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このページは、大沢在昌さんの本の感想のページです。

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「アルバイト探偵(アイ)」廣済堂文庫(2002年3月読了)★★★★
【アルバイト・アイは高くつく】…隆の家庭教師・麻里が冴木探偵事務所に連れてきたのは、宗田という男。麻里の友人・桜内舞が誘拐され、宗田が現金5000万円を要求されているというのです。
【相続税は命で払え】…久しぶりの依頼人は色っぽい女性。彼女の依頼は、1週間前に亡くなった夫・鶴見康吉の隠し子探し。鶴見康は戦後最大の強請屋で、なんと10億の遺産がありました。
【海から来た行商人(スパイ)】…隆の元に、かつての涼介の同僚だという男達が訪れます。涼介が昔の仕事でやりあった悪の親玉の息子が、来日して涼介の命を狙っているというのです。
【セーラー服と設計図】…隆のところに、クラスメートの鴨居一郎がやって来ます。一郎は世界的に有名な建築家の息子で、一度付き合っただけの女の子に妊娠したと強請られていたのです。

適度に不良高校生であることを心がけている、都立K高校の2年生・冴木隆が主人公。彼と一緒に住んでいるのは、息子曰く「典型的な社会不適合者」である父親の冴木涼介。涼介の現在の仕事は冴木探偵事務所(インヴェスティゲイション)であり、時々隆にもアルバイトがまわってくるという連作短編集です。
登場するのは、とにかく個性的な人物ばかり。隆と涼介の住むマンションの大家で、1Fにカフェテラス「麻呂宇」を経営する圭子ママ、圭子ママの古くからの知り合いで「麻呂宇」を手伝っている星野「ドラキュラ伯爵」、現在美人家庭教師、昔は女暴走族のアタマの麻里、芸能界にスカウトされるほど可愛いのにJ学園で番長をやっている康子など、どの人物をとっても絵に描いたようなキャラクターぶりが楽しいですね。冴木隆と冴木涼介の関係や、冴木涼介の過去も徐々に明らかになっていきます。涼介は、実は元内閣調査室の凄腕エージェント?どうやら親友を死なせてしまったのが、今の仕事を始める1つのきっかけとなっているようです。
探偵事務所に依頼があった時点では比較的単純そうに見える事件も、意外な黒幕が出てきたり、思いがけない展開を見せたりと、盛りだくさんで飽きさせません。書かれたのが1980年代なので、今読むと違和感を覚える部分もありますし、「ディスコ」だの「ゾク」だのという死語もたくさん出てきます。しかしとにかくテンポが良くて読みやすいシリーズ。こんなコミカルなハードボイルドというのも珍しいですね。

「調毒師を捜せ-アルバイト探偵(アイ)」廣済堂文庫(2002年3月読了)★★★★
【避暑地の夏、殺し屋の夏】…東京地検特捜部の検事からの依頼は、一代で財を成した紡績商・米沢清六の未亡人・ウメのボディ・ガード。涼介と隆、麻里は早速軽井沢へ。現地に向かう途中で隆が出会ったのは、黒いポルシェを飛ばす黒ずくめの美女でした。
【吸血同盟】…麻雀で朝帰りした隆を出迎えたのは、遠藤由香子と名乗る健康的な女の子。彼女は、康子の紹介の依頼人。吸血鬼の犠牲になりそうになり逃げてきたというのです。
【調毒師を捜せ】…涼介を訪ねてきたのは金髪美女のジョーン。涼介に、調毒師・タスクを至急探し出す手伝いをさせるため、ジョーンは涼介のコーヒーにタスクの毒を仕込みます。残る時間は12時間。
【アルバイト行商人(スパイ)】…六本木で好みのお姉さんのナンパに成功した途端、黒人2人組にさらわれてしまった隆。目をさますとそこはホテルの一室で、部屋には40歳ぐらいの綺麗な女性が。隆はお小遣いとして100ドル紙幣を20枚もらって帰ってくるのですが…。

