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このページは、有栖川有栖さんの本の感想のページです。

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「有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー」角川文庫(2004年4月読了)★★★
I 読者への挑戦
【埋もれた悪意】
(巽昌章)…売れないミステリ作家・矢島太郎のもとに父の友人である半田仁蔵からアームチェア・ディテクティブの依頼が入ります。かつて世話になった社長の息子の本物は…。
【逃げる車】(白峰良介)…時速150キロものスピードでポルシェが街中を疾走。ポルシェが村木医院の前に着くと、運転していた本井太郎は調剤室に飛び込み、青酸カリを飲んで死亡したのです。
【金色犬】(つのだじろう)…新宿の高台にあるお屋敷で、次々と殺人事件が起こります。なんと真っ赤な目をした金色の犬が現れて喉を食いちぎったというのです。少年探偵ジョニー弘田が活躍。
II トリックの驚き
【五十一番目の密室】
(ロバート・アーサー)…アメリカ探偵作家クラブの月例常会で、新機軸の密室トリックを思いついたと話していたゴードン・ワグナーが、まさにそのトリックで殺されていました。
【<引立て役倶楽部>の不快な事件】(W・ハイデンフェルト)…英国南部にある「引き立て役倶楽部」の別荘の敷地内に建っていた山荘に死体があるのをワトスン博士が発見します。
【アローモント監獄の謎】(ビル・プロンジーニ)…アローモント監獄の所長の「私」が立ち会った絞首刑で、垂直に落下したと思われた死刑囚が消滅していしまうという事件が起こります。
III 線路上のマジック
【生死線上】
(余心樂)…ローザンヌ発ビエンヌ行き列車に乗っていた男性が殺され、被害者が持っていたメモから、李立勉が容疑者に。しかし彼はビエンヌ発ローザンヌ行き列車に乗っていたのです。
【水の柱】(上田廣)…梅津工業社長梅津定吉が溺死体となって発見されます。ポケットから乗車券が見つかったことから、列車から落ちたものと考えられるのですが、その列車の車掌からの投書が。
IV トリックの冴え
【「わたくし」は犯人…】
(海渡英祐)…学生時代に仲の悪かった同級生・康子に付き合っていた男性を奪われた小村美枝子は、彼の出張中に彼女を殺してしまおうと画策します。
【見えざる手によって】(ジョン・スラデック)…探偵となったサッカレイ・フィンへの依頼は、画家のアーロン・ウォリスのボディ・ガードの仕事。アーロンが金曜日の午後9時に死ぬという脅迫状が入ったのです。

有栖川さん編集のアンソロジー。ご本人も「ガチガチの本格」と書いてらっしゃる通り、「北村薫の本格ミステリ・ライブラリー」に比べ、正統派のミステリが多いようです。
この中ではまず、ホームズやポワロ、ミス・マープルにクイーンと、名探偵の名前が沢山登場する「<引き立て役倶楽部>の不快な事件」が、一読の価値ありですね。名探偵の名前が続々と登場するだけでも楽しいですし、さすがの「引き立て役」がまた楽しいのです。そして私としては、作品全体の雰囲気とトリックの落差の大きい「アローモント監獄の謎」がお気に入り。あと、「埋もれた殺意」「逃げる車」には、完全に意表を突かれました。いいですね。「『わたくし』は犯人」も良かったです。トリックの使い捨てというのが、なんとも重層的に効いていて上手いですね。
ロバート・アーサーの「五十一番目の密室」は、北村さんの選んだローレンス・G.ブロックマン「やぶへび」のネタバレをしているという作品。本書にも書かれていますが、「やぶへび」を先に読んでおきましょう。余心樂の「生死線上」は、スイスの時刻表トリックが意外な作品。「中国の伝統的な兵法、特に三十六計なんかは、ほとんどがアリバイについての原則になっている」という言葉が興味深かったです。

