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このページは、東野圭吾さんの本の感想のページです。

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「天空の蜂」講談社文庫(2001年9月読了)★★★★★お気に入り

錦重工業航空機事業部で開発され、防衛庁に納入される予定の最新型のヘリコプターCH-5XJ、通称「ビッグB」が奪取された!いたずらで乗り込んでしまった子供を一人乗せたまま、ヘリコプターは無人操縦によって福井県の原子力発電所「新陽」の上空へと向かいます。「新陽」の真上でホバリングを続けるヘリコプターの姿に、地元は大混乱。そして各方面へと「天空の蜂」と名乗るテロリストからの要求のFAXが入ります。ヘリコプターは爆薬を積んでおり、要求が満たされない場合、犯人はヘリコプターを「新陽」の上に墜落させるというのです。

一言で言って、ものすごい作品です。まるで真保裕一さんの作品を読んでいるかのような緻密な取材の上に成り立っており、なおかつスケールが大きく、サスペンスフルな展開。全体に抑えたトーンの中には緊迫感が漲っており、それぞれの登場人物像も鮮やか。かなりの長さにも関わらず一気に読まされてしまいます。そしてこれが実際に作中で流れる時間としては10時間ほどというのが驚きです。ストーリーテラーとしての東野さんの上手さが際立ってますね。文庫本の解説に真保裕一さんを持ってきたところなんて、ちょっと出来すぎかも。(笑)
東野さんには「変身」や「分身」のような最先端医学について問題定義をしている作品がありますが、この作品は原子力発電所についていろいろと考えさせられる作品です。原子力発電所については「決して賛成ではないけれど、既になければ困るらしいし、あまり普段から考えることがない」という人が多いと思います。水力発電には限界があり、日本の火力発電は石油を100%輸入に頼っている状態、というのは政府や電力会社に刷り込まれた事実というだけなのかもしれませんが、実際に原発をもう止められない状態にまで来ているのはきっと事実なのでしょう。でもどこかになければいけないというのは分かるけれど、やはり事故のことを考えると怖いし、身近に原子力発電所があるのはイヤ。でも自分の身近になければまるで対岸の花火を見ているような感覚で、日常生活の中ではまず考えることもない。とは言っても、もし身近にあったらあったで感覚がだんだん麻痺していってしまい、それがある風景に馴染んでしまう…。私自身も、非常に無責任な話ですが、身近にないのをいいことにほとんど考えたことがありません。これではいけませんね。
こういう問題を小説にとりあげると、すぐに「いかにも」な社会派小説になってしまいそうなのですが、しかしこれらの問題の取り上げ方が東野さんらしくとてもスマートです。反対派と擁護派それぞれの意見を物語に自然に組み込み、興味がない人間にもいやみなく自然に物語に入っていけるように書かれています。この作品は、事件の犯人に関してかなり早い段階で明らかにされるのですが、これはもしかしたら原子力発電所の問題を前面に押し出すために、敢えてミステリ的興味を抑えたとも思えるのですが…。この考え方はうがち過ぎでしょうか?
こういうことを書いていると、読む前に構えてしまう方も多いかもしれませんね。上質なエンターテインメントとしてだけでも十分楽しめる作品なのでぜひ読んでみて下さいね。


「名探偵の掟」講談社文庫(2000年4月読了)★★★★

連作短編集です。名探偵・天下一大五郎とワトスン役である大河原番三警部と共に、次々と難事件を解決していきます。しかしこれは真面目なミステリ小説ではなく、全くのパロディ小説。ここに登場する事件は密室やアリバイ、ダイイング・メッセージなどミステリの基本的なものばかりで、それぞれのキャラクターはそういった小説の世界にうんざりしながら、それぞれの役割をこなしています。例えば、天下一に名探偵役を譲るために、大河原警部は常にわざと間違えた推理を展開しなければならなかったり、天下一も犯人当てをしながら、今更ながらの密室事件を解説しなければならなかったり… そして時々小説の世界から逸脱して、お互いに本音で語り合ったりもします。小説のキャラクターたちが作者の駒であることを自覚して動いていて、その本音が随所に見られるのがとても面白い作品です。皆この小説の世界にはすっかりうんざりしているのですが、人気シリーズだし仕方ないから作者につきあってやっている、という感じ。そしてその登場人物たちの本音を通して、東野さんの本格ミステリ界に対する痛烈な批判があらわになってます。しかしその批判は、逆に東野さんの本格ミステリへの思い入れを感じさせるもの。本格ミステリが好きだからこその憂いといったところでしょうか。続編だという「名探偵の呪縛」もぜひ読んでみたいものです。
名探偵も脇役も苦労してるんですね。(笑)


