Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、小野不由美さんの本の感想のページです。

line
「バースデイ・イブは眠れない」講談社X文庫ティーンズハート(2003年10月読了)★★★
森川夕香、高校3年生。小学校からの一貫教育青春の女子高に通う夕香の生活は、地味を絵に描いたような毎日。趣味は縫い物と料理、クラブは家庭科クラブ、そんな夕香が、17年来の友達・片山美咲に誘われて、なんと劇団キャストの衣装係になることになります。劇団が夏公演のためにダンスの上手い女の子を探しており、美咲に声がかかり、美咲が劇団のメンバーに夕香のことを宣伝したのです。存在感ゼロと言われ続けた夕香の人生としては、画期的な大変化。働き者の夕香は、劇団のメンバーにもすぐに馴染んで可愛がられます。しかしそんな夕香も、密かに憧れていたキャストのスター・池田万理には、どうやら嫌われてしまったようで…。

小野不由美さんのデビュー作。ティーンズハートという環境もあり、とても軽いラブストーリー。
物語の始まりは、ごく平凡な女の子がカッコいい男の子に恋をして… というよくあるパターンなのですが、途中で雰囲気は一転、一気にサスペンスモードに突入します。このサスペンスシーンが、なかなかの緊迫感。もちろん現在の小野不由美さんのファンが読めば、その展開はほぼ予測がつくと思うのですが、何の予備知識もなしに読んだ読者は、さぞ驚いたことでしょうね。非常に若さが感じられる文章ながらも、読者を一気に引っ張る力はさすが小野さん。ただ、夕香の視点だけから描かれている物語なので、万理の気持ちがあまり伝わってこないのが難点でしょうか。「射手座」に戻った後のシーンが、少々唐突に感じられてしまったのが残念。
それでも小野不由美さんの後の活躍の片鱗が十分に伺われる作品でした。絶版だなんてもったいないですね。

「メフィストとワルツ!」講談社X文庫ティーンズハート(2003年10月読了)★★★
12月。街はクリスマス一色。劇団キャストも、クジで当たったクリスマス公演の準備で、劇団のメンバーも衣装係の森川夕香も、連日夜遅くまで準備に追われていました。しかしそんな時、新しく裏方に入ったばかりのエリちゃんのお姉さんが結婚詐欺に騙され、姉妹2人で暮らしてきたエリちゃんは、借金のために学校もやめて働くことになります。当然劇団キャストもやめることに。そして続けて、エリちゃんと一緒にお手伝いに来ていたみーなちゃんのお姉さんも、結婚詐欺に騙されて自殺未遂。そして夕香もまた、練習の帰りにばったりと会った男性に誘いかけられるのです。しかし実はその男が、エリちゃんとみーなちゃんのお姉さんに結婚詐欺を働いた当の男だということが判明して…。

劇団キャストシリーズ第2弾。
今回は劇団キャストも借りている劇場「射手座」のオーナーの武田武麿氏が登場。このおじいちゃんが、露出度こそあまり高くないものの、いい味を出していますね。それに劇団の面々の個性もくっきりしてきたような気がします。みーなちゃんという存在が「いかにも」ではあるのですが、途中なかなか上手く目をくらましてくれていますし、夕香の決断もなかなかの見せ場。物語全体が、キャストのクリスマス公演である「メフィストのワルツ」という演目にも絡み合っていて、とてもいいですね。綺麗なラストでした。

「悪霊なんかこわくない」講談社X文庫ティーンズハート(2003年10月読了)★★★★
東京のドまん中でキャリアウーマンをしていたのに、何もない遠い田舎の村役場の職員・磯川草二郎のところに嫁いでしまった姉の薫。そんな姉が病気で倒れ、SOSを受け取った妹の杳は早速姉の住む村へと向かいます。草二郎の両親は既に他界。草二郎夫婦は長男の勇一郎と舞子夫婦、三男で17歳の蓮と同居していました。しかし杳が磯川家に泊まったその日の晩、妙な音がしたかと思うと、杳は突然金縛りにあってしまうのです。どうやら磯川家は、女性ばかりがたたりにあう、いわくつきの屋敷らしく…。

悪霊シリーズの前身と言われている作品。
明るく前向きな杳と、口が悪いけれど頼り甲斐のある美少年・蓮が中心になって、悪霊退治のために立ち上がります。しかし江戸時代の初め頃に殺された巫女さんの祟りかと思えば、サッカーボールを持った少年が登場。幽霊騒ぎの本当の原因が一体何なのか、なかなか特定できない状態。悪霊にも色々あるのでしょうけれど、人の心の闇の部分につけこんで力を発揮する悪霊というのが、一番タチが悪いかもしれないですね。誰だって、1つや2つは弱い部分はあるもの。そんな部分を狙われたら、どんなにいい人間だって、ひとたまりもないはずです。
蓮もなかなかいい味を出していますが、やはりまだまだ人生経験不足。ナルにはまだまだ及ばないかも?それでも、なかなかのまとまりのある作品です。

