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このページは、真樹操さんの本の感想のページです。

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「蘇州狐妖記」徳間ノベルス(2003年3月読了)★★★★★お気に入り
西暦1582年、万歴年間。郷試に落ち、蘇州城内でぶらぶらしていた李紹(字は継之)は、胡三郎という青年に出会います。胡三郎は没落貴族・葉家の烏鷺庵という名の離れを借りるために同居人を探しており、李紹に白羽の矢を立てたのです。しかし胡三郎は「陜西の胡氏」の一族。実はこの一族は普通の人間ではなく、仙狐、おそらくは下級の天狐が何らかの罪で下界に落とされたものでした。一方、李紹はごく普通の人間。しかしすっかり意気投合した胡三郎と李紹は、烏鷺庵を借りて一緒に暮らし始めます。しかし友人の孫高が美人局にひっかかったのをきっかけに、悪徳捕吏にあらぬ疑いをかけられ、強請られる羽目に陥ってしまいます。

「チャイナ・ドリーム2」に収められた短編「烏鷺庵筆記」の続編。こちらを読んでなくても差し障りはありませんが、しかし読んでいる方が楽しめるでしょうね。初めて読んだ時に「聊斎志異」そっくりだと思ったのですが、この本の後書きにも「陜西の胡氏」というのは、直接的に「聊斎志異」から取られていると書いてあり納得。私にとっては、とても懐かしい感じがする物語です。
相変わらずのこの李紹と三郎のとぼけた会話がとても楽しく、一気に読んでしまいました。本さえあれば満足の李紹は、28歳にもなって世間知らずで警戒心もなさ過ぎ、融通も機転も利かないのに、よく考えもしない言動をしてしまうという情けない人物。途中で胡三郎の義理の兄に「飴を蜂蜜漬けにしたように甘いな、きみは」と言われるだけのことはあります。しかしその甘さがゆえに、憎めない人物でもあります。そんな彼を密かにカバーしているのが、人間以上に世慣れた胡三郎。状況を冷静に判断して行動しようとする彼も、李紹や孫高に邪魔され、彼らの尻拭いばかりさせられることに。今回は彼らに加えて、胡三郎の姉・四娘子、その夫・康伯牙、2人の子供である双子の七妹と八妹が大活躍、李紹はすっかり振り回されてしまいます。しかし彼らも万能ではないですし、今後も人間と共存していくためには、そうそう無茶もできないのです。人間なら常識というようなことがすっぽり抜け落ちていることもあります。だから尚更、彼らと李紹の連係プレーが楽しいのですね。彼らの正体は本当にただの仙狐なのでしょうか。その辺りも含みがあって、今後の展開が興味深いところです。
壮大な物語も好きですが、こういう日常的な物語も大好きです。人間と狐の同居が当たり前のように行われてしまう中国文化は素敵ですね。等身大で、しかも夢があります。ほのぼの感がオススメです。
坂田靖子さんのイラストもとても雰囲気に合っていていいですね。

P.147「人はよく知らないことに対しては不安になる。でも知ってしまえば、不安はなくなる。そんなもんだ」

「蘇州狐妖記2 雨宿りの墨子」徳間ノベルス(2003年3月読了)★★★★★お気に入り
西暦1583年、羅横虎の騒ぎから1年後の春。学士街にある坊間の刻字舗(出版社)で原稿を版下用に浄書する仕事をしていた李紹は、版元の魯大人に極秘の非合法の仕事を頼まれます。それは次の科挙の出題予想とその模範解答集。科挙に対して世の受験者たちが「ヤマをかける」行為を防ぐため、それらを出版することは、固く禁じられているのですが、魯大人は彫り師と刷り師に字が読めない人間を集めた上で、選文家の高暁泉に受験本の執筆を依頼していたのです。李紹の仕事は、高暁泉の泊まっている料亭に一緒に泊り込み、原稿書きを怠けないように見張ること。そして書きあがった原稿を片っ端から届けること。しかし仕事を引き受けたその午後、しばらく泊り込んで留守にすることを伝えに家に戻った隙に、高暁泉に逃げられてしまいます。魯大人に原稿料の50両を弁償しろと言われた李紹は、胡三郎と一緒に高暁泉を探すことに。しかし配っていた似顔絵が別の人物にも似ていたらしく、2人は見知らぬ男に警告を受け、さらには破落戸どもに狙われることに。