アルバイト探偵シリーズ第2弾。前回よりもさらに設定や登場人物がデフォルメされて、パターン化されており、読みやすさもグレードアップ。ほとんど漫画のノリですね。1作目で気になっていた部分もなくなっていて、ほっとしました。しかしアクションはさらに過激になっています。4作目「アルバイト行商人」では、とうとう隆と涼介の関係や、隆の本当の両親のことも明らかに。口では涼介のことを「典型的な社会不適合者」だの散々こき下ろす隆ですが、根っこのところではきっちり信頼しているのがいいですね。自分の母親かもしれない女性が絡んできても、その信頼は決して揺らいだりしないのですから。

「女王陛下のアルバイト探偵(アイ)」廣済堂文庫(2002年3月読了)★★★★★
今回冴木インヴェスティゲイションに来た依頼人は、内閣調整室の副室長・島津。東南アジアにあるライールという小さな島国の王女が来日するので、護衛をしてほしいというのです。その王女とは、現国王であるチャウモット三世と日本人である第2夫人・華子の間に生まれたミオ王女。来日の目的は日本の大学に留学するための下見。しかしチャウモット三世は現在癌で余命は半年、子供は第1・第2・第4夫人との間に出来た娘5人のみで、後継者をめぐって政情がかなり不安定になっていました。ミオ王女にも命の危険があるというのです。チャウモット三世亡き後の対日関係のことを考えると、日本政府が表立って警備や護衛に動けないということで、隆と涼介に護衛の役が回ってきます。

アルバイト探偵シリーズ第3弾。初の長編です。
ミオ王女と隆はどちらも17歳。2人の淡いロマンスを絡めて進むストーリーは、まるで「ローマの休日」。初めて女の子を本気で好きになったという隆が、なんとも初々しくて可愛いです。しかも、今まではあくまでも「アルバイト」という位置付けだった隆が、ミオを助けるために初めて自分の意思で動くようになるというのが、またいいですね。そんな隆を暖かく見守り励ます涼介も、既に立派な父親の顔をしてます。日本での刺客をやっつけたと思ったらミオ王女がさらわれ、物語は一気に海外進出。こうなると、まるで「インディ・ジョーンズ」のような展開。ミステリ的な要素も入って、今までで一番読み応えのある1冊になっています。やっぱり長編の方が、父と子の繋がりなどもじっくり書き込まれていていいですね。

「不思議の国のアルバイト探偵(アイ)」廣済堂文庫(2002年3月読了)★★★★
私立探偵のアルバイトで、すっかり出席日数が危なくなっている隆。担任の先生にも、あと1回でも遅刻や欠席をしたら留年だと脅かされてしまいます。そんなある日「麻呂宇」にやってきたのは、見知らぬ中年のロマンスグレー。キザで男前、しかし鍛え上げられた体を持ち、運転手付きのロールスロイスに乗る男。帰ってきた涼介に彼のことを話すと、「奴と俺が会えば、たとえそれがどこであろうと、そこは地獄になる」と、涼介にしては珍しくシリアスな様子。内閣調査室の副室長・島津からの電話で、涼介はその男に会いに出かけ、そして隆も早速麻里と後を追うことに。しかし銃撃戦に巻き込まれた隆が気がついてみると、そこは見知らぬ部屋だったのです。初めて見る母親と妹の姿に驚く隆。テレビは映らず、車にはナンバープレートがなく、外は到底日本とは思えない美しい街並み。その上、夜間外出禁止令があり、ライフルと拳銃を持った「保安部」の見回りが…。

アルバイト探偵シリーズ第4弾。前作に引き続き長編です。目が覚めたら、そこは異世界?今回、隆は気絶している間に見知らぬ街へと連れて行かれてしまいます。しかもいきなり優しい母親と可愛い妹ができてびっくり。最初は読みながら、これはまさか夢オチなのではと心配してしまいましたが… 納得です。しかしそんな状況でも、早速夜中に家を抜け出して街を偵察する隆はさすが。アルバイトにも年季が入っていますね。
それにしても、今回はドラマがありました。涼介が登場して初めて分かる怒涛の新事実にはクラクラ。涼介の過去、そしてその過去に関わっていた人々それぞれの人生。そういう街が世界のどこかに存在していても全く不思議ではないと思うし、そういう街で新人を育てたいと思う人物がいるのも当然かと思います。涼介と隆の論理は正しいけれど正しくないような。そういう世界って、そういう世界の人の論理って、そういうものじゃないんですかね。それにしても、読みながら思わず地図を取り出したくなってしまいました。実際には、どの辺りなのでしょう。

