幼い頃に父を亡くし、酒浸りの母にも捨てられ、現在は路上生活。日々の食料を手に入れるので精一杯でした。
【狼の場合】(ビル・クライダー)…祖父がチベットで噛まれたせいで狼男の遺伝子を受け継いでしまった「ぼく」。マリー・グレイソンと飲んでいる時に口が滑り、彼女の祖母の窮地を救うことに。
【七人の…?】(ジョーン・ヘス)…ミス・ネージュは継母に与えられた仕打ちを精神科医に訴えます。
【“千匹皮”をフェイクで】(ダグ・アリン)…妻のクィーンを病気で亡くした、マフィアの支部長・キング。一家の相談役のジェイク・コーエンは、クィーンそっくりの女性を探し出します。
【白鳥の歌】(ジョン・ラッツ)…エージェントに転身するつもりだった歌手のトニー・キングは、悪名高いエージェント・ウィラ・ウィッチャーに脅迫され、彼女の娘のグレタと組んで売り出すことに。
【ラプンツェルの檻】(ジェイン・ハッダム)…トレイラーハウスに住む15歳のダニエル・マーカムは、金持ち息子のボビー・ドノヴァンと初めて「カーニバル」へ。そこには「ラプンツェル」が…。
【いさましいちびの衣装デザイナー】(レス・ロバーツ)…芝居の衣装の成功に気を良くしたオリヴァー・ジャルディニエールの話をマフィアが勘違い。ビッグ・シーザーの仕事を依頼されます。
【かしこいハンス】(ジョン・L・ブリーン)…ハンスはガールフレンドのグレーテルを誘ってアラスカ・クルーズ7日間の旅に参加。しかし自分が悪いタイミングの見本だと教えられてきたハンスは…。
【シンデレラ殺し】(クリスティン・キャスリン・ラッシュ)…深夜、王族居住区に呼び出された保安長官は、首を深く切り裂かれたプリンセス・シンデレラと、場違いな服装の男の死体を検分します。
【ブレーメンのジャズカルテット】(ピーター・クラウザー)…生まれる前からジャズを聴いて育ち、10歳でトランペットを始めたキャルは、18歳でアトランタのブレーメンの町の音楽コンテストに参加。
【狼と狐は霧のなかから】(エド・ゴーマン)…デイヴィッド・ハギンスは、ハイウェイでヒッチハイクしている美人に気づきます。しかし彼女はかつてのガールフレンドと同じ唇をしていました。(「ONCE UPON A CRIME」)

グリム童話をモチーフに描かれたミステリ・アンソロジー。
ほとんどの作品の舞台が現代のアメリカ。しかしそれぞれに元のグリム童話を彷彿とさせるようなブラックさを秘めています。グリム童話のように広く知られているモチーフだと、元々の話を知っているからこその楽しみもありますね。短い作品が多いために全体的にテンポが良く、最後のひねりに圧倒されてしまう作品が多いです。
「白雪姫と11人のこびとたち」11人というところがミソなのですね。「ダウンタウンのヘンゼルとグレーテル」最後まで救いのない話になってしまうのではないかとドキドキしてしまいました。「狼の場合」なんとも微笑ましい作品。「七人の…?」ネタはすぐに分かりますが、最後の情景を思い浮かべるとなんともホラー。「“千匹皮”をフェイクで」フェイクという言葉が、皮肉な結末になんともぴったり。「白鳥の歌」童話での王子と現実でのカントリー・バンドのギャップが可笑しいです。「ラプンツェルの檻」不思議な雰囲気。独特の魅力がありますね。思いもしない展開には驚きました。「いさましいちびの衣装デザイナー」よりによって、仕立て屋がゲイのデザイナーとなってしまうとは!しかしそれがとてもいい味を出していますね。「かしこいハンス」解説にもありましたが、本当に「ライ麦畑」のような語り口。「シンデレラ殺し」この本の中では、一番童話の世界に近いですね。氷室冴子さんの「シンデレラ迷宮」を思い出しました。「ブレーメンのジャズカルテット」「ブレーメンの音楽隊」をモチーフにしながら、しかし全く違う物語となっています。「狼と狐は霧のなかから」狼の方が一枚上手でした。最後の5行が圧倒的。
この中で特に好きなのは「いさましいちびの衣装デザイナー」。痛快です。(1999/08初版)


