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このページは、赤坂好美さんの本の感想のページです。

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「大唐黄塵録」徳間ノベルス(2004年9月読了)★★★
20歳を幾つか過ぎたばかりの天才僧侶・玄奘は、天竺行きを目指しているものの、なかなか皇帝・李世民の許可が下りず、西域から来た人に会って情報収集の日々。しかし2度の奏上が役所で却下され、3度目の奏上は太宗皇帝自らの勅により却下され、4度目の奏上をしてもおそらく願いは聞き入れられないことを悟った玄奘は、実力行使で長安を出奔することに。

「西遊記」でもお馴染みの、玄奘法師の物語。1〜3章はアンソロジー「チャイナ・ドリーム」にて既読。
今まで読んだことのある「西遊記」での玄奘は、次から次へと狙ってくる悪者や魔物にさらわれ、その都度孫悟空が助け出すために走ることになるという手のかかる人物で、しかもいつも助けてくれる孫悟空の言うことはあまり信用しようとしないのに、猪八戒の言うことは何でも鵜呑みにしてしまうという、高僧らしからぬ偏りぶりで、何かといえば「慈悲」ばかり。どちらかといえば、頭が悪い人間の象徴のような印象でした。しかしこの作品の中の玄奘は、長安中の注目を浴びるという仏門の天才であり、語学の天才でもあり、天竺へ行くという目的のためには法を破ることも厭わないという意思の強い人物。かなり印象が違うのですね。これが本来の玄奘の姿なのでしょうか。しかも、ここでの玄奘は、なんと天竺に向かうために密出国までしているのです。私はてっきり「西遊記」にもあるように、太宗皇帝に盛大に見送られて長安から出発したのだと思っていたのですが…。しかし王の権威を振りかざされても動じない玄奘ですが、「西遊記」と同じで、女性には弱いのが人間的なところですね。この「金狼姫迷情」の、王の妹に熱い眼差しを向けられて困る玄奘のエピソードは、「西遊記」でも読んだ覚えがあります。これは「西遊記」から拾ったエピソードなのでしょうか、それとも歴史的に有名なエピソードなのでしょうか。
おそらくこの作品は、もっと長く続くことを想定して書かれ始めたのでしょうね。長安から天竺まで往復する19年という歳月を考えると、たった5章(そのうち最後の1章は外伝的)は、あまりに中途半端。これはぜひ壮大な長編にして欲しかったです。

収録作品:「天馬千里行」「金狼姫迷情」「葱嶺(パミール)無涯」「縛芻河(アムダリヤ)狂濤」「炎天の黒嵐(カラブラン)」
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