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このページは、神話・伝承の本の感想のページです。

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「ケルト妖精民話集」J.ジェイコブズ 現代教養文庫(2007年6月読了)★★★★

<妖精の国>
【コンラと妖精の少女】
…百戦のコーンの息子・赤毛のコンラの前に現れたのは、見慣れぬ格好をした少女。少女はコンラを常世の平原に誘います。
【コーマック・マック・アートが妖精の国へ行った話】…コーマックは百戦のコーンの孫で、アイルランドの大王。9個のリンゴのなっている妖精の枝と引き換えに、妻子を失います。
【グリィシュ】…円形土砦(ラース)の近くで白い月を眺めていたグリィシュは、妖精たちに誘われてフランスへ。その日行われていたフランス王の娘の結婚式に忍び込み、娘を連れ去ります。
【パディ・オケリーとイタチ】…ロバを売りに市へと出かけたパディ・オケリーは、途中でイタチがギニー金貨を運んでいるのを見かけて、イタチが出て行った隙に金貨を奪ってしまいます。
<子どもたちの悲しみ>
【リールの子たちの運命】
…自分が最高の王に選ばれなかったのが不満で国に帰ってしまったリール王に、最高の王に選ばれたジャルグは自分の里子のオーヴを嫁に与えます。
【金の木と銀の木】…井戸のマスに、王女・金の木の方が美しいと言われて怒った王妃・銀の木は病気になり、王に金の木の心臓と肝臓を食べれば治ると訴えます。
【ミドヴェイの羊飼い】…暗い湖水から3人の少女が上がって来るのを見た羊飼いは、そのうちの1人に恋をしてしまいます。娘の気に入るパンを用意し、結婚することに。
<変身>
【語り役の挫折】
…レンスターの王のために毎晩新しい物語を語っていた語り役は、とうとう新しい話に行き詰ってしまい、窓の外に見えたみすぼらしい老人と賭けをすることに。
【モラハ】…岸辺に下りて行ったモラハは、コラク舟でやってきた若者と一緒にカードをすることに。最初の3回はモラハが勝ち、羊と牛、世界一立派な城と世界一美しい妻をもらうのですが…。
【フェア、ブラウン、トレンブリング】…ヒュー・クールハ王の3人の娘のうち、フェアとブラウンは日曜日ごとに新しいドレスで教会へ。しかし末のトレンブリングは家の仕事ばかりでした。
<冒険とロマンス>
【人魚】
…貧しい老漁師が豊漁と引き換えに約束したのは、一番上の男の子。20年の期限が近づいた頃、事情を聞きだした息子は、一振りの剣を持って運試しに出かけます。
【黒い馬】…年老いて足の悪い白馬しかもらえなかった末の王子は、やがて立派な黒馬と交換することに。この黒馬は、この世のどんなところでも連れて行ってくれるというのです。
【山羊皮の若者】…19歳になったトムは、山に小枝を取りに出かけた時に3人の大男に勝ち、闘うたびに勝てる棍棒、吹けば誰でも踊りだす笛、そして緑色の軟膏を貰います。
【ギリシャの姫と庭番の息子】…王様のリンゴの実を盗んだのは、羽が金色に輝いている鳥。王様は金の羽の鳥を捕えて来た者には、娘と国の半分をやると宣言します。
<魔法の世界>
【鳥の闘い】
…蛇に襲われている大烏を助けた王子は、大烏から贈り物をもらいます。しかし一番住みたい場所で開けるはずだった贈り物を、王子は森の中で開けてしまったのです。
【うすのろと王子たち…異父姉を憎んで「うすのろ」とあだなをつけた妹たち2人は、父の死後やせ衰えた母を殺し、うすのろを追い払えないのに業を煮やして自分たちが家を出ようとします。(「CELTIC FAIRY TALES」「MORE CELTIC FAIRY TALES」小辻梅子訳・編)

