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このページは、小野不由美さんの本の感想のページです。

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「悪霊とよばないで」講談社X文庫ティーンズハート(2001年5月読了)★★★★★
今回は日本海を望む能登半島の吉見家へ。代替わりするたびに事故や原因不明の病気で大量の死者が出るというこの家で、なんと着いた早々ナルが憑依されてしまいます。最も霊が苦手にしそうなナルが一体なぜ憑依されることに…。ナルを欠いたゴーストハンターたちは、助っ人も呼び寄せて悪霊に向かいます。

さて今回はまるで横溝正史シリーズのような断崖絶壁の上に建つ旧家が舞台です。これを映像化したら、結構迫力があって怖いかもしれません。古い屋敷に海の洞窟なんて、さぞ迫力満点でしょうね。そして今回の目玉は、今まで毎回失敗続きの綾子が大活躍するシーン。綾子の力ってそういうのだったのですね。すごく素敵な力で、ちょっぴり見直してしまいました。他のメンバーについても少しずついろんなことが分かり始めています。しかし次の上下巻2冊でこのシリーズも一応終わり。もしかして怒涛のように謎が暴露されるのでしょうか?

「月の影 影の海-十二国記」上下 講談社X文庫(2000年1月再読)★★★★
普通の女子高生だった陽子の前にいきなり奇妙な男が現れます。その男はほとんど何も説明しないまま陽子を知らない土地へと連れていくのですが、化け物の集団に襲われて、あっという間に陽子は一人ぼっちになってしまいます。さらに襲ってくる追っ手と陽子を落とし入れようとする人々。誰も信じられなくなった陽子の前に現れたのは楽俊でした。

上巻はなかなか重いです。まるで一度死んで生まれ変わるという儀式を受けなくてはならないかのように、陽子はこれでもかこれでもかと打ちのめされ追い詰められます。人に好意を示されると何か魂胆があるのではないかと疑うようになってしまった陽子ですが、一度そんな自分に打ち勝ってからの腹の括り方は只者ではありません。この話では、人を信じられなくなっている陽子を悲しく思いながらも優しく受けとめる、常に前向きな楽俊の存在がとても素敵です。

「悪霊だってヘイキ!」上下 講談社X文庫ティーンズハート(2001年5月読了)★★★★★
仕事が終わり、ようやく能登から東京へ。しかし途中で道を間違えて偶然通りがかったダムで、ナルは「…やっとみつけた…。」とつぶやきます。そして麻衣たちに東京に戻るように指示し、オフィスも戻り次第閉鎖すると宣言。しかしそんなことぐらいで、このメンバーたちが大人しく東京に戻るわけもありません。結局全員がこの土地に残ることに。そんなナルたちを、村長が仕事の依頼に訪れます。その土地の5年前に廃校になっているという学校の校舎に、人魂が出るというのです。

とうとう悪霊シリーズ最終回。(実際にはこの作品が出た2年後に「悪夢の棲む家」が出版されるのですが、一応この時点では最終回)今まで隠されてきたナルの素性など、全てのことが明らかになります。これはかなり驚きの真相なのですが、しかしなかなかしんみりとしていて良いですね。8冊を3日間でというハイスピードで読んでしまったのですが、最後は意外なほどの余韻を残しながら終了。なかなか楽しいシリーズでした。それでもやはり中学の頃に読みたかったとは思いますが…。

「風の海 迷宮の岸-十二国記」上下 講談社X文庫(2000年1月再読)★★★★★お気に入り
泰の麒麟である泰麒は、生まれる前に、天変地異である「蝕」のため蓬山から流され、この現実の世界で育ちます。彼は自分と自分の周りの世界に違和感を抱きつつ育つのですが、自分の生まれ故郷である蓬山に戻り、麒麟である自分という現実を受け入れて徐々に成長していきます。しかし麒麟としての能力をなかなか自分の中に見出せずに葛藤するのです。

このシリーズの中で一番初めに読んだのがこの本だったので、一番愛着があります。
常に自信と覇気に溢れた驍宗や理性的な李斎、無愛想な景麒、優しい女仙たちに囲まれ、普段は「卑屈なほど謙虚」と言われる気弱な泰麒なのですが、本当に常に健気で必死で可愛いです。麒麟と王の結びつきは、まるで恋のよう。「天啓」というよりは一目ボレのようですね。(笑)

