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このページは、江國香織さんの本の感想のページです。

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「絵本を抱えて部屋のすみへ」新潮文庫(2002年1月読了)★★★★★
雑誌「MOE」に4年間連載されていた絵本に関するエッセイをまとめたもの。江國香織さんが個人的に好きだという絵本を集めた35のエッセイです。センダックやピーター・ラビット、ディック・ブルーナのうさこちゃん(ミッフィー)、おさるのじょーじなどといった良く知られている絵本から、日本では訳されていないアメリカの絵本まで幅広く選ばれており、それらの絵本が、江國さんの美しさと優しさのこもった文章で、愛情たっぷりに紹介されていきます。こういった絵本が、今の江國さんを形作っていったのですね。そして、こんな文章が書けたらいいのにと、羨ましくもなってしまいます。

この本に載っている絵本の中で、今私の手元にあるのは、ピーター・ラビットと「まりーちゃんとひつじ」ぐらい。大好きだったはずの絵本も、そのほとんどがどこかにいってしまいました。子供の頃は早く大きくなりたくて、早く絵本を卒業したかったものですが、今になってみると、もっと大切に置いておけば良かったと思ってしまいます。この本の中では、懐かしい絵本から初めて見る絵本まで、とても幅広く紹介されているので、また機会があれば、実際に手にとって読んでみたいです。本当に素敵な絵本は、大人になってから読んでも、決して遅くはないはずですものね。
この題名もとても素敵ですね。子供というのは、部屋のすみが好きなもの。私にとっても、「部屋のすみ」は狭くて静かで暖かくて、安心感がたっぷりの居心地の良い場所でした。懐かしくなってしまいます。

「いくつもの週末」集英社文庫(2004年7月読了)★★★
結婚2年目から3年目にかけて書かれたというエッセイ集。
読んでみてまず驚いたのは、私とはまるで違う江國さんの感覚や、その感情の豊かさ。この本でもまず「雨」の章での、「あ、雨みなきゃ」「雨よっ、みてっ」「雨を見ましょう」に驚かされました。私も部屋から雨を眺めるのは好きですが、わざわざ見に行くなど考えもしませんでした。どちらかといえば、ご主人と同じタイプかも…。しかもそのすぐ後の、「雨には消炎作用があると思う。だから、もしも感情の起伏ーーたとえば恋愛ーーがある種の炎症だとしたら、雨は危険だ、といえるかもしれない。」という言葉が凄いですね。これにはノックアウト。やはりこの感性が、江國さんならではなのでしょうね。最初は江國さんの少し意外な面が見えるように思えたのですが、1冊を通して読んでいるうちに見えてきたのは、江國さんの作品に登場する女性たちの姿。特に、月曜日の朝に夫が会社に行ってしまうのが嫌で仏頂面になっておきながら、送り出した途端に安堵の波が押し寄せてくるくだりには、読んだばかりの「ホリー・ガーデン」の静枝が重なりました。
読み始めた時は、「なぜこの人は結婚などしたのだろう」と思ってしまったのですが、ご主人とのエピソードを読み進めるうちに、ご主人に対する愛情も感じられましたし、慣れない結婚生活の中で手探りをしながら自分の場所を確立しようとする、そんな不器用さがとても微笑ましかったです。結局、編集者さんの「なんだかんだ言っても旦那さんを愛しているんですよねえ」という言葉のままなのですね。自分の持っている情熱分だけご主人が応えてくれないので、拗ねているだけのようです。そして、少し距離のある関係でいる方が素敵でいられそうだという言葉は良く分かりますし、「南の島で木端微塵。ちょっと憧れないこともないけれど。」という言葉も、あまりに江國さんらしい言葉。こういう破壊的な行動には、麻薬のような魅力があるのではないかと思うのですが、その後も幸せに暮らしてらっしゃるのでしょうか。

P.46「一人の孤独は気持ちがいいのに、二人の孤独はどうしてこうもぞっとするのだろう。」

「ぼくの小鳥ちゃん」新潮文庫(2004年7月読了)★★★
ある雪の日の朝、突然、「ぼく」の部屋にやって来たのは「小鳥ちゃん」。真っ白で、くちばしと脚だけが濃いピンク色をした小鳥ちゃんは、その日以来「ぼく」の部屋に居候することになります。

