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このページは、クラフト・エヴィング商會さんの本の感想のページです。

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「どこかにいってしまったものたち」筑摩書房(2003年7月読了)★★★★★お気に入り
クラフト・エヴィング商會が明治期に開業して以来、独自に扱ってきた国内の「不思議なもの・珍しいもの」を紹介する本。商品そのものは登場せず、どれも解説の小冊子だったり、商品が入っていた小箱であったり、広告用のチラシであったり。…もちろん10ページの注意書きにある通り、それらは実際には存在したことのない物ばかり。全てクラフト・エヴィング商會というユニットのお2人、吉田浩美さんと国谷千恵さんの手作りです。シルクスクリーンを使い、独特の古い活字体は古い書物や印刷物からの切り貼りし、そして古びた風情を出すために使うのは、魔法の薬。想像するだけでも気の遠くなるような作業です。でもそれだけのことはありますね。出来上がった物は、今まで見たことないはずなのに、どこか懐かしさを感じてしまう物ばかり。私もお2人と同じく古い書物や印刷物を見るのは元々大好き。大正浪漫の世界も大好き。そこにお2人ならではのアイディアやほんのりとしたユーモアセンスが加味され、一種独特な世界を作り出しています。坂本真典さんの写真や吉田篤弘さんの装幀やレイアウトも素晴らしく、全てにおいて美しい1冊です。

この中で一番惹かれたのは、闇を発生させる「アストロ燈」と、月の光を発射する「月光光線銃」。
「アストロ燈」の、懐中電灯の代わりに闇を作り出すというアイディアも面白いですし、「大勢の人前でふいに涙がこぼれそうな時、そつと顔に向けて通電。あなたの心をお守りいたします」という「珍しい使い方」も、とても粋。「月光光線銃」は、本当は月が出ていないと使えないという、何のためにあるのかよく分からない物なのですが(笑)、それでもやはりとても心惹かれます。あとは、白、翡翠、青磁、菫、緋、桃、黄の7色のすもものお酒「七色李酒」と、小さな星型のコンペイ糖のようなジュースの素「流星シラップソーダ」もいいですねえ。これはぜひ飲んでみたいです。「流星シラップソーダ」の、様々な色のコンペイ糖をグラスに入れるというのも楽しいですし、匙加減1つでまるで違う味のジュースが出来てしまうというのも、想像しただけでワクワクしてしまいます。
「水蜜桃調査猿」の猿の絵の可愛いこと!ゼンマイ巻きの説明の可笑しいこと!「全記憶再生装置」の素敵なチラシに反して、その内容のどことなく恐ろしげなこと。(しかも「三十年に亙る全記憶を再生するには、三十年に亙る時間を要する」だなんて)「空中寝台」は、石井桃子さんの「ノンちゃん雲に乗る」を初めて読んだ時のことを思い出しますし、同じ森野睡眠普及社の「五萬羊」の、あまりに可愛らしいアイディアには脱帽。

P.10 本書に登場する「どこかにいってしまったものたち」は、現在この世に「ない」ものたちであり、残念ながらその実在が確認されておりません。故に、本書を最良のかたちでお楽しみ頂くためには、その「真偽」を問わないことをおすすめ致します。ただし「現実離れ」等の副作用にはくれぐれもご注意下さい。

【明治】(1898-1910)…硝子蝙蝠、記憶粉、迷走思考修復機、七色李酒
【大正】(1916-1925)…万物結晶器、アストロ燈、月光光線銃、立体十四音響装置、時間幻燈機、深夜眼鏡
【昭和 I】(1928-1944)…人造虹製造猿、水蜜桃調査猿、全記憶再生装置、卓上キネマハウス、夜間自動記録式電氣箱、遡行計、中國的水晶萬年筆
【冬眠】(1944-1946)…燃えつきてしまったものたち
【昭和 II】(1946-1952)…青い火花を散らすもの、瞬間永遠接着液、流星シラップソーダ、空中寝台
【平成】(1994〜)…「どこかにいってしまったものたち」の作り方、魔法のくすりのこと、手品師の帽子を脱いで

