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このページは、東野圭吾さんの本の感想のページです。

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「美しき凶器」光文社社文庫(2000年12月読了)★★★

安生拓馬、丹羽潤也、日浦有介、そして佐倉翔子。かつては世界的なスポーツ選手であり、現在はそれぞれに安定した生活を送っている4人の男女。彼らには、知られてはならない秘密がありました。その秘密を知るのは、仙堂之則ただ1人。4人は仙堂の家に忍び込んで秘密の証拠を盗もうとするのですが、結局仙堂を殺害してしまうことに。しかし最後に屋敷に火を放ち、全ての証拠は燃え尽きたはずなのに、それを見ていた人間がいたのです。実は仙堂は、屋敷の裏手に訓練センターを作り、身長190cmに鍛え上げられた筋肉を持つ、1人のタランチュラのような少女を育てていました。彼女はモニタで4人の行動を全て知り、復讐のために立ち上がります。

「鳥人計画」を彷彿とさせる、スポーツ医学絡みのサスペンスです。仙堂を殺してしまう4人の男女、「タランチュラ」、警察、という3つの動きを順に追いながら、物語はぐんぐんと進んでいきます。追われる4人の男女の恐怖、タランチュラに出会った人々の恐怖、警察関係者の焦り、そして淡々と人を襲い続けるタランチュラ。緊迫感のあるストーリーです。そしてその後に待っているのは、感動的なラストシーン。仙堂を殺されたことに対する静かな怒りしか見せなかった「タランチュラ」の、初めての生身の哀しみの感情。やはり彼女も普通の女性だったのですね。
それにしても、栄光を求めるためには何をも辞さない人々というのはどうなのでしょう。この4人に殺された仙堂は悪者として描かれていますし、本当にその通りだとは思いますが、本当は4人も完全に同罪のはず。自分の過去の栄光と現在の名誉を守るために、都合が悪くなったら相手を消してしまうとは。きっとこういう人間は多いのでしょうけれど、化け物扱いされた「タランチュラ」が可哀想すぎます。
光文社から出てる中ではいい感じなのですが、でもやはり「鳥人計画」や講談社文庫に比べると物足りないものを感じます。どこか2時間サスペンスドラマになってしまっているというか…。


「同級生」講談社文庫(2000年3月読了)★★★★

宮前由希子の突然の事故死。そして由希子が妊娠していたという噂が学校中に広がります。主人公である西原荘一がその噂の出所を調べるうちに、やがて産婦人科に行く由希子を待ち伏せしていた女教師・御崎の存在が明らかになります。由希子は御崎から逃げようと道に飛び出したところでトラックにはねられたのです。荘一は御崎対して抗議し謝罪を求めるのですが、彼女は絞殺体で発見され…。

学園物です。主人公である西原荘一が少々大人すぎるような気はするのですが、なかなかかっこ良く、そのほかの登場人物もそれぞれに個性的で魅力的。ラブストーリーとしても楽しめます。主人公と友達や教師との会話、特に刑事とのやりとりがとても良いです。推理小説としては各登場人物の動きが良く計算されている印象。思わぬ所に伏線もあり、事件の流れからも目が離せません。


「分身」集英社文庫(2001年7月読了)★★★★★お気に入り

北海道に暮らす氏家鞠子は、大学教授である父と愛情の濃やかな母の一人娘として、幸せな生活を送っていました。しかしひょんなことから、自分は母の本当の子供ではないのではないかという疑問を持つように。思い切って調べた戸籍謄本には「長女」と書かれていたものの、その後も鞠子が母の愛情に疑問を感じる日は続きます。そして彼女が中学一年の冬休み。母は父と鞠子に睡眠薬入りの食べ物を与えた上で家に放火、一家心中を図るのです。しかし結局焼死したのは母だけ。そして五年後。大学生になった彼女は、本格的に自分の出生の秘密を探り始めます。父に内緒で上京した先で彼女が知ったのは、彼女と瓜二つの女性がテレビに出ていたということ。その女性は20の女子大生・小林双葉でした。母の猛反対を押し切ってのテレビ出演だったのです。