「悪霊がいっぱい!」講談社X文庫ティーンズハート(2001年5月読了)★★★
16歳の谷山麻衣の通う高校の旧校舎は、いわくつきの建物。取り壊そうとするたびに病気や怪我、事故が起きて工事が中止になってしまうのです。しかしなんとしてでもここを壊して新しい体育館を建てたい校長は、ゴーストハンターの渋谷一也・通称ナル(天上天下唯我独尊のナルシスト)に除霊を依頼。しかし17歳のナルのあまりの若さに不安を持ったのか、校長は巫女(松崎綾子)や元高野山の坊主(滝川法生)、有名な霊媒師(原真砂子)、さらにはエクソシスト(ジョン・ブラウン)にまで除霊を依頼していたのです。怪我をしたナルの助手・リンの代わりに、麻衣が助手の代理をつとめることになり、早速旧校舎の調査が始まります。

悪霊シリーズの1作目。十二国記とは全く違う雰囲気なんですね。さすがXハート文庫、思いっきりジュブナイルな作品です。美形でナルシストのゴーストハンター、派手系美女の巫女、美少女霊媒、金髪美少年のエクソシストなど、外見もすごいのですが、それらの霊能者たちの性格もすごい。揃いも揃って性格も口も悪いこと、悪いこと… 本当に個性派揃いです。(ジョンだけは珍しく性格が良いですが、言葉遣いがまるででたらめな関西弁風)これは小野さんの地なのでしょうか、軽く楽しんで読める作品です。1作目ということもあり、登場人物の顔見世的要素も強いので、次作以降に期待ですね。

「悪霊がホントにいっぱい!」講談社X文庫ティーンズハート(2001年5月読了)★★★★
麻衣が、ナルが所長を務める「渋谷サイキックリサーチ」でアルバイトを始めて三ヶ月目。初めて依頼人らしい依頼人が登場します。今回の仕事先は古い洋館。誰もいない部屋で壁を叩いてる音がしたり、地震でもないのに部屋が揺れたり、家具の位置が変わってしまったりという怪奇現象があるというのです。早速ナルと麻衣とリンが現地に向かうのですが、そこに先客としていたのは、巫女の松崎綾子と元坊主の滝川法生でした。

2冊目ともなると登場人物の動きもさすがにスムーズ、本筋に集中できますね。そして今度のストーリーはかなり本格的です。幽霊に弱い私にとってはちょっと想像したくない場面もあるのですが、でもそれだけに読み応えがあって、1冊目に比べて断然面白かったです。

■★「悪霊がいっぱいで眠れない」講談社X文庫ティーンズハート(2001年5月読了)★★★★
渋谷サイキックリサーチに女子高校生の依頼人が次々と訪れます。こっくりさんを見ていてきつね憑きになってしまった女の子、座ると中から白い女性の手が出てくる座席、ポルターガイスト現象の起きる部室… それらの現象はすべて私立湯浅高校という女子高にかたまっていました。そしてしまいには湯浅高校の校長自身が依頼人として現れます。

普段は助手に徹していて、心霊現象にはほとんど役にたっていない麻衣が、今回は大活躍します。もしかして、ナルは最初からこのことを薄々感づいていたのでしょうか。今回怖かったのは天上から現れる女性の霊。これは想像してしまうとなかなか気持ち悪いものがあります。あと怖かったのは、やっぱり最後に脚光を浴びるあの人。無邪気な笑顔を見せるだけに、これは本当に怖いとしか言いようがないです。

「悪霊はひとりぼっち」講談社X文庫ティーンズハート(2001年5月読了)★★★★
麻衣たちの今回の調査先は緑陵学園。怪奇現象がぞろぞろと出てくるこの学校での調査中、麻衣が夢うつつの中で見たのは、無数の人魂が互いに喰い合い、それをさらに鬼火が吸い込んで大きくなっていくという光景。どうやらコックリさんの変形である「ヲリキリさま」が学校中で流行ったせいで、何万もの浮遊霊が呼び出されてしまっているようなのですが…。