ジョーゼフ・ジェイコブズの「CELTIC FAIRY TALES」「MORE CELTIC FAIRY TALES」から、近代ヨーロッパ最古の妖精物語と言われる「コンラと妖精の少女」をはじめとして、16編の妖精物語を小辻梅子さんが訳出したもの。挿絵には原本のジョン・D・バトンの画を使用。
ここに収められているのは、いかにもケルトらしい妖精譚から、グリムなど他の童話・民話にも見られるような物語まで様々なのですが、ケルトらしさが見えるといえば、やはり<妖精の国>の4編でしょうか。特に「コンラのと妖精の少女」で語られるティル・ナ・ヌォグの存在や、「コーマック・マック・アートが妖精の国へ行った話」の妖精の登場の仕方、妖精の国への行き方はとてもケルトらしいと思います。「グリィシュ」の妖精たちも、いかにもケルトの妖精たちですね。同時に、ドルイド教にキリスト教が入り込み始めているのも感じられるのですが。
その他の物語では、「金の木と銀の木」はまるで白雪姫ですし、「フェア、ブラウン、トレンブリング」はシンデレラ。「ミドヴェイの羊飼い」は、人間の男が妖精の女と結婚するものの、タブーを犯して妻を失うという、よくあるパターンの物語。それ以外にも、どこかで見かけたような形式のものが多いです。しかし「金の木と銀の木」で、白雪姫のように継母が美しい継娘に嫉妬するのではなく、実母が自分の娘を嫉妬して殺そうとするというのが怖いところですし、「フェア、ブラウン、トレンブリング」のトレンブリングが、自分の意見をはっきりと持っているのには少々驚かされました。通常のシンデレラよりもよほど主張がありますね。そして「リールの子たちの運命」は、ケルト3大悲話の1つ。継母によって白鳥の姿に変えられてしまった4人の子供たちの物語なのですが、最後に人間に戻れた時の悲哀感が、まさにケルトらしいところ。
小辻梅子さんの訳は全体的にとても読みやすいのですが、意味がよく掴めない部分が2、3箇所ありました。同じくジョーゼフ・ジェイコブスによる「ケルト妖精物語」(訳者は違いますが、おそらく原本は同じ)で、確かめてみたいところです。


「ケルト幻想民話集」現代教養文庫(2007年6月読了)★★★★

<英雄のおもかげ>
【フィン、巨人国へ行く】
…犬のブランを連れて巨人の国へと旅立ったフィンは、巨人の王のお気に入りとなり、王国を狙っている大きな化け物と戦うことに。
【フィン対クーフーリンの勝負】…クーフーリンがフィンに力試しを挑むためにコーズウェイに来ていると聞いたフィンは、愛妻・ウーナの待つ家へ。そしてウーナとクーフーリンを待ち構えます。
<かたりべ達の競演>
【ケインの足をヒルに吸わせて】
…森で美しい女に出会ったオクロニサートは、3つの誓いを立ててその女と結婚。しかしオクロニサートは誓いを破り、女はケイン・マク・ロイの足をへし折って消え去ります。
【コナル・イエロウクロウがした怖い話】…コナル・イエロウクロウの3人の息子が喧嘩で王の長男を殺し、王は3人の息子の命の代わりにノルウェー王の茶褐色の馬を連れてくるよう命じます。
<悲しみの始まり・悲しみの終わり>
【ディアドラの悲話】
…アイルランドに生まれたディアドラが生まれる前、ドルイドが彼女のために多くの血が流れること、3人の英雄が命を落とすことを予言されていました。
【ダヴェッド公パウエル】…ゴーセズ・アルベレスの丘に散歩に出たパウエルは、白馬に乗り光り輝く金の衣装をまとった女に出会い、その女を妻にすることに。
<ダーマットとグラーニアの運命>…フィンの妻となるべきコーマック王の娘・グラーニアは、ダーマット・オディナに恋しており、ダーマットにギーサを誓わせて2人でフィンの宮殿から逃走します。(「CELTIC FAIRY TALES」「MORE CELTIC FAIRY TALES」「OLD CELTIC ROMANCE」小辻梅子訳・編)