相変わらずのとぼけたコンビ健在です。李紹は肝心なところが抜けていますし、胡三郎は、胡氏最大の年中行事である春分の祭が近づいていることもあり、彼女への贈り物のことで頭がいっぱい。普段冷静でそつのない胡三郎が、ウキウキとして目先のことしか見えていないのがとても可愛いですね。本来は天にいる蒼竜への合図が目的の春分の祭ですが、胡三郎にとっては、独身の男女が好きな相手を口説くための貴重な期間。しかし胡三郎の話から垣間見える彼女やその家族の気性は、相当荒そうです。実際はどんな女性なのやら…。確かに胡三郎の姉の四娘子も、前回のラストではかなりの気性の荒さを見せていましたし、ある程度の予想はつくのですが、実際に登場してくれなかったのがとても残念。
今回は康伯牙や四娘子、双子の七妹と八妹があまり活躍しないのが少し淋しいのですが、その代わりに気風のいい姉御タイプの翠雲姐さんが登場します。そして後半には歴史上実在する有名人、清の太祖・ヌルハチまで登場。この時点では24〜25歳の無名の青年なのですが、若い頃に本当にこんなエピソードがあったら…と楽しくなってしまいますね。
「蘇州狐妖記」は2冊とも1994年に出版されているのですが、どちらも既に絶版なのが本当に惜しまれます。またぜひ続きが読みたいのですが、もう書かれていないのでしょうか…?

「明天快晴(あしたははれるさ)」角川スニーカー文庫(2003年3月読了)★★★★
【怪神】…中国の宋の時代。科挙へ第一歩である官学の受験に失敗した田子玉は、学者である伯父の公孫光の家で居候中。そんなある日、金陵郊外で掘り出された古い青銅の鼎が周の文王の鼎だという噂がたち、田子玉は伯父のお供でその鼎を調べにいくことになるのですが…。
【花魁】…30両もする墨を買うために、公孫先生は悪名高い高利貸し・陳久徳に金を借りてしまいます。子玉と巧娘はなんとか証文を取り返そうと相談。陳久徳が最近入れあげているという売れっ子花魁・李珊珊に頼んで、最近急死した陳久徳の妻に化けてもらうという計画を練ります。
【神童】…前回の事件がきっかけで、公孫先生のかつての教え子・蔡思文のために年間40両で働くことになった田子玉。初の仕事は、大人でも滅多に通らない郷試に、わずか11歳で通ったという神童をこっそり探し出し、公孫家で数日預かること。その少年は試験を前に突然失踪したのです。

金陵城内記シリーズ第1弾。
中国は宋の時代の物語。とにかく読みやすくて楽しいのです。この登場人物たちも、いい味を出していますね。科挙の試験では落第生だが、商人の息子らしくちゃっかりしている田子玉、一流の学者でありながら、世間を知らなさ過ぎる公孫先生、住み込みで公孫家の切り盛りをしている段おばさん、「怪神」で公孫先生に拾われて一緒に住むことになった巧娘と狐の小宦、公孫先生がかつて国子監の教授だった頃の教え子で、現在は県尉(警察署長)の仕事をしている蔡思文という面々が、とても生き生きと動いています。日常系の賑やかなコメディで、時には血を見ることや身の危険を感じることもあるのですが、基本的にはほのぼの路線。安心して楽しむことができます。この中では、特に蔡思文がいいですね。ただの真面目で頭の固い勉強一筋の人間かと思いきや…、これは今後の活躍がとても楽しみです。
ただ、本の裏のあらすじに「チャイナ・ミステリー」とありますが、これはミステリーではないのでは…?