収録:「密室宣言」「意外な犯人」「屋敷を孤立させる理由」「最後の一言」「アリバイ宣言」「花のOL湯けむり温泉殺人事件」「切断の理由」「トリックの正体」「殺すなら今」「アンフェアの見本」「禁句」「凶器の話」


「どちらかが彼女を殺した」談社文庫(2000年3月読了)★★★★★お気に入り

「あたしが死んだら、きっと一番いいんだと思う」。和泉康正は妹・園子からの電話が気になり上京します。しかし園子はすでに死んでいました。愛知県警の警察官でもある康正は、表向きには自殺に見せかけるように工作をして自分独りで調べ始めますが、管轄である練馬署の刑事・加賀恭一郎はそんな康正の行動に不審なものを感じ…。

事件自体には特別なトリックがあるわけではなく、容疑者も2人に限定されています。しかしそのどちらが真犯人なのかは最後まで分からず、読者が自分できちんと推理しない限り真相は明らかになりません。文庫版には西上心太氏による「推理の手引き」が袋とじでついてますが、これにしても真相がはっきり書いてあるわけではなく、ヒントだけです。こういう趣向は面白いですね。しかし普段自分がいかにいい加減に読んでるのかを思って、少し反省してしまいました。
殺人のプロである加賀と現場検証から推理するプロである康正の腹の探り合いがとても面白かったです。康正の頭の回転もすごいですが加賀の推理力もなかなかのもの。しかも全体の流れもテンポも良く、とても楽しめたのですが、最初の時点でなぜ康正が捜査を妨害してまで自分で行動しようとするのかというのがなかなか分からず、すっきりしませんでした。その部分だけはもう少し丁寧に書いて欲しかったかもしれません。


「悪意」講談社文庫(2001年7月読了)★★★★★お気に入り

著名な作家である日高邦彦が自宅で絞殺死体となって発見されます。発見者は日高の妻・理恵と、日高と幼馴染であり、駆け出しの児童文学作家でもある野々口修。野々口の元同僚である加賀恭一郎刑事は、野々口の書いていた手記を参考に真犯人を逮捕するのですが、犯人はどうしても真の動機を語ろうとしないのです。殺人事件自体は無事解決されたものの、加賀刑事の推理は続きます。

野々口と担当刑事である加賀恭一郎の、それぞれの手記によって物語が進みます。これはかなり意外なミステリですね。殺人犯が誰かということ自体は、かなりあっさりと分かってしまうのですが、それから先が長いです。犯人が誰か、どのようなトリックだったのか、どのようにしてアリバイを作ったのか、そういうことを推理するミステリは数多くありますが、犯人の動機を推理するのに、これだけのページ数を費やしている作品も珍しいでしょう。この作品に関して言えば、犯人やトリックは付加されただけの存在。推理すべきものは犯人の動機です。さすが心理描写 に長けた東野さんらしい作品だと思います。今までの作品でも常に犯人の動機は大切にされてきていましたし、こういう作品が生まれるのも当然の帰結なのでしょうね。そして最後に来る真相は驚くべきもの。
それにしても主要登場人物が少ないですね。手記に出てくる名前は多いのですが、実際に動いているのは4〜5人だけ。この人数でこれだけの作品になるのですから、東野さんの力量はやはりすごいです。


「名探偵の呪縛」講談社文庫(2000年3月読了)★★★★

社会派ミステリ作家である「私」は、調べ物をするために訪れた図書館で、なぜか別世界に紛れ込んでしまいます。そこでの「私」は、名探偵・天下一大五郎。既に数々の難問を解いた実績のある「私」は、ある市の市長に招かれて、「密室」や「人間消失」といった本格ミステリ的な事件を解決することになります。どこか不自然なその市の存在。天下一は事件を解いていくごとに、この市にかけられた呪いの存在を感じ、自分がなぜその世界に迷いこんだのかを考えはじめます。