「迷宮逍遙」角川書店(2004年8月読了)★★★★
有栖川さんがこれまで書かれてきたミステリの文庫解説を中心に、共著の評論集やブックガイドなどに所収されていた文章を加えてまとめて1冊にした本。収録は発表順とのことですが、同志社大学推理研究会OBとして本名で発表した、鮎川哲也氏の「鍵孔のない扉」の解説に始まり、同じく鮎川氏の「黒い白鳥」の解説に終わるという、「美しい」構成となっています。

とにかく、紹介されている本を読みたくなってしまう1冊。解説という大上段に構えたものではなく、一読者として作品を楽しみ、その上で書いているのが伝わってくるからなのでしょうね。特にホームズ物は小中学校の頃に読んだきりなので、とても懐かしくもあり、色々と読み返したくなってしまいました。最初に読んだ時は、まさに有栖川さんが書かれているように「初な子供の頃はホームズおじさんの迫力で納得させられてしまった」のですが、今読んだらまたまるで違う印象を受けるのでしょうね。久しぶりに再読したという有栖川さんが、大人になった今でも楽しく読めたと仰っているのも心強いです。

「作家小説」幻冬舎(2003年12月読了)★★★★
【書く機械】…新人賞を受賞してデビューしたものの、可もなく不可もない実績しか築けていない益子紳二は、出版界の寵児として生まれ変わるために出版社の地下室に連れていかれ…
【殺しにくるもの】…日本各地で類似した殺人事件が起きていました。その特徴は、死因が矩形をした凶器による見事な一撃であることと、被害者の知的水準が一般よりもやや高めであること。
【締切二日前】…伸ばしに伸ばした最後の締め切りが2日後だというのに、何のアイディアも浮かばず困っている川村耕太郎は、大学時代からネタを書き留めている創作ノート相手に苦闘します。
【奇骨先生】…高校の図書委員をしている吉沢梨奈と島貫直哉は、地元に住む作家・富田奇骨をインタビューすることに。しかし島貫が作家志望と知った途端、奇骨先生の機嫌が悪くなり…。
【サイン会の憂鬱】…デビューして1年そこそこの新進作家・勅使河原秀樹に、サイン会の依頼が入ります。依頼してきたのは、勅使河原の故郷の町の書店。勅使河原は憂鬱になるのですが…。
【作家漫才】…芥川正助と直木正太という2人の作家による漫才。
【書かないでくれます?】…出版社の編集をしている井上美紗緒は、作家となった友人・赤木慶也に出会います。しかし絶賛された「成長の記録」の話が出るたびに、赤木の様子が妙なのです。
【夢物語】…ドリームボックスと呼ばれる医療器械の不調で覚醒しなかった鰍沢文雄は、小説家という概念のない夢の中の世界で、自分が今まで読んだことのある古今東西の物語を語っていました。

「作家」が主人公となった作品ばかりを集めた短編集。あとがきに「ミステリーでもホラーでも冒険小説でもなく、SFでもファンタジーでも漫才(?)でもない」とある通りです。「ジュリエットの悲鳴」に収められている「パテオ」や「登竜門が多すぎる」のような雰囲気。
ここに書かれているのは、作家としての生活の内側を覗き込んだような気になれる話ばかり。「殺しにくるもの」のようなファンレターを実際受け取ることがあるのか、「締切二日前」のネタは、もしかして本当に有栖川さんご自身の創作ノートにあるネタなのではないのか、「サイン会の憂鬱」のサイン会の状態は、人の集まらないサイン会に対する潜在的な不安なのか、本当は編集者に言いたいことを我慢しているのか、それともこういう変なファンに悩まされた経験があるのかなど、色々想像してしながら読んでしまいました。ホラーだったりサスペンスだったりユーモアだったりと表面上の作風は様々ですが、その根底に流れているものはなかなかブラックです。
この中で私が一番好きだったのは、「書く機械」。オチは予想できますが、しかし鬼気迫っていますね。人によってはふざけていると怒り出しそうな「締切二日前」も最後の一文で笑えましたし、「書かないでくれます?」の背筋が寒くなる感覚もなかなか良かったです。それに、そのままではバラバラの印象だったであろう作品群を、「作家小説」という題名が綺麗にまとめていますね。

