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このページは、由良三郎さんの本の感想のページです。

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「ミステリーを科学したら」文春文庫(2002年3月読了)★★★★★お気に入り
元東大医学部の教授である由良三郎氏のミステリに関するエッセイです。学生時代から現在に至るまで古今東西のミステリを幅広く読み続け、ご自身もミステリ作家である由良氏が、色々な作品に描かれてきた犯罪を科学的に検証していきます。それらの検証は決してあら探しではなく、それどころかミステリへの愛情をたっぷり感じられるもの。(この方の書いたミステリ作品では、「運命交響曲殺人事件」がサントリーミステリー大賞を受賞しています)

この作品を読んでまず驚かされたのは、由良氏の読書量。本当にたくさんの作品を読んでらっしゃる方なのですね。何年も何十年もコンスタントにミステリを読みつづけていないと、ここまでは詳しくなれないでしょう。話題がとても豊富ですし、本当に分かりやすくて面白いです。青酸カリに対する一般的認識とその間違いについて、毒薬の味について、プロのミステリ作家に死体処理法について相談された話、心臓を一突きすることの難しさと、一突きしたはずの心臓から血が溢れ出す矛盾についてなど、ご本人が読書中に気づいたことや身の回りであった面白い話を交えて、楽しく進んでいきます。この本を読んで、「名作」と呼ばれる作品にいかに間違いが多いのかというのを知って驚いてしまいました。しかしこの本で、由良氏は「小説は科学論文ではないのだから、(中略)厳密な意味での科学的論理に一致しない部分があるのはやむを得ない。要は、読者が作中で探偵の示す謎の論理的解明に『なるほど』と感心し納得し、探偵の推理が当たったことを喜んで拍手できればオーケーなのである」「それ以上突っ込んで細かな点での矛盾をほじくりだすのは、無粋といわれても仕方ない」と語っています。本当にその通りですね。科学的観点から見た間違いと、作品としての完成度の高さとはまた別の問題ですから。細かい間違いの指摘ぐらいでは疵をつけることもできない素晴らしい作品は世の中に多くあります。間違いは、ないにこしたことはないですが、「間違いは全くないけれど面白くない」という作品を読むぐらいなら、多少間違いがあっても(あまり大きな間違いは困りますが)面白い作品を読みたいです。それに誰も本当に青酸カリがどんな味をしているのかなど、実験してみることはできないのですから。
それほど真面目なミステリ読みではない私にも、ミステリの楽しさを改めて教えてくれるような一冊。やはりミステリを読むからには、気持ち良く騙されたいものですね。
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