「名探偵の掟」の主人公である天下一大五郎の再登場です。
これは作者である東野圭吾さんの、「本格推理」への思いを綴ったような作品です。「現実味の少ないの舞台設定に単なる駒でしかない登場人物」「不自然なまでに殺人事件に遭遇する登場人物」「ご都合主義的に推理力を発揮する名探偵」が多い本格推理の世界の中でも、東野さんといえば、着実にリアリティのある世界を構築し、その中の登場人物をもきちんと1人1人の人間として描いてきた作家さんです。その作品の中で、犯人の動機には犯人自身のリアルな心情が詰まっており、とても説得力もあります。現在その作風は本格推理の世界でも際立っていると思うのですが、ごく少数派であることも事実。それだけに現在の本格推理界に対する疑問や、本格推理に対する東野さんご自身の憧れが、東野さんの中で葛藤しているのでしょう。これから自らが生み出す作品に対する意識改革とも取れるかもしれません。いろいろと考え出すと、とても深い作品です。
とは言っても、そういう不自然さをもつ本格推理の世界をもやっぱり大好きな私。この作品も、表向きは名探偵・天下一大五郎が次々と不可能に思える謎を解いていくという構成で、とても楽しく読める作品です。


「探偵ガリレオ」文春文庫(2002年2月読了)★★★★

【燃える】(もえる)…毎週末、夜中まで騒いでいるバイクの少年たち。彼らがいつものように道端で馬鹿話をしていると、突然その中心にいた少年の頭が燃え始めます。そして、自動販売機の所に置いてあったポリタンクのガソリンに引火。中心にいた少年は焼死、残りの4人は重軽傷を負うことに。
【転写る】(うつる)…ひょうたん池で鯉が釣れるという話を聞き、釣りにやって来た藤本隆夫と山辺昭彦。池にはたくさんのゴミが浮かび、鯉が釣れそうにないと諦めかけます。そんな時、山辺が見つけたのは30cmほどの銀色の平たい物体。最初はコンビニの鍋焼きうどんの容器に見えたのですが…。
【壊死る】(くさる)…自宅の浴室で死亡しているのを発見された高崎邦夫。最初は心臓麻痺が原因と思われますが、胸には直径10cmほどの不審な痣が。痣の部分だけ細胞が完全に壊死していました。
【爆ぜる】(はぜる)…夫と一緒に湘南の海に出かけた梅里律子。ピンクのビーチマットに乗って波に揺られていると若い男性が来て一瞬後、轟音と共に律子の体からは火柱が。その1週間後、三鷹のアパートで男性の他殺死体が発見されます。殺された男は、湯川助教授のいる帝都大学の卒業生でした。
【離脱る】(ぬける)…杉並区のマンションの女性の絞殺死体。容疑者となったのは、保険外交員の栗田信彦。犯行推定時刻、気分が悪くて多摩川の近くに車を停めて休んでいたと主張し、その言葉を裏付ける手紙も捜査本部に届きます。しかし病気で寝ていた子供が、幽体離脱によって車を目撃して…。

警視庁捜査一課の草薙俊平刑事が、親友であり帝都大学の物理学の助教授である湯川学と共に次々と事件を解決する連作短編集。起きる事件は理系の専門知識がないと分からないものばかりなのですが、でも逆にここまで専門的だと、理科の実験を見ているような楽しさがありますね。一見超自然的な現象にみえることにも、すべて科学的論理的な解明がされるので、読後感もすっきりとしています。湯川助教授は、そのまま森博嗣氏のS&Mシリーズに出てくる犀川助教授のよう。草薙と湯川のコンビもなかなか楽しいです。しかしこの作品に出てくる登場人物もそれぞれに魅力的なのですが、S&Mシリーズの方がやはりキレがあるように感じられますね。


