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このページは、小泉喜美子さんの本の感想のページです。

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「弁護側の証人」集英社文庫(2004年12月読了)★★★★

元ストリッパー・ミミイ・ローイこと八島漣子は、八島財閥の有名な放蕩息子・杉彦に見初められて結婚。しかし杉彦の姉夫婦や古くからの使用人などは漣子を財産目当てと決め付け、認めようとはしません。そして姉夫婦やお抱え弁護士・由木卓平、かかり付けの医師・竹河誼らが揃い、八島家の当主・龍之助から杉彦への経済的援助を打ち切るという通達が出された夜、龍之助が離れで死んでいたのです。漣子は夫がやったのではないかと思い込み、アリバイ工作をするのですが、それが裏目に出て…。漣子は、ストリッパー時代の仲間・エダ・月園に紹介された弁護士・清家洋太郎と共に、改めて事件の捜査を直接担当してきた緒方警部補に話を聞いてもらうことに。

1963年の作品。小泉喜美子さんの処女長編です。
作中でも引き合いに出されていますが、ダフネ・デュ・モーリアの「レベッカ」のような舞台設定。ストリッパーから富豪夫人へというシンデレラストーリーでありながら、周囲からはなかなか受け入れられないという展開です。漣子の杉彦に対する愛情が綿々と語られ、まるで恋愛小説のような趣きもあります。ただ、その漣子の女々した物言いは、いかにもこの時代らしい語り口とも言えるのですが、それに最初なかなか馴染めず、少々読みにくかったです。
しかしそれらに気を取られている間に、気付いたらすっかり騙されていました。途中で話が分からなくなってしまい、また最初に戻ってしまったほど。小泉喜美子さんの作品では、以前読んだ「殺人はお好き?」のようなユーモアタッチの作品の方が好きなのですが、これは本当に上手いですね。気持ち良く騙してくれました。


「殺人はお好き?」徳間文庫(2004年11月読了)★★★★

GIとして日本に駐在していた経験のある私立探偵・ガイ・ロガートは、その頃の上司、クラーク・ブランドン元大佐の依頼で再び日本を訪れることに。ガイは、現在30代後半。ロス・アンゼルス近郊のサーフ・シティという小さな都市で、私立探偵をしているのです。ブランドンは除隊後アメリカに帰国、そしてフェニックス石油の極東支配人として、再び日本に戻ってきていました。ブランドンの依頼は、GI時代に結婚した妻・ユキコのハンドバックに入っていた、ヘロインの包みについて調べること。ユキコは最近、ブランドンが遅くなる夜は必ず外出しているというのです。ガイは早速ユキコの尾行をすることに。

私の大好きなクレイグ・ライスの作品を始め、多くの海外ミステリを翻訳されている小泉喜美子さんご自身の長編第1作。JR(当時は国鉄)の機関紙「交通新聞」に、1962年8月から1963年1月まで、津田玲子名義で連載された作品なのだそうです。
小泉さんご自身によるあとがきにも、クレイグ・ライスやカーター・ブラウンのような、明るくユーモアたっぷりのハードボイルド作品を書こうと思ったとありましたが、本当にまるでそのままクレイグ・ライス作品を読んでいるように楽しい作品でした。会話もとても洒落ていますね。そして女性をあくまでも理想像で描こうとする、レイモンド・チャンドラーやロス・マクドナルドなどの海外ハードボイルド作品の、ちょっとしたパロディのようにも感じられました。探偵役のガイ・ロガートも、フィリップ・マーロウやリュウ・アーチャーをもっと愛嬌たっぷりにして、ずっこけさせたようなタイプ。犯人と結末に関しては予想がつきますが、それはご愛嬌。最後まで楽しく読める作品でした。


「メイン・ディッシュはミステリー」新潮文庫(2004年11月読了)★★★★

雑誌「小説推理」に、1977年1月号から22回に亘って連載された「現代ミステリーを考えよう」を元に加筆したもの。海外の翻訳ミステリを基本に、本格物(ディテクティブ・ストーリィー)、変格物、フランス・ミステリー、ハードボイルド、クライム・ストーリィ、警察小説、スパイ小説、ユーモア・ミステリー、現代短編ミステリー、様々なミステリを論じ、作品を紹介していきます。

このエッセイを読んで最初に驚かされたのは、香山二三郎さんの解説でも指摘されているのですが、小泉喜美子さんの語り口の歯切れの良さ。まるで目の前のトークショーを見ているような生き生きとした文章が心地よいです。それに30年近く前に書かれた文章なのに、まるで古さを感じさせないというのにも驚かされました。この1冊の中に、小泉喜美子さんのミステリに対する愛情や美学、そして拘りが詰まっています。この本に11ある章の最初のタイトルからして、「殺人をテーマに好んで扱うジャンルだけに、ミステリーは美しく、洗練されていなければならない」なのです。この言葉こそが、小泉喜美子さんのミステリ観を一番端的に示した言葉なのでしょう。小泉喜美子さん自身の洒落たミステリ作品は、こういったところから生まれてきたのでしょうね。
読みながら色々となるほどと思う部分があったのですが、その中でも特に印象に残ったのは、推理小説は歌舞伎や落語、俳句など「約束ごとの世界」を持つ江戸文芸と通じるという言葉。これは小泉喜美子さんも感じてらしたところに、都筑道夫さんが文章として書いてらしたのだそうです。「マンネリズムを逆手にとることによって、成立する芸術形式」だなんて、まさにその通りですね。
この本の中では様々な作品が紹介されているのですが、その丁寧な紹介文を呼んでいると、どれも読みたくなってしまいます。海外ミステリガイドブックとしても貴重な1冊。ちなみに「血の季節」はカーの「火刑法廷」に、「弁護側の証人」はブレッド・ハリディの「人情噺」(「おとこ同志」「死刑前夜」)にインスパイアされて書かれた作品なのだそうです。いつかぜひ比べて読んでみたいものです。

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