「悪夢の棲む家」上下 講談社X文庫(2001年5月読了)★★★★★
阿川礼子・翠親子は、念願の一戸建てを手に入れます。しかし実際住んでみると、電気系統のトラブルが多発、電話の混線はどんどんひどくなり、雨漏りによるカビ、立ち込める腐臭、家鳴りなど問題が多発。しかもほとんどの窓が鏡で塞がれているにも関わらず、覗けないはずの窓から常に誰かに覗かれている気がするのです。親子はノイローゼ寸前となり、娘の翠はとうとう中井咲紀と広田正義に助けを求めることに。そして渋谷サイキックリサーチに調査を依頼します。

同じ講談社X文庫でも、今までの悪霊シリーズの出ていた「ティーンズハート」から「ホワイトハート」へ移っての刊行。それに合わせて、麻衣の一人称から三人称へと語り口も変化しています。ティーンズハートシリーズがきゃぴきゃぴした感じだったのに比べ、この作品は私の知る小野さんの作風にかなり近い感じ。ぐっと良くなりました。
作品の内容としては、現実的な問題と心霊的な問題をうまく絡めてて、すごく巧いという印象。ホラー色は強くなってますが、その分現実味もある話になっています。ただ、今回心霊現象を全く信じていない広田正義と、信じ込んでいる中井咲紀が登場し、その2人の存在が少々鬱陶しいのです。反作用としての存在だとは思うのですが、それにしても少しやりすぎのような気も。そもそもナルという皮肉屋がいるのですから、彼らがいなくても何も問題はないと思うのですが。しかし不満といえばそのぐらいですね。読み応えのある作品でした。

「東亰異聞」新潮社(2001年5月読了)★★★★
明治29年の帝都・東亰(とうけい)。文明開化によって西洋文明が流れ込み、大きな変化を見せたこの時代ですが、やはり未だに江戸時代の闇は色濃く残っていました。人形使いに人魂売りに首遣い、闇御前に火炎魔人…。新聞記者の平河新太郎は、友人である万造と共に、これらの闇によるものとされる連続殺人事件を調べ始めます。そしてこれらの事件の裏にあったのは、名門・鷹司(たかつかさ)公爵家のお家騒動でした。

この舞台は東亰であって東京ではありません。似て異なるパラレルワールド。小野さんは、異世界の描写が本当に上手い方なのですね。私たちのいる現実世界と同じように、江戸時代から明治維新を経て文明開化という道を辿っているというのに、なぜかそこはかとなく異国情緒が漂います。「東亰」という字面にも、どこか妖しい雰囲気がありますよね。そしてその舞台には、「闇」がとてもよく似合います。舞台の雰囲気は満点。いかにも絵になりそうな作品です。「帝都物語」を彷彿とさせます。
そして物語はホラーで始まり、途中はミステリ、そして最後は…。読み応えは十分です。1つだけ難を言えば、主要登場人物を、もう少し掘り下げて欲しかったということでしょうか。決して掘り下げ方が足りなかったというのではなく、読んでいると描かれている以上の背景を感じてしまったので、きっとまだまだ語り尽くされていないのではないかと、もったいなく思えてしまったのです。しかしここであまり掘り下げてしまうと、「屍鬼」並の作品になってしまうかもしれませんね。読後に余韻の残る、なかなか素敵な作品でした。

「東の海神 西の滄海-十二国記」講談社X文庫(2000年1月再読)★★★★★お気に入り
魔物ですら襲わないほどの廃墟と化していた雁国に新王がたってから早二十年、ようやく国も復興しかけたところに謀反の噂が。延麒である六太は旧友更夜と再会するのですが、それをきっかけに王の位を望む元州との争いに巻き込まれることになってしまいます。

延王と延麒のやりとりが漫才のようで楽しいです。小説の楽しさの1つは登場人物のやり取りにあると思っているのですが、ここではそれを満喫することができます。
人となりを知らない人にとってはいい加減としか思えない振舞いの延王に対して、一分の隙もなさそうに見える元州。しかし思わぬ所に落とし穴があり、それに伴う状況の変化の描写がぐいぐいと読ませてくれます。延王と元州の立場が反転するところが見所。延王の行動力と判断力と器の大きさを、皆心の中では認めているのですが、口では王のことをこき下ろしてばかり… 愛されてますね、延王は。