「アルバイト探偵(アイ)-拷問遊園地」廣済堂文庫(2002年3月読了)★★★★
冴木親子の住むサンタテレサアパートが、大家・圭子ママの亡くなったご主人の借金のカタに差し押さえられそうになって大騒ぎ。10年近く前に亡くなっている圭子ママのご主人は画家で、銀座で画廊をやっている幸本吉雄がその才能に1億円を投資していたのですが、最近になって急に大金が必要になったので返して欲しいと言ってきたのです。隆と涼介は、詳しい話を聞くために早速銀座へ。しかし涼介が私立探偵だと聞いた幸本は、ある頼みを聞いてくれれば1億円の借金を帳消しにしてもいいと言い始めます。その頼みとは、赤坂のホテルにいる幸本の取引先に小切手を持って行き、引き換えにある品物を受け取ってくるということ。2人は早速赤坂へ。しかし指定の部屋から出てきた男に渡された車のキーを持って駐車場へ行くと、そこにいたのは、なんと生後半年もたたない赤ん坊。銀座にとって返す2人でしたが、幸本も行方不明になっており、2人は仕方なく赤ん坊をサンタテレサアパートに連れて帰ることに。

アルバイト探偵シリーズ第5弾。
今回の発端は謎の赤ん坊。慣れない赤ん坊の世話に戸惑い、目の下に隈を作る男2人には笑えます。しかし涼介が隆を引き取った時、隆はもう赤ん坊ではなかったのでしょうか。ここまで慣れてないというのも、妙な気がするのですが…。赤ん坊のおしめが取れるのは2歳から3歳頃のはずですし、多少はそういうことをした経験もあるはず。しかしこの微笑ましい状況から、物語は一転して予想外の展開となります。今回は隆にかなりツラい状況ですね。やはり、普通はこんなことをされたらダメでしょう。ダメでも仕方ないと思います。それは隆が悪いわけじゃなくて、相手のやり口が汚いだけ。もちろん涼介だってこういう状況を乗り越えてきた上で、今の涼介として存在しているはずなのですから。しかし隆が意外な所で純粋さを見せるのが痛いです。こんな所で真面目な成長物語を見せられるとは思いも寄りませんでした。でもそれをきちんと乗り越えた隆は、失うものもあった代わりに得るものも大きかったはず。多摩川での父と子の姿が本当の親子っぽくていいですね。
この作品が一応シリーズの最終作。やっぱりこの続編というのは書かれないのでしょうね。これは隆が高校生だからこそのシリーズですし、それ以上大きくなったら新宿鮫になってしまいますものね。

「屍蘭-新宿鮫III」光文社文庫(2002年3月読了)★★★★★お気に入り
新宿署防犯課の「新宿鮫」こと鮫島警部は、新宿で高級コールガールの元締めをしている浜倉に偶然出会います。浜倉は面倒見のいい元締めで、その日も抱えている女の子の代わりに病院に文句を言いに行くところでした。女の子は恋人との子供が出来て産むつもりでいたのに、突然の腹痛で飛び込んだ病院で、いきなり子供を堕ろされてしまったというのです。しかし翌日、浜倉が自宅近くで死んでいるのが発見されます。死因は、体中の血管で血液が固まってしまうという「血管内凝固症候群」。前日の浜倉には、そのような様子は全く見られなかったのになぜそのようなことが。しかもそのような状態を引き起こすことができる毒物があるという話も、解剖にあたった監察医は聞いたことがありませんでした。初めは警視庁の機動捜査隊から来た刑事2人に協力する鮫島でしたが、その事件はやがて捜査一課の手に移り、鮫島はまたしても1人で動き始めます。そして浜倉が訪ねたという「釜石クリニック」にたどり着くのですが…。

