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このページは、若竹七海さんの本の感想のページです。

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「死んでも治らない-大道寺圭の事件簿」カッパノベルス(2002年3月読了)★★★★

【死んでも治らない】…トレイシー・ローズという男に拉致された大道寺圭。自称「プロ」の犯罪者・トレイシーは圭に車を運転させながら、銀行強盗の後で逃げ込んだペンションでの出来事を語ります。
【猿には向かない職業】…逮捕回数20回以上のスリの常習犯・花巻譲二、通称「お猿のジョージ」が、娘の行方を探して欲しいと圭の元へ。しかしその直後、ジョージが死体となって発見されます。
【殺しても死なない】…大道寺のもとに送られてきたのは、ミステリ作家志望者の「完全犯罪」をテーマにしたミステリ。圭は紹介者の評論家の名前から、1回だけのつもりで返事を出すのですが…。
【転落と崩壊】…圭は、亡くなったノンフィクション作家・磯部隆の遺稿を引き継ぐことになり、残った資料を取りに、虎火岳の彼の家へ。しかし後から後から怪しげな人物が現れ、妨害を受けることに。
【泥棒の逆恨み】…文化センターでの講演のため葉崎を訪れた圭。しかし着いた途端、文化センターの職員に拉致されてしまいます。実は「マーメイド」という2人組の美術品専門の泥棒だったのです。

17年間勤めた警察を辞めた大道寺圭は、今は幼馴染の彦坂夏見が勤めているUNS出版から、刑事時代に遭遇した奇妙な事件や、間抜けな犯罪者たちの実話集「死んでも治らない」を出版し、コラムやサイン会、講演会などで生計をたてる日々。その大道寺圭の刑事時代の最後の事件と、警察を辞めてから彼が巻き込まれた事件の数々を入れ子構造にした、変則的な連作短編集。

各短編はジャーロに連載されていたものですが、本体となる「死んでも治らない」は書き下ろし。これによって完全に独立していたはずの短編が、見事に1つの長編として繋がっています。見事ですね。きっと若竹さんは最初からそのことを想定して書かれていたのだとは思いますが、それでも一見何の繋がりもなさそうな話を、こんな風に繋げることができるとは驚きました。1つずつの短編は、それぞれ完結している物語なのに、「最後の事件簿」の断片を読むことによって、また違った面を知らされることになるのです。その都度、目からウロコ状態。しかもこの作品の凄いところは、単に短編が繋がるだけではなく、「最後の事件」を知ることによって、それぞれの短編に含まれているブラックな部分が増幅されていくこと。そしてこの作品に登場する犯罪者は皆どこか抜けている人間ばかりで、その抜けている部分ゆえに自滅していきます。ユーモアとは裏腹のブラック。
「ヴィラ・マグノリアの殺人」や「古書店アゼリアの死体」にも登場した角田港大や、お猿のジョージ、前田家、そして「スクランブル」や「サンタクロースのせいにしよう」に登場した彦坂夏見も活躍。若竹ワールドがどんどん広がっていくようで、とても嬉しいです。


「英国ミステリ道中ひざくりげ」光文社(2003年7月読了)★★★★★お気に入り

英国を旅行した際に訪れた、英国ミステリのゆかりの地の紹介、そして英国にある本屋古本屋の紹介がメインの旅行記。共著が「執事/小山正」となっていますが、これは若竹七海さんのご主人。渡英は数回に渡っており、基本的には若竹七海さんとそのご主人、その時々によって翻訳家の山田順子さんや他のお友達が同行しています。熱意と執念とハプニングたっぷりの珍道中がユーモアたっぷりの文章で紹介されており、読んでいるだけでも楽しい1冊。そして光文社発行だけあって、表紙が杉田比呂美さんのイラストというのも嬉しいところ。英国を訪れる際に持っていけば、確実に優秀なガイドブックとなってくれると思いますし、英国を訪れる予定がなくても、その時は優秀な英国ミステリガイドブックとなってくれる1冊です。
若竹さんの読書量にはとにかく脱帽。同行している方々も、本当に詳しいですね。訪れる場所ごとに、その場所を舞台にする作品がハプニング道中記と共に楽しく紹介されていきます。古典から最近の作品まで、ミステリはもちろん、幅広いジャンルからの紹介。英国ミステリ・SFファンや英国文学ファンには堪らない1冊でしょう。そしていざ英国に行くことになった暁には、ここに記載されている膨大な書店のデータが役立つこと間違いなしです。それにしても、若竹さんもご主人も同行のお友達も、とにかく本を沢山買ってらっしゃいますね。(指貫も)本への執念が「這ってでも行く」という発言になるのが、なんとも微笑ましく、しかもとてもよく分かります。色々と面白そうなスポットが紹介されていましたが、その中でもミステリの謎解きをしながらカドフェルの時代の修道院や生活を知るという「シュルーズベリ・クエスト」がいいですね。これはいつか参加してみたいです。筋金入りのアーサー王伝説好きな私には、コーンウォールも魅力的。


