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このページは、夢野久作さんの本の感想のページです。

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「夢野久作全集1」ちくま文庫(2007年10月読了)★★★★

【白髪小僧】…ある日、白髪小僧と呼ばれる1人の乞食小僧が助けたのは、その国の総理大臣・美留楼公爵の末娘・美留女姫。美留女姫は物語に夢中で、常に新しい珍しい物語を聞きたいと思っているのですが、世の中そうそう新しい物語が見つかるはずもありません。赤い鸚鵡に街中で白髪頭の人や不思議な姿の人の身の上話を聞けば良いと教えられて街に出た美留女姫は、銀杏の木の下で「白髪小僧と美留女姫」という本を見つけ、それを読みながら歩いているうちに、川に落ちてしまい、白髪小僧に助けられたのです。美留楼公爵は白髪小僧にお礼をしたいと思うのですが、白髪小僧は何をもらってもニコニコとしているだけ。美留女姫は、白髪小僧にどのようなお礼をしても無駄だと両親に言い、その理由は全てこの本に書いてあると、持っていた本を読み上げることに。

141編にも及ぶ夢野久作の童話作品の中から、杉山萠圓(すぎやまほうえん)名義で発表された長編「白髪小僧」をはじめとする19編の童話を収めた本。これらの作品は全てデビュー前の大正年間に書かれたものなのだそうです。
どの作品もそれぞれに面白いのですが、その中でも一番読み応えがあったのはやはり「白髪小僧」。白髪小僧と美留女姫の出会いは既に物語として本に書かれており、白髪小僧が美留女姫を助けたのは既に決められていた出来事。しかし本には助けた後の出来事が書かれておらず、白紙であったことから、それからどうなるのか誰にも分からないままの展開となります。本は銀杏の葉となってしまい、銀杏の葉には石神の天地創造の歌があり、それは藍丸の国の物語へと続き、白髪小僧は藍丸国王に、美留女は美紅に、そしてやがては美留藻へと… さらには枠物語として外側と内側にそれぞれ存在していたはずの物語の位置がいつの間にか逆転し、物語同士がお互いにお互いを侵食していき… というところで、結局未完に終わってしまうのですが。
藍丸国の創造神話が石神の歌であることからも、藍丸国が別の世界であることは明らか。藍丸国の王としての白髪小僧が現実だったのか、それとも全ては白髪小僧の夢の物語だったのか、やはり美留女姫が読んでいた本の中の物語だったのか、それとも…。そして美留女と美紅と美留藻の関係は。複雑な入れ子構造の物語は、複雑すぎて作者の手に負えなくなってしまったのか、結局未完のまま終わるのですが、それでもこの物語が魅力的であることには変わりありません。その複雑な入れ子構造に読者は翻弄され、無限ループに落ち込んでしまいます。

収録:「白髪小僧」「正夢」「猿小僧」「三つの眼鏡」「青水仙、赤水仙」「白椿」「黒い頭」「若返り薬」「クチマネ」「虫の生命」「雪の塔」「キキリツツリ」「お菓子の大舞踏会」「先生の眼玉に」「雨ふり坊主」「奇妙(ふしぎ)な遠眼鏡」「オシャベリ姫」「豚吉とヒョロ子」「ルルとミミ」

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