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このページは、浜たかやさんの本の感想のページです。

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「龍使いのキアス」偕成社(2007年10月読了)★★★★

アギオン帝国が中心に、そして様々な部族がその帝国を取り巻くロールの世界。キアスは燃えるような赤い髪をした15歳の少女で、西の谷にあるモールの神殿の巫女見習い。いつかは偉大な巫女になりたいと思いつつも、退屈な勉強や、先輩の巫女に気に入られようといい子ぶる見習い巫女たちに我慢ができず、授業を抜け出しては、モールの林の中にあるひときわ大きい木ののうろに入ってばかりいました。大巫女のナイヤによると、その木は300年前の巫女・マシアンの木。女の子が生まれるとモールの木の苗木を植えるモールマイ族にとって、モールの木生まれた子の<根>であり、生まれた子は<根>の<寄生木(やどりぎ)>。巫女の呪歌によって結び付けられた<根>と<寄生木>は、片方が育てばもう片方も育ち、どちらかが死ねばもう片方も死ぬという関係。マシアンの木がまだ生きているということは、マシアンもまだ生きているというこ。呼び出しの儀式に失敗して巫女になれなかったキアスは、巫女の力が衰えつつあるこの世界を救うために、マシアンを探す旅に出ることに。

日本人でも海外作品に負けない骨太のファンタジーを書く作家さんは何人かいますが、浜たかやさんもその1人でしょうね。ロールの国という架空の世界を舞台に繰り広げられるファンタジー。ロールという世界の成り立ちの神話からとても詳細に描かれており、世界観がとてもしっかりしていたのが良かったです。様々な部族が登場し、それぞれの部族に特有のしきたりや信じる神があり、歴史があり、たとえ同じように巫女という立場でも、信じる神によってその生活はまるで違ったものになるというのが、当たり前ながらもとても自然に描かれていたのが良かったです。モールマイ族にとってのモールの木の存在や女の子が生まれた時のしきたり、巫女たちの生活ぶりや「呼び出し」の儀式、アギオン帝国の初代神皇帝の3人の息子がそれぞれに役割を受け持って代々伝えていったところなど、細かい部分まで作りこんであり、イリットさん、小イリットとサイ、ダグニ族の賢者フルなど魅力的な脇役も動き回り、とても楽しめました。巫女になれなかったキアスが伝説のマシアンを探す旅は、同時に孤児として育てられ、自分が何者なのかを知らない少女・キアスの自分探しの旅でもあり、様々な出会いと別れを通しての人間的な成長の旅でもあります。
ただ、序盤から中盤まではとても面白かったのに、終盤になるとやや失速しているような…。どうもいよいよマシアンを解き放つという辺りから、それまでの丹念な描写がなくなってしまったようにも感じられましたし、肝心のマシアンにキアスが教えられることもあまりなく、初代の神皇帝アグトシャルが抱えていた問題など、マシアンなら語って聞かせられる部分も、結局あまり語られずにあっさりと終わってしまったように思います。それに「龍使い」という題名の割に、龍の登場がほんの少ししかなく、しかも「使う」ところまでは到底いっていなかったのが残念。名前に関しても、結局ただの偶然だったのでしょうか。この辺りも丹念に書き込むとなるとただでさえ長い物語が、さらに相当の長さになってしまいますが、このように尻すぼみになってしまっているとは、せっかくの作品が勿体ないです。ぜひとももっと書いて頂きたかったです。

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