ジョーゼフ・ジェイコブスの「CELTIC FAIRY TALES」「MORE CELTIC FAIRY TALES」から、有名なケルトの英雄伝説を抜粋し、P.W.ジョイスの「OLD CELTIC ROMANCE」から「ダーマットとグラーニアの追跡」を併せて収録したもの。
「フィン、巨人国へ行く」のフィンは若干18歳。英雄のフィンが巨人の王に小人として愛玩されてしまうところが可笑しいですが、フィンは巨人の王が倒せなかった大きな化け物を3回に渡って倒し、巨人の国を助けることになります。「フィン対クーフーリンの勝負」は、時期的には2世紀ほど離れているはずのフィンとクーフーリンを対決させてしまおうという物語ですが、フィンもクーフーリンも正統派の英雄伝説の中の姿とはまるで違うのがポイント。臆病者のフィンと愚かなクーフーリンとして描かれています。そのように絶対的な存在をひっくり返して相対化してしまうのは、ケルト民話特有のものなのだそうです。
「ディアドラの悲話」と同一の「ウシュナの息子たちの運命」は、ケルトの3大悲話の1つ。ここに収められている物語はほとんど知っているものでしたが、「ケインの足をヒルに吸わせて」と「コナル・イエロウクロウがした怖い話」は初めて。「ケインの足をヒルに吸わせて」は、タブーを破って妖精の妻を失う物語と、それとは全く違うケイン・マク・ロイが巨人に聞いた物語が組み合わさっています。タブーを破る物語はよくある形式ですし、これは1つずつ別の物語にした方がすっきりとして面白かったのではないかと思うのですが、このように物語同士が組み合わせられるのはよく行われることだったようですね。逆に、「コナル・イエロウクロウがした怖い話」は、物語同士の入れ子構造。直接的には関係ない物語も、3人の息子の命を助けるために主人公が語るという形になれば、すっきりと収まります。


「ケルト魔法民話集」現代教養文庫(2007年6月読了)★★★★

【トゥレンの子たちの運命】…銀の手のヌアダがアイルランド王、ダグダの息子・ボーヴ・ジャルグがコナハト王だった頃。フォルモール人がエス=ダラの地方を略奪し荒らしまわっているとの報せにルーグが立ち上がり、カンタの息子、キアンとクーとケヘンが手分けして妖精たちを召集することに。しかしキアンが1人で北に向かっている時、トゥレンの息子のブリーン、ウル、ウルカーと出会ったのです。
【ナナカマドの妖精宮】…ノルウェー王・堅固な武器のコルガがエリンに攻め込むのですが、当時のアイルランド王、百戦の王コーンの孫・コーマック・マク・アートはその軍を撃退。ノルウェー王の末息子・ミダックだけはフィンによって命を助けられ、フィンの家で王子に相応しく育てられます。しかしミダックは一族を皆殺しにされた恨みを忘れることはなかったのです。
【ギーラ・ダッカーと彼の馬の追跡】…フィンと首領たちは、大きく醜い巨人・ギーラ・ダッカーが大きな馬を連れているのに出会います。ギーラ・ダッカーはフィンに1年間雇ってくれるように頼み、フィンはそれを受け入れるのですが、その馬の悪戯に皆は閉口。馬を別の場所に移動させようと叩くフェーナの騎士たちにギーラ・ダッカーは怒り、馬は15人の騎士たちを乗せたまま走り去ってしまったのです。
【ケルト海竜物語】…大漁の代わりに長男を人魚にやる約束をした老鍛冶師のダンカン。やがて息子が3人生まれるのですが、息子が大きくなってくると、人魚に息子を渡さないためにダンカンは海に行くのをやめ、3人の息子は運試しに出かけることに。(「OLD CELTIC ROMANCE」「THE CELTIC DRAGON MYTH」小辻梅子訳・編)