第21回路傍の石文学賞受賞作品。
「ぼく」と「小鳥ちゃん」、そして「ぼく」の彼女の物語。ラム酒をかけたアイスクリームが好物で、鳥に必要なカルシウムが摂れる「ボレー粉」は嫌い。プライドが高くて、ちょっとしたことで怒ったり焼餅を焼いたり、生意気や我儘なことを言ったりする小鳥ちゃんは、まるで年頃の女の子。「おしゃま」で「キュート」、そんな言葉が良く似合います。「ぼく」と彼女とのデートにも、当然のようにくっついて行ってしまう小鳥ちゃんの姿は、まるで手のかかる妹のようでもありますね。「お兄ちゃん」を「他所の女の人」に取られたくない妹。「ぼく」の彼女は大人なので、小鳥ちゃんの可愛いジェラシーなど物ともしないのですが、彼女ほど人間が出来ていなかったら、どうなっていたのでしょう。読んでいると逆に、「ぼく」が、妹に振り回され、彼女と妹の間で右往左往している、情けない男の子にも見えてきてしまいました。
荒井良二さんのイラストが可愛くて、大人の絵本といった感じの作品です。

P.30「男のかたのなかには、どうしても小鳥にかかずらわってしまうかたがあるんですよ、まれにね」

「すいかの匂い」新潮文庫(2002年1月読了)★★★★
【すいかの匂い】…母親の出産の間、叔母夫婦の家に預けられた「私」。息苦しくなり逃げ出そうとした私ですが、なかなか駅に辿りつかず、その夜は通りすがりの1軒の家に泊まることに。
【蕗子さん】…「私」の家に下宿していた大学生の「蕗子さん」は、私がいじめられたのを聞き、一緒に小学校の裏庭に落とし穴を掘ろうと誘います。
【水の輪】…くまぜみが鳴いているのを聞き、「私」は子供の頃のことを思い出します。姉や姉の友達の「さきちゃん」と一緒にいる時に見かけた男の子を、密かに「やまだたろう」と呼んでいたのです。
【海辺の町】…父が借金取りに追われていた夏。両親は離婚し、母は「私」を連れて海辺の町へ。私はそこで、パン工場に勤めるおばさんと仲良くなります。
【弟】…弟の葬式の日。「私」は昔、夏になると弟と一緒にした葬式ごっこを思い出します。
【あげは蝶】…毎年夏になると、母の実家に遊びに行くことになっていた「私」。私は自分に流れる華族の血も、女の子らしい服も、父も母も祖母も曾祖母も、皆嫌いでした。
【焼却炉】…学生のボランティアたちが、小学校の体育館で影絵やゲームをしにやって来ます。その晩、体育館に泊まった彼らの1人が気になった「私」は、夜になると密かに体育館に戻ることに。
【ジャミパン】…「私」は母と2人暮らし。母の兄弟である「信一叔父さん」がお父さん代わりをしていました。その信一叔父さんの結婚が決まり、母と私は婚約者と会うことに。
【薔薇のアーチ】…夏になると、「私」は田舎の祖父母の家へ。そこでは毎朝、体が弱く、いじめられっこだった「私」を鍛えるために、父親が「私」を海へと連れて行くのが日課となっていました。
【はるかちゃん】…人さらいが出るという噂のある団地。「私」は病院やお稽古の帰りにここを通るのが好きで、ある日、団地に住む「はるかちゃん」と仲良くなります。
【影】…夫と離婚することになった「私」。小学校以来の知り合いのMに理由を聞かれるのですが、分からないと答えます。そして夏になると思い出す子供の頃…。

「私」が主人公の、夏の話を集めた短編集。この「私」は江國さんの昔の姿なのでしょうか。どの話も日常と非日常の間に位置するような何か危ういものを孕んでおり、どこか切なくさせられます。子供の目から見た世界はこういう感じだったのかも…と思わせるようなもの。どれも夏の話なのですが、でも夏のうだるような暑さはなく、むしろひんやりとした冷たい感触。特に起承転結があるわけではなく、一瞬の情景を切り取って、淡々としたタッチで描かれた物語ばかりなのですが、でもどれもとてもくっきりと鮮やかな印象。様々な物の色や匂い、さらさらとした手触りが伝わってくるような気がします。