コックリさんの説明がかなり詳細で専門的なのは、ティーン相手の小説だからでしょうか。やはりこういうことに関しては、きちんとした知識を持ってないと危ないです。それにしても、ESPやPK、その他の超能力や呪詛などの説明がきっちりしているのが、このシリーズの特徴かもしれません。きゃぴきゃぴした作風ながらも、もうティーンズとは言えない私がすんなり読めるのは、基本がしっかりしてるからなのかもしれませんね。

「緑の我が家-Home Green Home」講談社X文庫(2003年10月読了)★★★★
父親の再婚や転勤をきっかけに、16歳にして初めての一人暮らしをすることになった荒川浩志。小学校の頃に住んでいた町で不動産屋に探してもらった新しい住まいは、ハイツ・グリーンホームの9号室。しかし建物を見た瞬間、浩志はひどく嫌な予感を覚えます。アパート自体は小綺麗なのに、何やら妙に暗くて陰鬱な雰囲気がするのです。そしてその予感を裏付けるように、次から次へと嫌なことばかり起こります。郵便受けには、古いセルロイドの人形の首が入っており、届いていた封書は勝手に開封され、毎晩のように無言電話が…。隣人も管理人も一癖も二癖もありそうな嫌な感じの人間ばかり。おどおどとした嫌な感じの少年・和泉聡からは、「出ていったほうがいいよ」と忠告されます。そして浩志は、新しく通い始めた高校のクラスメートに、ハイツ・グリーンホームは「出る」と評判のアパートだと教えられることに。

朝日ソノラマパンプキン文庫から出ていた「グリーンホームの亡霊たち」を加筆修正・改題した作品。
表紙の爽やかなイラストとは裏腹に、なかなかの本格ホラー作品となっています。無言電話や手紙の開封、嫌な雰囲気の隣人たちと、最初は生きている人間の悪意だとばかり思い込んでいたものが、浩志の「嫌な予感」と周囲の噂話によって大きく転換。浩志が徐々に弱気になるのと正比例して、どんどん幽霊の仕業のように思えてくるという展開が非常にいいですね。一旦幽霊のことを考え始めると、本当は生きている人間の悪意だったものまでもが、幽霊による呪いや祟りのように感じられてきてしまいます。そのターニングポイントとなるのが、子供の描いた死体絵図や遺書のような手紙のシーン。これらが非常に薄気味悪いです。「グリーンホーム」と「緑荘」がダブっているという考えも、情景的に色々な想像力を刺激するもの。まるで浩志の周囲にある現実の「グリーンホーム」が、幻の「緑荘」に取って代わられていくような怖さがあります。
しかしホラーというだけではなく、同時に切ない物語でもあります。全てが終わった後で、色んなことに対する印象が変化する場面がいいですね。読後感は爽やかです。

「悪霊になりたくない!」講談社X文庫ティーンズハート(2001年5月読了)★★★★
渋谷サイキックリサーチに、森まどかという女性が現れます。ナルとリンと付き合いが古そうなこの女性は、新しい仕事を持ってきたと旅行中のナルを呼び戻します。そして今回の仕事先は、長野の諏訪にある某政治家の所有の屋敷。人が住んではいないものの、長年増改築を繰り返してきたせいで、すっかり複雑な作りになってしまっているこの屋敷で、何人もの人が行方不明になっているというのです。そして依頼人の意向で、国内外の霊能力者が集められます。

前回初登場の安原さんのキャラがナイスです。頭脳も性格もなかなか良くていいですね。そして今回は、謎の人物であるナルとリンの秘密が少しだけ明かされます。麻衣に関しても少し。ということで、ますます興味津々になってしまいます。それにしても、今回の元凶となるあの人物は怖すぎです。しかしきっとこちら方面の話は、元々小野さんのお得意の分野なんでしょうね。怖かったです。

「魔性の子」新潮文庫(2000年1月再読)★★★★お気に入り
常に周囲に違和感を覚えながら育った教育実習生の広瀬は、クラスの中で1人異質な高里要に興味を持ちます。高里はクラスで一人孤立しているのですが、決していじめにあっているわけではなく、それどころか彼をいじめた者は不慮の事故に遭うという噂があり恐れられているのです。彼が昔神隠しにあったことも、そのことに関係しているらしいのですが…。

十二国記の一端となる話ではあるのですが、舞台はすべて現代日本であり、しかもホラー的な要素が濃く、通常の十二国記とは雰囲気が全く異なります。
高里と広瀬は、自分の周囲に対して違和感を感じ、周囲から浮いてしまっているという共通項があり、同じような「祖国に対する幻想」に捕らわれているように見えます。でも帰るべき場所があるかどうかというのは、また別問題。自分では認めたくなくても、認められなかったとしても、そうそう今いる世界からは逃れられるものではないのですね。
Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.