P.W.ジョイスの「OLD CELTIC ROMANCE」から3編と、J.F.キャンベルの「THE CELTIC DRAGON MYTH」から「ケルト海竜物語」を収録したもの。
P.W.ジョイスの3編はルーグやフィンの物語で、ケルト神話のうちダーナ神族にまつわる物語と、フィアナ伝説。「トゥレンの子たちの運命」はケルト3大悲話の1つ。そして最後の「ケルト海竜物語」は、伝承の民話をまとめたもの。J.F.キャンベルはスコットランド西部高地地方で民話を聞き集め、1860年から62年にかけて4巻82編もの民話集を編纂したのだそうです。ここに収められている物語は3人の兄弟が3本の道をそれぞれ行き、3匹の動物を助けたことによって得た超能力で妻と富と地位を得るという3分法の物語とのこと。多少冗長感があるのが残念ですし、1人ずつ別の物語にしてしまった方がすっきりするのではないかとも思うのですが、それでも面白いです。


「ロビン・フッド物語」上野美子 岩波新書(2007年3月読了)★★★

世界中で愛されているイギリスの伝説上の義賊・ロビン・フッド。そのロビン・フッドがまず現れたのは、イギリス中世のバラッド(物語唄)でのこと。その後ルネサンス演劇に登場し、近代のバラッド、音楽劇やパントマイム、詩や小説、童話から映画、お祭りに至るまで、様々な場に登場しています。最初はヨーマン(自作農)出身のアウトローとして描かれていたロビン・フッドが、16世紀後半には「ハンティンドン伯爵」の仮の姿とされるなど、徐々にその姿を変容させていくことに注目し、様々な媒体の中に登場するロビン・フッドの姿を追っていく本です。

+自分のためのメモ+
ロビン・フッドの登場する中世バラッド
「ロビン・フッドの武勲」(A Gest Of Robyn Hode)…15世紀前後に成立
ロビンとサー・リチャードの友情
レノルド・グリーンリーフという偽名で代官に仕えるリトル・ジョン
ロビンのエドワード王に対する忠誠、ロビンの最期(マリアンはまだ登場しない)
「ロビン・フッドと修道士」…15世紀半ばに成立
ロビンとリトル・ジョンの冒険
ノッティンガムの教会で祈っているロビンが捕らえられ、リトル・ジョンと粉引きの息子・マッチが救い出す
「ロビン・フッドと焼物師(ポッター)」…16世紀初頭の写本
高慢な焼物師とロビンとの戦い、焼物師に変装したロビンが代官を騙す
「ロビン・フッドとギズバンのガイ」…17世紀頃の写本
ギズバンのガイと戦って殺したロビンが、ガイに変装して代官を騙す

ロビン・フッドの登場するルネサンス演劇
「ロビン・フッドとノッティンガムの代官」(「ロビン・フッドと騎士」)…1470年代の写本
内容は「ロビン・フッドとギズバンのガイ」に酷似
「ロビン・フッドと和尚」…1560年頃
ロビンとタック和尚の出会い
「ロビン・フッドと焼物師」…1560年頃
通行料を払わない焼物師とロビンの戦い

シェイクスピア「お気に召すまま」「ヴェローナの二紳士」「ヘンリー四世」で言及されるのみ
「ジョージ・ア・グリーン-ウェイクフィールドの家畜監視人」では脇役
「エドワード一世」(ジョージ・ピール)では、ロビン・フッド伝説が登場
「気をつけろ」
「ハンティンドン伯爵ロバートの没落」「ハンティンドン伯爵ロバートの死」マンディ
ハンティンドン伯爵=ロビン、フィッツウォーター伯爵令嬢マチルダ=マリアン
「悲しき羊飼い、あるいはロビン・フッドの物語」ベン・ジョンソン

ロビン・フッドの登場するブロードサイド・バラッド、ガーランド
「ロビン・フッドの真実の物語」マーティン・パーカー(1632)
「ロビン・フッドと司教」「ロビン・フッドとヘレフォード司教」
「ロビン・フッドとキャサリン王妃」「ロビン・フッドの追跡」「ロビン・フッドとアラゴン大公」
「ロビン・フッドとアラン・ア・デイル」…17世紀末
「ロビン・フッドと乞食」…18世紀
「ロビン・フッドの死」
「ロビン・フッドとリトル・ジョン」
「ロビン・フッドと花嫁」「ロビン・フッドとウェイクフィールドのピンダー(家畜監視人)」

