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このページは、東野圭吾さんの本の感想のページです。

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「鳥人計画」新潮社文庫(2001年9月読了)★★★★★

日本スキー・ジャンプ界のホープ・楡井明が、宮の森シャンツェでの練習中に死亡。死因はトリカブトから抽出されるアコニチンという猛毒でした。楡井が食後に必ずビタミン剤を飲む習慣だったことから、警察が残ったビタミン剤を調べたところ、薬袋の中からは複数のアコニチン入りのカプセルが発見されます。宿泊ホテルのレストランでビタミン剤がすり替えられたらしいと考えた警察は、そのレストランに出入りするジャンプ関係者を調べるのですが、しかし全員アリバイがあり、すり替えは不可能と判明。そんな時、密告状が届きます。

この作品では、真犯人自体は比較的早い段階で判明するのですが、その動機や背景事情に関してはなかなか明らかにされません。その上、犯人が自分に密告状を送りつけた人物を推理するという二段構えの構成。そのため、真犯人が分かっても最後までダレることなく緊張感が続きます。上手い構成ですね。そして、この事件の背景となる事情がなかなかショッキング。今でこそスポーツ界での科学的なトレーニングは常識となっていますが、この作品が書かれた頃はまだまだ一般的には普及していないはず。しかもこのトレーニング内容に関しては、今の状況で行われたとしても…。最後の最後にはちょっとした仕掛けもあり、人間的な面からも興味深く読める作品です。
作品の冒頭で殺されてしまう楡井の存在感には、なかなかのものがあります。名前を見るたびに原田選手の顔を思い浮かべてしまったのは私だけでしょうか。もちろん原田選手は明るい中にも繊細な印象があり、楡井のように能天気なだけではないと思いますが。そして黙々とトレーニングをこなす杉江翔は、ケイン・コスギのイメージ。(笑)
スキージャンプは元はノルウェーでの罪人に罰を与える手段だったというエピソードが、とても面白かったです。転ばずに着地できたら罪を帳消しだなんてお茶目ですね。(などと書いてもいいものでしょうか?)


「殺人現場は雲の上」光文社文庫(2001年9月読了)★★

【ステイの夜は殺人の夜】…エー子とビー子が飲んでいると、その店にその日の便に乗っていた男性客が。同じホテルに泊まっているという彼は、妻からの電話を受けてサンドイッチを部屋に届けさせます。しかし部屋に戻ってみると、彼の妻は殺されていたのです。
【忘れ物にご注意ください】…ある旅行代理店の「ベビー・ツアー」の乗客が飛行機を降りた後、機内のチェックをしていたビー子は、忘れられた赤ん坊を発見します。
【お見合いシートのシンデレラ】…その日、ビー子と対面となる「お見合いシート」に座っていたのは、ビー子好みの若い男性。ビー子はこの男性からデートに誘われ、浮かれるのですが…。
【旅は道連れミステリアス】…エー子・ビー子と顔なじみの和菓子屋・富屋の主人が、都内のホテルで心中死体となって発見されます。前日の飛行機に乗っていた時には、まるで女性の影などなく、夫婦仲も上手くいっていたと評判の彼がなぜ心中などしたのか…。
【とても大事な落とし物】…盛岡に向かう機内でエー子が拾ったのは、遺書の落し物でした。落とし主を迂闊にマイクで呼び出すこともできず、一体誰の落し物なのか、二人は推理を始めます。
【マボロシの乗客】…空港内の乗務員室にかかってきた1本の怪電話。それは、新日本航空の乗客の女性を殺したという犯人からの電話でした。そして空港の駐車場で発見された、血のついたハンドバッグ。しかしその日の便に行方不明の乗客はおらず、捜査は難航します。
【狙われたエー子】…フライトの合間の休日。買い物に出かけたエー子が何者かに尾行されているように感じていると、突然彼女に向かって突っ込んでくる車が。そして翌日出勤したエー子は、警察からある男性の写真を見せられてびっくりします。それはエー子の昔の恋人の写真だったのです。