「クラウド・コレクター-雲をつかむような話」筑摩書房(2003年7月読了)★★★★★お気に入り
クラフト・エヴィング商會の3代目店主・吉田浩美が古い引き出しの中から見つけたのは、「雲、賣ります」という広告の切り抜き。それは浩美の祖父であり、商會の先代でもある吉田傅次郎が出したクラフト・エヴィング商會の広告でした。その後、浩美は商會の倉庫から祖父の古い旅行鞄と、その中に入っていた21本の小さく古い壜を見つけます。外国のお酒らしき液体が入ったその壜には、それぞれ色とりどりの手作り風ラベルがつけられているのですが、そのうちの1つに描かれていた雲の絵は、「雲、賣ります」の広告にあった雲と全く同じものだったのです。さらに他の壜のラベルの「さかさま男」の絵を見ているうちに、倉庫の中の「なんだかわからないものたち」と呼んでいる謎の品々を思い出します。それは、その中にある「PHILOSOPHICAL CIRCUS」と題されたサーカスのパンフレットの中にある「軽業師」の図版と全く同じデザインでした。そしてそれらの品々は、祖父の鞄の中に隠しポケットに入っていた遠國アゾットでの旅行記に結びついていくことに…。

吉田傅次郎氏が旅したというアゾット(AZOTH)という国は、実は架空の国。傅次郎氏の旅行記自体、まるまる「空想旅行」なのです。しかしその「膨大で緻密な嘘」を、吉田浩美さんが1つ1つ読み解いていきます。これだけでも、とても素敵なファンタジー。物語には、傅次郎氏が持ち帰ったとする様々な物(実際にはクラフト・エヴィング商會のお2人が作った物)が彩りを添えていて、やはりこのアイディアとイメージの不思議さや美しさは素晴らしいですね。これは前作「どこかにいってしまったものたち」に登場する物が、商品の本体は失われたものの解説書や空き箱が残っていた物であったのとは逆に、解説書も空き箱もなく何のための物なのか分からないけれど、商品だけは存在するという物たち。そして今回は後半、吉田浩美さんがゴンベン先生と呼んでいるK氏が、物語の謎解きをするという趣向もあります。
アゾットには全部で21エリアあり、そのそれぞれにムーン・シャイナーと呼ばれる蒸留酒があり、特産物のような物があります。この中で一番惹かれたのは、第2エリアの「雲の母の書物」。ここで採れる鉱物の雲母の内部には、数多くの物語が凝結しているという話です。「雲母印書房」という書肆では、女性たちがその物語を「ひとつひとつ丁寧に読み取り、内容を確かめ、書物に装幀を施す要領で題名を冠して、1冊の本に見立てる」のだそう。表紙がつけられた様々な色の雲母の並んだ光景も想像するだけでも素敵ですし、そして雲母が「雲の母」であり、それが言葉を記憶し続ける媒体だという話も面白いですね。第9エリアの「いつも雨に濡れている詩人」の詩の結晶。詩を1行ずつドロップのように味わい、聞くというのも素敵。その他にも第14エリアの青い涙の結晶や第16エリアの雲砂糖。第17エリアにある遊星オペラ劇場という立体のプラネタリウムにも行ってみたくなってしまいます。21つのムーン・シャイナーも、面白いものばかり。その中でも幻覚が見える「ファンタスマゴリア」、「星酒」とも呼ばれる美しい「プラネット」、7変化する「ホーナー」が飲んでみたくなっちゃいました。

ただ、吉田浩美さんと国谷千恵さんの2人のユニットだったはずのクラフト・エヴィング商會は、いつの間にか吉田浩美さんと吉田篤弘さんのの2人のユニットになっているようですね。国谷千恵さんはどうなさったんでしょう?