「絶叫城殺人事件」新潮社(2002年11月読了)★★★★★
【黒鳥亭殺人事件】…アリスの元にかかってきたのは、大学時代の友人・天農仁からの7年ぶりの電話でした。天農は画家で、現在は5歳の娘の真樹と一緒に兵庫県北部の日本海側にある黒鳥亭に住んでいます。火村を連れてきてくれという切羽詰った声に、2人は早速翌々日黒鳥亭へ。
【壺中庵殺人事件】…壷中庵と呼ばれる地下室の部屋で殺されていた壷内刀麻。現場は密室、容疑者は通いの手伝い・田島絹子、隣の家に住む息子・壷内宗也、碁敵・熊沢房男の3人でした。
【月宮殿殺人事件】…1人のホームレスが廃物だけで建てた「月宮殿」。三階建ての上に塔を兼ねたペントハウスまであったというその建物は壮絶であり、しかもグロテスクな美を醸し出していました。しかし1年後、アリスが火村を連れてきた時、その建物は既に燃え尽きていたのです。
【雪華楼殺人事件】…鞍馬山の奥深く、雪華楼と呼ばれる廃屋に勝手に住み着いていた若い男女。近くに住む民芸品作家からの110通報で巡査たちが駆けつけてみると、そこには屋上から落ちたと思われる若い男性の死体が。しかし後頭部には、他殺を思わせる裂傷があり…。
【紅雨荘殺人事件】…映画で有名になった「紅雨荘」で起きた自殺。死んでいたのは、かつてベニッシュ化粧品で辣腕を発揮していた元社長の飯島粧子。その死体を発見したのは、母の様子を見に来た息子の美樹彦でした。しかしその死は実は自殺ではなく、他殺だったのです。
【絶叫城殺人事件】…大阪で起きていた、若い女性ばかりを狙った連続通り魔事件。被害者の口の中には紙が詰め込まれており、一番最近の被害者の口にあった紙には、「ナイト・プローラー」という文字が。それは一部で人気のあるホラー系のゲーム「絶叫城」に出てくるキャラクターでした。

作家アリスと火村のシリーズの11冊目。
これまで避けていたという「○○殺人事件」というタイトルを敢えて6つ並べたところに、有栖川さんの意欲を感じる短編集。それぞれの館の名前も風情があって美しいですね。この中では「壺中庵殺人事件」のみ既読。
「黒鳥亭殺人事件」この中に出てくる「二十の扉」という遊びはしたことがないのですが、でも確かに推理小説に似てますね。面白そうです。少々後味の悪い事件ですが、ラストをロマンティックにしめるところが有栖川さんらしく感じられます。しかし真樹ちゃんは5歳にしては利発すぎです!「アリとキリギリス」に関しては、2人の意見に同感。 「月宮殿殺人事件」 この謎を解くにはある程度の知識が必要ですが、しかしヒントはきちんとあるのですね。それにしてもこのファックスが可笑しいです。先に要点を書けばいいのに、思わせぶりですね。「雪華楼殺人事件」 これは狙ってできるものではないですよね。しかし本当にあり得るのかと思いつつも、特に嫌な感じはしないです。「紅雨荘殺人事件」雰囲気がとても好きな作品。アリスが「甘ったるい映画」を見て不覚にも涙を流したなど、面白いエピソードも楽しめます。「絶叫城殺人事件」ゲームの絡め方がいいですね。しかし私もテレビゲームによって、現実と仮想の境界線が甘くなるなどということはないと思います。リセットボタンの存在によって、特定の物事への執着心は薄くなっているかもしれませんが。火村やアリスの視線が、とてもこのシリーズらしさを出していますね。
題名だけを見ているといかにも「館物」なのですが、しかし普通の館は「黒鳥亭」と「壺中庵」「紅雨荘」の3つのみ。月宮殿はごみを集めて建てられたお城ですし、雪華楼も打ち捨てられてしまった廃屋。六角形でなかなか凝った建物のようですが、「鉄筋コンクリート七階建て」という散文的な形容がされています。そして「絶叫城」に至ってはゲームのタイトル。しかしとてもバラエティに富んだ短編集ですし、逆に6つ並べた時のまとまりもとても良いですね。それにやはりそれぞれの館の名前がとっても綺麗。私が一番好きなのは「月宮殿殺人事件」 。月の光に映えてそびえ立つ月宮城の情景と、ラストの余韻が好きです。全体的に夜の雰囲気を感じましたが、あとがきにもそのような記述があり納得。全編を通して、夜の余韻の残る短編集でした。