「神様のボート」新潮文庫(2001年12月読了)★★
野島葉子が「あのひと」と骨ごと溶けるような恋をした時に生まれたのは、娘の草子。葉子と草子の2人は、葉子の夫だった「桃井先生」との約束で東京を出ることになり、それ以来様々な所を点々としています。一定の場所に馴染んでしまうと「あのひと」に2度と会えなくなるのではないかと不安になり、どこにいても必ず探し出すという「あのひと」の言葉を信じて、引越しを繰り返す葉子。なぜ引越しを繰り返すのかと尋ねる草子に、葉子は「ママも草子も、神様のボートにのってしまったから」 と答えるのです。

江國さんは後書きで、この物語は「狂気の物語」なのだと書いています。確かに葉子の中にあるものは狂気なのでしょうね。日常生活を送っている限りでは、葉子はごく普通に見えますし、何の不都合もありません。周囲の人間が何か感じたとしても、それはかすかな違和感程度のものでしょう。しかし葉子の中には確かに狂気が感じられます。そしてそんな葉子を母に持ち、親密な関係を保っている娘の草子。普段はあまりに近すぎてその狂気に気付かないのですが、しかし成長し、世界が広がるにつれて、草子もまたその違和感を感じ始めています。私自身が親の都合の引越しと転校が多かったせいか、読みながらすっかり草子に感情移入をしてしまったようです。草子が葉子に「ごめんなさい」「ママの世界にずっと住んでいられなくて」と言った時は、正直ほっとしてしまいました。子供にとって転校がどれほど苦痛を伴うか、失う物が大きいか、自分の恋しか見えていない葉子には決して分からないことだと思いますが。
しかし葉子はこれだけ草子に執着しているのですが、本当に草子のことを愛していたのでしょうか。当たり前の母の愛というよりは、「あのひと」の面影を見出せるからこそ、草子に執着していたような気もします。そして最後のシーンは、現実のことなのでしょうか。それともこれは、草子の独立が拍車をかけた、葉子の狂気が見せる幻影なのでしょうか。
「私の荷物はそんなに多くない」と葉子は言っていますが、ピアノがあったら多くないどころの騒ぎではないでしょう。それに実際にピアノの先生をしている人が読んだら、ピアノ教師をなめるな、と思いそうな気がするのですが…。しかしそれらがまた一層葉子の現実感のなさを際立たせているのでしょうね。

「冷静と情熱のあいだ-Rosso」角川文庫(2001年10月読了)★★★★★お気に入り
あおいはミラノ育ちの日本人。現在はミラノにあるジュエリーショップで働きながら、アメリカ人の恋人・マーヴと同棲しています。「完璧」な恋人だと評判のマーヴと満ち足りた日々を送っているあおいですが、ふとした拍子に心の中に蘇るのは、10年前の恋人・順正との思い出。あおいはかつて恋人だった順正と、30歳のあおいの誕生日にはフィレンツェのドゥオモの屋上で待ち合わせの約束をしていたのです。

久々に読んだ恋愛小説だったのですが、すっかり引き込まれて感情移入してしまいました。優しい恋人がいながら、順正という存在が忘れられないあおい。途中のアンジェラの「いいやつだから愛せるってものでもないんでしょうね。」という言葉が響きますね。現在のままでいた方が確実に幸せでいられるのに、でも… という気持ちは本当に痛いほど分かります。それでも順正が好きだという気持ちも。

