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このページは、村瀬継弥さんの本の感想のページです。

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「藤田先生のミステリアスな一年」東京創元社(2003年7月読了)★★★

30数年前、小学校6年の時に担任だった藤田忠先生が入院し、同級生が次々と病院に集まります。同級生が集まると自然と話題になるのは、小学校6年の時に先生が見せてくれた、懐かしい「魔法」の数々。「千枚の絵の出現」「七夕の奇跡」「樹海の脱出」「サンドイッチの魔法」「インディアンの伝説」など、藤田先生が行った魔法は、どれも到底トリックがあるとは思えないような不思議さで、子供の目には本物の魔法使いに見えてしまうほどだったのです。しかし藤田先生が魔法を行ったのはその1年間だけ。後輩によると、それ以降は特に何もなかったとのこと。小学生だった当時はもちろん、現在に至るまで魔法のトリックの見当もつかなかない彼らは、藤田先生の魔法の謎を推理するため、そしてなぜその1年しか魔法が行われなかったのかを探るために、同窓会を開くことに。

第6回鮎川哲也賞で、佐々木俊介さんの「繭の夏」と共に佳作に選ばれた作品。この時の受賞作は、北森鴻さんの「狂乱廿四考」。
どことなく古めかしく懐かしい印象のある文章で綴られる、日常の謎の物語。「魔法」の舞台となる小学校は地方の農村地帯にあったようですし、今の教育事情を考えると信じられないほど、のんびりとしていて微笑ましい作品。子供たちも皆生真面目なほど素直に、先生に言われたことをそのまま受け止めていますし、それは読んでいるこちらが少々気恥ずかしくなってしまうほど。本当にほのぼのしています。しかし実際にこの「魔法」が行われていた頃は、こんな雰囲気だったのかもしれませんね。今の教育現場では、このような理想論は口に出されることもなかなかないのではないかと思うのですが。
「新世紀『謎』倶楽部」の藤田先生の作品を先に読んでおり、そちらが素晴らしかったため、そちらに比べると正直かなり見劣りします。文章や構成などはまだまだ工夫の余地があるような気もしますし、それぞれの登場人物にもう少し個性が欲しかったです。しかしこの作品の雰囲気には、この文章は本当にぴたりと合っていますね。同窓会で集まった面々が謎解きをする場面も、とても楽しかったです。「魔法」という言葉そのままの、おとぎ話のような雰囲気の本格ミステリでした。このまま児童物としても良さそうです。


「青空の下の密室」富士見ミステリー文庫(2002年9月読了)★★

東海地方城南市。梅田川高校の五時間目の授業中。突然教室横の階段が騒がしくなり「殺人らしいぞ」という声が。教室内はざわめき、橋上翔太は、もしや孫坂純一が巻き込まれているのではないかと心配になります。純一は、高校1年生だった昨年、同じクラスの「三人組」にいじめられていたのです。しかしクラスが解散になるのを待って、純一がいる7組へ行ってみると、そこにはずば抜けてカッコいいことで有名な青矢由紀夫と和やかに話している純一の姿が。そして由紀夫の彼女で、美少女として有名な赤月美樹も現れます。その日、屋上で殺されていたのは、日本史の教師である矢沢秀和。現場には凶器のナイフはなく、しかし事実上の密室状態だったのです。4人は事件について調べ始めます。

着流し探偵シリーズの第1弾。
着流しで探偵となるのは、宮本武蔵をこよなく尊敬し、剣道には自信があり、他に柔道も少し習ったことがあるという美少年・青矢由紀夫。先祖が武士ということもあり、純和風の自宅では和装で過ごすことが多いという少年です。そして一緒にいるのは学校でも有数の美少女。凄い設定ですね。今時漫画でもあまりないと思うのですが、これがライトノベルというものなのでしょうか。
それなりに楽しめたのですが… 突っ込み所は満載。「こういうときに携帯電話があればいいのだが、梅田川高校は校則で構内への持ち込みが禁止されていて」、この文章だけで、携帯電話がその後全く出てこない理由付けがなされているのにも驚きましたが、やはり密室のトリックに比べれば可愛いものですね。驚きました。


「白いブランコの鎮魂曲」富士見ミステリー文庫(2002年9月読了)★★

「青空の下の密室」事件の解決で有名になった4人は、夏休みの福白高校の文芸部の合宿に招かれることに。文芸部の中でも、4人を招いた推理小説好きのグループのメインイベントは、なんと「壁抜け」。部長の西原夏美が、内側から鍵をかけた体育館から見事外に出るというのです。そしてそのイベントも無事終わった翌日の朝、同じ体育館の中で、新体操のオリンピック候補と言われていた木中朋子先生が倒れているのが発見されます。

着流し探偵シリーズ第2弾。
今回舞台は他校に移ります。福白高校の文芸部には、「『純文学』と呼ばれる芸術的な小説を研究しているグループと、推理小説の読書や創作を中心に活動しているグループとがある」のだそう。純文学と推理小説2つに分かれてるとは、また極端ですね。(笑)
そしてメインイベントの壁抜けなのですが、いくら気を使ったとはいえ、トリックが分かっても分からないフリなどするものでしょうか。中途半端に大人ぶっているのが気になります。西原夏美の推理作家になりたいという夢に対し、他のメンバーが水をさしまくっているのも気になりました。荒木田隼という作家についての描写も同様です。前作は「教師ってこんなに大変なのよ」を強調していましたが、今回は作家なのでしょうか。せっかく10代の読者に向けて書いているのですから、もう少し希望を持たせるような作品にしても良いような気がするのですが…。しかしこの主人公、情けないですね。こんな状態では、いつまでたっても彼女なんてできないでしょう。

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