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このページは、有栖川有栖さんの本の感想のページです。

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「虹果て村の秘密」講談社ミステリーランド(2003年12月読了)★★★★
刑事の息子で推理作家志望の上月秀介は、推理作家の娘で刑事志望の二宮優希に連れられて、虹果て村にある二宮家の別荘へ。2人は、どちらも12歳の小学校6年生。虹が名物で、虹にまつわる7つの伝説が言い伝えられている虹果て村は、普段は長閑な村なのですが、最近は高速道路建設を巡り、住民たちが対立中でした。そんなある日、反対派の1人がバットで殴り殺されているのが発見されます。部屋には内側から鍵がかけられているという密室状態。しかし警察に電話するものの、降り続いていた雨により土砂崩れが起こり、虹果て村への道路が分断されてしまうのです。秀介と優希は、警察が来るまでの間に事件を解決しようと2人で調べ始めます。

ミステリ的な興味としては、密室殺人事件とダイイングメッセージ。密室トリックに関してはごく初歩的。あまりに初歩的だったので、逆に驚いてしまいました。しかしこれに関しては、早い段階であっさりと解かれることになります。この作品でトリックよりも重視されているのは、なぜ現場を密室にする必要があったのかということ。この理由がきっちりと説明されているのがいいですね。虹果て村の虹の伝説が、ただの装飾だけで終わっていなかったところもとても良かったですし、伝説の裏の解釈なども面白かったです。そしてこの作品には、環境問題、戦争、言葉の暴力などのモチーフも含まれています。…少々教育的な面が目についてしまったのですが。
読んでいると、子供の頃を思い出してワクワクしてしまうような雰囲気。きっと有栖川さんご自身が、秀介のような少年だったのでしょうね。まるで現在作家をしている有栖川さんが、少年だった頃の有栖川さんに書いてみせているようにも感じられます。本格ミステリや、ミステリ作家への憧憬が目一杯詰まっている作品。秀介がネタバレされて怒るエピソードも微笑ましく、しかし決して笑い事ではないので好きです。「ガンチたれ」という言葉も、味があっていいですね。

P.76「推理作家は、殺人が好きだから殺人事件を描くんじゃない。もちろん、空き巣を捕まえるお話よりも殺人犯を推理するお話の方がスリルがあるから、どきどきするために書くんだけど。…推理小説の根底には、だれかの死をほうっておかない、という気持ちがあるの。それがない世界では、推理小説はかかれないし、読まれることもない。」

「白い兎が逃げる」カッパノベルス(2003年12月読了)★★★★
【不在の証明】…バッグをひったくって逃げた梶山常雄は、工事現場に隠れている間に小説家の黒須俊也らしき人物を目撃。しかし黒須のファンの梶山は、黒須の挙動がおかしいことに気付きます。
【地下室の処刑】…大阪府警捜査一課の刑事・森下恵一は、指名手配中のシャングリラ十字軍の小宮山連を目撃。しかし署に連絡を入れようとしたところを見つかって、逆に拉致されることに。
【比類のない神々しいような瞬間】…女性評論家・上島初音が殺された現場には、「1011」と読める文字が残されていました。火村たちはその文字から、被害者の人物の交友関係を洗います。
【白い兎が逃げる】…ストーカーに悩まされていた女優・清水玲奈は、先輩の女優・伊能真亜子と劇団付きの作家・亀井明月に相談。しつこいストーカー相手に、3人はお芝居を打つことに。

作家アリスと火村のシリーズの14冊目。光文社には初登場。
「不在の証明」双子の兄弟というのは、登場した時点でどうしても怪しげに思えてしまう存在。しかし綺麗に逆手に取られてしまいました。あとがきで「双子という存在は本格ミステリにとって、やはりおいしく感じられてならない」と書かれていますが、本当にその通りですね。「地下室の処刑」この動機には驚きました。本当に説得力がありますね。そして「わざと驚く演技はできても、その反対は無理です」という言葉には妙に納得。「比類のない神々しいような瞬間」ダイイングメッセージというのは、ミステリでもかなり難しいジャンルだと思います。いくら死ぬ間際に頭が突飛に動くからといって、第三者が見て解けなければ全く意味がないのですから…。こじつけっぽく感じられる作品が多い中で、この作品の1つ目のメッセージに関しては、きちんと過不足なく目的を達しているという点がいいですね。2つめの方は、メッセージをこめた本人の意図しないところで、思わぬ効果を発揮したという面がユニーク。「白い兎が逃げる」本書の半分近くを占める中編。見返しに「かねてよりカッパ・ノベルスにお目見えする時は、ぜひとも鉄道の登場する本格ミステリで」という言葉がありますが、その通りの作品。しかしありきたりの鉄道トリックではなく、ゲームのための鉄道の使い方というのがとても面白いのです。鉄道絡みのミステリが基本的に苦手な私なのですが、有栖川さんのは大丈夫。土地勘があるというのもあるのでしょうけれど、それだけではないでしょうね。マニアック過ぎないのが好印象です。