「昨日のように遠い日-少女少年小説選」文藝春秋(2009年5月読了)★★★★★お気に入り

【大洋】バリー・ユアグロー)…大洋を発見し、夕食の席で報告する弟。
【ホルボーン亭】(アルトゥーロ・ヴィヴァンテ)…ロンドンでレストランを探すイタリア人一家。
【灯台】(アルトゥーロ・ヴィヴァンテ)…13歳の時に訪れた南ウェールズの港の灯台。
【トルボチュキン教授】ダニイル・ハルムス)…子供向けの雑誌の編集部に来た有名な教授。
【アマディ・ファラドン】ダニイル・ハルムス)…ある音楽家・アマディ・ファラドン。
【うそつき】ダニイル・ハルムス)…知ってます?知ってます?
【おとぎ話】ダニイル・ハルムス)…ヴァーニャが書こうとするおとぎ話と小さなレーナちゃん。
【ある男の子に尋ねました】ダニイル・ハルムス)…どうして肝油が飲めるの?
【猫と鼠】スティーヴン・ミルハウザー)…猫と鼠の追いかけっこの果て。
【修道者】(マリリン・マクラフリン)…棒みたいに痩せてるのが好きな「あたし」は祖母の家へ。
【パン】レベッカ・ブラウン)…朝食のパンは精白粉(ホワイト)と全粒粉(ホイート)の2種類。
【島】(アレクサンダル・ヘモン)…古びた船で、ユリウス伯父さんの住むムリェト島へ。
【謎】ウォルター・デ・ラ・メア)…祖母と暮らすことになった7人の子供たち。(柴田元幸編)

「少年少女小説」ではなく、「少女少年小説」。なぜ「少女」が先なのかは結局分からなかったのですが、少女の登場する作品の方が鮮烈だからなのでしょうか。それとも少女の感受性の方が鋭く感じられるからなのでしょうか…。今現在の「少女少年」よりも、かつて「少女少年」だった人々への小説といった方が相応しく思える作品集。
「大洋」は、「大洋を発見した」などということがごく日常的な出来事のように語られるのが楽しいです。人間の小さな諍いと、それを嘲笑うかのように大きく広がる海の情景。穏やかで、でも哀しい海。アルトゥーロ・ヴィヴァンテの2作品はどちらも自伝的な作品で、主人公はどちらも少年時代のアルトゥーロ自身なのでしょうね。「ホルボーン亭」の少年の目に映った魅惑の世界とその微笑ましさ、「灯台」のわくわく感とその後の微苦笑が印象的。しかし具体的にはほとんど何も書かれていないのですが、それ以上に作品の背後に深い哀しみが潜んでるのも感じられて...。ダニイル・ハルムスは一度に大好きになってしまいました。どれもいいですが、特に気に入ったのは「おとぎ話」。「ある男の子に尋ねました」も最後にくすっと笑わせてくれます。「猫と鼠」は、「トムとジェリー」を文字だけにしたような作品。少し長すぎるようにも思うのですが、この長さだからこそ、鼠の孤独感が際立って感じられるのかもしれませんね。「修道者」は、大人になることに拒否反応を示す主人公、という辺りは正直あまり好きではなかったのですが、彼女の祖母や家の庭、アイルランドの海の情景が素敵。これを読んで梨木香歩さんの「西の魔女は死んだ」を思い出す人は多いでしょうね。「パン」は寄宿学校を舞台にした物語。圧倒的な魅力を持つ完璧な「あなた」に魅せられている「私」、ほんの一瞬の気の緩みが(実は以前からその予感は見えているのですが)、それまで積み重ねてきたものを崩れ落ちさせてしまうその苦さ。読みながら胸が痛くなってしまいます。「島」は、島自体が「青い空・白い雲」的な場所だけに、ユリウス伯父さんの語る話が生々しく迫ってきて、その影が濃く感じられます。「謎」はデ・ラ・メアらしいとても幻想的な作品。見てはいけない、と目をそらせばそらすほど、そこに目が吸いつけられてしまうもの。そして、どうなったのでしょう?
折り込みでウィンザー・マッケイの「眠りの国のリトル・ニモ」とフランク・キングの「ガソリン・アレー」というアメリカの新聞漫画も付いており、このマッケイがミルハウザーの「J・フランクリン・ペインの小さな王国」の主人公のモデルになっていると知ると、とても感慨深いです。
どの短編も良かったです。これは短編が基本的に苦手な私にしては、とても珍しいこと。そして特に気に入ったのは「大洋」「ホルボーン亭」「灯台」「パン」「謎」、そしてダニイル・ハルムスの作品。ダニイル・ハルムスと出会えたのは大収穫ですね。他の作品もぜひ読んでみたいです。(2009/03初版)

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