「風の万里 黎明の空-十二国記」上下 講談社X文庫(2000年1月再読)★★★★★
ついに景王として即位した陽子ですが、この世界は陽子が知ってる世界とはあまりに違いすぎて逡巡しています。官吏たちは言うことを聞かず、政務は思うようにいかない中で、陽子はとうとうしばらく里に降りる決心をするのです。
鈴はこの世界である「蓬莱」から、十二国の世界に流された少女。言葉がわからず苦しみ、仙女の下女となりいじめられ、あまりの辛さに鈴は逃げ出して采王に助けを請います。
芳王の娘である祥瓊は、内乱によって父を殺され王宮を追い出されます。しかし芳ではどこに行っても祥瓊は憎しみの対象にしかならないため、恭国に連れて行かれます。
そして3人の少女はそれぞれに苦労しながらも巡り会うのです。

陽子は相変わらず苦労しますね。でもこれだけ頑張ってるんだから慶は良い国になるでしょう。
祥瓊も鈴も自分のことしか考えられず、自分が一番不幸だと思いこんでいるのですが、そういう考え方しかできないこと自体がとても不幸ですね。そんな状態でどんな願いが叶ったとしても、また同じことの繰り返しになってしまいますが、自分の手でつかみとった現実というのは、どんなことでも価値がありますよね。

「図南の翼-十二国記」講談社X文庫(2000年1月再読)★★★★★お気に入り
恭国は先王が亡くなってから二十七年。国は乱れ首都にまで妖魔が出るほど荒む中で、豪商の娘である珠晶は、まだ子どもながらその状況を憂い、麒麟に天意を諮るために蓬山へと向かう決意をします。しかし蓬山に上るためには、妖魔の跋扈する黄海を生きて渡らなければならないのです。

珠晶のパワー炸裂です。ただの小生意気な金持ちのお嬢さまではなく、珠晶独自の理論に裏付けされた行動力が凄い。特にこの理論が良いです。これさえあれば、他のすべての生意気な部分は許せます。やはり只者ではありません。強気で人生を生き抜いて欲しいものです。

「ゲームマシンはデイジーデイジーの歌をうたうか」ソフトバンク(2003年12月読了)★★★★
かつて「スーパーファミコン」誌に掲載されていた、小野不由美さんのゲームに関するエッセイ。4年間に及ぶ連載期間中に小野さんがプレイされたゲームは、「FF」、「ドラクエ」、「ゼルダの伝説」、「ロマンシング サ・ガ」、「スーパーマリオ」「ストリートファイターII」、他にも色々と。挿絵は水玉蛍之丞さん。

これを読むと、いかに小野不由美さんがゲームの深みにハマったかがよく分かりますね。しかしこのエッセイは、実際にゲームをやっている方にはもちろん、ほとんどやっていない方にも面白いのではないでしょうか。ゲームそのものの感想だけではないですし、綾辻行人さんや我孫子武丸さん、菅浩江さんなどのお名前も登場します。
…まえがきの「君子、ゲームに近寄らず」という言葉をひしひしと実感して、今はほとんどゲームに近寄らない生活を送っている私ですが、実はかなりのゲーム好き。このエッセイが連載されていた頃のゲームは少しはやっているので、非常に面白かったです。特に面白かったのは、「ノート魔…その戦い」。実際に行動に移すかどうかはともかく、「わかるわかる」の連続。方眼紙に綺麗にマッピングだなんて、私自身はやったことはありませんが、分かりますねえ…。そして次の章の「『ドラクエ』は見合いであり、『FF』は恋愛であり、『メガテン』は不倫である」という言葉にも納得。作家・小野不由美ファンとしては、「句読点をひとつずらしただけで、かつんと引っかかって文章が粘る、読みにくいということがあり、反対に音律が前に倒れてするっと読める、だから『文章を読んでいる』と意識せずにすむ、そういうことがあったりするのだ」辺りの言葉が興味深かったです。しかしゲームというのは、「とかく時間をくいつぶす」もの。ゲームもいいのですが、シリーズの続編もお願いできれば…。
そして挿絵の水玉蛍之丞さんですが、この方もかなりやりこんでいるのでは。イラスト、本当に可愛いですね。見開きのイラストエッセイ「水玉蛍之丞劇場」も必見です。
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