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このページは、宮城谷昌光さんの本の感想のページです。

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「沈黙の王」文春文庫(2001年8月読了)★★★★
【沈黙の王】…商(殷)の二十一代の王・小乙(しょういつ)の太子である昭は、生まれつきの言語障害により宮廷を追放されます。この時代、王は神意を聴き、群臣に伝える立場にあったので、言葉を持たない昭は王臣から次王に相応しくないとみなされていたのです。言葉をさがす旅に出た昭は、艱難辛苦の旅の末に、傅説(ふえつ)という昭の頭の中にある言葉を聞くことのできる人物と出会います。
【地中の火】…夏王朝の初期。斟灌(しんかん)氏との小競り合いを避け、住みやすい土地を求めて南下していた部族の首長・后げい(こうげい)は、ある時寒そく(かんそく)という男と出会います。寒そくに信用できないものを感じる后げいですが、船を作る技術に長けていることを知り、生かしておくことに。そして寒そくの策によって夏王を攻め込むことになります。
【妖異記】…周王室の太史である伯陽は、周の十二代の王・幽王の治世に起きた大地震により、周が十年以内に滅亡すると予言。その地震の直後、幽王は後宮で褒じ(ほうじ)という笑わない美女に出会います。褒じを寵愛するあまり、彼女が生んだ伯服を立太子させようと考えた幽王は、太子宜臼(ぎきゅう)を追放。しかし周は結局、宜臼の母の国である申に滅ぼされることに。
【豊穣の門】…前の「妖異記」と同じ時代。幽王の忠実な大臣であった鄭公・友(ゆう)は、周王朝の終わりが近いことを悟り、自分の国である鄭を中原に移します。そして申の攻撃から幽王を守り抜くために奮闘し、しかし結局幽王に殉じることになります。そして友の子・掘突(くつとつ)は、友の遺言により申に下るのですが、結果的には鄭を以前以上に発展させます。
【鳳凰の冠】…晋の時代。羊舌氏は晋の公室の流れを汲んでいる名門であるにもかかわらず、叔向(しゅくきょう)の父のの時代、一家は所領がわずか3戸。しかしその後、父は復位 、叔向も太子・彪(ひょう)の太傅に任ぜられまでに出世します。そして君主によって定められた叔向の妻は、六年前に市門で見かけて以来叔向が面 影を忘れられずにいた、夏姫の娘・季けいだったのです。

夏王朝から晋の時代までの名君、名臣を描いた短編集です。世界最古の文字・甲骨文字をつくり出すきっかけとなった高宗武丁、弓矢を発明した后げい、死を覚悟して幽王の最期を見届けた伯陽、命をかけて幽王と自分の国を守ろうとした鄭公・友とその子・掘突、徳を持って太子・彪を導いた叔向など、それぞれに独自のストーリーを秘めた人物ばかりです。短編ということで、それぞれの世界に入り込んだ頃に終わりがきてしまうのは残念でしたが、それでもストーリー・テラーとしての宮城谷さんの力量 はさすがですね。やはりとても面白かったです。

「春秋の色」講談社文庫(2003年1月読了)★★★★
宮城谷昌光氏のエッセイ集。様々な新聞や雑誌に書かれた文章が集められています。I〜IIIという3章に分けられており、I には主に中国のこと、IIには宮城谷氏ご自身のこと、IIIには宮城谷氏がかつて同人誌に書いた文章などが納められています。

この中で面白いのはやはりI の中国関係の記述でしょう。ここでは中国を舞台とする小説を書くようになったきっかけや、中国関係の書物、書物を通して見えてきた中国の風俗や日本との繋がり、そして漢字を始めとする言葉へのこだわりなどが書かれており、宮城谷氏の作品の基礎となっているものがよく分かります。
例えば、最初の「古代の色」という章では、夏王朝で最も尊貴な色は黒、商王朝では白(次いで赤、青)、周王朝では赤であったこと。日本において、「奈良」にかかる枕詞「青丹よし」(青+赤)を見ても、商王朝の宮殿の柱も日本の寺社も同じように赤かったことを見ても、倭人と商王朝の感性が似ていたことなどが指摘されています。そして似たような色でも「玄は黒糸のことであり、黒は火を焚いて煙らせてできる色」。又、「朱は木の赤、丹は土の赤」。それらもとても興味深かったです。
宮城谷氏は、きっと不器用なほど真面目な方なのでしょうね。たゆまぬ努力を積んできた方だという印象です。要領よく立ち回れない分、きっと時間をかけてじっくりと自分の世界を作り上げてこられたのでしょう。土台のしっかりした底力と、深い知性を感じます。

「中国歴史逍遥」の中に登場する中国関連の本(抜粋)
海音寺潮五郎…「中国英傑伝」(文春文庫)「孫子」(講談社文庫)
司馬遼太郎…「項羽と劉邦」(新潮文庫)
芥川龍之介…「英雄の器」(ちくま文庫)
郭沫若…「項羽の自殺」(岩波文庫「歴史小品」)
白川静…「中国古代の民族」(講談社学術文庫)「孔子伝」(中公文庫)
幸田露伴…「運命」(岩波文庫)
陳舜臣「中国の歴史」(講談社文庫)
中島敦…「弟子」(角川文庫)
吉川幸次郎「中国の知恵」(新潮文庫)

紹介されていると、どれも面白そうで読みたくなってしまいます。
しかしデュマの「ダルタニャン物語」(講談社文庫)と三国志、実は中心人物の設定が一緒なのだそうです。ダルタニャンが諸葛孔明とは?!驚きました。

「介子推」講談社文庫(2001年5月読了)★★★★★
20数年間中国全土を放浪した後に晋の君主となった重耳(ちょうじ)の臣の一人、介子推(かいしすい)の物語。名もない農民として生まれ、山霊に守られて人食い虎を退治し、やがて重耳に仕えて自分の功績を誇ることもなく君主のために奔走しますが、重耳が晋に戻った後は山に隠れます。中国では後に神とも慕われる人物です。

本当に清廉潔白な人物ですね。実はすぐれた棒の遣い手で人食い虎を倒したことも、主人である重耳を何度も恐るべき刺客・閻楚(えんそ)から守ったことも、その他主君のために奔走したことも、全く吹聴することなく行っているので、彼の功績は天と腹心の茲英(じえい)が知るのみです。しかしこの高潔すぎるほど高潔な人柄にあまり人間味が感じられず、少々まどろっこしかったりもします。純粋すぎて、現実味に乏しいのです。それに自分にも厳しいのですが、人にも厳しすぎ。これはやはり山の霊を前面に押し出したせいなのでしょうか。その結果として、結局山に入ってしまうことになるのですが。しかしそれでも宮城谷さんの筆力は相変わらず。物語としてとても面白いです。
同じ講談社文庫で「重耳」(全3巻)が出ているので、合わせて読むと、ここには書かれていないいろいろな事情が分かるので良いですね。こちらもとても面白いです。
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