「猫島ハウスの騒動」カッパノベルス(2006年8月読了)★★★★

葉崎半島の西に位置する砂渡(さわたり)島、通称猫島は、人間が30人ほどと100匹を超える猫が住んでいる島。数年前、猫の専門誌にここの猫の写真が取り上げられて以来、猫の楽園として有名な観光地となっていました。猫マニアが島に押し寄せ、同時に捨て猫の数も急増したのです。そんなある日、観光客をナンパしていた菅野虎鉄が見つけたのは、ナイフが突き立てられた猫の剥製。丁度猫島にやって来ていた猫アレルギーの葉崎警察署捜査課の駒持時久警部補は、猫島夏期臨時派出所の巡査・七瀬晃と共に調査を開始します。

「ヴィラ・マグノリアの殺人」「古書店アゼリアの死体」に続く、葉崎を舞台にしたコージーミステリ。今回舞台となる猫島は、葉崎からほんの目と鼻の先にある小島です。その距離は、干潮の時は徒歩で移動できるほど。
剥製の猫にナイフが突き立てられていた事件から、殺人事件までだんだんと事件が大事になっていくのですが、雰囲気としてはあくまでもコージーミステリ。殺人が起きてコージーミステリというのも妙ですが、みんなどこかのんびりと構えていて微笑ましく、コージーとしか言えない雰囲気なのです。神社の綿貫宮司とゴン太、洋風民宿<猫島ハウス>の商魂逞しい17歳の店番・杉浦響子や、自ら宿をピカピカに磨き上げる松子おばあちゃん、美味しい料理を作る細井ツル子、響子と修学旅行で何かあったらしい菅野虎鉄、<The Cats & The Books>のオーナーで「エロティック・ロマンス」専門の翻訳家・三田村成子、古い家をリフォームしている原アカネ…。それらの人々が賑やかに楽しそうに動き回り、ミステリとしてよりもむしろ猫島に住む人々や猫たちの物語として楽しかったです。「ヴィラ・マグノリアの殺人」「古書店アゼリアの死体」に登場していた人々が名前だけの登場をするのもまた、昔馴染みに会えたようで嬉しいですね。最後は、若竹作品には珍しく毒がなく、後味が良くてびっくり。ただ、響子と虎鉄の間には、修学旅行で一体何があったのでしょう。それが一番の興味の焦点だったのに、肩透かしを食わされてしまいました。気になります。
虎鉄、というのは猫の名前ではないとは思いますが(「じゃりんこチエ」の猫は小鉄)、この作品には沢山の猫が登場し、しかもその8割の名前は小説や映画に出てくる猫の名前からとってあるのだそうです。私にはほとんど分かりませんでしたが…。「著者のことば」によると、「ただし、出典が全部わかったら、相当の猫バカだと思う」とのこと。

猫の名前…メル、マグウィッチ、ポリス猫DC、ビスケット、お玉、ワトニー、トマシーナ(ポール・ギャリコ「トマシーナ」)、セント・ジャイルズ(カドフェル?)、ラスカル(あらいぐま?)、ジョフリイ、ヴァニラ、モカ猫(モカ犬)、シルヴァー(スティーブンソン「宝島」?)、ウェブスター(P.G.ウッドハウス「ウェブスター物語」)、クリスタロ、アイーダ、アイ、ソロモン(アベリル「黒ネコジェニーのおはなし」)、ミスター・ティンクルス(映画「キャッツ&ドッグス」)、アムシャ・スパンダ(ゾロアスター教アムシャ・スプンタ)、チミ(仁木悦子「猫は知っていた」)

各章のタイトル…「猫も杓子も」「熱いブリキの上の猫」(→映画「熱いトタン屋根の猫」)「鳴く猫はネズミを捕らぬ」「猫の手も借りたい」「猫が肥えれば鰹節が痩せる」「上手の猫が爪を隠す」「猫の首に鈴をつける」「猫の恩返し」「猫でも王様をみることができる」(マザーグース)「鳩の中の猫」(アガサ・クリスティ)「猫を追うより皿を引け」「猫に小判」