新宿鮫シリーズ第3弾。相変わらず1人はぐれて行動している鮫島と、一見何の変哲もない普通のおばちゃんに見える島岡ふみ枝の話が平行して語られます。ふみ枝と綾香、そして現在植物人間の状態のあかね。彼女たちの関係はどこか歪んで異様です。鮫島は、まるで彼らに引きずり込まれていくかのように事件に関わることになります。
このふみ枝の存在がかなり不気味ですね。どこまで正気なのか、どこからが狂気なのか。もしかしたら全くの正気なのかもしれませんが、彼女を見ていると、まるでサイコ・ホラーを見ているような気分にさせられてしまいます。行動力と判断力もそこそこあり、綾香のためなら殺人でも何でもやってのけるふみ枝。綾香に頼まれたことだけではなく、綾香のためを思ってよかれと思ったこともやる。「良心の呵責」という言葉は彼女には存在しないようです。しかしそれでも、外見はあくまでも普通のおばちゃんなのです。
前半こそ真相を探ってうろうろする鮫島ですが、後半自分が狙われているのを察すると、俄然勢いが出てきます。かなり追い詰められ、時間制限も切られてしまうのですが、やはり土壇場での力の出し方が並ではありませんね。千街晶之氏の解説に「相当に理想化された極度の『格好よさ』を演出すべく著者によって計算され尽くしたキャラクター」という言葉があり、それは確かにその通りだと思います。それでも鮫島にはやっぱり確かな実在感があるんですよね。それが大沢さんの筆力なのでしょう。
あと桃井さんもいい味出してますね。鮫島の理解者がほんの少しずつでも増えていくのが嬉しいです。

「無間人形-新宿鮫IV」光文社文庫(2002年3月読了)★★★★★お気に入り
新宿に出回っている新しいクスリ、その名も「アイスキャンディ」。1錠500円で効き目は1時間、そのお手軽感と、外側がシルバーグレイの透明な錠剤でカッコよく映ることから、若者の間で急速に浸透しつつある薬でした。しかしこれはれっきとした覚醒剤だったのです。爆発的な流行を見せる前にたたこうと必死になる鮫島と桃井。しかし鮫島は新宿の街で捕まえた10代の少年からその卸元を探ろうとするのですが、数少ない手がかりは厚生省麻薬取締捜査官からの妨害によって断たれてしまいます。一方、そのアイスキャンディの製造を一手に担っているのは、地方の財閥・香川家の香川昇と香川進の兄弟。最初はわざと廉価で売り、一度商品を引き上げて品切れにさせ、その後高値で売りさばき、莫大な利益を得ようと目論む2人。そしてその卸を一手に担うのは東京の藤野組の角。角はアイスキャンディの独占を狙って動き始めます。

新宿鮫シリーズ第4弾。第110回直木賞受賞作品です。
とにかくものすごい勢いを持った作品。鮫島と晶、麻薬取締官の塔下と板見、香川兄弟、藤野組、晶の昔のバンド仲間・耕二と地元チンピラの平瀬などが複雑に入り乱れます。そこには様々な人間ドラマがあり、本当に物語の展開から目が離せません。どの人物をとっても、その視線だけで1つ物語が書けてしまいそう。特に麻薬取締官の塔下なんて、この作品ではそれほど表に出ているわけではないのですが、1つシリーズを持っても面白いのではないかと思えるぐらいでした。そして、勢いがありながらも、同時に周到に計算されている作品でもあるんですね。何と言っても意外だったのが彼です。あの伏線はこういうことだったのかと、本当に驚かされてしまいました。こんな所でクローズアップされるとは。大沢さん、さすがですね。
香川進の転落していく様にも、鬼気迫るものがありますね。アイスキャンディの仕掛け人という本来なら同情の余地のない立場にあるにも関わらず、思わず感情移入してしまいます。馬鹿だなあと思いつつ、なんとも哀れをそそりますね。薬の売人が自らその罠にハマってしまう話は聞くことがありますが、こんな風に描かれると、本当にリアリティがあって怖いですね。しかし誰だったか、麻薬に関する本を読んでいるうちに、自分も試してみたくなり、そして結局廃人になってしまったという英文学の人もいましたし(名前を失念)、あまりこんなに臨場感を持って描かれていると、少し不安になったりします。