【第1の手帳】…ふたつの白い手袋、雲の母の書物、沙翁世界の逍遥、見えない師匠、物忘れのひどい書記官、ブヴァールとペキュシェ帽子研究所、すべて・ありのままに・羽根あるもの
【第2の手帳】…サラマンドルのしっぽ、いま、ここにだけ降る雨、光を観るための旅、すばらしい耳、哲学サーカス団、不吉なる理髪師、青い涙を集めるひと
【第3の手帳】…小さな赤い悪魔、雨の降る中庭、星をめぐらせる劇場、静かなる晩餐、太陽王はかく語りき、かなでるものたち、クラウド・コレクター

「すぐそこの遠い場所」晶文社(2003年7月読了)★★★★★お気に入り
クラフト・エヴィング商會の先代・吉田傅次郎が残した1冊の事典。それは祖父曰く、世界にたった1冊しかなく、あらゆる書物の中で最も価値があり、しかも見るたびに中身が変わっていくという「アゾット事典」でした。傅次郎は生前、アゾットという不思議な世界を過客として旅したことがあり、その時に見たアゾット事典と同じものを自分でも作っていたのです。しかし祖父はそれを孫の浩美には決して読ませてくれませんでした。最近になって突然その事典のことを思い出した浩美が祖父の遺した書棚を探すと、それは祖父の生前と同じく、書棚の一番高いところにそっと隠されていました。そしてアゾットの言葉で書かれているその事典を、浩美は自分の手で翻訳してみることに。

前回明かされないまま終わったAZOTHの名前の意味も、ようやくこの本で分かりました。すべてのアルファベットの第1文字のAに、ラテン言語系、ギリシャ言語系、ヘブライ言語系のそれぞれの最終アルファベット、Z+O+THを足したものだったのですね。
ここでも惹かれるのはやはり「雲母印本」でしょうか。頁をめくるそばからきらきらした粉になってしまうので、基本的に1度読んでしまうとオシマイという本。でも読むとは言っても目で読むのではなく、凝結した物語のエッセンスを解凍しながら耳で読み取るのだそうです。あとは、セスピアンと呼ばれる尋常ではなく甘いデザート。時に震えがくるほどの極甘ということなので、私にはきっと食べられないのですが、この梅ゼリーのような外見が素敵。(笑)
詩を書く時に決まって卓球をする卓球詩人「ピング」と「ポング」、夜を往く器楽演奏者・<かなでるものたち>の話も面白かったです。
前2冊に比べると物の写真が大幅に減り、印刷された部分がとても多くなります。この挿絵はシルクスクリーンなのでしょうか。これもまた少し古い本の挿絵のようで、とても素敵です。まだ1度しか読んでいませんが、読むたびに新しい発見がありそう。そして他のクラフト・エヴィング商會さんの本を読んでからまたこの本に戻ると、それもまた新しい発見につながることになるのかも。それが「見るたびに中身が変わっていく」ことなのかもしれませんね。

1.グローヴァー 2.キラ 3.フェアグラウンド 4.ネーモ 5.イプシロン 6 ダブル・マッド・ハッターズ .7.P/E(パープル・エッジ) 8.テイルズ・テイル 9.エピファイト 10.メリエス 11.A(アー) 12.ヂンタ 13.バーバー 14.アルコフリバス 15.シエスタ 16.ライウ 17.ホシボシ 18.ナイツ 19.シャル 20.エンタク 21.