「作家の犯行現場」メディアファクトリー(2004年4月読了)★★★★
ダ・ヴィンチ誌に連載していたエッセイをまとめた本。ミステリ作品ゆかりの地を訪ねるということで、訪ねた場所は、恩田陸「puzzle」の舞台ともなった軍艦島に始まり、横溝正史作品の舞台や江戸川乱歩ゆかりの地、森博嗣「そして二人だけになった」の舞台、明石大橋のアンカレイジ内や綾辻行人「霧越邸殺人事件」の霧越湖のモデルとなった白駒池など全部で21箇所。その合間には、「水底の摩天楼」「騙し絵奇譚」という短編も。

21箇所の紹介の中では古今東西のミステリ作品も紹介され、特に既読の作品の舞台となった場所に関しては、思い描いていた通りの景色だったり、思っていた以上だったり、その逆だったりと、とても面白かったです。しかしこの本を読んでいると、もちろん舞台となった場所を実際に訪れてみたいという思いもあるのですが、それ以上にむしろ、各章で紹介された場所と関連して紹介されているミステリ作品が読んでみたくなりました。それもそのはず、本文読後にあとがきを読んでみて納得。やはりこれらの場所は、「作家の犯行現場」だったのですね。作家の創作意欲を刺激する場所だからこそ、一読者としては、場所そのものよりも作品が読んでみたくなったのでしょう。しかしその中でも、栃木県那須郡にあるという「とりっくあーとぴあ那須」だけは例外。ここだけはやはり自分で訪ねて、自分の目で確かめてみたいですね。
エッセイの間に挟みこまれている短編は、あまりに自然に挟み込まれているので、読み始めは短編だと気付かないほど。そして訪れたその場所から、これほど幻想的な作品が生まれるのかと驚きました。そしてこの2編以外にも、短編形式で紹介されている場所もあります。そんな趣向が凝らされているせいか、通して読んでも飽きさせない1冊でした。

「マレー鉄道の謎」講談社ノベルス(2002年5月読了)★★★
火村とアリスはマレーシアへ。クアラルンプールを出た2人は、キャメロン・ハイランドへ向かう途中で衛大龍と合流。大龍は13年前に英都大学に留学していた、華人と日本人のハーフ。火村と同じ下宿にいたことから、2人と親しくなっていたのです。現在の彼は、マレーシアのキャメロン・ハイランドでホテルのオーナーをしており、火村とアリスはそのゲストハウスに滞在することになっていました。そして2人は、大龍と一緒に観光をしている時、現地でレストランを経営している百瀬虎雄の夫人とメイドのシャリファと知り合います。早速午後のお茶に招かれる2人。しかし翌日のお茶の時間、丁度その場に居合わせたカフェのオーナーのジョンが、敷地内にあるトレーラーハウス内で死体を発見して大騒ぎ。それはシャリファの兄のワンフーの死体でした。前日ワンフーがシャリファを巡って日本人観光客の津久井と諍いを起こしていたことから、津久井が犯人かと思われます。しかしそのトレーラーハウスは密室状態だったのです。