「炎蛹-新宿鮫V」光文社文庫(2002年3月読了)★★★★★
新宿で起きた外国人グループによる電化製品の窃盗密売事件、コロンビア人街娼連続殺害事件、そしてラブホテル連続放火事件。鮫島がこの3つの事件を追っていると、コロンビア人街娼殺害事件の2番目の被害者となったリタ・エスコバルの部屋に、横浜植物防疫所の防疫官・甲屋公典がやってきます。リタの持っていたワラ細工に稲の大害虫となるフラメウス・プーパ「火の蛹」の赤い繭がびっしりついていたというのです。アルゼンチンの南部では、このフラメウス・プーパが大発生し、稲作は壊滅状態。国連食料農業機関FAOは今年はこの害虫のために世界的に大きな被害が出ると予測していました。しかしリタは引越し間近で荷物は既に別の場所に移されており、リタのの死を知った同居人のサンディとそのヒモのモハムッドも姿をくらましていました。日本にはまだ入っていなかったその害虫を無事に食い止められるのか。甲屋は翌日から鮫島の捜査に同行することになります。

新宿鮫シリーズ第5弾。
「無間人形」がジェットコースターのような作品だったせいか、こちらの作品は落ち着いて感じられますね。良くも悪くも肩から力の抜けた感のある作品。これはやっぱり一番大きなネタがゾウリムシだからなのかもしれません。次の稲作の収穫が全国的に壊滅する危険があるかもしれないとしても、やはりゾウムシですし。しかし窃盗密売事件、街娼殺害事件、ラブホテル放火事件という、初めは別々に見えた3つの事件が、複雑になりすぎずに自然に絡まりあっていくところは、さすがに巧いですね。
今回初登場するのは、消防士の吾妻と植物防疫官の甲屋。2人とも「プロはプロを知る」的なプロフェッショナルです。吾妻は「灰掻き屋」と呼ばれる火災現場の検証が仕事という消防士。この彼もなかなか実直そうで良い感じなのですが、個性的な甲屋には完全に負けてるかも。甲屋は本当に「虫」に対するこだわりが職人気質な防疫官で、物語の大半で鮫島とコンビを組んで一緒に歩き回るのですが、この2人の組合せが妙に面白い味を出しています。新宿鮫のレギュラーの登場人物の中では、鑑識係の藪といい勝負ですね。甲屋と藪が対面した時は笑ってしまいました。こんな2人が出合ってしまったら、ウマが合うか反感を持つかどちらかのはず。いえ、消防士の吾妻も一応藪の友達なのですが、やはり普通ですよね。どうせなら医者になりそこねた「藪」、甲虫に自然に興味を持った「甲屋」に習って、消防士をするしかなかった「火消」みたいな名前だったらよかったのに。(笑)
「炎蛹」は実際は虫の名前として登場しますが、ラブホテルに仕掛けられた発火のための装置も「炎蛹」という名前がぴったり。そんな所まできちんと考えられているのでしょうね。

「氷舞-新宿鮫VI」光文社文庫(2002年7月読了)★★★★★
ここ半年ほど、置き引きやスリ、ひったくりなどの被害にあったクレジットカードが、間をおかずに国外で使われるという現象が多発。そしてひったくりの常習犯の自供から浮かんできたのは、日系コロンビア人・ペドロ・ハギモリでした。ハギモリは盗まれたクレジットカードを買い漁っていたのです。しかし鮫島がハギモリの部屋の張り込みを始めてから、初めてハギモリが午前零時になっても帰ってこなかった夜、西新宿の高層ホテルで殺人事件が発生。被害者がコカインを所持していたことから、鮫島は2つの事件に関連があることを知り、早速現場へ向かいます。被害者はかつてCIAの仕事もしていたアメリカ人・ハーラン・ブライド。しかしその現場に、なぜか公安外事1課が異例の介入をしてくるのです。鮫島はすっかり捜査の蚊帳の外に。一方、すっかり有名になってしまった晶に対して、どうしても距離をおいてしまう鮫島。お互いに仕事が忙しく、なかなかデートもままならない状態。そんな時、鮫島は監察医の藪に誘われて1人芝居の舞台を見に出かけます。そこにいたのは、ミステリアスな舞台女優・MAHO。鮫島は盗難クレジットカードの捜査で、彼女と再会することになります。