ロビン・フッドの登場する音楽劇・スペクタクル・パントマイム
「ロビン・フッドと仲間の戦士」
「ハンティンドン伯爵、通称ロビン・フッドの追放」
「ロビン・フッド、またはシャーウッドの森」
「マリアン」
「メイド・マリアン」ジェームズ・ロビンソン・プラーンシェ
「ロビン・フッドとリチャード獅子心王」ジョアキム・ヘイワード・ストケラー&C.ケニー
「ロビン・フッド」ジョン・オクセンフォード、G.A.マクファレン
「ロビン・フッド、または森の住人の運命」サー・フランシス・バーナンド、J.H.タリー
「森の幼子、またはハーレキン・ロビン・フッドと陽気な仲間」ギルバート・アベケット、ベチャマン
「ロビン・フッド」レジニッド・ド・コーヴァン
「森の住人、ロビンフッドとメイド・マリアン」アルフレッド・テニスン

ロビン・フッドの登場するロマン主義時代の作品
「ロビン・フッド」ジョゼフ・リトソン(1795)
中世の「武勲」から近代のブロードサイド・バラッドまで計33編を収録
ロビン・フッドを題材にした詩…J.H.レイノルズ、キーツ、ロバート・サウジー、リー・ハント、
「アイヴァンホー」サー・ウォルター・スコット(1819)
「メイド・マリアン」トマス・ラヴ・ピーコック(1822)
「ロビン・フッドとリトル・ジョン」ピアス・イーガン(1840)
「盗人の王子」「アウトローのロビン・フッド」アレクサンドル・デュマ(1872&1873)

ロビン・フッドの登場する児童文学
「ロビン・フッドと陽気な森の住人」ジョゼフ・カンドルまたはスティーヴン・パーシー(1840)
「ノッティンガム州の高名なるロビン・フッドの愉快な冒険」ハワード・パイル(1883)
「ロビン・フッド物語」(「ロマンスの本」所収)アンドルー・ラング(1902)
「ロビン・フッドと陽気なアウトローの物語」ジョゼフ・W・マクスパデン(1904)
「ロビン・フッドと緑の森の仲間」ヘンリー・ギルバート(1912)
「ロビン・フッド」(「幸せな武人の本」所収)ヘンリー・J・ニューボルト(1917)
「ロビン・フッドと陽気な仲間」イヴリン・C・ヴィヴィアン(1927)
「ロビン・フッド」カローラ・オーマン(1939)
「ロビン・フッド」アントニア・フレイザー(1955)
「ロビン・フッドの冒険」ロジャー・ランセリン・グリーン(1956)
「領主にむかって引く弓」ジェフリー・トリーズ(1934)
「ロビン・フッドの死」ピーター・ヴァンシタート(1981)

ロビン・フッドが活躍していたのは、イングランド中部の都市・ノッティンガムの北に広がるシャーウッドの森。ロビンの恋人はマリアン。しかしマリアンはルネッサンス期の五月祭で「五月の女王」として初めて登場する存在で、中世バラッドには登場しないそうです。タック和尚の登場もルネッサンス期になってから。そしてロビンが最初に伯爵とされたのは、リチャード・グラフトンの「年代記」(1569)においてのことなのだそうです。
私が最初に読んだハワード・パイルの「ロビン・フッドのゆかいな冒険」にはマリアンは登場しなかったので、最初からいなかったとしても特に何も感じませんし、時代が進むにつれてメンバーが豪華になるのはよくある話だと思うのですが、ロビン・フッドが実は伯爵だった… という変容ぶりは正直あまり嬉しくないですね。貴族とされてからのロビンが中世バラッドの勇壮で荒削りな性格を失い、上品ではあるけれど、ひよわで温和な紳士に変わってしまうと知っては尚更。やはりあの陽気で楽しい、豪放磊落なロビン・フッドだからこそ、人々の人気を集めたのではないかと思うのですが…
全体的に掘り下げ方が浅く、結局様々なロビン・フッド関連の作品の羅列というだけだったような気がしますが、ロビン・フッド関連の作品を多く読みたいと思っている人には、とても参考になる本だと思います。


