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このページは、レベッカ・ブラウンの本の感想のページです。

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「体の贈り物」新潮文庫(2004年10月読了)★★★★★
「私」は、UCSことアーバン・コミュニティ・サービス(都市共同体サービス)に所属するホームケア・ワーカー。死期が迫って体が言うことをきかなくなり、自分の身の回りのことをするにも不自由になった患者たちを訪ね、世話をしてます。家を掃除し、料理を作り、入浴をさせ、話し相手となり、時には患者を抱きしめる「私」。…「汗の贈り物」に始まる、11の連作短編集です。(「THE GIFTS OF THE BODY」柴田元幸訳)

ラムダ文学賞、ボストン書評家賞、太平洋岸北西地区書店連合賞受賞作品。
11の短編は、それぞれにごく短いもの。特に派手なエピソードもありませんし、日常的な情景が淡々と描かれていくだけです。しかしそれが逆に、それぞれの物語から鮮やかな情景を浮かび上がらせているような気がします。これはやはり、このシンプルな文章によるものなのでしょうね。余分な情報は一切そぎ落とされた文章。私がこの本を読み始めた時、主人公である「私」は何をしている人なのか、そして男性であるのか女性であるのかすらも、分からなかったほどです。「私」がホームケア・ワーカーをするようになったきっかけもなども、まるで書かれていません。
しかしこの主人公にとっては、患者と同じ場所に立ち、同じ視点で物事を見て、患者と触れ合いながら過ごしている「今」こそが全て。そう遠くない将来、確実に死んでしまう患者たちですが、彼女の目の前にいるのは、まだ確かに生きている人間なのです。単に「患者」と「世話係」という関係でなく、1人の人間として向かい合い、お互いを尊重し合うことによって、その関係はまるで違ったものになるのですね。こういう仕事をしていると、おそらく相当精神的に消耗すると思いますし、実際、「私」も時にはどうしていいのか分からず、迷ったり悩んだりもしています。しかし患者たちのことをとても大切に思っているということだけは、常に真実。そして、常に真摯に患者を見てきた主人公は、それぞれの患者たちの贈り物を受け取ることになります。それは決して物質的な物ではなく、患者のことを見つめてきた主人公だからこそ、受け止められる精神的な暖かさ。患者自身は意識もしていない贈り物です。「死」からは切っても切り離せないエイズという病気の物語ですが、 この贈り物のおかげで、哀しい中にも暖かい気持ちの残る作品となっています。
この本の中で特に印象に残ったのは、最初の「汗の贈り物」。病院に行ったリックの部屋で、リックの汗の匂いを感じ、そしてリックが残しておいてくれた物を見る場面です。あとは「動きの贈り物」で、ホスピスに入ったエドが言う、ホスピスの順番待ちをしているというのは、誰かが死ぬのを待っているということだという言葉もとても痛かったです。
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