「秘密」文藝春秋(2000年1月読了)★★★★★お気に入り

スキーバスの事故で妻・直子を失った平介。娘の藻奈美は奇跡的に助かったのですが、その人格は妻・直子の物でした。そして外見的には親子という夫婦の生活が始まります。2度目の人生を与えられた直子は、藻奈美として生まれ変わることによって、直子だった時にできなかったことを取り戻すかのようにいろいろなことに打ちこみます。

第52回日本推理作家協会賞受賞作品。
娘(魂は妻)が成長すればするほど、父であり夫である平介の苦悩が増す様子がとてもよく描かれていて、心が痛くなるような作品です。ミステリというよりは切ないラブ・ストーリーだと思うのですが、でも愛情のこもったトリックが仕掛けられているので、その点はやはりミステリと言えるのでしょうね。そのトリックに気がついた時の平介と、それを仕掛けた直子の心を思うと、涙なしには読めないような名作だと思います。東野さんの作品を読むのはこれが初めてだったのですが、正直これほど良いとは思っていませんでした。早く他の作品も読まなくては。


「私が彼を殺した」講談社ノベルス(2001年10月読了)★★★★★お気に入り

新進の女流詩人・神林美和子の結婚式当日、新郎である流行作家・穂高誠が毒殺されます。実はその前日、穂高が美和子と2股をかけて付き合っていた浪岡準子が、穂高の家で服毒自殺をしていました。容疑者は3人。穂高のマネージャーである駿河直之は、片思いの波岡準子を穂高に取られ、しかも死体の後始末まで押し付けられていました。神林美和子の兄・神林貴弘は、妹の美和子を兄妹の一線を越えて愛していました。そして神林美和子の担当編集者である雪笹香織には、穂高との結婚を夢見ていたという苦い過去が。物語は、加賀刑事の「犯人はあなたです」という言葉で終わります。

元々推理小説とは「メモを取りながらページをめくり、作者がちりばめたヒントを手がかりに真相を推理する」という著者の言葉通りの小説。「どちらかが彼女を殺した」と同じように、真犯人は誰なのか明かされないまま物語は終ります。しかし犯人が誰なのかを推理するための小道具はきちんと用意され、しかも限定されており、普通のミステリ小説よりも遥かに推理がしやすいのではないでしょうか。「どちらかが彼女を殺した」も緊迫感があってすごい小説だと思いましたが、こちらの方が作品としては上かもしれません。
犯人はきっとあの人物なのでしょうね。というのは、その人物にだけ、ある特定の物品についてトリックを仕掛けることが可能だからです。しかし私としては、本当は全然違う人物が犯人であってほしかったような…。その方が心情的には納得しやすいのですが。大どんでん返し希望です。(笑)


「白夜行」講談社文庫(2002年6月読了)★★★★★お気に入り

1973年(昭和48年)、オイルショックの頃。近鉄布施駅近くの廃ビルで、質屋の店主・桐原洋介が刺殺されるという事件がおきます。彼は店を出た後、銀行から現金100万円を引き出し、質屋の客である西本文代の家の家に寄っているのですが、その後なぜ廃ビルなどに行ったのか。警察は状況から顔見知りの犯行と断定。まず西本文代を疑います。西本文代は1人娘の雪穂と2人で暮らす、30代半ばほどの未亡人。警察は、貧乏だが美貌の彼女が洋介の愛人だったのではないかと考えるのですが、しかし文代にはアリバイが。警察は次に文代と付き合っていると思われるセールスマン・寺崎忠夫の共犯説を考えるのですが、しかし何も何も物証が出ないまま忠夫は交通事故で死亡。続いて文代自身もガス中毒で死亡。更には桐原洋介の妻・弥生子と質屋で働いている松浦勇の関係が怪しいなど、次々と容疑者は浮かぶのですが、それぞれにアリバイがあり、事件はとうとう迷宮入りすることになります。母親を失った西本雪穂は、親戚の唐沢礼子にひきとられ、唐沢雪穂として私立精華女子学園中等部へ。そして桐原洋介の1人息子である亮司は地元の大江中学校へ。事件などなかったかのような毎日へと戻るのですが…。