「冷静と情熱の間」
かつて恋人同士であった「あおい」と「順正」が、ある出来事をきっかけに別れてから何年もたち、それぞれに心から好きだと思える恋人が出来た後も、お互いの存在が自分の心の奥に残っているのを意識してしまうというラブ・ストーリー。二人が共有した時間と出来事を元に、江國香織さんはあおいの視点から「Rosso」を、辻仁成さんは順正の視点から「Blu」を書いています。1冊ずつでも十分楽しめるとは思いますが、2冊合わせて読むことによって1つの出来事を色々な角度から感じることができるという企画。辻さんの後書きによると、どうやらお二人で交互に1章ずつ書かれていったようですね。私は「Rosso」を読んでから「Blu」を読んだのですが、どちらも13章ずつなので、1章ずつ交互に読むという読み方でも良いかもしれません。ただしその時は、最後だけは辻さんの「Blu」で締めくくるのがオススメ。1冊ずつ読む時も「Rosso」を先に読む方がいいと思います。物語の設定に関しては、辻さんの1章を早く読んだ方が理解しやすいとは思いますが…。→辻仁成さんの「Blu」に関してはコチラからどうぞ。

「ウエハースの椅子」ハルキ文庫(2004年11月読了)★★★★★
38歳の「私」は画家。絵を描き、1年に1度小さな展示会をしながら、日頃はスカーフや傘のデザインの仕事で収入を得ています。結婚はしていないのですが、妻子のいる優しい恋人とは6年ごしの付き合い。恋人が訪ねて来ない日は、仕事をしたり、野良猫のノミ取りをしたり、心ゆくまで眠ったり。6歳年下の妹が、大学院生の恋人を連れて遊びに来たりします。

「私」の日常を、ひたすら淡々と描いた作品。満ち足りていながら、同時に絶望を感じている「私」。過不足のない幸福を感じていながら、その幸福の先にあるものを考えて、壊れる前に自分の手で壊してくなってしまう「私」。自由なはずなのに、閉じ込められているように感じてしまう「私」。先日江國さんのエッセイ集「泣く大人」を読んだばかりのせいか、「私」にどうしようもなく江國さん本人を感じてしまいました。
「私」の心情はとても良く分かります。私なら、絶望を感じても、幸せの先にあるものにどうしようもなく不安になってしまっても、おそらく自分の手で壊そうなどとは考えないと思うのですが、それでも壊さずにはいられない「私」の気持ちも痛いほど分かります。これほどの恋人などいなければ、こんな気持ちになることもなかったのに、と彼女は思っているのでしょうね。恋人が好きであればあるほど、恋人との関係が深まれば深まるほど、その居心地の良さとは相反する、1人ぼっちの自分に戻りたいという気持ちも大きくなっていくのでしょう。それは不倫という、そこからの発展のない付き合いだということも、確かに潜在的な理由としては存在するのでしょうけれど、しかしそれは本質ではないような気がします。「私」にとっては、恋人の妻や子供たちなど、とるにたらないことのはずなのですから。
それにしてもこの孤独感は凄いですね。読んでいるだけで、孤独感の中に溺れてしまいそうです。

「ホテルカクタス」集英社文庫(2004年7月読了)★★★★★
ある街の東のはずれにある古いアパート、ホテルカクタス。3階建てのアパートには12の部屋があり、3階の一角には帽子が、2階の一角にはきゅうりが、1階の一角には数字の2が住んでいました。3人は気の合う友達で、夜になるといつもきゅうりの部屋に集まり、語り合ったりお酒を飲んだり、音楽を聴いたりして過ごしていました。

アパートなのにホテルという名前がついているのはまだいいのです。そこの住人として登場するのが、「帽子」「数字の2」「きゅうり」というのには驚きます。大抵のことには無頓着で、ハードボイルドな帽子、実直だが疑心暗鬼になりやすい数字の2、そして身も心も素直にまっすぐで、体を鍛えるのが大好きなきゅうり。それはあだ名などではなく、本当にそのまま。例えば、有酸素運動はきゅうりの果肉をひきしめ、体内の水分をきれいにしますし、雨の日はきゅうりの緑色がひときわ冴え冴えとします。競馬場からの帰りのバス代もなくなってしまった帽子は、数字の2の頭に乗ってバス代を浮かしています。それでも、いくら何かを擬人化するとしても、物語に数字の2を登場させようと思ったことのある人など他にいるのでしょうか。その辺りの感覚には、素直に脱帽。
それぞれに帽子らしく、きゅうりらしく、数字の2らしく、微笑ましくなってしまうほどタイプの違う3人ですが、気が合うというのはまさにこういうことなのでしょうね。一緒に過ごしている時間、その空間に流れている空気がとても良いのです。そして読んでいる時は、どこか哀愁感が漂っているように感じていたのですが、ラストはむしろ新しい広がりを感じさせてくれるようでした。最後の1ページの余韻がまたいいですね。
この世界にすんなりと入れたのは、佐々木敦子さんの挿絵の存在も大きいと思います。最初は写真かと思ったほどのリアルさでしたが、これらは全て油絵なのだそう。お洒落で、でも少しくたびれていて、こんなアパートに住んでみたいと思ってしまう空間そのまま。本当に素敵な挿絵となっています。

