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このページは、グスタフ・マイリンクの本の感想のページです。

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「ゴーレム」河出書房新社(2008年11月読了)★★★★

月光の照る夜、ブッダの本を読みながらベッドの中でなかば夢見心地になっていた「ぼく」が石と脂肪について考えていると、場面は突然昼間、プラハのゲットー(ユダヤ人街)のハーンパス通りのアパートの中庭に転換。赤毛のロジーナを避けて自室に戻った「ぼく」は、古道具屋のアーロン・ヴァッサートゥルムが店先に立っているのを眺め、隣の建物の同じ階から男女の話し声がしてくるのに気付き、ロジーナを探すロイザと双生児の兄弟ヤロミールの気配を感じます。そして数日前に人形遣いのツヴァック爺さんがアトリエを青年紳士に又貸ししたという話をしていたのを思い出していると、突然1人の貴婦人が部屋に飛び込んで来たのです。「ペルナートさま、お助けくださいましーー後生ですから!ーーなにも言わないで隠れさせてくださいまし!」…「ぼく」は、宝石職人のアタナージウス・ペルナートになっていたのです。しかしそのとき「ぼく」はまたもやベッドで月光を感じていました。(「DER GOLEM」今村孝訳)

ゴーレム伝説を下敷きにした幻想小説。マイリンクはユダヤ教、キリスト教、東洋の神秘思想を学び、プロテスタントから大乗仏教徒に改宗という経歴の持ち主なのだそう。そしてマイリンクの作品は新プラトン派やグノーシス派の哲学、錬金術やカバラの思想、バラモン教や道教などの東洋思想の影響が指摘されるそうなのですが、確かにとてもオカルティックなムードが濃厚です。
ゴーレムというのは、ユダヤ教の伝承に登場する土人形のこと。プラハのラビ(ユダヤ教の律法学者)・レーフが作ったゴーレムの伝説が一番有名なようですね。土を捏ねて人形を作り、護符を貼り付けて動けるようにする… しかしある晩その護符を取り外すのを忘れてしまったためにゴーレムが凶暴化してしまい、レーフが護符を剥ぎ取ることによって土くれに戻ったという伝説。しかしこの作品は「ゴーレム」という題名ほどにはゴーレム伝説には頼っていないようです。
仏陀の本を読みながら眠ってしまった主人公がみたのは、アタナージウス・ペルナートというユダヤ人の宝石細工職人になった夢。その日の昼に主人公が間違えて持って帰ってしまったという出来事があり、アタナージウス・ペルナートというのはその帽子の持ち主なのです。誤って帽子をかぶってしまったことから体験することになる他人の人生。
陰鬱な重苦しい雰囲気の立ち込めているプラハのゲットーを舞台にいくつもの断片的なエピソードが積み重ねられていて、まさに夢の中の話のようなとても奇妙な物語です。ペルナートが「イッブール(霊魂の受胎)」を手にした時のように幻想的で美しい場面もあれば、もっと薄気味悪い場面も…。そしてペルナートでもあり、「イッブール」を持ってきた男でもあり、同時にゴーレムでもある主人公。これはおそらく主人公が自分自身をより深く探っていく物語だったのでしょうね。到底理解できたとは言いがたいのですが、とても幻想的で不思議で印象に残る作品でした。

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