「親切なおばけ」光文社(2007年3月読了)★★★★

ノノコが住んでいるのは、随分古い家。床に丸い物を置くと転がり、雨の日は天井から水が落ちてくるし、風が吹くと家がゆさゆさと揺れます。そんなノノコの家は近所の子供たちからは「おばけやしき」と呼ばれ、ノノコはおばけやしきに住んでいるおばけだからと、誰もノノコと遊んでくれませんでした。そんなある日、おじいちゃんが倒れます。誰も何も教えてくれないので、ノノコはおじいちゃんの部屋にもぐりこむことに。

若竹七海さんの文章と杉田比呂美さんの絵による絵本。
おばけはおばけでも、親切なおばけになったらどうかというおじいさんの言葉を聞いて、親切なおばけになろうと頑張ったノノコの巻き起こす騒動がユーモラスな物語。最後の部分で、家が変わるだけで状況も本当に変わるのかという思いは残りましたが、ノノコを見守るおじいさんの暖かいまなざしがとても素敵。杉田比呂美さんの絵も相変わらずの可愛らしさです。


「バベル島」光文社文庫(2008年1月読了)★★★★

【のぞき梅】…高校2年生の春休みの京都旅行の時に出会い、その後亡くなってしまった阪井京子の家に招かれた「わたし」は、京子にもらったそばちょこに梅酒ゼリーを作って持っていくのですが…。
【影】…高校時代からの付き合いのKさんの自宅に初めて訪れた日。車を降りると、塀にできていた奇妙な形の灰色のしみが目にとまります。しかもその下には菊の花が生けてあったのです。
【樹の海】…ホラー作家の杉浦圭太が語ったのは、河口湖近くのリゾートマンションに行った時の話。急用ができた友人の車を降り、丁度来合わせた友人の知り合いの車に乗り込みます。
【白い顔】…以前にも浮気で家庭騒動となった薩摩平太郎。今の愛人とは2年越しの付き合いで、誰にも知られないように慎重に気を配り続けているのですが…。
【人柱】…高校時代の先輩で、大学時代に父親が亡くなった時にも世話になった工藤利雄に突然呼び出された一条風太。工藤の20年ほど前に死んだ父親の日記を見て欲しいというのです。
【上下する地獄】…地方の中堅都市に鳴り物入りで建てられた30階建てのビル。そのビルの25階に勤務先の会社がある将彦は、黒髪の美しい若い女とエレベーターに乗り合わせるのですが…。
【ステイ】…高校2年の夏休みのほとんどを小さな旅行代理店のバイトをして過ごすことになった「ぼく」は、9月になると社長の2人の息子の面倒を見ることになります。
【回来】…妻が事故で不慮の死を遂げた後、6歳の息子・忠と一緒に東京に出る決意をした豊。兄に車を届けたいという友人の高柳の車に乗って東京へと向かうのですが…。
【追いかけっこ】…新宿ロイヤルハリウッドホテルの火災。綾子と大野木剛と剣崎雪彦の話。
【招き猫対密室】…目を覚ますと、自分の車の中で眠っていた南条。目に貼られていたガムテープをはがすと、ひどい吐き気に襲われ、失っていた記憶が徐々によみがえり始めます。
【バベル島】…イギリスのウェールズ北西部のバベル塔で起きた惨劇から、からくも日本に生還した高畑一樹。曽祖父・葉村寅吉の日記を読んで興味を持っていた一樹は、ボランティアの一員として働いていたのです。

単行本未収録の作品から、ホラー風味の強い11編選んで収めたという短編集。若竹七海さんお得意の、人間の悪意がじわじわと染み込んでくるような怖さや、漠然とした不安からくる怖さ、超常現象や怪奇現象的な怖さ、怪談的な怖さなど、一言でホラーとは言っても怖さは様々。そして、それぞれの作品がばらばらに発表されたとは思えないほど、各短編同士に繋がりや流れがあるのには驚かされました。特に「白い顔」→「人柱」→「上下する地獄」辺りは、短編のポイントとなる言葉が次の短編に引き継がれているようで、そういった意味でもぎょっとさせられます。短編集を組む時に、その辺りの配列にも十分気を配られたのでしょうね。
一番印象に残ったのは表題作の「バベル島」。舞台といい雰囲気といい何と言い、かなり好み。ここで登場する葉村寅吉は、葉村晶の曽祖父だったりするのでしょうか。

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