「謎は解ける方が魅力的-有栖川有栖エッセイ集」講談社(2003年12月読了)★★★★
「赤い鳥は館に帰る」に続く、有栖川有栖さんのエッセイ本。映画とミステリーと阪神タイガースについて、様々な媒体に発表された文章を集めた本です。

読んでいて色々と頷ける部分があったのですが、その中でも一番同意したくなったのは、最近のハリウッド映画の退化について。ハリウッド映画に以前ほどの面白さは既になく、その原因は映像技術の進歩に比べて脚本がいい加減になってきてるから、という話。「『大脱走』や『ポセイドン・アドベンチャー』のビデオを観て勉強してもらいたい」という部分には、思わず深く頷いてしまいました。「ポセイドン・アドベンチャー」もいい映画ですが、それよりも私は「大脱走」が大好き。テーマ曲も良かったですし、主役のスティーブ・マックイーンはもちろん、脇もチャールズ・ブロンソンなど味のある役者さんたちがが固めていました。そしてやはりあの映画は、話自体が凄かったと思うのです。あのレベルのストーリー性を持つハリウッド映画が今、果たして存在するのでしょうか。映像的な技術では圧倒しても、物語で圧倒してくれる映画は、最近は本当に少ないと思います。そして「洋画のタイトルから格調が失われて久しい」という話も本当にその通りですね。何でもかんでも英題そのままのカタカナの題名にしなくても、と私もずっと感じていたこと。以前、昔の洋画の邦題名を決める時の話を聞いたことがあるのですが、その頃は映画にぴったりの邦題を決めるのに毎回苦労していて、しかしその甲斐あって「巴里祭」や「俺たちに明日はない」のような素晴らしい邦題が生まれた時の感激はひとしおだという話には、とても説得力がありました。映画業界の方々には、今からでも魅力的な邦題探しをして頂きたいものです。さらに、「太陽がいっぱい」のテレビでならではこそ楽しめた部分と、同じ原作からの映画「リプリー」の映画ならではこそ楽しめた部分の話にも、なるほど納得。
ミステリ関連では、これは映画の部分に書かれていたのですが、ミステリ作品に登場する探偵たちの話についても面白かったです。例えばホームズは、化学や地質学に精通しているけれど、文学や哲学についてはまるで無知であり、地動説も知らないという偏りよう、しかもコカインの愛飲者。しかしミステリ作品の中には、ホームズ以上に近寄りたくないような奇人変人がうようよしています。身体的に色んなハンディキャップを持つ名探偵も多く存在しています。しかしそれは実は物語を盛り上げる効用だけでなくて、「人間はパーフェクトなものを信じないから」「過剰な推理能力と交換されるべき欠落」ではないだろうかという話。もちろん時にはスーパーマンみたいな名探偵も存在しますが、基本的に、探偵は人間臭い方が魅力的ですね。それにもしスーパーマンのような探偵が推理するなら、事件が始まった途端に解決できるはずですから、説得力のある話の続け方には苦労しそうです。
その他にも、思わず笑ってしまうような部分が色々とあって楽しかったです。私はタイガースには興味ないのですが、タイガースファンを見ているのは好きなので、その部分も意外と楽しめました。ただ惜しいのは、書かれた文章が2000年前後のものなので、特にタイガース関係の話題が古く感じられてしまうということ。企画から出版まで3年ほど経ってしまったようで、それだけが残念ですね。それでも有栖川さんのエッセイはいつもとても読みやすいですし、内容的にも、以前から自分でも感じていたことだったり、新たに気づかされるようなことだったり、読んでいて色々と興味深いです。私も同じ生活圏だということもあって、読んでいるといたずらの共犯者めいた楽しさもありますし、文章からでも、講演会などで聞いている口調が容易に想像できるというのがまた嬉しいところです。
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