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このページは、脇明子さんの本の感想のページです。

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「魔法ファンタジーの世界」岩波新書(2007年6月読了)★★
本の紹介によると、「『指輪物語』『ゲド戦記』『ナルニア国ものがたり』。子どもたちを、そして今や大人たちをも惹きつけてやまない、魔法ファンタジーの不思議な魅力の秘密を解きほぐしていく。伝承の世界にその系譜を探り、細部のリアリティにその力を見出し、さらにそこには危険な罠すらひそんでいることも明らかにする、本格的な案内の書」とのこと。脇明子さんの翻訳されているファンタジー作品は何冊か読んでいるので手に取ってみました。

リアリズム作品には良し悪しを見分ける基本的な尺度があるけれど、ファンタジーには分かりやすい尺度がない、というのは私自身感じていたこと。矛盾があるからといって良いファンタジーと言うことはできないし、その逆も言えるというのもよく分かりますし、ファンタジー作品の場合、その作品ごとのルールがあり、それがまた尺度を作りにくくしている原因だというのも同様。脇さんが「ゲド戦記」や「指輪物語」「ナルニア」に関して書いてらっしゃる部分もとても興味深かったですし、ケルト神話やアーサー王についても、分かりやすく書かれていたと思うのですが、読むほどに反感の募る本でもありました。
その原因は、脇明子さんの上から見下す視線と、十把一絡げの決め付けを終始感じてしまったこと。例えば、脇明子さんはライトノベルやゲーム、アニメを十把一絡げに切り捨てて、「ご都合主義のライトノベルの類が、読むに値しない本であることはかんたんに説明できる」と書かれています。しかし脇明子さんは、本当にそれらを知った上で批判してらっしゃるのでしょうか? この文章を読む限り、到底そうは思えません。私もあまり詳しくはないのですが、それでも私自身が読んだいわゆるライトノベルには、ご都合主義ではなく、しっかりしたいい作品がいくつもあったことを知っています。アニメやゲームにも、そういった作品はあるはず。しかし脇さんの文章を読んでいると、「ライトノベル」そのものを知っているというよりも、「他人の語るライトノベルに対する評価」から語っているような印象。もちろんいくつか実際に手に取られているのかもしれません。しかし仮にそうだとしても、一部を知り全体を知ることはあると思いますが、脇明子さんの文章からは、一部から類推した全体像を狭い視点で決め付けすぎているように感じられてしまうのです。
そして、この本の中に「読むに値するファンタジー」については具体的に沢山出てくるのですが、そうでない作品、脇明子さんが「とうていいいとは思えないようなファンタジー作品」とは何なのか、きちんと書かれてないのも疑問です。これはぜひとも書いて頂きたかったところ。あまり人気のない忘れられた作品ならまだしも、「子どもたちが好んで手にしている」という本。なぜ「具体的に作品名を挙げるわけにはいかない」のか、私には理解できませんでしたし、ここで具体的な作品名を挙げないのは、あまりに論拠薄弱のように思えます。もちろんそういった具体例を出すことによって生じる問題も色々とあるとは思いますが、そういった部分が欠落しているからこそ、この本全体が上っ面だけのことに感じられてしまうのではないかと思います。エンデの「魔法のカクテル」とダールの「チョコレート工場の秘密」についての否定的な意見はありましたが、到底それだけではないはず。
ただ、これだけは絶対的に同意できるという部分もありました。それは、ナルニアは全7巻を一気に読むのではなく、1冊ずつじっくりと読み返して馴染んでから次に進んだ方がいいということ。「たとえ最後で裏切られたように感じても、それまでにゆっくりと育ててきた愛情が色褪せてしまうことはなかっただろう」というのは、まさにその通りだと思います。そういう意味でも、子供の間に読んだ方が幸せな本の1つだと思いますね。しかしだからと言って、「ナルニア」のこの激しいネタバレは許されません。「ナルニア」を最後まで読んでない方は、この本は読まない方が身のためだと思いますす。
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