新宿鮫シリーズ第6弾。
今回は珍しく恋愛要素が前面に出てきます。最初の舞台の場面があまりに唐突だったので驚きましたが、杉田江見里という女性もなかなか魅力的ですね。もう少しつっこんだ部分が読みたかった気がしますが、でもある意味これが限界なのかも。晶との関係も新たな局面。あまりこっちの方面へ深入りして欲しくはないのですが、シリーズ6作目ともなるとマンネリを避けるために仕方ないといったところでしょうか。
そして今回物語の中心となるのは、新宿での事件というよりも、鮫島と公安警察との攻防。この公安の薄気味悪さがとてもいいですね。多少複雑ではありますが、その独特な体質というものがよく伝わってきます。それに今まで単なる悪役だった同期の香田警視正が、また違った角度から描かれており、意外な一面を見せてくれるのも魅力の1つ。考え方も主義も違う2人ですが、だからといってどちらが正しいとは一概には言えないわけです。あくまでも鮫島とは別の道を歩むしかない香田ですが、こういう風に描かれるとそれなりに納得させられてしまいますね。今後どういった役回りとなっていくのでしょう。この香田との関係を含めて、今回生じた様々な人間関係の変化が、今後どう展開していくのかが楽しみです。

「エンパラ」光文社文庫(2002年12月読了)★★★★★
「旬な作家15人の素顔に迫るトーク・バトル」とある通り、ここに登場する15人は、船戸与一、京極夏彦、藤田宣永、瀬名秀明宮部みゆき北村薫、梅原克文、綾辻行人真保裕一小池真理子白川道、志水辰夫、北方謙三、内山安雄、浅田次郎と、今まさに活躍中の豪華メンバー。1995年6月から1996年8月まで「小説宝石」に連載されていた対談をまとめて本にしたものです。

副題は「旬な作家15人の素顔に迫るト−ク・バトル」。
大沢在昌氏の話の進め方が上手いのか、緩急織交ぜた質問がいいのか、ゲストがなかなか多彩なおしゃべりをしてくれるのがとても面白く楽しい対談集です。1日に何枚書いているかなどの質問は、作家さんによってかなりバラつきがあって驚いてしまいますね。1日当たり10枚以下という作家さんが並ぶ中で、京極さんの60〜70枚(「魍魎の匣の最後の方)、宮部みゆきさんの1日半で145枚というバッケンレコードというのは、あまりにイメージ通り。(笑) それと、北方謙三氏が、仕事を減らしても2ヶ月に1冊本を出しているというのにも驚きます。
京極氏との対談に宮部みゆきさんが乱入したり、夫婦で作家をしている藤田宣永氏と小池真理子氏の両方からの話が聞けたりと、なかなか楽しめる対談集でした。結構プライベートな話も読めるので、各作家さんのファンの方は必読でしょう。対談のタイトルにも注目。

「船戸与一は石持て追われる夢を見る」「京極夏彦もまた、妖怪だった」「藤田宣永は旦那に憧れている」「瀬名秀明は恐竜の交尾が見たい」「宮部みゆきはキツネつきである」「北村薫は冒険小説作家である」「梅原克文はSF原理主義である」「綾辻行人は禁欲主義者?」「真保裕一はケバさに目覚めた」「小池真理子は司会も上手い」「白川道は自分に期待している」「志水辰夫は不器用である」「北方謙三は二十二の時からスターだった」「内山安雄は濃い取材をしている」「浅田次郎は読者に福音を授けたい」
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