新日本航空のスチュワーデス・早瀬英子(エー子)と藤真美子(ビー子)のでこぼこコンビが活躍する、ユーモアたっぷりの連作短編集。エー子とビー子の組み合わせがとても楽しいですね。少々物足りなくもあったのですが、さくさくと読める楽しい作品が好きな方にはオススメ。しかし事件は基本的にすべて地上で起こっています。この題名にはどうもそぐわないような気がするのですが…。


「ブルータスの心臓-完全犯罪殺人リレー」光文社文庫(2000年12月読了)★★★★

末永拓也は、産業機器メーカー・MM重工の人工知能ロボットの開発を手がけるエリート社員。いつか支配者側にまわってやる、と考えている彼は、次期社長と目されている専務の仁科敏樹の情報を得るために、役員室にいる雨宮康子に近づきます。そして敏樹の末娘・星子の婿養子候補となるのですが、恋人となっていた康子に妊娠を聞かされて困惑することに。そんな時、星子の腹違いの兄・仁科直樹から、拓也と、同じく星子の婿候補となっている橋本に、共同で康子を殺害する計画を相談されます。なんと3人ともが康子と関係があり、それぞれ妊娠を打ち明けられていたのです。3人の立てた計画は、大阪に康子を呼び出して直樹が殺害し、出張で名古屋に待機していた拓也がそれを車で移動、最後に受け取った橋本が遺体を東京まで運んで遺棄するというもの。しかしいざ計画を実行してみると、なんと運ばれてきた死体は殺し役のはずの直樹のものだったのです。

3人の共同殺人、しかもそれぞれのアリバイを確保するために大阪・名古屋・東京を結ぶ完全犯罪殺人リレーとは、また面白いですね。複数の人間が共犯というのはよくありますし、2人の人間が互いに相手の憎む人物を殺害するという交換殺人もありますが、リレー形式の殺人というのは案外盲点だったように思います。しかし目指す相手ではなく、仲間の1人が殺され、その死体が当初の予定とまるで同じように搬送されてきた時…。第4の人物の存在が明らかになってからの、倒叙形式と思っていたストーリーが、一転して変わってしまうというのが面白いです。3人の計画を知り、その3人を次々に殺そうとする人物は誰なのか、拓也と橋本は殺人の共犯者から、一転して直樹殺しの真犯人を探る探偵役になってしまうわけですから。…でもその割にその展開は… 警察の推理はどこか説得力に欠けますし、どうも唐突な印象。それに嘘を嘘で塗り固めるように、殺人を殺人で塗り固めていくのもあまりにも安易。さらに主人公の末永拓也は相当イヤな人物なんですが、イヤな人物だからと言って追い詰められていくサマを見るのが爽快とは言い切れないんですよね。


「探偵倶楽部」祥伝社NonPochette(2001年9月読了)★★★★

【偽装の夜】…大手スーパーのワンマン社長・正木藤次郎の喜寿を祝う会が開かれた夜、書斎で藤次郎の自殺死体が発見されます。発見したのは、社長秘書の成田、社長の娘婿ので現在副社長の高明、社長の若い後妻・江里子。それぞれの思惑と都合から、社長の死の発見を遅らせようとします。
【罠の中】…大手不動産会社社長である山上が風呂の中で溺死体として発見されます。最初は心臓麻痺として処理されそうになるのですが、夫人である道代が、これは明らかに殺人だと主張します。
【依頼人の娘】…美幸が帰宅すると、母がナイフで刺されて死んでいました。父や姉、叔母が自分に隠し事をしていると感じた美幸は、父親のアドレス帳で見つけた「探偵倶楽部」に連絡をとります。
【探偵の使い方】…探偵倶楽部に、夫の素行調査を依頼した阿部芙美子は、夫の浮気相手を見て驚愕し、調査を打ち切ります。そして伊豆のホテル。部屋で男が二人ビールを飲んだ直後に死亡。それは芙美子の夫と、芙美子の親友の秋子の夫でした。そしてその部屋には秋子もいたのです。
【薔薇とナイフ】…遺伝子工学の教授・大原は、娘の由理子が妊娠しているのを知り激昂。そして相手の男を問い詰めるのですが、由理子は頑として口を割らず…。そしてある夜、何者かが家に侵入し、由理子のベッドに寝ていた姉の直子が殺されます。