「らくだこぶ書房21世紀古書目録」筑摩書房(2003年7月読了)★★★★★お気に入り
1997年秋にクラフト・エヴィング商會に届いた1つの小包。それは全体にうっすらと砂にまみれ、<SAND MAIL>というスタンプが捺されていました。中をあけてみると、そこにはやはり大量の砂が。そして溢れ出た砂の中に入っていたのは、文庫本ほどの大きさの1冊の古めかしい本。表紙には「京都 駱駝こぶ書房製古書目録」とありました。同封されていた手紙によると、それは2052年の未来の世界から、現代の世界に送られてきたもの。とある書物でクラフト・エヴィング商會の存在を知った駱駝こぶ書房の店主が、未来の古本目録を送ってきたのだというのです。

未来から来た手紙が「古さ」を帯びていることに対する説明が印象的でした。「古さ」とは「もの」が時間を帯びることで、それが未来からであろうと過去からであろうと、50年の時間を帯びるのは同じことだということ…。なるほどです。21世紀に最初に発行されたという本は、1997年という現代に近い本にも関わらず、発行されてから50年の年月を経た後に駱駝こぶ書房によって50年の年月を送られることになり、要するに100年も前の本と同じことになるのですね。
羊羹を「点在する闇」「闇の煮こごりのようなもの」と呼び、羊羹こそが「真の闇」であると説く、羊羹をかたちどった本。堂島横分け倶楽部による、7対3に分けられた2冊セットの本。印刷されてから一定時間後に文字が浮き出し、そして一定時間後にまた消えてしまう特殊なインクで書かれた「世界なんて、まだ終わらないというのに」というのも面白いですね。クラフト・エヴィング商會に本が届いた時点で、文字は全て消えてしまっているのですが、しかしまた出ることもあるのかも…。これは実に読んでみたくなってしまいます。そして羊の全てを知る辞典「羊典」なども、実際に見てみたいものです。そのほかにも、ピング&ポングによる「卓球台の上で書かれた5つの詩片」のように、「すぐそこの遠い場所」の「アゾット事典」に関連している本もあります。
現在確かに存在しても未来の世界ではなくなってしまうというある種の果物、黒板、袋小路、そして出前…。実際に21世紀になった今、それらはまだ消える様子を見せませんし、例えば21世紀になって最初に発行されたという「茶柱」も、実際には出版されていません。しかしクラフト・エヴィング商會の存在する世界の未来には、きっとこの本に載っている本があり、なくなってしまう物、発明される物の存在があるのだろうと素直に信じてしまいそうです。今まさに未来のノスタルジーの中を生きているというのが、なんとも不思議な感覚です。

1.茶柱 2.老アルゴス師と百の眼鏡の物語 3.世界なんて、まだ終わらないというのに 4.羊羹トイウ名ノ闇 5.絶対に当たらない裸足占い・2049年版 6.A 7.73横分けの修辞学 8.卓球台の上で書かれた5つの詩片 9.岡村食堂御品書帖 10.あたらしいくだものなつかしいくだもの 11.月天承知之介・巻之一 12.屋上登攀記 13.Water/Door/Big 14.大丸先生傑作黒板集成・第1板 15.大いなる来訪者 16.SMOKING AREA 17.その話はもう3回きいた 18.羊典 19.魂の剥製に関する手稿 20.出前 21.最後に一つ○を書くということ

「ないもの、あります」筑摩書房(2003年7月読了)★★★★★お気に入り
よく耳にはするけれど、一度も現物を見たことのない品。そんな品々に対する世の中のニーズに応えて、クラフト・エヴィング商會では新しい看板を掲げることになります。この本は、この世のさまざまな「ないもの」23点を古今東西から取り寄せたという商品目録です。

