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このページは、逢坂剛さんの本の感想のページです。

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「百舌の叫ぶ夜」集英社文庫JA(2002年6月読了)★★★★★お気に入り
新宿の街中で起きた爆弾事件。この事件に巻き込まれ死亡したのは、近くにいた主婦・倉木珠枝と、テロリストとして公安にマークされていた筧俊三。この爆弾は、実は筧のかばんの中に入っていたもの。表向きはフリーのライターとして生活していた筧でしたが、実は左翼系の過激派集団・黒い牙の幹部だったのです。そして一緒に亡くなった倉木珠枝は、実は警視庁公安部の倉木尚武警部の妻。捜査に私情は禁物と捜査から外される倉木警部でしたが、彼は単独で妻の死を追い始めます。警視庁捜査一課の大杉警部補も、倉木に反発を感じながらもその捜査に協力することに。一方、極右団体・極誠会系の暴力団の資金源となっている豊明興業。爆弾事件の翌日、リビエラというパブの店長・新谷和彦が上司の赤井秀也らに連れ出され、能登半島にある断崖からつきおとされす。しかし確実に死んだと思われた新谷は生きていたのです。一切の記憶を失った上での奇跡の生還。石川県珠洲市の病院に収容されていた新谷は、上司の赤井と妹と名乗る女性に病院から請け出されて再び命を狙われることになります。辛くも東京に戻った新谷は、自分が何者なのか、妹は本当に存在するのかなどを調べ始めます。

サスペンスであり、ハードボイルドであり、そしてミステリでもある作品。かなり複雑なプロットとなっています。主に新谷と倉木が中心となって物語が進んでいくのですが、各出来事が時系列順に並んでいないので、注意して読まないと、死んだはずの名前が再度登場して混乱したりするかも。しかしこの構造が、実は計算し尽くされているのですね。とても効果的です。絶妙なバランスによって、緊迫感がラストまで持続します。それどころか、真実が少しずつ明かさるたびに驚かされるにも関わらず、ラストには一番大きな驚きが待っているのです。それまで物語上の謎と思っていたものが実は瑣末な事実にすぎず、そこにはもっと大きな真実が…。そんな事実が隠されていたということ自体にも驚かされてしまいました。この多層的なプロット運びの巧さには脱帽です。
そして登場人物が一筋縄でいかない人物ばかり。倉木にしろ新谷にしろ、大杉警部補、紅一点の公安の明星美希刑事にしろ、模範的な優等生とはかけ離れた存在です。それぞれに強い信念と狂気を持ち、決して妥協することなく物事にぶつかっていく… 激しいですね。物語が進むにつれ、それらの登場人物の闇の部分がクローズアップされていくのですが、ラストで明かされる真実と共にクライマックスを迎えます。その様は、まさに圧巻。凄惨なはずの殺人シーンまでもが、美しく感じられてしまうのが不思議です。
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