「依頼人の娘」からの改題。
政財界のVIPのみを会員とする調査機関・探偵倶楽部。男女1組のみが登場し、しかし彼らについての情報はほとんどありません。2人ともに美貌の持ち主ということ以外は、素性も何も分からないのが面白いですね。しかも彼らは淡々と調査をこなし、淡々と解決していくので、感情すらも見えません。唯一生の彼らが見られるのは、「探偵の使い方」。かなりプライドが高そうですね。
この中で面白かったのは「偽装の夜」。途中の展開にはびっくりしました。「罠の中」も同じ系統ですが、「偽装の夜」の方が上でしょうか。5編ともトリッキーなミステリが魅力の短編集ですね。あまり派手さのないシリーズではありますが、ぜひ続きを書いて欲しい作品です。


「宿命」講談社文庫(2001年7月読了)★★★★★

UR電産の元社長・瓜生直明が癌で亡くなり、新社長として親戚にあたる須貝正清が就任。しかし就任早々、正清が他殺体で発見されます。正清の背には、直明のコレクションの1つだったボウガンの矢が。49日の法要の後、親戚 たちが直明の美術品コレクションを見ていたことから、内部の事情に詳しい者の犯行と思われるのですが…。事件の担当となった刑事・和倉勇作は、直明の長男である瓜生晃彦と小学校から学業でも運動でもトップを争ってきたというライバルでした。しかも晃彦の妻である美佐子は、勇作の高校時代の恋人だったのです。

題名の「宿命」は勇作と晃彦のことです。小学校の頃から競い合い続けた二人。しかし勇作がいくら努力しても、天才肌の晃彦には決して勝てなかったという関係。勇作には人望があり、晃彦には友人がいなかったという点はあるものの、いろいろな事情が重なって大学進学をあきらめ、美佐子とも別 れざるを得なかった勇作が可哀想で、ちょっと肩入れしてしまいますね。なにしろ晃彦は何一つ不自由のない生活を送り、勇作がなりたかった医者という職業にも楽々つき、しかも勇作がずっと忘れられなかった美佐子を妻としているわけですから…。小さい頃は友達がいなかった晃彦も、大人になった今ではかなりの付き合い上手にもなっているようですしね。でも最後まで読むと、今までの不公平感もすっかり忘れてしまいました。驚きです。物語の中には実際に殺人事件があり、戦中戦後の人体実験も絡んでくるなど、いろいろあるのですが… ミステリとは「誰がどのように被害者を殺したか」だけではないことを実感させられる物語です。


「犯人のいない殺人の夜」光文社文庫(2001年12月読了)★★★★

【小さな故意の物語】…校舎の屋上から転落死した親友の達也。自殺するような動機もなく、慎重で用心深かった達也が、柵の上を歩いていたというのです。良は、本当は何があったのか探り始めます。
【闇の中の二人】…ある朝、中学の教師・永井弘美の元に、教え子の萩原信二から電話がかかってきます。生後3ヶ月の弟がベビーベッドの中で殺されていたというのです。
【踊り子】…塾から帰る途中見かけた、体育館で新体操を練習する少女に恋した孝志。彼は手紙を付けたスポーツドリンクを体育館の入口に置いておきます。しかし3週間後、彼女の姿が見えなくなり…。
【エンドレス・ナイト】…田村厚子のもとに、大阪府警からの電話。大阪で仕事をしていた夫が刺殺されたというのです。早速大阪に向かう厚子。しかし彼女は大阪という土地が大嫌いでした。
【白い凶器】…ある会社で連続殺人事件が起こります。警察は、どちらの事件の時にも犯行が可能だった中町由希子に目をつけるのですが、大柄な課長を窓から突き落とすのは不可能と思われます。
【さよならコーチ】…実業団アーチェリー部に所属する望月直美が自殺。彼女は自殺直前の場面をビデオに撮っていました。部のコーチは、オリンピックの選考会に漏れたショックだと言うのですが…。
【犯人のいない殺人の夜】…日本でも指折りの建築家・岸田創介の家で起きた殺人。創介は事件の隠蔽を希望、家庭教師の拓也と雅美も協力。しかし殺された安藤由紀子の兄が執拗に接触してきて…。