この作品では鞠子と双葉の章が交互に書かれており、彼女たちが自分たちの出生に疑問を持った理由に始まり、少しずつ出生の秘密が明らかにされていきます。彼女たちの心の動きもとてもよく描写 されているので、真相がわかっていくにつれて緊迫感も高まっていきます。
東野さんの作品はテーマも形式も多岐に渡るのですが、この作品は「変身」のように医学の分野で人間が手を出してよい部分と神の領分として残しておくべき部分に関する内容です。そしてこの作品に出てくるこの技術も、やはりこの分野も明らかに神の領域として残しておくべき分野でしょうね。特に、ある政治家のエピソードについては、東野さんの一番の危惧を見たような気がしました。こういう技術が発達すると、必ずぶつかる問題のはず…。普段それほど時事ニュースに興味のな人でも、このような作品を通していろいろ考えさせられるのではないでしょうか。


「しのぶセンセにさよなら」講談社文庫(2000年11月読了)★★★★

「浪花少年探偵団」の続編です。しのぶセンセこと竹内しのぶは、小学校を休職して内地留学で兵庫県の大学に在学中。教え子の田中鉄平や原田郁夫は中学生に。それでもやっぱりしのぶセンセの周りには事件がおきるのです。こちらも連作短編集。

副題は「浪花少年探偵団・独立編」。
しばらく教師業から離れているしのぶセンセは、それでも相変わらず勢いが良くて、魅力的で、生き生きとしています。教師でないからこその動きもできるので、作品としての幅が広がっているという印象。でも内地留学を終えて教師に戻った時の迷いと悩みについては、すごくよく分かる気がします。そういう時が女性としての人生の転機になりやすいんですよね。でも逃げるのは似合わないしのぶセンセのことなので、やっぱり100%で物事にぶつかっていくのですが…。万年ヒラ刑事の新藤刑事とエリートの本間さんの間のさやあては、どうやら決着がつきそうかなという所で終わってしまいました。しかし東野さんはもうこの続編を書かれる気はないそうです。とても残念。

収録:「しのぶセンセは勉強中」「しのぶセンセは暴走族」「しのぶセンセの上京」「しのぶセンセは入院中」「しのぶセンセの引越」「しのぶセンセの復活」


「怪しい人びと」光文社文庫(2000年12月読了)★★★★

【寝ていた女】…なぜか部屋を同僚の片岡に貸すようになってしまった「カワシマ」。片岡から話は広がり、同僚3人に時々部屋貸し業をすることに。しかしある日部屋に戻ってみると、見知らぬ女がベッドに寝ていました。「俺」は酔って前後不覚だった彼女の相手の男を探すことになるのですが…。
【もう一度コールしてくれ】…ノボルに大金の入る話があると誘われ、セールスマンを装って一人暮らしの老人宅に押し入った「俺」。警官に追われて逃げ込んだ家は、因縁のある「南波勝久」の家でした。自分がこんな風になったのは南波のせいだと、「俺」がずっと恨んでいる相手だったのです。
【死んだら働けない】…仕事熱心で人当たりも良く、周囲からの信頼も厚い本社の林田課長が、密室状態の工場の休憩室で撲殺死体で発見されます。始めは開発していたロボット工作機械のアームによる事故だと思われるのですが…。
【甘いはずなのに】…新婚旅行で訪れたハワイの最初の夜、「私」は妻の尚美の首を絞めようとします。「私」は尚美が、先妻との娘を事故に見せかけて殺したのではないかと疑っていたのです。
【灯台にて】…古いアルバムに貼っている、白い灯台の写真。13年前、当時大学1年生だった僕は、幼なじみの祐介とそれぞれ東北へ1人旅をしたのです。そして日本海に面した灯台を訪れた時…。翌日逆ルートを辿ってきた祐介に、僕は悪戯心から灯台の話をします。
【結婚報告】…典子からきた結婚報告の手紙。中にあったのは楽しそうないかにも典子らしい手紙と、2人の写真。しかしその写真に写っている女性は、典子とは全くの別人だったのです。智美は休みをとって、金沢にいる典子を訪ねることに。
【コスタリカの雨は冷たい】…5年間のカナダ駐在が終り、日本に帰国する前にコスタリカにバードウオッチングに出かけた夫婦。しかし森の中で強盗に遭い、現金やパスポート、カメラなどを奪われてしまいます。しかしウエストポーチの中で見つけたカメラのボタン電池をきっかけに、思わぬ真相が…。