「明星快演(スタ−のでばんだ)」角川スニーカー文庫(2003年3月読了)★★★★
巧娘が芝居を観る金欲しさに、田子玉の本を古本屋に売り払ってしまい大騒ぎ。巧娘は、今金陵でも大人気の舞台役者・蕭国華の演じる二郎真君に夢中になり、連日のように芙蓉棚という芝居小屋に通っていたのです。田子玉がそんな巧娘に付き合って「二郎鎮怪」を見ることになった翌日、公孫家の庭に迷い込んできたのは、なんとその蕭国華本人。蕭国華は買い物に出ている間に何者かに後をつけられ、尾行をまこうと、壁の壊れている公孫家に思わず入り込んでしまったのだと言うのです。田子玉は、帰り道が分からないという蕭国華を連れて芙蓉棚へと向かいます。しかしその途中暴漢に襲われ、丁度近くにあった蔡思文の屋敷に逃げ込むことに。

金陵城内記シリーズ第2弾。今回は長編となっています。
今回初登場となるのは、役者の蕭国華と武進士の徐奉。しかし存在感があるのは、断然蕭国華ですね。舞台ではこれ以上ないほどカッコイイのに、一旦舞台を降りてしまうと、ごく普通の人になってしまい、誰も本人だと気付かない。しかも女にだらしがなく自分勝手で、人の顔も満足に覚えられないという情けない男になってしまう蕭国華。この変わり方はとてもよく分かります。もちろんプロ根性もあるのでしょうけれど、音楽でも芝居でも、そういう人は案外と多いものですよね。人間自分が心底好きで得意なことをやっている時は、なぜかしら大きく見えるもの。…まあ蕭国華の場合は、それだけではありませんでしたが…。(笑)でもやはり、最後に彼が二郎真君演じている場面はとてもかっこいいですし、本当に芝居が好きなのが伝わってきます。そして今回大活躍なのは蔡思文。彼も徐々に地が出てきたようです。敵を作りやすい性格が災いして、現在強制的に休暇中となっているのですが、しかしやる時はやってくれますね。それに最後にただの学者バカなだけかと思っていた公孫先生が、なかなかいい所を見せてくれるのも嬉しいです。

「明朝快走(あしたもげんきで)」角川スニーカー文庫(2003年3月読了)★★★★
新しい上司の欧陽誕が着任して以来溜まっていた未処理の案件を、なぜか一手に処理することになってしまった蔡思文。しかしようやく残業続きの毎日が終わったかと思いきや、今度は告訴状の整理の仕事を押し付けられてしまいます。そのほとんどは下らない告訴状。しかし蔡思文は告訴状の束の中に、ある男が妖術を使って妖狐をとり憑かせて良民を困らせているという訴えがあるのを見て驚きます。妖術を使うと訴えられていたのは、なんと公孫先生だったのです。その訴状を書いたのは、悪名高い訴師の袁成。弁護する人間はどんな極悪人でも無罪放免となり、告訴すればどんな善人でも重罪人にしてしまうと言われている袁成。袁成の後ろに黒幕の存在を感じた蔡思文は、早速田子玉を訪ねます。

金陵城内記シリーズ第3弾。
物語は2つに分かれていますが、その基本的な部分は共通しています。公孫先生の過去に何があったかが、今回の問題。その訴状が表面上誰の仕業なのかというのはすぐ判明するのですが、いつどんなところで怨まれていたのか全く見当もつかない公孫先生のために、田子玉と蔡思文が調べることになります。しかし人畜無害な公孫先生を陥れようと企む人間が出現するというのには驚きますが、公孫先生の側に何も怨みを買ったような心当たりがないというのは、あまりに予想通り。公孫先生のこの姿を知らずに自滅してしまう真犯人も、少々気の毒になってしまいますね。もう少し人を見る目がありさえすれば、一生安泰で暮らせたはずなのですが。
今回大活躍なのは蔡思文。一見学問しかしてなさそうな蔡思文ですが、最低限の護身術は身につけているようで、珍しく派手な立ち回りも見せてくれます。田子玉から主役の座を奪い取ってしまいそうな勢いの蔡思文ですが、このシリーズは現在ここまで。続きが書かれる予定はないのでしょうか。
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