作家アリスと火村のシリーズの12冊目。第56回日本推理作家協会長編・連作短編集部門賞受賞作品。題名だけが先行して早4年半、待ちに待った作品です。
しかしマレーの観光案内が終り、ようやく事件が起きてみると、なんと先日見たばかりの、綾辻行人氏との合作の推理ドラマ「安楽椅子探偵とUFOの夜」とよく似た設定ではないですか。まさか続けざまに同じタイプの密室が登場するとは驚きました。もちろん解決方法は全く違うのですが、あまりに時期が接近しているだけに、イメージが重なってしまいます。
序盤から中盤にかけては、マレーシアの雰囲気を楽しむのがメイン。ほとんど動きらしい動きがありません。ここで大龍がもっと活躍してくれるかと期待していたのですが、あまり冴えなかったですね。大龍にかこつけた大学時代の話もそれほど出てきません。そしてゆったりとしたテンポで進んでいた物語は、終盤、火村の謎解きが始まると一気に動き始めます。トリックは、こちらも大掛かりで細かい部分にも凝っているのですが、やはりイメージが重なってしまうのがマイナスに作用してしまうようです。蛍などの小道具で風情はありますし、悪くはないのですが、私としては「安楽椅子探偵」の方が好きでした。ラストで次の作品の構想がさりげなく仄めかされているので、次作に期待。
ノベルスの見開きに、「この作品は、マレーシアの時刻表を駆使した鉄道ミステリではありませんので、ご了承(あるいはご安心)ください」とあるのには笑いました。そういえば全く考えてもいなかったのですが、有栖川さんは鉄道がお好きですものね。

「まほろ市の殺人-冬-蜃気楼に手を振る」祥伝社文庫(2002年6月読了)★★★
冬になると蜃気楼の現れる真幌の海。満彦にとっての思い出の蜃気楼は、美しく聡明な母と、3つ子の兄弟・浩和と史彰と一緒に5歳の時に見た舞久浜での蜃気楼でした。しかし真幌市には「蜃気楼に手を振ったり呼んだりすると連れて行かれてしまう」という言い伝えがあり、母親の言いつけに背いて蜃気楼に向かって手を振った浩和は、それから1週間とたたないうちに事故にあって亡くなってしまうことに。そして25年後。バー・檸檬樹で飲んでいた満彦と史彰は、車で満彦のマンションに向かう途中、事故現場に遭遇。そこにあった3000万円の入ったかばんを思わず持ってきてしまった満彦に、史彰は警察に届けるように説得するのですが…。

「幻想都市の四季」という名の元に、架空の地方都市・真幌市を舞台に倉知淳我孫子武丸麻耶雄嵩、有栖川有栖という4人の作家が書き下ろしで競作した作品。
犯人が犯行を行う所から追い詰められる過程が描かれていく倒叙物。有栖川さんにしては珍しいかもしれないですね。さすがに作りがしっかりしているとは思ったのですが、ネタには驚きました。そういう例は実際にあるのでしょうか。一応伏線もきちんとはられているのですが…。それに警察がそのようなことをするとは。
春夏秋冬と4冊読み終えて、それぞれに面白かったのですが、もう少し作品同士の繋がりとか遊び心が欲しかったです。まだまだ真幌市という設定を生かしきれていないと思いますし、せっかくの設定を生かすためにも、他の作家さんにも続けて書いて欲しいですね。そうすれば、もっと奥行きが出て面白くなってくるのではないでしょうか。このまま終わらせてしまうのは、あまりにもったいないです!沢山の作品によって、真幌市がもっと多層的になっていくことを期待したいです。

「赤い鳥は館に帰る-有栖川有栖エッセイ集」講談社(2003年11月読了)★★★★
新聞や雑誌に掲載されたエッセイ、本の帯の言葉などを、「ミステリ(Alice in Mysteryland)」「時事(Alice in Real World)」「カンサイ(Alice in Kansai)」「日々(Alice in Daily Life)」の4章に分けてまとめた本。選んだ人間のこだわりを見せる真っ白い紙に黒い文字、赤いポイントが効いていて、装丁もとても美しい本です。