探偵が犯人を推理するのではなく、「なぜそのようなことになったのか」という理由を探るのが中心となっている短編集。
「寝ていた女」普通はもっと強引に追い出すんじゃないかと思いますが。真相に気づくきっかけが何とも言えません。「もう一度コールをしてくれ」強盗の話から思わぬ展開になります。かなりずっしりとくるものがありますね。「死んだら働けない」この動機はとても良く分かります。そりゃイヤにもなりますよね。しかしこの林田課長を見ていると、同じ物事でも人によって見方が様々なことを実感させられます。「甘いはずなのに」切ないラストがなんとも言えません。哀しいですが、読後感は良い話です。「灯台にて」ブラックですが、嫌なヤツがやりこめられるというのは爽快。最後の文章ににやりとさせられます。「結婚報告」一歩間違えるとドロドロになりそうな話なのですが、なかなか良い感じです。「コスタリカの雨は冷たい」ちらっとしか出てこないニックやタニヤばあさんが、とても良い味を出しています。しかし「テッド」と「アン」とは、一体誰が呼び始めたんでしょう。
光文社から出ている長編は、2時間物のサスペンスドラマのような印象の作品が多いのですが、これは無理に長編にしていない分、好感が持てます。とても読みやすい1冊です。


「むかし僕が死んだ家」講談社文庫(2000年6月読了)★★★★★

「私」のところに、突然昔の恋人・沙也加から電話がかかってきます。安定した結婚して子供もいて、幸せなはずの彼女。しかし実は自分の小学校以前の事柄がすっかり記憶から抜け落ちていることで悩んでいたのです。父親の形見として出てきた1つの鍵と地図が、記憶をとりもどすきっかけになると思った沙也加は、「私」に一緒にその地図の場所に行ってくれるように頼みます。

設定はそれほど珍しくないのですが、でもやはり東野さんの筆力でぐいぐいと読ませてくれる作品です。別荘がなぜ23年もの時を止めてしまっていたのかが、残された子供の日記を中心に推理されていくのですが、この日記がなんとも効果 的に使われていると思います。そしてある程度予想された結末が待っているのですが、その中にも意外な真実が隠されていて驚かされました。本当にそんなことをする人間がいるのか、と少々唐突には感じましたが…。作品全体に漂う物悲しさがなんとも良い感じの作品です。


「虹を操る少年」講談社文庫(2001年7月読了)★★★★

幼い頃からその天才ぶりを発揮していた白河光瑠。3歳の頃、目で見た色をクレヨンで正確に再現できるという色彩感覚を見せつけた彼は、その後も学業全般では常に完璧、次々と新しい知識を吸収し続けます。そして高校生になった時、彼は光を演奏する装置を作り上げます。コンピューターとシンセサイザーに複数の色を発するランプを接続したその楽器は「光楽器」と呼ばれ、彼は自ら「光楽家」として活動を始めることに。彼の「光楽」に魅了された若者が次第に集まり始め、その演奏によって麻薬中毒のような症状を示し始めます。しかし「光楽」が社会的に広まるにつれ、彼を逆に利用したり排除したりしようとする存在も現れるのです。

今回の設定はとても面白いですね。「光楽」という存在そのものがとてもユニークです。光によって様々なことを知り、人間の隠された能力に訴えかけるというこのアイディアは初めて。実際にそんなことが可能なら、自分でも体験してみたくなるほどです。とはいえ、麻薬中毒のようになってしまうのは怖いのですが。自分の能力以上の物を引き出せるというのはとても魅力的。しかし知らずにいた方がよいことが存在するのも確か。
しかし物語自体は、少々ご都合主義的な展開だったような気もします。昔から存在する「敵」の存在についてももう少し書き込んでほしかったですし、最後に出てくる「会長」も唐突。話が広がった割に、オチはこじんまりとしていて、東野さんの作品にしては少しアンバランスな気がします。それでも全体的にはテンポもよく、サクサクと読める楽しい作品。その点は相変わらず、さすがの筆力ですね。