2000年度の「このミステリーがすごい!」で第2位、週刊文春の「今年のミステリー」で第1位と、その年のベストテンの首位を「永遠の仔」と争った作品。
物語は昭和48年に始まり、最終的には19年後まで進みます。1章ごとに少しずつ時間が経過。その物語の中心となるのは、唐沢雪穂と桐原亮司の2人。各章の物語は断片的な場面の積み重ねという印象です。特別スリリングな展開というわけでもなく、様々なことがほのめかされつつ、ただ淡々と続いていくだけ。しかも全体的な流れはぼやけているのに、細部は妙にクリアなのです。物語の舞台となる昭和という時代の風俗や出来事に関しても、四大公害裁判の結審に始まり、オイルショック、インベーダーゲームの流行、銀行のキャッシュカード導入、スーパーマリオの爆発的流行などが詳細に綴られていきます。その時代の描写の詳細さが読者の記憶を呼び覚まし、断片的な物語を勝手に線でつながれていくという感じでしょうか。しかしそれぞれの出来事が確実に繋がっているのは分かるのですが、分かりかけると突き放されるということの繰り返しで、なかなか真相に近づくことはできません。雪穂と亮司の2人がおそらく何らかの繋がりを持っているのも分かるのですが、2人が直接会話を交わす場面なども全くないのです。しかもこの2人は物語の中心となっているにも関わらず、常に第三者からの視点で描かれるため、人の目を通しての2人しか知ることができず、そして気が付けば2人の悪意がじわりじわりと伝わってきて…
上手く説明できないのですが、とにかく読者を引き込む力を持った作品。桐原洋介殺害事件に巻き込まれた2人の小学生のその後の物語だったはずが、老刑事の登場によって読者は19年前に引き戻されることになります。最後まで読んだ時に、あまりに綺麗はりめぐらされた伏線に改めて驚かされました。今までの東野さんの作風とは少し異なりますし、特に「秘密」の暖かく包み込んでくれるような作品とは全く逆の乾いた哀しさが残る作品。しかしこれも東野さんの世界なのですね。ストーリーテリングの巧さでは元々定評のある作家さんですが、本当にすごいです。オススメ。


「嘘をもうひとつだけ」講談社(2001年10月読了)★★★★

【嘘をもうひとつだけ】…弓削バレエ団の事務員・早川弘子が自宅マンションから転落死。1年前に故障で引退していたのに、スウェットの上下、レッグウォーマー、トウシューズという服装でした。
【冷たい灼熱】…その日田沼洋次が家に帰ってみると、妻の美枝子は絞殺死体となって倒れていました。しかし1人息子の裕太の姿はどこにもなく…。
【第二の希望】…娘を女手一つで育てている楠木真智子の夢は、娘の理砂を体操のオリンピック選手に育てあげること。しかし彼らが住む部屋から、真智子の交際相手・毛利周介の死体が発見されます。
【狂った計算】…夫・坂上隆昌を交通事故で亡くし、毎日のように花屋で菊とマーガレットの花を買い求める奈央子の元を加賀刑事が訪れます。建築士である中瀬幸伸が行方不明だというのです。
【友の助言】…加賀刑事は友達の見舞いで病院を訪れます。その友達は過労のせいか、居眠り運転で交通事故を起こし、入院していたのです。

加賀恭一郎シリーズ。
表題作「嘘をもうひとつだけ」では、バレエには少々関心がある、という言葉にニヤリとさせられます。果たしてそのうち「関心がある」以上の行動を見る日が来るのでしょうか。学生編からの加賀ファンの私にとっては、新しい作品になるほど、加賀刑事の人間性が排除されつつあるのが、少々寂しいところです。この作品の中でも、加賀刑事はまるで刑事コロンボのように犯人に狙いを定め、心理的に追い詰めていきます。その落とし技はとても見事ですし、犯人対刑事の駆け引きがはかなりの緊張感、緊迫感を生み出しているのです。しかしそれだけに、加賀刑事の冷静で何事も見逃さない鋭い面ばかりがクローズアップされてしまっているようです。本来の加賀刑事はもっと柔らかさと強さを兼ね備えた人物だったはず。個性のない探偵役なら、ほかの人物でも十分事足りると思うので、加賀刑事には加賀刑事ならではの活躍を期待したいのですが…。

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