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このページは、大沢在昌さんの本の感想のページです。

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「らんぼう」新潮社文庫(2002年3月読了)★★★
身長185cm体重100kgという大柄なウラと、ウラより20cmも背が低い小柄なイケ。この2人の共通点は喧嘩っ早いこと。「史上最悪のコンビ」とも「最も凶暴なコンビ」と呼ばれる2人は、なんと検挙率ダントツのたたき上げの刑事。しかし検挙率ダントツの代わりに、容疑者の受傷率もダントツ。地検に厳重注意された時に、平気で「生きてりゃいいだろう、生きてりゃ」と言ってのけてクビになりかけた2人です。とにかく「らんぼう」、でも基本的に気はいい2人。そんな2人の連作短編集です。

ものすごい暴走ぶりなんですが、その大暴れっぷりが楽しいですね。それも普通の人間に乱暴するのではなく、それなりに悪いことをしている人間が相手のことなので、読んでいてすかっとします。実は正義感たっぷりで、弱い者には優しい2人。この題名の「らんぼう」は「乱暴」ということでいいのでしょうか。もしかしたら映画の「ランボー」ともひっかけているのかもしれませんね。しかし漢字でもカタカナでもなく、ひらがなにしたところが、なんだか2人の雰囲気を表していますね。そして西原理恵子さんの表紙も本当にぴったりで、目を引きます。それに漫画になっている解説もまた面白いのです。「金角銀角」という作品を元にしてるそうなので、そちらも一度見てみたくなってしまいます。
この中では、イケが入院する「おっとっと」が気に入りました。イケが交通事故で右足を骨折して入院、小学校4年生のアキトという男の子の隣のベッドになるのですが、イケの「社会勉強」がいいですね。アキトをひき逃げした犯人も無事見つかって、一件落着。アキトが小学校4年の割にモノを知らなさすぎるのが少し気になりますが(その年なら、ヤクザぐらい見れば分かるでしょう)しかしこの邪気のない視線がまた可愛いのです。でもこんなに生きている実感のある2人に社会勉強を教わったら、前途有望といよりも後が怖いです。(笑)

収録作品:「ちきこん」「ぴーひゃらら」「がんがらがん」「ほろほろり」「ころころり」「おっとっと」「しとしとり」「てんてんてん」「あちこちら」「ばらばらり」

「灰夜-新宿鮫VII」光文社文庫(2004年6月読了)★★★★★
鮫島同様、キャリアとして警察庁に入庁した同期・宮本武史の自殺から6年。鮫島はその7回忌の法要に出席するため、3日間の休暇を取って宮本の郷里の町へと向かいます。鮫島は法事に1日、そして東京に帰った後の2日を晶との時間に当てようと考えていました。しかし法要が行われる寺の外には地元県警の公安課員の車が待機しており、チェックインした観光ホテルでは九州厚生局麻薬取締部の寺澤と名乗る男の接触が。しかもこの日初対面の宮本の旧友・古山に連れられて飲みに行ってホテルに帰ってきた鮫島は、寺澤の名前を騙る何者かに拉致されてしまうのです。次に鮫島が気付いてみると、そこは人気のない動物園のような場所の檻の中。警察手帳も消えうせていました。

新宿鮫シリーズの7作目。
今回の舞台は新宿ではありません。かつて同期だった宮本武史の郷里、おそらく鹿児島の街が舞台の、たった3日足らずの物語。シリーズのいつもの面々もまるで顔を出しませんし、番外編的な物語。しかし鮫島が檻の中で気付く場面から始まる物語はいつも以上のスピード感を持っており、一体何が起きたのか分からないまま、一気に物語の中に引き込まれてしまいました。
檻の中のシーンに挟まれているのは、自分の身に一体何が起きたのか思い出そうとする鮫島の回想シーン。キャリアとして警視庁に入庁したこと、そこで持った疑問、そして6年前の宮本とのやりとりや彼の手紙にまつわることなどが回想の中で語られていき、鮫島を巡って6年前に一体何があったのか、なぜ今の状態になったのかという、シリーズ全体の核心に触れることになります。先に番外編と書きましたが、そういう意味では、これまでシリーズ作品の集大成とも原点とも言える作品なのではないでしょうか。鮫島にとっては不幸な偶然の積み重ねとなったこの事件ですが、新宿にいる味方から引き離され、「新宿鮫」という名前の威力が届かない遠い地で事件に巻き込まれたこと、しかもそのままそ知らぬ顔をして東京に帰れる状況になったにも関わらず、結局動かずにはいられない自分と直面することなどから見ても、シリーズの原点に戻っているように感じられました。今回、一匹狼の鮫島ならではのタフな面も堪能できますし、改めて底力を感じさせてくれます。久々に鮫島らしい鮫島を見ることができました。「絶望」ではなく「怒り」を感じ、物事を簡単に諦めない鮫島だからこそ、宮本も信頼したのでしょうし、今まで生き残ることができたのでしょうね。
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