短編集です。「小さな故意の物語」東野さんの初期の作品を思い出しました。やはり東野さんは、高校生ぐらいの青年の心理を描くのがとても上手いですね。「闇の中の二人」途中である程度は予測がついたものの、真相はそれ以上でした。「踊り子」良かれと思ってしたことが、こんな結果を招くとは。これはかなり怖い作品ですね。「エンドレス・ナイト」は刑事の優しさがじんわり伝わってきます。「白い凶器」はサイコスリラーっぽい作品。挿入される会話が不気味です。「さよならコーチ」ビデオレターのような遺書というのがなかなか面白い発想。「犯人のいない殺人の夜」鮮やかなトリック。<夜>と<今>の使い分けが上手いです。
最後の最後でひっそりと、登場人物の隠された思いや、行ったことが招いた結果が分かるような話ばかりです。それは必ずしも後味が良いものとは言えないものですが、でもブラックな結末とはまた一味違います。きっとどれも純粋な悪意から出たことではなく、その人なりの必死さが招いた結果だからなのでしょう。私は光文社から出ている東野作品はあまり評価していないのですが、これはなかなか切れが良かったように思います。


「仮面山荘殺人事件」講談社文庫(2001年7月読了)★★★★★

樫間高之の婚約者・森崎朋美の突然の交通事故死。それは結婚式のわずか一週間前の出来事でした。そして3ヶ月後、高之は朋美の父・森崎伸彦の招待で森崎家の別 荘に出かけます。製薬会社社長である伸彦との付き合いは朋美の死後も続いていたのです。別 荘に集まった8人の男女。しかし朋美の親友であった阿川桂子は夕食の席で、朋美の死について疑問を投げかけます。朋美は事故死だったのではなく、殺されたというのです。そしてその夜、別 荘には逃亡中の銀行強盗犯が別荘に侵入。8人は人質となってしまいます。

いつもとは少しばかりパターンの違う嵐の山荘物です。ストーリーの展開はとても分かりやすくて安心して読めますし、強盗犯と人質ののやりとりなどもテンポが良くてとても楽しい作品。作品自体の長さもとてもいいですね。しかし最後まで読んでみると、驚いたの一言。完璧にやられました。ここまでやられてしまったのは、久しぶりかもしれません。しかしこの結末を、素直に「やられた」と感じるか、「こんなのあり?」と感じるかによって、この作品の評価は全く違ってきそうです。私の場合は、ここまでやられてしまうと、却って爽快になってしまいましたが、他の方はどうなのでしょう。


「変身」講談社文庫(2001年7月読了)★★★★★お気に入り

気は弱いが優しく、恋人の恵と絵を描くこととが一番大切だった成瀬純一。彼はふと立ち寄った不動産屋での強盗事件に巻き込まれ、咄嗟にその場にいた少女を守ろうとして頭に銃弾を受けてしまいます。脳に損傷を受けた彼ですが、世界初の脳移植手術を受けて手術は見事成功、無事に日常生活を送れるまでに復活。しかし手術後の彼は、自分自身に違和感を感じるのです。その違和感はどんどん膨らみ、日に日に自分の性格や嗜好、考え方が変化しているのに気がつく純一。しかもどんどん凶暴化し、あやうく人殺しまでしそうになる自分に恐怖を感じた純一は、自分に移植された脳の影響が原因なのではないかと考え、ドナー(脳の提供者)の正体を確かめようとするのですが…。

