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このページは、谷山浩子さんの本の感想のページです。

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「悲しみの時計少女」株式会社サンリオ(2005年6月読了)★★★★★お気に入り
喫茶店に1人で座っていた「浩子」に親しげに話しかけてきたのは、サカナのような目をした見知らぬ男。自分をふった男を呼び出して新しい彼女に会いたいなど悪趣味だと言い出す男に、浩子は呆気に取られます。確かに浩子は5年間つきあってきた浩司と最近別れたばかりであり、浩司に新しい彼女に会わせてくれと頼んでいました。しかし話の辻褄は合っているものの、そのサカナ男は浩司とは似ても似つかない顔立ちなのです。そしてそこに現れたのは、見たこともないような奇妙な少女。少女の顔は、なんと時計の文字盤の中に嵌め込まれているのです。その少女は、時計屋敷と呼ばれている自分の家に来ないかと浩子を誘います。時計を忘れて落ち着かない思いをしていた浩子は、早速その時計少女と共に時計屋敷へと向かうのですが…。

宮崎照代さんのイラストの良く似合う不思議な雰囲気を持つ作品。
谷山浩子さんといえば歌手という認識でしたが、小説作品も沢山書いてらしたのですね。歌手としての谷山さんのことも実はほとんど知らないのですが、しかしこれほど不思議な世界を作り出す方だったとは、正直驚きました。
ごく普通の喫茶店から始まった物語は、気付けばすっかり異世界となっていました。まるで「不思議の国のアリス」のように、読者に有無を言わさず異世界に引きずり込みながらも、そこにはまるで違和感がないのに驚かされます。時計の文字盤の中に顔が嵌っている少女も、ごく自然に物語の登場人物となってしまうことに。
時計少女は時計屋敷が自分の家だといいながら、なかなか目的地に辿り着くことができません。時計のにおいがすると少女が浩子を連れていくのは、スティグマリアの森の沢山の鳩時計、山奥の不思議な夫婦の家、ヨモリ時計店、と時計にまつわる不思議な場所ばかり。これらがとても映像的。情景が絵として目の前に浮かびます。一連の、少し不思議な幻想的な絵のよう。
しかしこの作品は、単なるファンタジーではないのですね。ファンタジーと思いながら読んでいると終盤はホラーに、そして最後の最後に様々な謎に対する真相が待ち受けていました。ミステリでもあります。そしてこの真相がとても切ないのです。たとえ部外者が「それだけのことで」と思ったとしても、本人にとっては切実な問題。最後に分かるタイトルの意味も切なかったです。
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