堪忍袋の緒や転ばぬ先の杖、左うちわや舌鼓など、よく耳にはするけれども実体は見たことがない物が、クラフト・エヴィング商會一流のジョークで説明されていて、これまたとても楽しい本。商品説明も真面目なら、イラストに付いている注意事項も大真面目。そしてイラストは相変わらずの素敵さです。
「舌鼓」が鼓ではなく、昨今のライフスタイルに合わせて大太鼓を叩いている鼓笛隊少年だったり、「口車」が馬車だったり、「先輩風」が香水のアトマイザーのようだったり、「鬼に金棒」の鬼は意外と繊細でやや力不足、金棒を持たせないとふざけたおじさんに見えてしまうというのも、一ひねりあって面白いところ。そして「左うちわ」は、これ1枚あれば遊んで暮らせるものの、ひたすら扇ぎ続けないと効き目がなく、うっかりすると「左前」なってしまうとか、「目から落ちた」うろこのように、うろこの数には限りがあるので、あまりに頻繁にうろこを落としていると、いずれは数が足りなくなってしまうなど、ちょっぴりドキッとさせられてしまう文章も。
そしてこの中で私が一番気に入ったのは、「おかんむり」。これは見かけはまるで王冠。使い方としては、何か頭にくることが起きた時に、取り出して頭に載せ、そのまま黙ってどっしりと構えていればいいのです。そうすれば周囲の人々が「…今日は、あの人、おかんむりだよ」「…なるほど、相当な、おかんむりだ」と、そっとしておいてくれるというわけです。その光景を思い浮かべるだけで可笑しいですよね。
「とりあえずビールでいいのか」という赤瀬川原平さんによる解説も、この雰囲気にぴったりの文章でとても楽しいです。「とりあえずビール」。本当にその通りなんですよねえ。

堪忍袋の緒、舌鼓、左うちわ、相槌、口車、先輩風、地獄耳、一本槍、自分を上げる棚、針千本、思う壺、捕らぬ狸の皮ジャンバー、語り草、鬼に金棒、助け舟、無鉄砲、転ばぬ先の杖、金字塔、目から落ちたうろこ、おかんむり、一筋縄、冥土の土産、大風呂敷

「じつは、わたくしこういうものです」平凡社(2003年7月読了)★★★★★お気に入り
これまで「物」を中心にしてきたクラフト・エヴィング商會が、今回は「人」に焦点を当てて作った本。18の職業を持つ人々が、それぞれの写真と共に「じつは…」という自分の仕事のことを語ります。

たとえば、昼日中に地球の裏側から「月光」を捕まえてきて売る「月光密売人」、これから実る果実の数を数え続ける「果実勘定士」、漫画などで何かがひらめいた時に頭の上にポッとつくあのランプを交換して歩く「ひらめきランプ交換人」、冬の間だけ開いている図書館<冬眠図書館>の「シチュー当番」。この図書館では、夜8時から朝8時までやっているので、お客様にコーヒーとパンとシチューのお夜食とブランケットを用意しているというのです。素敵ですねえ。その他にも色々な職業があり、それぞれの方がその仕事に関して語ります。そのそれぞれが、洒落ていたり粋だったりいなせだったり、しみじみとしたり、ほのぼのとしたり。
18の職業のほとんどは、名前からなんとなく想像がつくのですが、その中でまるで見当もつかなかったのが「チョッキ食堂」。これは海辺のレストランなのですが、選んだチョッキに合わせて食事が出てくるというのです。だから食事のメニューはなくて、あるのはチョッキのメニューだけ。色も形も様々なチョッキがメニューに載っています。選んだチョッキから、実際にどんな食事が出てくるのかワクワクしてしまいますね。そしてこのチョッキレストランを経営しているというご夫婦がまた良いお顔をなさっているのです。18の職業で登場する方それぞれが良いお顔をなさってると思うのですが、このご夫婦はピカイチ。
最後にそれぞれの方の本当のお名前とご職業が明かされているのですが、架空のお仕事があまりにハマってしまって、そちらの方が現実のような気がしてしまう方も…
私も「じつは、わたくしこういうものです」なんて言ってみたくなってしまいます。

月光密売人、秒針音楽師、果実勘定士、三色巻紙配達人、時間管理人、チョッキ食堂、沈黙先生、選択士、地暦測量士、白シャツ工房、バリトン・カフェ、冷水塔守、ひらめきランプ交換人、二代目・アイロン・マスター、コルク・レスキュー隊、警鐘人、哲学的白紙商、シチュー当番