自分の脳の一部が破損し、そこに脳移植手術によって他人の脳が移植される。一部とは言え他人の脳が入った脳の働きは、それまでの自分だけの脳の時と果たして同じなのでしょうか?自分自身の脳に他人の脳が10パーセント混ざった時は、自分自身の心を持ちつづけられたとします。しかし、その割合が20パーセント、30パーセントと上がった時は。そして自分自身の脳が1パーセントで、残り99パーセントが他人の脳の場合は。そして脳の全てが他人の物と置き換えられてしまった場合は…。実際に学術的にはそれほど単純に割合として考えられる問題ではないのだと思いますが、やはり脳に関する問題は、肝臓や腎臓などの移植と違い、簡単に人間が踏み込んではいけない領域だと考えさせられる物語です。この主人公の場合は、自分自身の脳がドナーの脳にだんだんと乗っ取られてしまうのですが、この変化の描写 になんとも臨場感があってすごいです。「僕」はいつしか「俺」に代わり、「僕」の時の記憶さえ失ってしまいそうになる…。本当に目が離せない展開。最後は少し悲しいのですが、これで良かったとしみじみ思える結末。とても良い物語でした。


「回廊亭殺人事件」光文社文庫(2001年12月読了)★★

会社を興し、一代で財産を築き上げた一ヶ原高顕が死亡。そして妻子のいない彼の莫大な遺産相続のために、彼がオーナーであった回廊亭と呼ばれる旅館で、遺言状が公開されることになります。集まったのは一ヶ原一族と、高顕と古くからつきあいのあった本間菊代。しかしそれは本当の菊代ではなく、実は1年前に回廊亭で起きた心中騒ぎの後自殺したと思われていた桐生枝梨子の変装した姿でした。心中事件に見せかけて殺された恋人・里中二郎の仇を討つ為に、枝梨子は自殺を装って姿を消し、菊代に変装していたのです。二郎を殺した犯人を罠にかけるために、一同の前に「桐生枝梨子の遺書」の存在を明らかにする枝梨子。しかし、その晩遺言状をと盗みに忍び込んだ人物は、部屋に戻ったあと殺害されてしまうことに。

菊代に変装した枝梨子の視点から語られています。枝梨子は探偵役をしながらも、それは実は恋人の二郎を殺した犯人に復讐するため。普通の探偵が現実の事件を解決するために推理するというのとは少し違います。しかし30すぎの女性が70すぎのおばあさんに変装というのは、やはり無理があるのでは。間近で見てる人をも騙すためには、ハリウッドの特撮の技術が必要になってくるでしょうし、顔だけでなく、手や首も年齢を物語るもの。
最後は騙されたのですが、あまり読後感がよくなかったです。このようなドロドロ系の話の場合は、最後はスカッとするような終り方の方が嬉しいですね。


「ある閉ざされた雪の山荘で」講談社文庫(2001年7月読了)★★★★★

ある芝居のオーディションに合格した7人の男女は、演出家・東郷陣平の指示で、乗鞍高原のペンションに集められます。しかしその場に東郷本人の姿はなく、戸惑うメンバーには、東郷の指示を書いた速達が。その指示とは、そのペンションを雪の山荘に見立てて自分たちなりの舞台稽古をして、1つの作品を作り上げてみろというものでした。そのペンションは実際には外部との連絡も可能なのですが、外部と連絡をとったり電話を使用した時点で合格を取り消すという条件付き。そして殺人劇の舞台稽古始まります。しかし1人、また1人と姿が消えていくに従い、残ったメンバーの中で疑惑が生じることに。果たしてこれは本当に舞台稽古なのでしょうか。

実に見事なミス・ディレクションですね。「なぜこのようなことをするのか」「東野さんの作品の割には人物が…?」など、不思議になったり違和感を感じた部分があったのですが、最後まで読んでみると、実はそれらはすべて伏線だったのですね。違和感があったとは言っても、あまり深くは考えていなかったので、トリックや犯人についてはさっぱり見抜けませんでした。最後まで読んでよくよく考えてみると、とても緻密な作りのミステリだということが分かります。
そしてこの作品は、雪の山荘物とは言っても実際に閉じ込められて孤立しているのではなく、実は舞台稽古でそういう設定と思わなくてはならない、という設定。遊び心があっていいですね。それにこの設定によって、普通の山荘物に比べて心理的な動きが違ってくるのが新鮮でした。最後に名探偵になり損ねた彼の、意外な可愛らしい一面もとてもよかったです。

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