「ジプシー民話集-ウェールズ地方」J.サンプソン 現代教養文庫(2008年7月読了)★★★★

50編を越すイギリスのウェールズ地方のジプシーの民話から選ばれた21編。(庄司浅水訳)

「にしんの王様」は、ロシアの火の鳥やせむしの子馬のような話。「無人境の緑の人」は、アーサー王伝説の「サー・ガウェインと緑の騎士」のように始まるのですが、まるで違う展開。いずれにせよ、序文に「先祖の語部の言葉そのままに、幾世代かを通じ、祖母から子へ、そして孫へと伝えられて来たのである」とあったので、ジプシーらしい、今まであまりなかったようなタイプの物語があるのではないかと期待したのですが、それほどでもなかったです。たとえばハリネズミのように、これまでにあまり見なかったようなモチーフはちらほらと使われているのですが、基本的にどこかで読んだような話のバリエーションばかり。ジプシーという言葉から連想するような流浪の旅の人々にまつわる物語ではなく、ある一定の場所に定住している人々の物語ばかり。そしてジプシーらしさは、その言葉、短いきびきびした語句を連続して使うところにもあるようなのですが、そういった特徴は日本語に訳した時点でなくなってしまうのが残念ですね。
ロシアはイワン、ハンガリーはヤーノシュ、ジプシーの場合はジャック。これはもちろんイギリスのジプシーだからなのでしょう。末っ子で周囲から「ばか」だと言われていて、ロシアのイワンによく似てます。


「怖くて不思議なスコットランド妖精物語」出口保夫監編 PHP出版(2009年10月読了)★★★★

昔から妖精や魔女が多く出没する国として信じられてきたスコットランド。世界で最も早く近代化を成し遂げたイギリスの中でも、近代化に目覚めるのが特に早 かったスコットランドですが、同時に妖精という反近代的ともいえる存在が19世紀の初頭まで一般的な農家ではごく普通に信じられていたのです。そんなス コットランドの各地に昔から語り継がれてきた妖精物語、全20編。(出口保夫訳)

スコットランドに伝わる物語とはいっても、実際には世界各地に何かしら似た物語が見つけられるもの。例えば「小さな菓子パン」はロシアの「おだんごぱん」そっくりですし、「キツネとオオカミ」は、それこそどこにでもありそうな動物寓話。「キトランピットの妖精」は「トム・ ティット・トット」や「ルンペルシュテルツヘン」のタイプの物語ですし、「足指をつめた娘」は「シンデレラ」、「邪悪な王妃と美しい心の王女」は「白雪姫」のバリエーション。 実際、最初読み始めた時は、北欧の民話集「太陽の東 月の西」的な話が多いなと思ったほどです。
それでも詩人トマスの話があればスコットランド(というかケルト)を感じさせますし、「ファイフの魔女」のファイフというのも、シェイクスピアの「マクベス」にも出てきたスコットランドの地名。ブラウニーが出てきたり、7年の間妖精の囚われの身となる話を聞けば、やはりケルト的な妖精物語だと思うもの。どこかで読んだような話だなと思いつつも、ケルトの雰囲気を感じられるという程度で十分なのかもしれないですね。ちなみに題名は「怖くて不思議な」になっていますが、私にとっては全く怖くなかったですし、不思議でもありませんでした。

収録:「紡ぎ女ハベトロット」「ノルウェイの黒い雄牛」「妖精の騎士」「赤い巨人」「小さな菓子パン」「足指をつめた娘」「マーリン岩の妖精」「海豹捕りと人魚」「小姓と銀のグラス」「怪物ドレグリン・ホグニー」「羊歯の谷間の小人ブラウニー」「キツネとオオカミ」「ファイフの魔女」「真実の詩人トマス」「邪悪な王妃と美しい心の王女」「キトランピットの妖精」「アシパトルと大海蛇」「馬商人ディックと詩人トマス」「領主オー・コー」「小人の石」

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