デビュー当時から今までの全エッセイの約5分の2ほどが収められているという本書。様々な媒体に発表された文章が出版社を超えて収録されているのが、読者としてはとても有難くもあり、嬉しいところです。時事問題を扱ったやや硬めの素材もあるのですが、ミステリのこと、関西のこと、日々のことなどが、有栖川さん独特の優しい文章で書かれており、気軽に読める1冊となっています。通して読んでもまるで違和感を感じさせないのはさすがですね。デビュー当時から、文章が安定していた方なのだと再認識。ミステリに関する真面目な文章にはさすがプロのミステリ作家と感心させられ、もっと身近な日常を書いた文章には、さすが大阪人らしい落としどころにニヤリとさせられます。そして全体的に言えるのは、有栖川さんご自身のミステリ作品にも通じるロジック。1つ1つのエッセイに説得力がありました。

「スイス時計の謎」講談社ノベルス(2003年6月読了)★★★
【あるYの悲劇】…インディーズバンド・ユメノ・ドグラ・マグロのギタリストが殺されます。被害者は死ぬ直前に「やまもと」という言葉と「Y」に見えるダイイングメッセージを残していました。
【女彫刻家の首】…女性彫刻家がアトリエで殺されているのが発見されます。しかしその首は切断されて持ち去られ、首のあるべき場所には彫刻の首が置かれていたのです。
【シャイロックの密室】…高利貸しをしている佐井六助が殺されます。金に汚く業突く張りの嫌われ者。現場が密室状態だったことから、自殺のようにも見えるのですが…。
【スイス時計の謎】…経営コンサルタント会社の社長が殺されます。遺体を発見したのは唯一の従業員である女秘書。しかしその社長は、なんと作家アリスの高校時代の同級生だったのです。

作家アリスと火村のシリーズの13冊目。
「あるYの悲劇」と「女彫刻家の首」はアンソロジーにて既読。
「シャイロックの密室」は倒叙物。ほんの数日でたどり着くとは、やはり日本の警察をなめたら痛い目に遭うということでしょうか。被害者を憎み、正統的な怒りをもって犯行に望んだはずの犯人が、火村の「青白い炎を孕んだ目」に睨まれているのが印象的。「スイス時計の謎」この講談社ノベルスの半分ほどのページを使った中編作品。作者本人があとがきに書いている通り、比較的地味な謎の作品ですが、アリスの高校時代の友人が出てくるというのが興味深いです。今まで火村の過去は時々匂わされていましたが、アリスの過去というのはなかったのではないでしょうか。火村がなぜそこに目をつけたのか、という部分が少々弱いような気もしましたが、しかしとても論理的で良かったです。

「新本格謎夜会(ミステリ−・ナイト)」講談社ノベルス(2004年6月読了)★★★★
平成14年、東京と大阪で行われた新本格誕生15周年記念イベント「新本格 ミステリフェスティバル」。推理劇部分は綾辻行人さんと有栖川有栖さんが出題。劇のストーリーは、盗作を繰り返していた作家が密室の中で殺されており、その部屋の鍵は殺された作家の口の中にあったというもの。東京のイベントに参加したのは、綾辻行人・有栖川有栖・山口雅也・竹本建治・二階堂黎人・倉知淳・喜国雅彦各氏。大阪のイベントに参加したのは、綾辻行人・有栖川有栖・法月綸太郎・我孫子武丸・太田忠司・麻耶雄嵩・西澤保彦各氏。それ以外にも何人かのミステリ作家さんが会場にいらしたようです。

何といっても、九十九一さんの司会による作家さんたちのトークショーが面白かったです。本を読んでいるだけでも笑ってしまうようなトークの数々は、会場に居合わせたらもっと面白かったはず。その空気を直接味わえなかったのはとても残念ですが、しかしこうやってその雰囲気に触れることができるというのがとても有難い企画ですね。大人しい竹本さんやノリまくっている喜国さんの姿など、作品だけでは分からない、作家さんの素顔を垣間見ることができたのも、とても楽しかったです。
そしてもちろんメインは推理劇の出題編・捜査編・解決編。この推理劇の合間にトークショーや各作家さんへの簡単なインタビュー、そして写真などが挟み込まれているという構成のテンポが良くて、TVの「安楽椅子探偵」を見ていた時と同じような感覚で読むことができました。執筆されてる大地洋子さんの文章からは、大地さんご本人はもちろん、他の参加者の楽しんでいる雰囲気が伝わってくるようですね。
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