「泣く大人」角川文庫(2004年11月読了)★★★★★
「泣かない子供」と対になるようなエッセイ集。あとがきにも、「泣かない子供」だった江國さんが、5年経って「泣く大人」になったのだと書いてあります。独身のお嬢さんだった頃の江國さんと、結婚してご主人と一緒に暮らしている江國さん。しかしこの2つのエッセイよりも、むしろその間に書かれた「いくつもの週末」と、この「泣く大人」の雰囲気の違いに驚かされました。「いくつもの週末」は、江國さんが結婚2〜3年目頃に書かれたというだけあって、まだまだ落ち着きのない新婚時代、江國さんの尖った部分が痛いほど感じられるエッセイ集。読みながら、他人事ながら江國さんの結婚生活に危惧の念を抱いてしまったほどでした。しかし「泣く大人」に描かれている江國さんやご主人は、相変わらず喧嘩が多いながらも、もっとずっと幸せそう。波風はありながらも、自分の居場所を見つけて落ち着いた上でのことといった感じで、それがとても心地良かったし、読んでいても嬉しかったです。周囲に向ける目も、以前よりもずっと柔らかくなっているような気がしますね。例えば、苦手な男についても相当具体的に書かれているにも関わらず、それでもあまり以前の「尖り」は感じられず、むしろ淡々と事実を述べている感じ。以前の江國さんなら、排除してしまいたくなったのではないかという物事も、今なら、わざわざそちらに目を向けないでも済むようになったといったところでしょうか。果物を主食として、お風呂には2時間入り、犬に甘やかされ、素敵な男友達がいる江國さん。大人の女でもあり、少女のようでもあり、とても可愛らしい面がありながらも、底知れない孤独も抱えていたりして、その相反する面が同居しているのがとても魅力的でした。「分かる分かる!」ではなく、静かに「分かるなあ」と思う部分が多かったです。
そして4章の「日ざしの匂いの、仄暗い場所」は、読書日記になっています。江國さんの紹介を読んでいると、どれも読みたくなってしまうのですが、この中でレベッカ・ブラウンの「体の贈り物」について、「彫刻のような手ざわりの幸福な小説集」と形容しているのが印象に残りました。言われてみると、まさにそんな感じ。やはり言葉を職業にしている人ならではの感性なのでしょうか。

「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」集英社文庫(2004年12月読了)★★★
山本周五郎賞受賞作の表題作を含めた10の短編。

食欲と性欲がたっぷりと詰まった短編集。しかしそれらの「欲」が生々しく描かれている割に、どこか印象が薄いですね。しかもどの作品も似ているのです。同じような人物が次から次へと登場し、同じような会話を交わし、同じようなことをしているだけ。特に起承転結があるわけではなく、場面場面のスケッチといった方が相応しい作品群。読んだ端から忘れていってしまいそうです。
この中で印象に残ったのは、「サマーブランケット」。こうやって短編集で全部一度に読むのではなく、アンソロジーや雑誌の掲載で1つずつ読めば、それぞれの作品の印象がもっと強く残っのたかも。少し残念でした。

収録作品:「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」「うんとお腹をすかせてきてね」「サマーブランケット」「りんご追分」「うしなう」「ジェーン」「動物園」「犬小屋」「十日間の死」「愛しいひとが、もうすぐここにやってくる」
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