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このページは、三浦しをんさんの本の感想のページです。

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「月魚」角川文庫(2006年7月読了)★★★★
【水底の魚】…瀬名垣太一は、古書店「無窮堂」店主の本田真志喜を訪ねます。太一は店舗を持たない古本卸売り業者で、真志喜とは子供の頃からのつきあい。今回はM県の山奥に買い付けに行くので、真志喜に付き合ってくれるよう頼みに行ったのです。
【水に沈んだ私の村】…夏休みに学校の宿直室にいたのは、教師の宇佐見左右吉。彼は本を届けに来た太一に書きかけの小説を読まれ、太一や真志喜たちがプールに入るのを黙認させられることに。
【名前のないもの】…太一と真志喜は、神社の祭りへ。待ち合わせを忘れて店で考え事をしていた真志喜は、その日の客のことを太一に話します。

太一の父親は、古本屋で十把一絡げで売っている本の中から少しでも価値のありそうな本を漁ったり、廃棄場に捨てられている本をこっそり掘り起こして、何食わぬ顔で古本屋に売りに行く、古本業界では「せどり」と呼ばれて嫌われる業者。しかし真志喜の祖父である本田翁に気に入られ、教えを乞うようになったという設定。そして太一も本の価値を見抜く天分を持っており、今は自分で振る本業を営んでいます。そんな古本業界ならではのエピソードが面白かったです。それにM県の奥に買い付けに行った時の話がいいですね。夫に先立たれた奥さんの、亡き夫の蔵書に対する思い、蔵書の中の「1冊」の本を選んだ時に真志喜たちがつけた理由、そしてその結末。親族たちとのやりとりも良かったです。図書館の本に対する真志喜の言葉にはどきりとさせられました。
全体に流れる透明感のある静かな雰囲気も好きです。しかし真志喜と太一の関係についてはどうなのでしょう。2人が共有した過去の出来事、そしてその出来事から受けた傷、そして罪悪感、負い目… その辺りはとても良かったと思うのですが、2人の微妙に揺らめく心に関しては、とても思わせぶりな雰囲気だけが作り上げられて、結局そのままフェイドアウトです。この曖昧さがいいのかもしれませんが、これで終わらせてしまうぐらいなら、最初からそのような関係にしない方が良かったのでは、とも思ってしまいます。小説が作品として世に出るからには、こういったエピソードにも何かしらの必然が欲しいところ。この程度なら、普通の友情でも良かったのでは? このように適当に流してしまったら、所詮は作者の趣味と言われ、色眼鏡で見られてしまうことになるだけなのではないでしょうか。そういう目で見られるのは勿体無い作品だと思いますし、そうなるよりは、むしろ真正面から堂々と書ききって欲しかったです。そうなると、逆に読者をかなり限定してしまう恐れもありますが…。

P.91「図書館の蔵書になったら、カバーも函も捨てられてしまいます。無粋な印を押され、書棚に並べられればまだ良いが、下手をするとずっと書庫に納められたままですよ。そしてチャリティーバザーのときに、ただも同然で売りさばかれるのです。」

「しをんのしおり」新潮文庫(2005年11月読了)★★★★★
Boiled Eggs Onlineで連載されているという、三浦しをんさんのエッセイ。

このエッセイの最大の魅力は、やはり何と言っても三浦しをんさんの妄想炸裂ぶりでしょう。「人生劇場 あんちゃんと俺」の章では、友人のあんちゃん(仮名)と青山に出かけたしをんさん、表参道のフランス料理店の厨房を覗き込んで、そこで働く4人の男の妄想話を繰り広げます。最初は普通に男の職場的なリアルさを出していた会話は、気づけばBLネタへと…。それ自体も面白いのですが、「あらら、AとDが実はデキてるんだ」「そういうことになりましたね。もう一緒に住んでるみたいだ」という部分には爆笑。しかもなぜかそれがシベリアやグリーンランド沖での「妄想抑止ヘッドギア」の話へと発展。よくここまで妄想が膨らみますね。そして京都旅行中の「超戦隊ボンサイダー」の章の、ボンザイダーの設定を考えるところも面白かったです。「松グリーン。菊イエロー。ブルーローズ。梅レッド。牡丹ピンク」… 最初は日曜日の早朝の子供番組の設定を考えていたはずなのに、なぜかこれもBLネタへと展開。しをんさんだけでなく、しをんさんの妄想にきっちりついて行ける、一緒に盛り上げているしをんさんの友人たちもすごいです。
面白い人間の周囲には面白い人間が集まってくるのでしょうか。しをんさんご自身が面白いのはもちろんのこと、お友達にも面白い人が揃っていますね。古本屋のバイト仲間の「ニイニイ」や、行く先々で男に言い寄られる「腹ちゃん」、常識を覆す話をする「ぜんちゃん」など、友人のエピソードも笑えるものばかり。ただ、漫画の話は半分ぐらいしか分からなかったので、それだけが少し残念でした。こういう話は、やはり元ネタが分っていないと辛いものがありますね。
そして読後、三浦しをんさんの写真を見て驚きました。このような妄想モードの文章を書くような人には見えないですね。見た目は大人しげな和風美人なのに意外です。(人は見かけによらないとは言いますが…) そういえば、以前アンソロジーで読んだ短編は、このエッセイとはかなり違うしっとりとした雰囲気だったような… 小説作品もぜひ読んでみたいです。
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