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このページは、田辺聖子さんの本の感想のページです。

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「ジョゼと虎と魚たち」角川文庫(2004年12月読了)★★★

【お茶が熱くてのめません】…7年ぶりの吉岡の想像以上の老け方に驚く高尾あぐり。そして居心地の良い居間ではなく、脚本家としての仕事の打ち合わせ部屋に通すことに。
【うすうす知っていた】…デパートの高級婦人服のディザイナーをしている妹の碧が結婚すると聞き、梢は驚きます。碧は常々、自分は結婚せずにいずれは店を持つと言っていたのです。
【恋の棺】…毎年9月に休暇を取り、六甲山ホテルに滞在する宇禰。今年は19歳の有二がホテルに来るかどうか考えていました。有二は、宇禰16歳年上の腹違いの姉の末息子なのです。
【それだけのこと】…ブライダル・ファッションフラワーを作っている香織の夫に対する感情は、芝居の相棒感覚。しかし6歳年下の「堀サン」の前では、自然でいられるのです。
【荷造りはもうすませて】…前妻の元に行く日の秀夫は、いつでも不機嫌。しかも3人いる子供たちのうちの次男の高校生が、学校で問題を起こしているらしいのです。
【いけどられて】… 離婚した元夫の稔は明日岡山で結婚式を挙げることになっており、梨枝は稔にお弁当を渡します。しかし梨枝に未練のある稔は、いつまでもぐずぐずしていました。
【ジョゼと虎と魚たち】…ジョゼと恒夫の出会いは、見知らぬ誰かに押されたジョゼの車椅子が坂道を滑り落ちた時、恒夫が車椅子に飛びついた時。そして今は2人で新婚旅行へ。
【男たちはマフィンが嫌い】…仕事人間の鳥井連に待ちぼうけを食わされているミミ。鳥井は口ばかり上手く、結局ミミは岡山の漁村にある別荘で3日間も1人きりなのです。
【雪の降るまで】…何十年も服地問屋の経理事務をやっている以和子は、京都の材木業者の51歳の既婚男性と共に京都の料亭へ。以和子は外見通りの地味な女ではないのです。

妻夫木聡と池脇千鶴主演で映画化された表題作他8編を収めた短編集。
この中で断然好きなのは「恋の棺」。若い甥を翻弄する宇禰、火傷しそうなほど熱くて、しかし同時に凍りつきそうに冷たい宇禰が最高です。しかし以前大好きで良く読んでいた作品に比べると、女性の姿がやや変化したように感じられます。以前好きだった作品に一番近いものを感じるのが、この「恋の棺」なのですが、他の作品に登場する女性には、以前感じていたような確かな吸引力は感じられませんでした。良い意味で尖っていて、自分自身に対する愛情がたっぷりと感じられる、生き生きとした女性たちはどこに行ってしまったのでしょう。それでも、「うすうす知っていた」の最後の1行には唸らされましたし、「荷造りはもうすませて」の「不機嫌というのは、男と女が共に棲んでいる場合、ひとつっきりしかない椅子なのよ…」という言葉にもはっとさせられました。こういうところが、やはり田辺聖子さんらしいですね。


「残花亭日暦」角川書店(2004年12月読了)★★★★

田辺聖子さんの2001年6月から翌年3月までの日記。前半は、仕事のことと家族のことが中心。後半は「カモカのおっちゃん」としてファンにはお馴染みの、ご主人の介護日記が中心となっています。

著作の非常に多い田辺聖子さんですが、日記を出版されるのは初めてとのこと。執筆に対談に講演会に文学賞の選考員にと、言わば分刻みのスケジュールをこなしてらっしゃる田辺さんの、非常に忙しい、しかし楽しく明るく意欲的に様々なことをこなしてらっしゃる生活ぶりが伝わってきます。ご主人は車椅子生活、お母様も100歳近いということで大変そうなのですが、アシスタントの「ミドちゃん」など、周囲の人々の手を借りながら、自分の人生を力一杯生きているという感じ。やはりこの前向きな気持ちの良さが、田辺さんならではですね。
しかし後半になると、ご主人の病状が悪化。悪性の腺癌とのことで急遽入院。それまでの超多忙な生活に病院通いが加わるのですから大変です。それでも明るさを失わず、ご主人の前ではことさらにいつも通り振る舞い、時には口数の減ったご主人を議論に引き込もうとする姿がなんとも切なくなってしまいます。周囲の人たちに助けられながら、時には飲みにも行きながら、仕事量を減らしたりすることもなく、頑張ってらっしゃる田辺さん。おそらくここで、「せめてもうちょっと仕事量を減らせば…」「そんな時に遊びに行ったりするなんて」と感じる方もいるのではないかと思いますが、私は「落ち込んでてもしようがないしねえ。…行ける時には、じゃんじゃん行こうよ」という言葉がとても好きでした。介護というのは半端ではなく大変だと思いますが、このぐらいの気持ちでないと乗り切れないものだとも思いますから。ミドちゃんの「お葬式は、どんなにでも延ばせますから」という言葉の裏にあるものも、深いですね。そしてこういうことが言えるのも、田辺聖子さんとご主人の間の確固とした信頼に基づくものなのだということが良く分かります。
介護の部分以外では、<好きな男(やつ)・好きな女(の)>コレクションの話がとても印象的でした。今までの何百冊もの小説は全て、実は好きなタイプの男性や女性のコレクションの大観展だというのです。確かに「私的生活」の剛や乃里子を始めとして、登場人物たちがそれぞれに魅力的。作品を読んでいると、田辺さんが本当にその登場人物を大切にしているのが伝わってきますし、これには納得。そして本の「はじめに」で、「蜻蛉日記」を引き合いに、日記というのは、楽しいことはそっけなく2〜3行で片付けるのに、楽しくないことを書く時は熱が入るものだ、ということが書かれていたのにも納得です。確かにそういうものかもしれないですね。でも楽しい時も悲しい時も、田辺聖子さんはあくまでも田辺聖子さん。この日記から垣間見えてくる姿は、私の思い描いていた田辺聖子さんの姿とぴったり重なってくれて、嬉しかったです。

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