「パラレルワールド・ラブストーリー」講談社文庫(2000年3月読了)★★★★★お気に入り

敦賀崇史と三輪智彦はバーチャルリアリティーの研究者。中学時代からの親友で、今も同じ会社で能力を競い合っています。そして、ある時智彦が彼女として紹介したのは、なんと崇史が学生時代に電車から見かけてずっと惹かれていた女性でした。彼女も崇史と智彦と同じ会社に入社が内定していたのです。美人で頭の良い麻由子をめぐる三角関係。物語は2種類の世界が同時進行してるように進みます。1つは智彦と麻由子が付き合う世界、もう1つは崇史と麻由子が同棲している世界。どちらが現実でどちらがバーチャルリアリティなのか… とても凝ったストーリーです。

東野さんは、ちょっとした心の動きや友情と愛情の板挟みを描写するのが本当に上手ですね。研究者としては天才だが、ハンディキャップを持つためなかなか彼女のできなかった智彦、その智彦を思う崇史と麻由子の気持ちが痛いほど伝わってきます。人物にとても真実味があるので、心の中の醜い部分にもとても共感できます。
それにストーリーが本当にしっかりしています。主人公たちはバーチャルリアリティを研究しているので、まるで岡嶋二人氏の「クラインの壷」のように、どちらが本当の世界なのか判断ができなくなってしまうのですが、この構成力はさすがです。そして読んだ後に残るせつない余韻も東野さんの特徴の1つ。


「あの頃ぼくらはアホでした」集英社文庫(2000年8月読了)★★★★★お気に入り

東野圭吾さんの小学校時代から大学時代までを描いたエッセイ集。これは面白いです。抱腹絶倒という感じではないのですが、いたるところでニヤリとさせられてしまいます。この中には「アホでした」という題名通 りの「アホ話」がたっぷり詰まっているのですが、関西では「アホ」というのは悪い意味だけではなく、「もう、しゃーないなあ」という感じの愛情がたっぷりこもった言葉。売れっ子の作家さんだったら、普通もう少し控えるのでは、と思うようなネタが満載。普段あまり作品に大阪を感じさせない東野さんですが、やはり大阪人だったのですね。サービス精神が豊富です。自分を切り売りしてでも笑いを取ろうとするのは、大阪人の身についた習性かもしれません。
ウルトラマンを始めとする特撮物はかなりお好きなようですね。「ガメラ」シリーズや「クロスファイア」の金子監督との対談も巻末に収録されています。


「怪笑小説」集英社文庫(2001年8月読了)★★★

【鬱積電車】…夜8時の、都心から郊外へと向かう私鉄の急行列車の中の人間模様。
【おっかけバアさん】…ケチで有名なあるバアさんが、年を取ってから「杉サマ」にハマった時。
【一徹おやじ】…待望の息子が生まれ、父は早速プロ野球選手になるための特訓を始めます。
【逆転同窓会】…ある高校に勤めていた教師たちの同窓会。そこにかつての生徒たちを呼んだ時。
【超たぬき理論】…不思議なタヌキを目撃した少年が、「UFOはタヌキだ」という結論に至るまで。
【無人島大相撲中継】…豪華客船が難破し、一部の乗客は無人島に漂着。その時の彼等の娯楽とは。
【しかばね分譲住宅】…値下がりを続ける分譲住宅地に、ある朝死体が発見されて…。
【あるジーサンに線香を】…外科手術によって、老人が若さをとりもどした時。
【動物家族】…周囲の人間が、すべてそれぞれの人格によって動物の顏に見えてしまう世界。

短編集です。東野さんの作風のバリエーションには目を見張るものがありますが、この作品はそこに更に新しい1ジャンルを付け加えることでしょうね。「怪笑」という題名の通 り、笑えることは笑えるのですが、この笑いは明るい爆笑ではなく、あくまでも「怪笑」。どれもブラックが効いたヒネリのある作品ばかりです。ちなみに「あるジーサンに線香を」は、「アルジャーノンに花束を」のもじり。

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