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このページは、中島たい子さんの本の感想のページです。

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「漢方小説」集英社(2005年8月読了)★★★★★お気に入り
突如として体が暴れだし、自らの生み出す振動にがたがたとふりまわされるセルフ・ロデオマシーンになってしまった川波みのりは、救急車で病院に運ばれます。その原因として考えられるのは、以前つきあっていた男性が結婚を決めたこと、そしてその話を聞きながら牡蠣を食べたこと。それ以来何を食べても胃が動かず、ずっと調子が悪かったところに、近所の総合病院で出してもらった胃薬を飲んだ途端、全身が震えだしたのです。しかしその時に運びこまれた総合病院の救急外来の医者は原因が分からないと言い、続く3つの病院でも特に異常なしという診断。そこでみのりが思い出したのが、高校時代に喘息で通っていた漢方医でした。そして漢方の若い医者は、みのりのドキドキするロデオマシーンのモーター部分の場所をあっさりと当て、しかも「腎」の働きが弱っているのだと言います。驚いて言葉もなかったみのりは、それ以来その漢方医に通い始めることに。

すばる文学賞受賞作品。
西洋医学と東洋医学の違い、陰陽五行説に関しては何となくの知識はあったのですが、目盛りのある西洋医学に対し、シーソーでバランスを取るような東洋医学、体は常に変化し、病気も自分が生み出す変化として捉える考え方、自分の病気は自分だけのものとする考え方など、とても興味深かったです。坂口医師の言葉を聞いていると、あさっての方を向いている精神状態でもいいではないかというそんな気にさせられてしまいます。もちろんそれだけでは胡散臭く感じてしまう人もいると思うのですが、「病気によっては西洋医薬でバーンと治しちゃった方がいいものもありますけどね」という言葉を坂口医師が口にしていることが、とても効いていますね。
ロデオマシーンになってしまう症状はかなり深刻そうなのに、ユーモラスでほのぼのとした語り口で淡々と語られていきます。特に大きな変動もなく、あっさりとした展開。読んでいるだけで安心できるような… まるでこの本自体が坂口医師の処方する漢方薬のようですね。最後まで淡々と進んでしまうので、物足りなく感じる読者もいるのではないかと思うのですが、その起伏のなさすらも、物語全体においてシーソーでバランスを取っているような印象です。
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