「テーブルの上のファーブル」筑摩書房(2004年6月読了)★★★★
「ファーブル」とは、「机上の空論」の「空論」が「寓話」に格上げされて登場した言葉。しかし英語読みでは「ファーブル」とはならないので、昆虫学者のファーブルも登場してしまうという、クラフト・エヴィング商會らしい発展ぶり。
そしてその題名通り、今回のクラフト・エヴィング商會の世界は、1つのテーブルの上から始まります。気持ちが昼間に向かい始めたと書かれている通り、今回は昼間の月の下で作られた密造酒。今までの「怪しげでレトロで幻想的でロマンティック」な夜の世界とは、少し雰囲気が違うのですね。それでも、ここに登場する写真やイラスト、ちょっとしたデザインにクラフト・エヴィング商會らしさが溢れていて、ごく普通の鉛筆が、シャツが、電球が、なぜこんなにお洒落に感じられるのか不思議になってしまうほど。白と赤の組み合わせの鮮やかさも目をひきます。そして今回特に惹かれたのは、ここで紹介されている素敵な本たち。それらは洋書であったり、クラフト・エヴィング商會のお2人が作った本であったりするのですが、自分でもこういった素敵な本を集めてみたい、作ってみたい、という気持ちがとても刺激されました。
今回は今までに比べて本自体がかなり薄く、しかもクラフト・エヴィング商會の既刊本や、それぞれの方の名義で出された本の宣伝が目につくのが少々気になってしまったのですが、宣伝ページですらクラフト・エヴィング商會らしくて素敵なのがさすがですね。

アナ・トレントの鞄」新潮社(2005年8月読了)★★★★
アナ・トレントとは、スペインの女優。「アナ・トレントの鞄」とは、彼女がヴィクトル・エリセ監督の「ミツバチのささやき」という映画に出演した時に手にしていた鞄。これをクラフト・エヴィング商會が気に入ったことから、この本は始まります。「ミツバチのささやき」が撮られたスペインのオユエロス村のことを考え、その鞄に何が入っていたのかを考えているうちに、鞄はただそこにあるだけでどこか遠方と結ばれることになり、鞄によって遠くに誘われることに。
アナ・トレントの鞄を探しに仕入れの旅に出たクラフト・エヴィング商會は、途中で様々な一品物の商品を手に入れていきます。せっかく「ミツバチのささやき」を引き合いに出しているからには、もっと映画の雰囲気を思い出させてくれるような商品を揃えて欲しかった気もするのですが… そして初期のパワーがなくなっているように感じられてしまったのが少し残念ではあるのですが、「テーブルの上のファーブル」で変化を求めているようであったので、今は過渡期なのかもしれませんね。私が惹かれたのは、携帯用のシガレット・ムービー、稲妻の先のところ、古代エジプト人が魂の重さを量るときに使った羽・Maatにちなんだ、羽のような有るか無きかのはかないお菓子・マアト。あとは、なぜか気になってしまう「F」の小包み…。

catalogue a…エッジの小さな劇場(携帯用のシガレット・ムービー)、ひとりになりたいミツバチのための家、稲妻の先のところ、「F」の小包み、おかしなレシピ、サンドイッチ・フラッグ、マアト、七つの夜の香り、ただひとつの夜の香り、シレーノスの函、ひんやりとしたおとしもの、「セリンジャーのラウンド」の変ロ音、ドーナツの袋に書いた物語、小窓、終景手帖、<スペード専門店>の広告
catalogue b…ほのかな光、いくつかの断片、ポケットに入るシンフォニー、軽業師の足あと、月夜のタイトロープ、「キリン遣い」の絵葉書、「手乗り象」の絵葉書、道化師たちの鼻、スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス、セザール・フランクという名の犬、プロンプターの引き出し、やさしいアイロン、ARROW THROUGH ME、暗転ばかりの戯曲集、「ブルースを歌う男」の切符、手品師のためのフィンガーボウル、糸屑箱、これは、ただの石、アナ・トレントの鞄
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